チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
食事。それは私には欠かせないもの。というか、誰にも欠かせないものではあるんだが! 私の米道も必須である! ここに来てテンションが上がりすぎてちょっと忘れそうになってたけども! 港町ではムリダナー、と思ってたけど、ここにはあるのでは!?
……と、思っていた時期が私にもありました。
「何でだ……。どうしてないんだ……」
露店で買い食いしながら私はしょんぼりと肩を落とした。食べているのは肉の串焼きだ。ちゃんと塩はうってある。肉は豚肉でちょっと硬い。美味しいかどうかと訊かれるとマズくはないけどっていう感じというか。転生前世界日本の祭に出てる屋台の串焼きの方が、断然美味しかった。調味料の差かも知れないし、肉の部位とか処理の違いのせいかも知れない。硬い肉を食べながら私は前世の串焼きに思いを馳せた。
転生前世界日本の焼き鳥も美味しかったなあ。家で自作すると息子と娘にあっという間に食べ尽くされ、私の分はいつも残らなかった。肉を切り分けて串に刺すという手間があったけど、美味しく食べてもらえるなら満足だった。私の分はなかったけど! 大事なことなので二度言いました。
しまった、話が逸れた。戻さねば。
周囲の景色は少し赤く染まっていて、日は暮れかけている。食べ物の露店で探し回ったけど、米は一粒もなかった。それどころか何ヶ所かの店主に米のことを訊ねても、首を傾げるばかりで情報はひとつもなかった。この辺りには米がないのか、それとも米自体がないのかは判らない。
「リディア様が探してるのは、こめ、というものでしたよね?」
「そう。米」
メイプルの質問に端的に返事して、私は串焼きにかぶりついた。テオはもう一本は食べ終わって、二本目を食べている。食べるの早いな。メイプルも一本目を食べてるとこなのに。
「そもそも大陸に来たのは米を探すためだから。色んな店があって面白かったから忘れてたけども」
「確かに! 食い物の店は多かったっすね!」
元気に言うテオをちらっと見てから私は深々と息を吐いた。違う、そうじゃない。と言いたいけど、米は食べ物ではあるので否定も出来ない。
宿に戻ってから私たちは打ち合わせをすることにした。このままあてどなく米を探したところで、見つかるとは思えないのだ。それに私たちが外に出ていられるのは十日だけだ。最初は三日と言われていたのだが、スカーレットと必死でやり取りして何とか十日もぎ取ったのだ。
だから無駄に出来る時間はない。ここに来てちょっとはしゃいだけども。本来の目的を忘れては駄目だね!
「ここって王都じゃないんだよね? もしかして王都に食材は多いのかな」
ここが港町からかなり南に下ったところにある町だという話はテオに聞いた。でも王都はここから南東で、しかも相当離れているという。
「あ! 王都っすか! 飯がマズいっす!」
駄目だ、これは!! テオのせりふを聞いて私は頭を抱えた。確かに判るよ!? マズ飯が嫌なのは! 私も長い間、そう思ってたし! しかもこの宿もだけど、港町の宿で出てくる料理もイマイチなんだよね……。なんだろう。こう、シンプルといえばシンプルなんだけど、煮たり焼いたりするものが限られてるらしい。港町では魚が出てきたし、ここだと肉。野菜が少ないのは、新鮮なうちに運べないからだろう、とメイプルが言っていた。
王都がマズ飯というだけで、米がないとは限らない? それともいっそのこと、農村とかに行った方がいい?
「メイプルの田舎にはないの?」
「こめ、というものはなかったですね。小麦などはあるのですが」
メイプルの田舎は思った通り、農業を営んでいる。前にも訊いたんだけど、いま訊いてもやっぱないか……。しつこく訊いてゴメンネ。
「もしかして奥じゃないっすか? えーと、海から離れたとこ? ですかね!」
は? 何をいまさら……? え!?
「テオ! 米のこと知ってるの!?」
「違うっす! でも、こめ、って真水とか広い平らなとこに出来るって言ってなかったっすか?」
「そーだよ!」
そっか。転生前世界日本と比べたら駄目だ! 大陸なんだから! つまり広い、でかい、山もたくさんある!?
でも私は米についてそこまで詳しくない。だから判る範囲で説明しただけ。水が綺麗? あと、でかくて広くて平らなとこで作ってる? くらいのイメージしかない。ついでに寒暖差がどーとかいうのも聞いたことがある。
「あー。ここって港町じゃないんですけども、貿易商がいるので海にはそこそこ近いと思います。商品を運ぶ距離が短くないと、夜盗とかに襲われたりしますし。きっと転移魔法は使えませんし」
「ああああー!!」
メイプルが説明してくれるのを聞いて、私は頭を抱えてorzになった。貿易商! そうだった! 店を回るついでにメイプルが色々調べてくれたんだった!
この町には露店だけじゃなく、建物で商売してる場所があるらしい。露店があるエリアからかなり奥に行ったところだ。宿のある辺りにある店より、しっかりした建物付きの店が多く、そこなら前に着てた私の服も浮かなかったという。その話を買い食いしながら聞いたから、流してたわ……というか、右から左にスルーしてた私のばかばかばか!
「じゃあ、内陸とかに行けば米があるかも!?」
「この辺にないってことは、かなり離れたとこに行かないとっすか?」
そう言ったテオが腕組みして難しい顔になる。……テオも真面目な顔することあるんだ。と、私は失礼なことを思った。ていうか、見たことないし!
「転移魔法はどこでも飛べるってわけじゃないっす」
テオ曰く、転移魔法には距離制限なるものがあるという。……だからか! 最初に雪満載のとこに出たの! 島からの距離に海が加算されてたから、大陸北端に出るしかなかったんだ! 気軽に別のとこのが良かったか、とか訊かれたから、嫌がらせかと思ったわ!
「外に出ていいのって十日っすよねー……どうだろ。俺の転移魔法でいけるかなー」
「そんな遠いの?」
「内陸も色んなとこがあるっす。それに距離もあるっす。国の外にもあるんで」
確かにそうか……。この国ってどんだけ広いのか判んないけど、大陸っていうくらいだから他の国があっても変じゃないよね。転生前世界の大陸にも色んな国があったし。
急にテオが顔を上げてキリッとした表情になる。
「それに俺、詳しい地図とか判んないっす!」
「それが一番まずいだろーが!」
私はテオに全力で突っ込みを入れた。