チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
断崖絶壁からの宿場町に着いた、元アラフィフ主婦、実は転生者の斉藤奈美恵です。赤子に転生したので、前世の記憶と今の記憶がごちゃ混ぜになるという危機があったものの、何かもう気にしたら負け! という気がしたので今は無視することにしています。
うん。客引きの子供というか可愛い女子は強かった。客引き男子が少ないのは推して知るべしである。判る、うん、判る。でも判らない方がいいと思う。今の私は。なので何も言わないことにした。
強いというか強引。隙あらば私の腕をつかんで引っ張ろうとする。一番、小さい子供だから狙われるのだろう。私が運良く(悪く)宿に入れば儲けもの。そこでお泊まり決定なんだと思う。ってか、転生前世界日本だとコレはヤバくねーか? 法律とか条例とかがあった気がする。ん? あれは風俗だけに適応されるんだっけか? いや、腕つかんで引っ張るのはさすがにマズいだろ。何とかハラになってしまいそうな予感。
だがしかし、それよりメイプルとテオのが強かった。私が腕をつかまれる、またはつかまれそうになると問答無用で客引き女子の腕を捻り上げる。ちょっ、絵面がヤバいんだけど!? 少なくともメイプルとテオは女子よりは年上で……って、先にやらかしたのは相手の方だからいいのか? いや、防衛本能……じゃなく、防御でなくて、あ、正当防衛か! それだとしてもマズい気がするんだが!?
「メイプル! あんまし強くやると折れるんじゃない!?」
「問題ありません。リディア様の腕に触れるなど、言語道断です」
悲鳴を上げて痛がっている女子の腕をつかんだまま、メイプルが淡々と返事する。待て待て待て! って、テオは私をガードしてるんだけど、手を伸ばした女子を蹴飛ばしている。おーい! 絵面ー!!!
私たちは些細なトラブルはあったもの……些細じゃねーし! まあいいや! とにかくメイプルに連れられて宿を決めた。宿が並んでいる道の端にある建物だ。ひっそりと建ってるけど立派な宿だ。それに客引きがいなかった。
「頼むから……間違っても殺さないでね?」
宿の部屋は今まで泊まったところより綺麗に整えられていた。しっかりと綿の入った布団がベッドに載っかっている。シーツも真っ白できっちり四角く折り畳まれている。転生前世界日本の旅館みたいな感じ? あ、旅館は畳に布団な気がするね。
「問題ありません。殺す必要がありませんので」
「そーじゃなくてね!?」
テオが先に遮音結界を張ってくれていたので、私はメイプルに存分に突っ込みを入れた。テオは椅子に座ってテーブルに置かれた茶を飲んでいる。おい、一人優雅だな。
「小さい子を追い払うのに、あそこまでする必要はなくね!?」
「いえ。私は関節技をきめてはいませんし、油断すると彼らはスリになりますので」
「は!?」
先に座ってたテオを足で退けながらメイプルが説明してくれる。客引きの子供は大抵は実入りが少なく、客の財布を盗む、つまりスリで生活している者も多いという。客引きは客がとれなければ給金ゼロなのでみんな必死なのだそうだ。それを聞いた私は転生前世界のことをふわっと思い出した。そういう時代があったような気がしなくもない。
「どんだけ昔か!」
「え?」
「何でもない何でもない」
思わず出た私の感想にメイプルとテオが不思議そうな顔をする。またやってしまった。いや、スリは転生前世界現代でもいたけども! コミ○とかに多く出没するとか聞いたことあるけど! 確かに小銭を大量に持ってたりするとやられそうな気がしたりもするけど! それは転生前世界のことであって、今じゃない。
宿に泊まることを決めると、宿側からネックレスみたいに首からぶら下げる木札をもらえる。これをぶら下げてると客引きを食らわない……もとい、関わらずに済むらしい。宿を決めた客を横取りするのはルール違反で、もしやらかしたら宿場町全体から叩かれるという。あれだけ強引な客引きしてるのに、そこはルールがあるんか……。だったら客引きにもルールくれよ……。
「それでは参りましょう」
「おう! 観光じゃああ!!」
「飯あるっすかね!?」
私たちはひと息吐いてから、宿場町を見て回ることにした。ここはどうやら温泉が合体してる宿場町らしく、私たちが泊まる部屋にも小さい風呂が付いていた。でもどうせならでかい風呂に入りたい! と、言ったらメイプルに苦い顔で却下された。誰が入ってるか判んないところで武器を携帯出来ないのは困るという。……確かに。いざとなったら魔法でぶっぱ出来るだろうけど、この辺りで使える人はほぼいないらしいから、目立つというかヤバい。美味しい獲物とみなされ、下手すると誘拐されるらしいし。怖いね、大陸。