チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
二度目の凍える目にあった私とメイプルはじとーっとテオを睨んだ。さすがにテオも反省した顔をしている。けどちょっと理不尽な怒りだと思ったので、すぐに睨むのはやめた。
「山があるとかの地図じゃなかったから、まあ仕方ないのかな」
「リディア様! そんな簡単にテオを許すのですか!?」
「だってさあ。あの地図には地形までは書かれてなかったから。ホントは地図って地形とかも書いてあるもんなんだけど」
さすがに転生前世界の地図を求める方が難しいか。割り切った私とは違い、メイプルはまだ解せぬという顔をしている。でもテオが珍しくしょんぼりしていたからか、しばらくしてメイプルも責めるのをやめた。
「リディア様に免じて許してあげます。逆さづりにはしません」
「ほんとに!? 良かったー! 俺、また吊されるんじゃないかと!」
そっちの心配かい! と、私は突っ込みを入れた。でも寒いからまずはお茶を飲みたい、とせがんでメイプルにいれてもらった。今は小屋をある程度は閉じてるから暖かいけど、早く移動した方がいいと思う。一晩ここに留まるとかはない。絶対にない。
三人ですぐに移動することに決めた。でも転移魔法ってかなりの魔力を使うから連射が出来ないんだよね、と訊いた。これにはさすがのテオも同意して、例の回復水を我慢して飲んでた。辛いけど仕方ないよね。でもメイプルは早く飲めとテオを急かしてたから、まだ怒ってるのかも知んない。
小屋とかを吸引した後、三人で転移した。次に出たのは森の中だった。……まあ、右も左も判んないとこだけど、山よりはマシか。
「テオさん。虫除けの魔法とかあります?」
「あるっすよ!」
メイプルに訊かれて頷いたテオがぴっと指を振る。すると薄い何かが身体にまとわりついたのが判った。お、おう。テオって変なところで本当に器用だな。空間系の魔法とか遮音とかが使えるのは知ってるけど、こういうのも出来るんだ……。
森を抜けないとお話にならない、と言うことで私たちは歩き出した。さっきみたいに寒くはないので、防寒着は脱いだ。暗いからとテオが明かりを灯す。森って明るいイメージだけど、暗いものなんだ。こんなに深い森に入ったことがないから知らなかった。
テオはさっきの山から、一応、地図で決めた方角に転移したと言った。でもここって平らっていうかボコボコなんだけども。もしかしてテオは森がある平らっぽい地面、という勘違いをしたのでは?
「もしかしてここって平らって意味?」
うろんな目で訊ねると、テオが慌てて両手を振る。
「違うっす! 方角は合ってるけど、慌ててたからちょっと距離を間違えただけっす!」
「間違えてんじゃねーか!」
私の鋭い突っ込みに合わせるようにメイプルが深々とため息を吐く。
「ここだと食事の材料を調達するのが難しいですね」
は? 食材の調達が出来ないじゃなく? 難しい!?
私がびっくりしている間に、メイプルが周囲を見回す。あそことここ、みたいに何ヶ所か指で示した方を私も見た。でも何も判らない。
「動物がいます。それに水の音がします。テオさんの回復を待つ間、水の近くで過ごす方がいいでしょう」
「ちょっ、動物がいるって……」
「では狩ってきます」
すぱっと言ったメイプルがその場から突如、消える。慌てて私は上を見た。すると木を伝ってメイプルが移動しているのが辛うじて見えた。
「あー! 俺は物理結界張れないのに! 俺の仕事が増えた!!」
そう言ったかと思うと、テオが服の中から何かを出して周囲に投げる。あちこちで、キシャーー! みたいな声が上がり、ボタボタと何かが落ちる音がする。あ、そっか。テオが武器を投げたのか……って!
「ナイフなんかどこに隠してたの!?」
「え? 俺らみんな武器は携帯してるっすよ?」
そうだったー!!! アシュフォードの使用人は全員、戦えるんだった! テオは空間系の魔法を使うから、戦わないと勘違いしてた!
テオがナイフで落としたのは数匹の蛇だったようだ。私は毒蛇には詳しくないけども、多分、危ないやつだと思う。テオがついてきてと言うので一緒に行ったらナイフと、それに刺された蛇がいた。……太いんだけど!? でかいんだけど!? 怖いんだけど!?
「これは食えないなあ……残念っすね!」
「残念とかじゃない! 怖いってば!」
「え? 食べられるヤツは美味いっすよ!?」
そんな会話をしている間に、メイプルが戻ってきた。担いでいるのは、私の目がおかしくないなら、鹿と熊だ。
「他にもいましたが、食べきれないので」
「そういう問題じゃないー!」
私は必死で喚いた。首を飛ばされた鹿と熊をいきなり見せられても困る!
「あ、血抜きをお願いします」
「やっぱりかー!!」
そう来ると思ったよ! 私は半泣きになりながら鹿と熊を吸引した。水場に移動してから調理しようということになったのでメイプルについて歩く。
「生の動物を吸引したのは初めてだよ……」
「え? お嬢様はいつもお肉をカットされてますよね?」
けろっとした顔でメイプルが言う。私は髪が逆立つかと思うくらいの怒りを感じて、メイプルの服の裾をつかんだ。
「それとこれとは違うんじゃー!」
「え? 鹿とか熊とか美味いっすよ?」
「そうじゃなくてね!?」
ボケにツッコミを入れながら私たちは歩いていった。それにしても森って歩きにくい。平らなイメージだったけど、大きい倒木とかあって足元がかなり悪い。ブーツを作り変えるべきかな?
「それにしても暗すぎますね。この森は」
「あー。人の手が入ってないからっすかね? 島の森とか林は間引きしてるっすから」
のんびりと歩いている最中に二人が気になることを言う。間引き?
「もしかして、普通はある程度は木を伐ってるってこと?」
「そっすね! 間引きしないとこんな感じに暗くなるっす!」
なるほどー、と言って私は上を見た。木に隠れてるからか空はまったく見えない。これを間引きすればいいのか?
何となくその辺にある木を吸引してみる。周囲の木や木の葉が一気に消えて、一気にその場が明るくなった。ここはまるでミステリーサークル的なことになる。……ん? サトウキビの時もこんな風になった気がするね。あの時は風魔法を吸引して放出したんだっけ。
「リディア様! やる前に言ってください! 危険ですから!」
「おおー! そっか! 木が消えれば歩きやすいっすね!」
メイプルがキレたかと思うと、テオが歓声を上げる。両極端だな、この二人。そんなことを思って空を見上げた私はうっかり目が眩んでよろけた。私を支えたのはメイプルだった。
「もう、本当にお嬢様は!」
「あ、全部なくなったら困る? もしかして」
私はぽんと手を叩いてから、吸引してあった木を何本かチョイスして放出してした。細く痩せてたのが多かったので、もっと太くて元気な木をイメージした。丸くくりぬかれたようになっていた地面に、ガンガンガン! と木が並んでいく。
「しまった! 木を放出する前に芝生を敷けば良かったのでは!?」
「そうじゃありません、お嬢様!! 急に動かないでください! お願いですから!!」
森の一部だけが明るくなり、しかも整列した木を見たメイプルががっくりとくずおれた。