チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
メイドがさくっとモンスターを屋敷内で倒してから半年。私もかなり逞しくなってきたと思う今日この頃。こんにちは、自称アラフィフ主婦の斉藤奈美恵です。ごきげんよう。
案内された屋敷内のあちこちに現れるモンスターは、そのたびにメイドが、または通りすがりの執事が倒していった。……実は女性の使用人を全員、メイドというと語弊があるらしい。詳しくは家政婦と侍女とか、職種によって呼び名に違いがあるという。そんなん知らんわ。教えられた私は、昔、放映されてた『家○婦は見た!』という作品を思い出してしまった。懐かしい。
ではなく。
最初はびびっていた私も、何度もそんなことに遭遇するとすっかり慣れてしまったというわけ。最初にモンスターに遭遇した時に侍女……あ、私付の侍女の名前はメイプルという。防御全振りかな? ま、いっか。あの時にメイプルが言った通りだった。そんなもん慣れるわけないと思っていたけど、私にだって吸引からの放出であっさり倒せるんだもん。そりゃ、慣れるわ。
モンスターに向かって放つ前に私が吸引するのはただの空気じゃない。ふふん。私も成長したのだよ。まずはその辺の灯りになってる火を吸引し、それを放出する。放出の時のイメージによって火の玉は大きくなったり小さくなったりする。調整には多少の時間がかかったけど、数日で出来るようになった。私、才能ある!? と、最初は思ったけど、両親もメイプルも大して驚かなかった。OH...。この家ではその程度は出来て当たり前ですか、そうですか。
ちなみにアーサーは本気を出せば辺り一帯を焦土と化すくらいの火属性の魔法を放てるという。それなんてドラ○・スレイブ? スカーレットは氷属性が得意で、辺り一帯を冬にすることくらいはお茶の子さいさい……うっ、今どきの子はこういう表現は判るんだろうか。えーと、造作もない? こと? って言えばいいのかな。硬い表現だと思うけど、ま、いっか。
そしてスカーレットの病状が重かったから屋敷を含めた周囲が冬だったというね! それを知った時、私は思い切りブルーになってしまった。魔法の影響で周囲が冬になるとか! 迷惑を考えろし! いや、病人にそんなもん求める方が鬼畜かもだけども! それにしてもどういうチートよ! でもこの世界ではその程度はチートじゃないらしいし……雲のイケメンによると、チートは不正行為のことだと言うし。くっ、あの時にもっと問い詰めるべきだったか。
まあでも、スカーレットの病気が治ったのは素直に嬉しい。でもその結果、屋敷の周囲は雪が完全にとけて急に春になった。
外が春になったと同時に、屋敷の窓はがらっと姿を変えた。平たく言えば窓はガラス張りになった。実は寒気に耐えるため、こないだまでは窓が石で出来ていたらしい。……それを開閉してた掃除メイド、馬鹿力か。と、思ったら魔法で作った石窓だったので、頑丈でしっかりしてるけども、細腕のメイプルでも簡単に開け閉め出来るくらい軽かったぽい。おう、さすがはファンタジー世界。
ちなみに石窓はガラス窓の内側にあって、私の望んだ二重窓になっていたようだ。そうしないと家の中まで凍っていたのだそう。それはそうと……周囲を冬にしてから春に戻す、スカーレットのパワー、恐るべし。いや、実際にはスカーレットを蝕んでいた病気が原因なのかもだけど。寝込んだら冬になるという話を聞いた私にはスカーレットが強いとしか思えない。
ちなみに石窓の撤去は簡単だった。アーサーが土魔法で作ってただけだったので、さくっと消せたのだ。この家の人は攻撃系の魔法しか使えないと言ってたけど、土系の魔法も攻撃用なんだろうか。威力を絞れば石窓作りも簡単手軽とか? それにしても何という便利魔法か。
あ! その手の魔法ってもしかして家事にも応用出来るかも!? ……使用人がたくさん働いているここでは、私の主婦スキルは出る幕がなさげだけど。
そして私は雪が消えた庭でものっそ激しいトレーニングをさせられている最中。
どーしてこうなった!
「リディア! もう少し力をこめるのだ! こうだ!」
訓練用の人形に向かってアーサーが火を放つ。標的の人形は耐魔法になってるらしく、多少の火では燃え尽きない。最初に私を訓練しようとしたアーサーは、とんでもない威力の火を飛ばしてしまい、人形は跡形もなくなったけども。ついでに庭木が吹っ飛んだけど。
そして今、アーサーが生んだ火は人形を押し倒す勢いで飛んだ。人形、ギリ耐えてる! でも私には無理だってば!
「えーと、こうでしょうか」
魔法には魔力と呼ばれるものを使う。そのたびにどんどんしんどくなる。要するに体力を奪われる。普通はMPとHPは別物なのでは? そんなことを思いつつ、私はぜいぜいと息を切らしていた。ちょっとは手加減を覚えて! 一歳半の幼児にこんな訓練するとか、どんだけ鬼畜か!
