チートがチートじゃない世界に転生したらしい   作:よしほ

71 / 73
断崖絶壁はないわー

 早く島に帰って試したいという欲望を抑えている元アラフィフ主婦の転生者、斉藤奈美恵です。ごきげんよう。七歳だから最早、アラフィフとか無理、そろそろアラ還もヤベエのではと思った人はダレデスカ。私は断固として認めません!

 

 米を確かめたいという気持ちと、観光してえ! という気持ちを天秤にかけたら、微妙に観光が勝ってしまったのだよ。ははは。もしかしたら米らしいモノをゲットして調子に乗ってるのかも知んない。それは否定しない。

 

 ていうか、転生前に旅行したことがあんましなかったっていうのもある。観光旅行とか憧れたなあ。息子娘と一緒に出かけるとかはあったけど、旅行となると難しかった。金の問題もあるけど、仕事してた私の休みと子供の休みが重なった時じゃないと行けないじゃん? 子供たちが夏休みって時は逆に私が忙しくて休めなかったから、旅行どころじゃなかったという事情もあった。

 

 でもって息子と娘が中学高校に上がった頃にはもう、二人とも親と旅行という感じではなかったというか。それぞれが部活に忙しかったというのもあって、夏休みとかの長期休暇に旅行するなら友達とみたいな? まあ、それも判る。付き合えや、と無理に連れて行くのもどうかと思うし。

 

 あー……それにまあ、旦那が行かないのを前提で考えてたら、ブチ切れられたことがあるってのもあってだな! いつもなら家族とか子育てとかに全く興味がないくせに、イベントとかになるとやたらと首を突っ込んでくるというね! なんだろ、あれ。どういう感覚なんだろ。じゃあ、と思ってドライブとかに誘うと行かないんだよね。旅行とかは特別感があったんだろうか。

 

 うっかり嫌なことを思い出してしまった。いかんいかん。

 

 そんな訳で私が観光したいと主張したから、転移先で旅行しようということになった。とはいうものの、内陸になるとテオも地理が判んないらしかったので、山のてっぺんとか絶壁とか峡谷とかのヤバい場所に出たら、問答無用で回復水を飲ませるということにした。運良くマトモなトコに出られればいいけど、判んないじゃん? それに島に戻るにしても、帰りも同じルートを辿ったら間に合わないし。

 

 ということで! 夜が明けてから嫌がるテオを急かして転移魔法を使ってもらったというより、使わせた。もちろん方角は指定したけども、どうなってるかは判んない。ルーレットみたいなもんか。

 

 そして転移した私たちは強い風に吹かれる羽目になった。危ないので寄りかかるようにしてぴったりと壁にくっつく。

 

「……あのさあ。何で足元10センチ幅くらいのトコに出たのかと! 断崖絶壁だろ、これ!」

「ははは! 仕方ないっすね!」

「テオさん、はい。回復水です」

 

 笑ってごまかそうとしたテオの口にメイプルが回復水の口をねじ込む。あばばば! みたいな感じでテオがそれを飲む。暴れたら落ちて死、というのは判ってるらしい。まあ、実際には風魔法とか使えるから、メイプルがどうにかするかもだけども。最悪、私が吸引するという……ん? 空気あるんかな、某白いポケットもどき。

 

「うううう、からいーーー!」

「はい。次のところにどうぞ」

 

 叫ぶテオにメイプルは平坦な声で言ってるけど、目が怒り狂ってるのが判る。こわ! テオも同じことを思ったのか、悲鳴のような声で叫んだ。

 

「ひっ!! 判りましたー!」

 

 次に出たところは断崖絶壁とかの危険なところではなかった。一応、町。そして裏通り。……テオはこういうところは器用に出来るのに、何で危険なトコに転移してしまうのかと。もしかして転移先に人がいるかいないか、転移してる時にしか判んないってこと? でも転移って一瞬だよね? 魔法を使ってるテオには感覚的に判るとかだろうか。

 

「おい、おまえら。大人しくしろ」

 

 ほっとしていたら背後から声が聞こえた。振り返ると何人かの男がこっちを見ながらナイフとかをちらつかせている。あ。とっても判りやすく盗賊なのでは。

 

「黙って金を出せ!」

「嫌です」

 

 私がきっぱりと断った瞬間、メイプルが腰の剣を抜きながら駆け出した。あっという間に男たちを倒していく。おお……前世ラノベとかでよく見た場面だ! 盗賊とかに襲われて誰かが助けるみたいな? それか掠われてえらい目にあうとか? そんでもって自力で脱出したりとか? まあ、そんな感じのは何回も見かけた。

 

「終わりました」

 

 剣を収めながらメイプルが平然と言う。男たちはみんな倒れている。屋根の上にいたのも見えなくなってるから、倒れてるんだと思う。血は出てないから刺すとかじゃなくぶん殴ったのだろう。いや、メイプルが動かなかったら私が風で切り裂いていたかも知んない。それよか剣で叩く方がマシか。

 

「良かったっす!」

 

 笑顔で言ったテオの手にはいつの間にかナイフがあった。しかも数本。あっ、そうだった。テオも戦えるんだった。

 

「テオさんもリディア様が何かをする前に止めないと駄目ですからね」

「了解っす!」

「私は危険物か何かか!」

 

 そんなやり取りをしながら私たちは裏通りから出た。石畳の道の両端に建物がずらっと並んでいる。二階建てが多い。そして入り口の前に子供がいたりする。ん? 私から見ると子供なんだけども、よく考えたら前世の感覚だったわ、これ。10代くらいの子と言えばいいのかな。

 

「ここって宿場町?」

「客引きにつかまらないようにしてください。油断すると宿に引きずり込まれます」

「えっ、引きずり込まれる? なにそれこわい」

「そうっすね! こういうとこは大体そうっす!」

 

 そんな話をしながら私とテオはメイプルについて歩いた。




https://syosetu.org/novel/413002/
こちらから作品を登録してもらえると嬉しいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。