チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
罠を警戒しつつ、三人でちょっとずつ前に進んでいく。途中、メイプルが黙ってたことで橫から矢が飛んできたり、上から槍が降ってきたりしたけど、そのたびにテオが叫んで避けていた。OH...。もしかしてここはメイプルによる強化合宿場かな? テオがちょっとだけ先を進んでいるから食らいまくるんだけども。でも先を歩いてくんないと光の角度がちょっとね。
扉の前には色んな罠が設置されているらしい。そこに行く用事のある使用人には罠の場所が伝えられるけど、そうじゃない人には教えてくんない。つまり今のテオは罠の位置を知らないのだ。メイプルも知らないぽいけど、テオが先を歩いているから食らってないだけらしい。しかも罠の場所って定期的に変更されるっぽい。鬼畜仕様ですねわかります。
「ひどいっす! これ何度目っすか!」
「大丈夫です。全部避けてるじゃないですか」
「俺は大丈夫じゃないっす!」
「戦闘訓練も兼ねてます」
メイプルがしれっと言う。あ、やっぱそうだったんだ。多分、そう言えば納得するだろう、的な発言だとは思うけど。
「えっ、戦闘訓練っすか? なるほど!」
「そこは納得すんなし!」
私は思わずテオに突っ込みを入れた。でもテオはよく判ってないのか、首をひねって私を見る
「戦闘訓練はもっとすごいっすよ?」
「は?」
「ええ。こんなものは痛くもかゆくもないです」
「はー!?」
テオとメイプルが交互に言う。私は思わず叫んで二人を見た。二人がそれぞれ顔を見合わせてからこっちを見る。
「戦闘力が下がると帰らされるっす!」
「誰に!?」
「え。ご主人様に、ですけど……」
私がテオ突っ込みを入れるとメイプルが困ったような顔になる。しまった。二人にはそれが常識なのか! 人それぞれで違う常識問題! 転生前世界でも当然だったけど、この世界でもやっぱりそうか! 特にこの世界では私の常識はほぼ通じない。というか、話題に出しても判んないという反応をされることが多い。
この二人というより、アシュフォード家の常識を私はまださっぱり判っていないってことだ。だってこの二人が戦闘訓練してるとこなんて見たこと……あ。もしかして。
「まさかと思うけど、夜中に訓練してるの!?」
「はい。夜目が利く方がいいので」
「俺は暇な時間っすね! 作業がない時っす!」
そっか。メイプルは侍女だから私が寝た後じゃないと時間がない。テオは農園にいるから夜に忙しいこともあるだろう。だから昼に訓練ということもあるんじゃなかろうか。
って待って。だとすると厨房のスティーブンとかも!? 仕事がない日ってある!? そもそもメイプルには休日もないじゃん! それでも訓練必須ってどんだけブラックなんだよ! まあ私もかなりのハードスケジュールだけども!
「……お嬢様! お嬢様、落ち着いてください!」
「はっ」
メイプルに止められて私は我に返った。試しに意識すると私の中の魔力がビカビカと光ってる。でもってそのせいなのか何なのか判んないけど、私の周りが光って見えてる! うーわ! ナニコレ!
「コレナニ」
「魔力が漏れてるのかと。お嬢様はまだ小さいので調整が難しいのかもですね」
「うわー! 凄いっす! 俺もこんなに溢れる魔力が欲しいっす!」
メイプルが冷静に説明してくれてる最中にテオが私を見て両手をぐっと握り締める。テオ。本音が出てる出てる。でもこんなに光るんなら、洞窟を照らす光って要らなくない? そう訊ねたら、私の魔力の漏れがどこまで続くか判らないので危ないと言われた。……何か水漏れみたいに言われてない? 出たり止まったりみたいな。
ちなみに転生前世界では水漏れすると水圧が上がった時に出やすくなってた。つまりご近所様が水道をあんまり使わない時っていうか? 井戸とかからくみ上げる式の水は知らんけど、少なくともうちはそうだった。あ、水道の蛇口の水漏れに限る。他のトコが壊れてる時は個人じゃどーしようもない時もあるから要注意。
そして水漏れしたら私が直してた。というか、部品交換。まずは水を止めるでしょ。次はハンドルを開けてパッキンとか交換したりする。モンキーレンチがあればいいけど、あれって素人には使いにくいから、Amazo○nとかで専用の締めるやつを買った。ハンドルだけ交換とかパイプ交換とかは出来るからやってたかな。
それにしても何で私がやってたのかと。普通は旦那がやんない? ハンダ付けとかさ! 何で私がやらにゃならんのかと! 昔のトイレタンクとかの修理も出来たよ!? 出来たけどさ! 私がやること!? 工事依頼すると高いから出来ることはやってたけど! 見てるだけってどうよ!?
ついつい話が逸れた。戻さねば。
つまり私の今の状態は蛇口パイプの先がぽたぽたと水が漏れてる状態ってこと。それにしても私本体が光ることなくね!? ブラックって思ったら漏れるとか! どういう仕様……しまった。私は生身。仕様というか体質? かな?
それにしてもアシュフォード家って一体。そんなことを考えているうちに、私たちは洞窟の一番奥に辿り着いた。目の前には茶色の扉……というかドア……? 障子? え、何で引き戸!? 開き戸にしようよ! どんなメリットがあるんだよ! 引き戸は戸を収めるために橫にスペースがいるだろ! 非効率だと思うんだけど!?
「お嬢様。こちらに手を」
メイプルが示したのは扉じゃなくて、引き戸を収めるようになってるトコだった。……もしかして扉を開こうとしても、簡単に開かないように引き戸なのか?
私は言われるままに引き戸の橫、洞窟の壁に手をついた。すると私の身体にまとわりついていた光が壁に吸い込まれたぽい。壁にいつの間にか紋章みたいのが出てきた。こ、これが魔法陣か! ラノベとか漫画とかアニメに出てくる、模様がややこしいっぽいアレだ! これで人体錬成は多分できないね!
私が光らなくなったからテオの上にある光がよく見えるようになった。メイプルに言われるままに私は引き戸を開けた。