チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
とっとと帰って試したいという欲望を抑えるのが大変な、元アラフィフ主婦の転生者、斉藤奈美恵です。ごきげんよう。ええ、私はとてもごきげんです。半端なくごきげんです。大事なことなので二度言いました。
昼食も食べておなかもいっぱいになった私たちは、周囲を見て回ることにした。最初に見た農家だけじゃなく、他の場所にもガタガタに崩れた建物とかが辛うじて建っていた。それに草がもの凄い勢いで伸びている。やっぱ、周りには人がいなくて過疎ってる、ということなんだと思う。
そして細い川を見つけた時に私は目を輝かせた。水田!? 水田があったの!? ここって、米作りに適し……いや。待て、私! 早とちりしてがっかりすることはこれまで何度もあったじゃないか! こういう時は油断せず、現状を見極め……米ー!!
「リディア様。涎が垂れてます」
「はっ!」
メイプルが私の口元をハンカチで拭ってくれる。いかんいかん。米というか白飯を思ったら、ついつい涎が出てしまった。転生してから七年! 私は一度も白飯を食べてない! ご飯に興味がない人は判らんけども、私にとってはとても大変なことだ。確かにオートミールを水で超煮まくるものも、穀物といえば穀物だと思う。でも私が欲しいのは米なんだよ! 米! 米に飢えてると言ってもいい!
そんなことを思いつつ、私は細い川を辿って歩いた。出来るだけ早く歩いてるつもりなんだけど、メイプルとテオはゆっくりとついてくる。うっ、子供の足だとどうしても速度が出ないな。でも走り続けるのはキツいし、ちゃんと見たいし。
川はいくつかの細い水路に分かれていた形跡があった。そこだけ草が短くて、石が多い。多分だけど石を積んで水路にしていたんだと思う。今は草が被ってるし、川の水は入ってこないみたいだけど、明らかに水が通っていた跡ではなかろーか。
「ひゃっはー!! きっと水田!」
私は喚いて何度かジャンプした。慌てたようにメイプルが止めようとするけど、ジャンプだけだから! いきなりここに水田を作るとかはしないから!
でもどうして離農したんだろう。もしかして米は売れなかったのだろうか。それとも酪農とか他のものが上手く行かなかったとかかな? この辺りは平らだとテオは言ったけど、見渡す限り、まともな家らしいものはない。街道もないぽいので、行商人も通っていないのでは?
「ねえ。ここで出来たものって売り歩いたりはしなかったのかな」
私の問いかけに二人がそれぞれ、難しい顔をする。テオは腕組みまでしている。
「まず人のいる場所に出るのが難しかったと思います。荷馬車を使えば、とは思うのですが……馬はここでは農耕馬だったかと」
「転移魔法も使えなかったと思うっす。多分ですけど!」
確かに荷馬車を使う余裕があったり、レアスキルである転移魔法を使える人間がいたなら、それで荷を運べば良かったかも知んない。でもそもそも働き手の頭数がどんどん減っていくらしいから、仕事を続けていくのは難しかっただろうと思う。それに転移魔法を使えるのなら、別のところで働いた方がいい気がする。
「魔法が使えるのって遺伝とかが関係する?」
「えーと、親類とかが使えたらってことっすか? うーん、どうだろ。俺は捨て子だったから判らないっす!」
先に答えたのはテオだった。私は驚きに目を見開いてテオとメイプルを見た。今度はメイプルがうーん、と難しい顔をする。
「うちの田舎で魔法を使える人はいなかったです。私だけでした。だから勧誘されたんだと思います」
「……勧誘?」
「はい。アシュフォードの使用人は声をかけてもらってお屋敷にあがりますので。時にはご主人様が自ら声をかけることもあります」
「は!? おとうさまってそんなこともしてるの!?」
アーサーのことを思い出した私はかなりびっくりした。訓練に付き合ってくれたりしてるから、暇なのかと思ったら、全然暇じゃなかった! あっ、二人が微妙な顔をしたのって、もしかして私は知ってるって思ってたってことか! 知らんかったと言えない雰囲気だけど、私はあえて言う!
「ごめん。知らなかった」
「えっ!? ステラさんが言ってましたよね!?」
「は!? あのカテキョが!?」
もしかしたら基本学習的なものの中に説明が入ってたのかな。だとすると寝てた可能性あるわ! ごめん、超ごめん! 計算とか読み書きとかはフツーに出来たから、ダルくて寝てること多かったよ! 歴史とかは時々、聞いてた気がするけども!
「ごめんごめん! そんなことまで教わってたとは知らなかった」
「ステラさんが嘆きますよ、リディア様」
「うっ、ごめんて。帰ったらステラにも謝るから」
私は必死でメイプルに詫びた。出先で説教とかもう勘弁だよ!
「俺は子供の時に旦那様に拾ってもらったんで! 勧誘とか判らないっす!」
うん。テオの返事は期待してなかった。でもテオが子供の頃って言ったら……20年以上前か、下手すると30年前くらいかも知れない。そうなるとテオは先代のアシュフォード当主が拾ったんじゃなかろうか。
テオは転生前の私の息子と同じくらい……いや違う! 今は同じじゃない! ややこしいな!
実はこのところ、転生前の息子娘くらいと思ってた使用人の年齢が上がってきて、同い年くらいに見えなくなってきている。テオもその中の一人だ。アーサーとスカーレットも、今は転生前の私の息子娘と同じくらいの年齢と思えなくなった。私がこの世界で生まれてから七年経っているのだから当然だろう。
私の前世の記憶は、転生後は更新されてない。だからこの世界の私が七歳になっても、前世の息子娘の年は私の記憶では転生した時から変わってない。子供が年を重ねたところを想像出来ないっていうか。私は永遠のアラフィフでも、息子や娘はそうもいかないだろうし。
でもって七年の間にアシュフォード家に新しい使用人も来て、彼らはテオたちより若いからか、私の前世の息子娘と同じくらいの年に見えるのだ。これからも同じことは起きるんだと思う。転生ものラノベとかに出てくる主人公たちは、こういうギャップをどうやって克服してるんだろう。むしろ無視というか、考えなくていいことになってるんだろうか。
私は風に揺れる草を見ながら転生前のことに思いを馳せた。