ヤケクソになった私はアーサーが飛ばした火の残りかすを吸引し、拡大して放ってみた。が、大した威力はない。ぼぼぼぼ! という火は浴びたけど、人形はケロっとしてる。おのれ。今の私はせいぜい屋敷をうろついているモンスターを一撃が葬り去るのが精一杯。その程度だと人形はちっともさっぱりダメージを受けないのだ。
そう。その程度、なの。でも私が吸引してから放出してる魔法って、ラノベでよく見るフレアアローくらいの力はあるんだよ。見た目だけじゃなくて、吸引した火を放出したら庭の草とか木を燃やすくらいの威力はある。でも、それじゃ足りないとかなんとか言って、アーサーが私の訓練を始めたのだ。
何でこんな幼児に訓練を? と思うよね? 思うでしょ!? でも理由は私にある。私がしっかりと喋ることが出来て、しかも大人と同じように会話が出来るとバレたからだ。
あれは不覚を取った。メイプルに抱っこされ(まだ怖かった頃)、連れられてる最中に話しかけられた私はうっかり返事をしてしまったのだ。しかも他愛ない話で。
「お嬢様、ご無事でしょうか。そろそろ窓を開けた方がよろしいかと……」
「あー、まだぜんぜん平気だって! 息苦しいとかないし! むしろメイプルが心配なんだけど?」
と、言い返してしまった。私はメイプルが一酸化炭素中毒を心配してると思い込んだから、慌てて問題ないとアピールしてしまったのだ。
あの時の騒ぎは思い出したくない。アーサーは歓喜にむせび泣き、スカーレットもハンカチで目許を押さえて息を詰め、メイプルも涙が溢れた顔をぐしぐしと拭い……その後、屋敷にいた使用人の多くが私の部屋の前に並び、一斉に「おめでとうございます!!!」と大声で祝ってくれた……と思うしかなかった! 万歳三唱までされたら、さすがに恥ずかしすぎるわ! ていうか、この世界にも万歳三唱があるんか!!
今が訓練中だって忘れてた。失敬失敬。
アーサーはちょっと顔をしかめて腕組みをして考えこんでいる。
「むう……。リディアの魔法は面白いのだが、まだまだ威力が足りんな」
私が話せると判ってしまったからなのか、アーサーの訓練は容赦がないし、感想もストレートに飛んできて、ぶっちゃけ傷つく。せめてオブラートに包めと。それに面白いって一体。褒められてるのか貶されてるのかさっぱり判らん。
仕方ないので息を整えつつ、私は質問した。正直、ちょっとは休みたかったし。
「おとうさま。威力を出すにはどうすればいいのでしょうか」
「必要なのは筋肉だ!」
そう言い放ってアーサーが腕をあげこぶしを握って力こぶを作る。……やかましいわ。この脳筋が。
と、突っ込みそうになったけど我慢する。今どきのラノベには大体、この手のが一人くらいいる気がする。筋肉が正義だと思ってるやつ。あー、ウザい! 読んでる時は楽しく笑い飛ばせたけど、自分がそれに絡まれる境遇に放り込まれたらウザいだけだということがよく判った。私が知ってる昭和の体育教師を思い出して吐き気がするし!
私が通っていた中学の体育教師はマジ脳筋だった。とにかく全てが筋肉で解決するとでも思っていたのか、何かと生徒に絡んでは筋肉系の体罰を課していた。腕立てとかけんすいとか腹筋とかね!
あれって今なら……っと、転生前の私がいた世界日本時間では、パワハラとかになるのでは。あの手の教師はPTAにつるし上げられるがいいデス。大体、女子と男子の体力の差を無視して、同じ距離でマラソンをさせたりするのはどーなのか。うっ、思い出したら本気で気持ち悪くなってきた。
昭和ダメ体育教師を思わせる脳筋発言をしたアーサーを私は冷たく見つめた。するとアーサーがびくっとして違う違うと手を橫に振る。この目で見るとアーサーは私に嫌われたくないと思うのか、すぐに慌てるのだ。
「いや! 違うぞ!? 私はリディアに筋力の訓練をしろと言っている訳では!」
「あらあら、あなた。リディアが泣きそうではありませんか」
私たちの橫から割って入ったのはスカーレットだ。この登場の仕方も毎回びっくりするのよね……。スカーレットって足音も立てず、気配も消してするっと近付いて来るのだ。病気が治ったからなのか、それとも元々、そういう人なのかは判らない。私はその動きにいつもびっくりする。ちなみにスカーレットの傍付侍女も同じ動きをする。気配を消して背後を取るとか、怖いわ!
でも私は驚いたことを隠して、スカートをつまんで軽く頭をちょこんと下げる。これがこの世界の女性専用挨拶だ。
「ごきげんよう。おかあさま」
「ええ、リディア。今日も元気そうで何よりです」
どこが元気か。まだ息切れしてるんですけど。もしかしてこれもこの家ではデフォルトなのか。
スカーレットが腰をわざわざ屈めて目線を合わせるように私の頭を撫でる。この人も子供大好きだなあ。それにしても相変わらず綺麗な人だ。病魔に冒されていた頃も美しかったけど、回復したスカーレットは美しさ増し増しになり、輝くような美貌と言ってもいいほどのステキ女性へと変わった。美人さんが母親なので私は母親似の美少女になっているらしい。時間が経つほどスカーレットに似てくるのが判る。
残念ながら私は父親にはちっともさっぱり似ていない。でもそのことをアーサーは全く気にしないし、嘆いてもない。むしろスカーレットに似ていることをとても喜んでいる。私も脳筋には似たくないので、オールオッケー。
「それで? リディアは何を悩んでいるのかしら?」
「おとうさまに
魔法の威力がチート級のアーサーやスカーレットに言っても無駄かも知れん、と思いながらも私は説明をしてみた。こんな説明で理解されるのかなあ。そもそもここまで両親との差があると、基礎から違うんじゃね? と思うんだけど。
「リディアは吸引と放出の魔法を使っているのですわよね?」
「はい」
「それだけでは魔法の攻撃力を増すのは厳しいでしょう」
は? え? どういうことだってばよ。