チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
私たち一行は宿には寄らず、次の町を目指すことになった。ということに、した!! だって港町って言ったって海産物をたらふく食べられるって訳じゃなかったし。宿屋のご飯はまずくはないけど、美味しいかどうかと訊かれると微妙だったし。転生前世界日本で飽食の時代を生きていた私には、かなりキツかった。
裏通りで人気のないところに入ってから、テオが転移魔法を使う。すると目の前の景色がしゅっと消えて、次の瞬間に別の景色が見える。こういうのは転生前のラノベや漫画、アニメでもよく見たなあ。
私たちが到着したのは、前の港町と比べるとかなり暖かいところだった。テオは転移の時は人気のないところにするように、しっかりと気をつけてくれているのだろう。今回も裏道に出た。道の向こうからは賑やかな人たちの声が聞こえてくる。サビレアな漁港より人は多いみたい。
転移後はメイプルが周囲を伺ってから、私たちはコートなどの防寒着を脱いだ。転移前に暖かいところに行くと教えてもらっていれば、コートとかを脱いで移動したんだけど、テオに訊いても、どこに出るか判んないっす! みたいな答えしかもらえなかった。転移の着地点が判らないってどゆこと!? だから最初に雪国に出たってこと!? でも裏道にはきっちり転移できてるし!
その辺りを問い詰めたら、テオは転移する前に人気のないところは判ると言った。だとしたら場所も考えて欲しい! それに港には行くことあるってゆったじゃん! と立て続けに訊ねたけど、笑ってはぐらかされた。あ、これ、何も考えてないやつ。そう思った私はろくな返事をもらえないと悟って問い詰めるのを諦めた。
三人分の脱いだ服を吸引してから明るい通りに出る。石畳の道には馬車が走ったりしている。歩いてる人も多い。冒険者風の若い(転生前アラフィフ主婦感覚で)子や、40代くらいに見えるガタイのいい男性とか、簡素な屋根のついた店もあったりする。
まさに! 転生物とかのラノベテンプレ通りの町の風景がここにある!
「ふぉおおお!」
「だから、落ちついてください!」
テンション上がって思わず叫んだ私の口をメイプルが手で塞ぐ。おお……。初めてメイプルに物理的に口を塞がれたよ。ていうか、転生してからされたことがないな、こういうの。
「買い食いしましょう!」
「テオさんも落ち着いてください!」
今にも走り出しそうなテオにメイプルが鋭い声を飛ばす。びっくりした私の口からメイプルが手を離す。
「いいですか。先に宿です。とにかく宿です。判りましたね?」
「お、おう……」
私とテオの声が被る。気持ちは同じだったんだね。私はテオと顔を見合わせて苦い笑みを浮かべた。
メイプルに言われるままに私たちは先に宿をとった。この宿の作りもまさに! まさに、ラノベやアニメのテンプレそのもの! 木造なのは港町の宿と同じだけど、賑やかさが圧倒的に違う。食堂と酒場一体型で人が多いからだと思う。それにこれ、冒険者ギルドみたいのが一緒になってない!? カウンターが何個かあるんだけど!
私の頭の中が忙しい間にメイプルがさくっと部屋をとって、私を引きずるようにして二階に移動する。……そーいえば港町の宿も二階建てだったな……。もうちょい背が高い建物でも良さそうな気がするけども。
「テオ! 遮音結界を!」
「了解っす!」
港町でも同じようなやり取りしてたなー。と、のんびりしてたら、メイプルがものっすごい勢いで詰め寄ってきた。
「リディア様! あんな風に騒がれたら嫌でも目立ちます! それにテオも!」
私とテオは二人並んで正座させられて説教を食らった。メイプル曰く、この町では私の格好はとても目立っているという。港町でもそうだったが、あそこは人が少なかったから良かったのだそうだ。だがここは人も多い。
「こんなところで目立ったら、リディア様は襲われるか掠われます」
「は!?」
「ですから! 商家でもお金持ち寄りのお嬢様に見えるんです!」
今、私が着ている服は商家のお嬢様、という設定のものだ。ふむ、と呟いて私はスカートをちょっと持ち上げてみた。転生前にはよく見るワンピースって感じだけど、確かに布の素材は良いしデザインもおしゃれ寄りだと思う。少なくともこの上にエプロンつけて給仕するって感じの格好ではない。
でもこの町というか、この辺りはどっちかと言えば下町風だ。さっきの道を行き来していた人も、宿兼酒場のここにいる人も、着ている服はフツー……というか、ユニク□の部屋着を思わせるシャツとかズボンだったと思う。長めのチュニックとズボンと言えばいいのかな。ぶかぶかの上着にズボンだから部屋着に見えるんだと思う。多分、部屋着じゃないんだけども。
あっ、私はユニク□は嫌いじゃないよ!? むしろ愛用してたよ! リラコとか楽じゃん。
「リディア様のお召し物は変えましょう。買ってきます」
自分の考えに耽ってた私はメイプルに言われて我に返った。そうか! 服を変えればいいんだ!
「わかった。服を変えればいいんだよね? デザインはどんなのにすればいいの? さっきのカウンターの女の子みたいなのかな? それとも冒険者風にする? あっ、少ないって言ってたから、魔術師とか魔法士とかだと駄目だよね。だとすると剣士!? それはなかなか格好いい!」
「冒険者いいっすね!」
「何を言っているんですか、テオ! とにかく、冒険者や剣士はやめてください。デザインは、そうですね……」
メイプルがテーブルに指を触れさせると、そこには白く薄い膜のようなものが広がった。風魔法の応用らしい。……思うんだけど、アシュフォードの人たちって何でも出来るんじゃない? どうして急に白いモニタみたいのが出てくるのか説明をプリーズと言いたい。
「専門じゃないので下手ですが」
そう言ってメイプルが白い膜に指先で絵を描く。指で触った所だけが透けてテーブルの色に変わる。……あれですかね。前世にあったお絵かきアプリか何かですかね? と、言いたいのを我慢して私はじーっと絵を見た。
メイプルが描いたのは服の絵だ。フリルがない簡素なブラウス、襟のないワンピース、白くて短い靴下、革製の浅い靴。絵は平面に描かれているけどメイプルの説明で形は判った。さすがにここで3Dを求めるのは無理……あ。そいえば前にスカーレットとアーサーが出してたな、人型。でもあの二人って規格外が過ぎる気がするから、メイプルに同じことを求めるのは無茶かも。
じゃあ、と言って私はさっき吸引した防寒着をこね回して服を作って放出した。するとメイプルが服を手に取って困った顔をする。テオも微妙な顔になった。
「あれ? 何か間違えた?」
「さすがにこれ、大きくないっすか?」
「リディア様。これは大人用です」
あ! しまった! デザインを見て服を作るとかやったことないから、うっかり前世の自分サイズにしちゃったよ!