チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

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そーかも知れないモノ

 小屋で一泊している最中、寝相の悪いテオが蹴ってきたのでぶん殴った、転生者の元アラフィフ主婦、斉藤奈美恵です。

 

 ていうか、間にメイプルがいたのに、どうやって私を蹴った!? 私がぶん殴った音で目を覚ましたメイプルに、テオはガチで説教をされてた。ザマア。でもさすがに寝ないとまずいから、すぐに三人とも寝直したんだけども。

 

 夜が明けて朝食を摂ってから私たちはテオの魔法で転移した。もちろん小屋はちゃんと吸引し直しましたとも! 一度、作ったから使える時は使いたい! 私的にはテントを張るよりこっちのがちゃんと寝られるし!

 

 そして転移先で私はぼーぜんとした。目の前には荒れた場所があった。地面には雑草が生えまくっている。崩れかかっている石造りの小さな建物が見える。ちょっと離れたところには壊れた小屋みたいのも見える。あれはもしかして家畜用の何かではなかろうか。

 

「ナニコレ」

「多分ですが、離農でしょう」

 

 離農、という言葉は知ってる。漫画で読んだから。農業を辞めるってことだよね。確か。

 

 メイプル曰く、私にとってはかなり広い土地だけど、このサイズなら一家族で経営していたのではないか、ということだった。そして周囲には人影すらない。それどころか道もない。もしかしてこの辺一帯が過疎ってるのではなかろうか。

 

「とにかく道を作りましょう。歩きにくいですから」

 

 そう言ってメイプルが昨日と同じようにさっくりと草を刈って道を作っていく。人がいないから遠慮しなくていい、と思ったのか、メイプルは一気にザー! っと草を刈っていた。

 

「そーいえばこの辺って、食い物もないっすね」

「ええ。果樹も手入れされていませんし、実りは期待できませんね」

 

 そんな会話をしながら進む二人を余所に、私は周囲を見回していた。廃墟とかの写真を見たことがあるけど、それに近い感じがする。空は青く晴れてるのにかなり寂しい気持ちになった。メイプルやテオも同じなのか、声は少し沈んでいる。

 

 広いと思う……けどこれ、農家だと狭いのかも知れない。ほぼ原型のない柵みたいなものはすぐに越えられたし、打ち捨てられた家屋も農地に近い気がする。私が見たことのある漫画とかアニメとかと比べて、だけど。

 

「メイプル。これって狭いの?」

「そうですね。魔法が使える人間が一人でもいる農家なら狭いです。でも誰も魔法が使えないとなると、このくらいの面積でも広いと思います」

「そっか」

 

 この世界では転生前世界にあったトラクターとか、農業に関係する機械は見た事がない。アシュフォード家の使用人は全員が魔法を使えるため、そういった機械はそもそも必要ないのだろう。転生前世界には農業用のでっかい機械だけじゃなくて小さいのもあった。どこぞのライバーが農業やってるのをYouTubeで見かけたし。

 

 この世界には農業用の機械自体がないんだと思う。そもそもエンジンあったら車とかあるだろうし。馬車で移動してる時点で……ん? 転生前世界での農業は、昔は馬とか牛を使ってた時代もあったっけ。だとするとここでも使ってたのでは。それなら自給自足は問題なかったんじゃ? そんな疑問を私はメイプルに投げかけた。

 

「いえ。人手が足りなくなったらどうしようもありません」

「家族が結婚とかで家を出て少なくなるとか?」

「それもありますが……病気や怪我をしても治療ができませんので」

「は!? えっ、病院がないの!? もしかして治療出来る場所すらない!?」

 

 びっくりして思わず素で訊いてしまった。いかん。病院というものがあるのかどうかすら判んないのに。でもすぐにメイプルが首を振った。

 

「治療が出来る教会はあります。治療魔法を使える者がいる場所ですね。大きいところは病院と呼ばれたりもします」

「この辺に教会はないっすねー。あるとこに行こうとしても、遠すぎるっす」

「教会には神聖魔法が使える者がいると言われてますけど、どこまで本当なのか」

 

