チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
森の中を歩き回ったら菓子の家が出てくるんじゃない? と思ってる、元アラフィフ主婦転生者の斉藤奈美恵です。暗い森とかいうタイトルの小説や、ゲームの何かがあった気がします。うろ覚えですが。
私たちは暗い森を歩いていた。時々、思いついたように伐採してみる。この辺りの木は細すぎて木材として使いにくいという。それに森が水を綺麗にするとか聞いたことあるけど、この森だと難しいのでは? と思ったので伐ることにした。ちょっとずつくらいなら問題ないと思うし。
何でそんなことしてるかって? さっきみたいに転移した先で突然、小屋とかが必要になったら困るからだよ!
しばらく歩いていくと足元が少しずつ落ち葉や腐葉土から、石や岩に変わった。それにちょっとずつだけど明るくなっている。
「あ。見えてきました。川です」
「……急流なんだが」
「このくらいは大丈夫っすよ!」
「何が大丈夫か! バリバリの滝だろ!」
メイプルとテオに思わず突っ込む。どうりでこの辺はでかい岩が多いと思ったよ! そして近づいていくにつれて、私にも水の音が聴き取れるようになったし! そりゃ、こんな川なら聞こえるに決まってる!
川幅がそこまで広くないから渓流? でも角度がエグいから急流? どっちにしろ水の速さは多分、半端ない。こういうのは詳しくないから違いが判らんな……。
「とにかく! ここで料理とかどーするのかと!」
半ば答えは判ってたけど、私は一応、メイプルに叫んだ。するとメイプルが案の定、きょとんとした顔になる。
「え。リディア様でしたら、解決できますよね?」
「出来ますか? じゃなく、出来るだろ、的な訊き方やめろし!」
そう言いつつも、やっぱりかー、と思ったので、私はその辺りのでかい岩を吸引し、平らにした石を放出した。どうせならタイルにしてやれ! とヤケクソ気味に考えたからか、平らになったとこはタイル張りになった。
「……これは?」
「タイルだよ。石畳と似たようなもんだと思えばいいかと」
レンガとタイルの違いは私には判んない。でもメイプルが質問してきたってことは、タイルはあんまり普及してないのかも。そういえば屋敷周りの石畳は土魔法を使って綺麗にならしてあったな……。水はけを良くするためにか、ところどころに溝があった気がする。
「腹減ったので肉食いたいっす!」
「黙れテオ」
私はにっこり笑ってテオを黙らせてから、仕方なく木と石を合成してその場にでかい作業台を出した。某白ポケットで血抜きをする時は気持ち悪かったけど、確か血は鉄分が多いはずだから、そのうち鉄でも合成しよう。
というか! 水があるんだから、洗えば良くない!? と、訊いたんだけど、それだと色々落ちるらしい。ナンデダヨ! 水を吸引してブラストで綺麗にすればいいじゃん! あれ!? ブラストって言葉の使い方ってこれであってる!? ま、いっか!!! どうでも!
「うりゃーーー!!」
気合いの声を出しつつ、作業台の上に血抜きしてある程度の大きさにカットした肉と皮を放出する。放出したてほやほやの肉を見たテオがはしゃぐ。私は逆にもこもこの皮を見て気持ち悪くなった。うっ、これが鹿とか熊の皮か……。
「では、失礼して」
断ったメイプルが指を振ると風が起きて肉がかっさばかれる。ひー! 血は出ないけど怖い! 皮とか内臓とかがまるっと残った肉を吸引、合成、放出したのは初めてなんだよ! ビビるわ!
