チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
温泉といえば浴衣! 温泉街と宿場町が合体してるんだから、でかい風呂に入ってみたい! そう思っていた頃が私にもありました。メイプルに絶対ダメだと言われたけど、私は未練がましくネチネチと絡んでみた。でもやっぱり無理だった。残念! 仕方ないので部屋の風呂で我慢した私、頑張った!
客引きが迫ってこなくなったので宿場町を思う存分に眺め、たまに屋台で買い食いをする。残念ながら屋敷のご飯と比べると美味しくはない。でもその場のノリとか雰囲気とか、そんな感じのものがあるので美味しく感じられる。これで綿菓子とかあればいいんだけどなあ。砂糖が貴重なのか、それとも別に理由があるのかは知らんけど見かけないんだよね。まあ、そもそも綿菓子というものがこの世界に存在してるかどうかも判んない。
朝になってから宿を出て、裏通りに入ってからテオに頼んで転移する。二回目だからそろそろ帰りのことを考えないといけない。それを前提に転移してもらった。転移先は今度は断崖絶壁ではなかった。そのことにはほっとしたけど、目の前は水。そして人がいない。水は青々として澄んでてとても綺麗だと思う。
が!
「ここどこ!?」
「多分ですが湖かと」
でかすぎるくね!? と言いたいのを抑えて、私は周囲を見た。水際ギリギリまで背の高い木々が茂っていて、たくさん生えてるから幹の向こうは見えない。木の向こうには大きな山がそびえ立っている。転生前世界日本の富士山みたいに頂上がある、的な山じゃない。山の尖ったとこが並んでるって言えばいいかも? 何かコレ、転生前世界日本の文具屋とかのハガキで見たことあるな。
人がいないのは目の前にある湖は……森? 林? まあ森で良いか。森と湖の間の幅というか、地面が少ないからなのかも知んない。でも転生前世界のどっかで水の上に住んでる人がいたような気がするけど。建ってたのが家だったのか船だったのかは判らんが。
いやいや。今は目の前の景色だよ! 空気も景色も綺麗でいいね! でも背後から熊とか襲ってきそうかもね! そうなったらメイプルが狩るんかもだけど!
せめてカメラとかスマホとかあれば写真でも撮るんだけど……待て。吸引してる木から紙を作って転写……しまった! 転写は吸引から放出で出来る気がしない! 目で見たものを写し取る……うっ、無理か!
ピキーン! という音が鳴って、転写という文字が頭に浮かぶ。
待て! 待て待て待て! そういうスキルばっかり得ないで頂きたい! 自分のことだけど! 何で剣とかのスキルがもらえないのに、こういうのは出来るようになるのかと!
「あー……えーと、メイプル、テオ。この景色って屋敷のみんなに見てもらいたい?」
「そっすね! みんなに見せたいっす! 俺も初めて来たし!」
「そうですねぇ。ご主人様や奥様に見てもらえば喜ばれるでしょうか。リディア様冒険記みたいな感じで」
メイプルが可哀想な子というか、言葉が私寄りになってきてる気がする。でもまあ、喜んでもらえるらしいのでやってみることにした。とはいうものの、景色を吸引というのは出来る気がしないから、吸引した木を紙にして、目で見たものをふわっと取り込んで転写! あっ、出来た気がする。
「ホントに出来たよ……」
私は出来たものを放出してみせた。転生前世界の絵葉書をイメージしたからなのか、サイズがハガキサイズになってしまった。まあ、出来たからいいか。
「えっ! リディア様! これは一体!?」
「うわっ! 写し絵っすか!? どこで描いたんすか!?」
二人が転写したものを見て声を上げる。デスヨネー。二人の反応を見る限り、この世界には写真というものがないか、またはレアなんだと思う。テオが言ったことから考えると姿絵とか景色の絵とかはあるらしい。ってか、メイプルがジャガイモ絵を描くのか訊いてきたことがあるな、そいえば。
「うーんと、説明がややこしいっていうか? 吸引放出魔法で出来た」
「こっ、こんなものまで……ここの景色を写し取ったものですか?」
「まあ、その通りなんだが」
メイプルの質問に私はふわっと答えた。いや、どう答えていいのか正直、判んないんだよね。でもこのスキルって地図を写したりするのに便利かも知れん。まさかの感熱紙だったら泣くけど。あれって日保ちしないというか。光に当てると薄くなるんだよね。ほら。転生前世界日本のコンビニレシートみたいな? あ、スーパーとかのレシートも感熱紙だったかも知れない。
それはそれとして!
私が放出した写真は我ながらちゃんと出来ていた。表面がつるっとしていないヤツだけど。転生前で言うところのコピー用紙に描いた感じになってる。保存用のファイルとかを作るのは出来なかったから、薄い木の板を二枚作って、その間に挟むことにした。これなら持ち歩く程度は出来ると思う。
二人が写真を見て盛り上がるのを余所に、私はテーブルについてずずーっと茶を飲んでいた。そっかー。写真を初めて見た人ってこんな感じだったのかも知んないね。