 二人の会話を聞いて、私は転生前世界のことを思い出した。そうそうそれな! 治療が出来る教会がラノベとかゲームとかにあったわ! ゲームでは蘇生もしてもらえてた覚えがある。死体を引きずるのが嫌でやんなくなったゲームもあるな、そいえば。

 

 いや待て。ちょっと気になる単語があったぞ。

 

「神聖魔法って?」

「神というものに願うと色々なことが出来る、とは言われていますが……先日のように天使というものが攻めてくるのに、神とかいう存在が人にそんなのを与えるとか信じられないですね」

 

 メイプルが吐き捨てるように言う。……確かに。こないだ襲ってきた天使って天の使いと書くしな。もしあれが天の使いって意味なら、神につかわされたモノ、みたいな認識なのかも知れない。だとするとメイプルや他の使用人たちはそんなものは信用できないと思っているのかも。転生前世界日本の幼女戦○でいうところの存在Xかな? ターニ○じゃないけど、あれはタチが悪いと私も思ってる。

 

 三人で話をしているうちに、メイプルは農場だと思われるとこの草を全部刈り終えた。刈った草は壊れた小屋の橫に積んである。ものっすごい量だな、これ。

 

 ……って、はっ!!! しまった! ど忘れしてた!

 

 私は慌てて壊れた小屋に向かって駆け出した。メイプルが後ろから喚いているけど、今は無視だ! 小屋は壊れてるけど、農業やってたんだからもしかしたら残ってるかも知れないんだよ! ちっ、直接探すと小屋が壊れるかも知んないな! だったら全部吸引してしまえば!

 

「私の米道ーーーーーーーーーー!!」

 

 叫びながら私は壊れた小屋をまるっと吸引した。吸引したものの中に米がないか必死で探す。割れた皿とかはいいから! あっ、これは……ちがーう! 小石! これは……がー!! かまどの残骸か!

 

「リディア様! なにを」

「米がないか探してるんだってば! ちっ! これは錆びた金属! あっ、これは砕けた木!」

 

 必死で探した。とにかく探した。米!

 

「……なかった……」

 

 叱るメイプルを無視して探しまくった後、私はがっくりとその場に両手両膝をついてorzになった。

 

「なに探してたっすか!」

「元気に言うな! 私は落ち込んでいるのである!」

「リディア様! だから急に動かないでください!」

 

 二人からそれぞれに言われて私は地面にべたっと伏せた。一粒でいい! 皮がついたままの米があれば、増幅出来るんだよ! だけど、ない!

 

「こうなったら全部吸引してやるー!」

 

 メイプルが止めるのも聞かず、私は立ち上がってその辺にあるものを全部吸引した。壊れかけた建物とかその他色々だ。その中から必死で米を探す。メイプルは私を止めるのを諦めたのか、草とかが全部剥げて現れた地面を風魔法で掃除をし始めた。

 

 さっきと同じように必死で某白ポケットの中を探しまくる。その中にひとつだけガラス瓶があった。蓋がしてある。瓶の中には脱穀した穀物らしきものが詰まっていた。私は慎重にガラス瓶だけを放出して手の中に受けとめた。

 

「これは、何!」

 

 ガバッと振り返って私は声を飛ばした。すると二人が駆け寄ってくる。

 

「は? これですか? 私は見たことはないですね」

「俺も多分ないっす。あ、ちょっと出してもいいっすか?」

 

 言われるままに私は瓶の蓋をそっと開け、中身をちょっとだけつまんでテオが差し出した手に載せた。

 

「うーん。麦じゃないし……豆じゃないし……」

 

 手の上のものをじっくり見ながらテオがぶつぶつと呟く。メイプルも覗き込んで首を傾げる。

 

「私の田舎で育てたことはないですね」

「俺も知らないっす。初めて見たっすね、これ」

 

 二人が検分している間に、私はガラス瓶をもっかい吸引してこぶしを天に突き上げた。

 

「よっしゃー!!!! 米かも知れんものゲットだぜ!!」

 

 すっからかんになった農地で私は全力で叫んだ。




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