メイプルはちゃっちゃと肉と骨と内臓を分けて、内臓と骨を埋めるようにテオに言った。えー、と不満声を上げるテオを見つめ、私はまたにっこりと笑った。
「自分だけ働かずに食えると思うな?」
「は、はいー! すみませんすみません、ご飯は欲しいっす!」
慌てたテオが私が放出したでかい板きれに内臓を載せ、岩場を越えて森の中に向かう。すぐに戻ってきたテオがまた内臓を載せて運ぶ。……そーいえばテオは風で運ばないなあ。風魔法は得意じゃないのかも知れない。
メイプルとテオが作業をしている間に、私は水を吸引することになった。飲み水がかなり減ってたから。これはまあ、嫌じゃない。というか、しないといけない。人間、水がないと生きられないのはこの世界でも同じだ。
ここと木のある場所を何回も往復したテオが息切れしながら戻ってくる。
「はあ、はあ……おっ、終わったっす!」
「おつかれさまです」
メイプルがねぎらいの言葉をかける頃には、肉は大雑把にカットされていた。早速、という感じでメイプルが私を見る。もう、はいはい、としか返事できない。
「これを一口大にカットするの?」
「はい。出来れば野菜があると嬉しいです!」
「出来るかー!!!」
私が叫ぶと、吸引した木を変換すれば出来る、くらいに思ってたらしいメイプルが、おかしいな、みたいな顔をして首を傾げる。まさか、吸引と放出が万能とか思ってるのか!?
「木から野菜は無理! 原料が野菜ならイメージ出来るかもだけど! でも、さすがに木からは」
「あ! きのこは採ってきたっす!」
「は!?」
テオが嬉しそうに言って血だらけになった板を差し出す。そこには数種のキノコがのっかっていた。
「キノコから野菜出せってか!」
「いえ。キノコがあれば肉と一緒に焼けますから、大丈夫です」
メイプルが嬉しそうに言う。私はギリギリと歯軋りをしながらメイプルの服を引っ張った。
「こんな血だらけのキノコ、どうす……はっ! もしかして!」
「これもお願いするっす!」
「元気に言えばいいってもんじゃねー!!」
と、テオに叫んだけど、どうせやんなきゃなんないし。私はため息を吐いてからキノコを吸引して血を落として放出した。でもって熊と鹿の肉をもっかい吸引し、カットしてから放出する。呪文が欲しい。気合いのための呪文が!
「ばーん!!」
ヤケクソでてけとーに叫びつつ、私はカットした肉を作業台に置かれた木の板に放出した。もちろんテオが持ってた血だらけの板じゃなくて、別の板の上。ホントはバットとかを出せばいいのかもだけど、肉をアレコレしてるからそんな気力はない。魔力はあるんだけども。
それから私は岩もカットさせられた。……判るよ、うん。この辺って適度な石がないもんね。石でぐるっと囲んで、その中で火を焚いて、上に木の棒とか載せて、そこに串にさした肉を……。判るよ!? やりたいことは判る! 簡易的なかまどを作ればいいんだよね!? でも何で私が!?
……とか思いつつ、私は石を綺麗にカットして放出した。ついでに積んだ石を渡す、かったい棒も加工して放出した。もう、何でも来いである。ていうか、肉の大きさがアレじゃなかったら、七輪で焼いても良かったかもだけど、さすがにでかすぎる。
ついでに肉に刺す串も出した。いやもう、自分では嫌だけどイメージ出来るなら何でもアリな気がするね、某白ポケット。未だにどこに吸引してるかさっぱりなんだけども。少なくとも私の体内じゃないことは判る。それにまだ放出してないものもたくさんあるんだよね。何で時間止めた状態でキープ出来るのかも謎。
という訳で、調理が終えた私たちはテーブルについた。がっつり気力を削られた私は、焼かれた肉とキノコ串を無表情で手に取った。塩コショウは厨房で吸引しておいたから合成とかは要らなかった。とは言っても放出はしたけど。しかも肉の処理が終わったからって、血だらけ作業台と血だらけ板を吸引させられた時は、ホント殴ってやろうかと思ったよ!!
焼けた肉を口にした途端、私はびっくりして思わず声を上げた。
「うっま! なにこれ、超美味しいんだけど!?」
「やっぱ、これっす! しめたて血抜きたての熊とか鹿は美味いっす!」
「美味しいですねー。あとは皮をなめせば終わりでしょうか」
「……言うな、メイプル。私は今を楽しみたいの!」
後ろに山積みになってる皮のことを無視したい私は、メイプルに言い返して美味しい肉を頬張った。それにしてもテオ。しめたて血抜きたてって! それやったの私なんだが!? 判ってるのか!? と思いつつも、私は肉とキノコをペロッと平らげ、次の串に手を伸ばした。