チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
何とか立てるほどに回復してから、私はメイプルと一緒に書庫に向かった。何で執務室じゃないんだろ。とは思ったけど、スカーレットが書庫にいるとメイドに言われたので間違ってはないのだと思う。それにしてもメイプルだけじゃなく、複数人のメイドが後ろからついてくるのが怖い。いつもなら屋敷の中を移動する程度ではこんなことにはならない。どういうことだろ。でも振り向いたらメイプルは平気な顔をしてるから問題ないのかな、多分。
転移陣の部屋は屋敷の中にあった。屋敷の中っていっても私が行ったことがない地下だった。かなり広いらしく、他にもいくつか部屋があった。興味はあるけど、メイドに囲まれてるから身動きがとれない。くっ。メイプルだけなら興味だけで突撃するのに! ……あ。もしかして私の突撃を阻止するためにメイドが何人もいるのか。先読みされてる!?
仕方なく地下の探索を諦めて書庫に入る。私を防御というか、動きを封じていた感じのメイドたちはそこで去った。おのれ! 次は地下を存分に探索してくれる!
「メイプル。下がりなさい」
書庫で待ち構えていたスカーレットが言うと、メイプルがかしこまりましたと言ってレベッカと別室に入っていく。ちょっ、メイプル! ズルい! 私を助けてくれるのでは!? 警護というか護衛というか、そういうのなのでは!?
心の中で悲鳴を上げた私はスカーレットを見上げて息を飲んだ。スカーレットはにっこりと笑って私を見下ろしていた。こっ、怖い! また目が笑ってない!
「リディア。こめ、は見つかったのですか?」
「はっ!」
そう米だ! ハプニングと怖いの連続ですっかり忘れてた。私は慌てて頷き、恐らく米だと思われるものが入っている瓶を慎重に放出した。一度、手の中に支えた瓶をテーブルに置く。
「多分、これが米だと思います。でも確認してないです」
「なるほど。では、その他に吸引したものはどうなっても問題ありませんわね」
「は!?」
また私は声を上げてしまった。するとスカーレットが冷たい目で私を見る。
「何度もそのような声を出すものではありません。いいですか? 貴女が吸引したものは多すぎるのです」
説教がくるか!? と正座を覚悟したのに、スカーレットは何故か椅子をすすめてくれた。怖……。何か企んでいるのかと疑ってしまう。戸惑ってるとスカーレットがそっと息をついて椅子に触れる。
「お座りなさい」
そう言ってスカーレットが私の身体をそっと抱えて椅子に座らせてくれる。私はびっくりしてスカーレットを見た。その間にスカーレットが私の近くに別の椅子を寄せて腰掛ける。挙動といい、ドレスの裾捌きといい、相変わらずいちいち優雅である。
「貴女が吸引したものの中に魂がひとつあるのです」
「えっ」
「知らずに吸引しているかも知れないとは思いましたが……本当にそうだったとは……」
はー、とスカーレットが珍しく大きなため息を吐く。待って。魂!? そんなもん吸引した覚えはないんだけど!?
「吸引したものの中に廃墟があったと言っていたでしょう? 恐らくですがその中に魂が含まれていたのでしょう。貴女ではない何者かの気配を感じますから」
「えっ、いやだなあ……」
思わず本音が出てしまった。嫌とか言ってる場合じゃないんだろうけど、人の魂とかが自分の中? いや、某白ポケットだけど、その中にあるって状態はちょっとじゃなく気持ち悪い。確かにあの元農家で色んなガラクタも一緒くたに吸引したし、米を探すことだけに集中してて他はどーでもいい、みたいな感じだったんだよね。
「嫌で済む話ではありません。それは本来ならわたくしか旦那様が回収すべき魂なのですよ」
「でも、その、成り行きで……」
これは説明するのも言い訳するのも難しい。私は仕方なく口を濁してしまった。だけどこれだけは言わなきゃいけない!
「でもおかあさま。私が吸引している場所は私の中ではないです!」
「どういうことですの?」
「えーと、私の身体とかに吸い込んでるのではなく、別のどっかに吸引してる感じというか? 某白ポケットだと通じないか……うーん、異空間は異次元とか異世界とかそんな感じだった気がするから、亜空間かな?」
転生前世界で私が大昔に読んだSFでよく見たパラレルワールドみたいのが異次元じゃなかったかな。だから某白ポケットが異空間っていうのは違う気がする。アイテムボックスとかは亜空間扱いなのではなかろーか。この辺りはややこしかったので、当時はスルーして読んでた気がする。
そんなことを思い出しながら適当に説明したら、スカーレットが驚いたのか目を見張った。こんなに判りやすいリアクションを見たのは初めてだと思う。
「亜空間、ですって?」
「私は自分の中に吸引してません」
多分だけどスカーレットは私が言った亜空間という単語を、自動翻訳機で認識出来たんだと思う。この世界に亜空間とかがあるかは私にも判らん。ただ、転生前世界のラノベとかアニメとか漫画ではフツーに出てきた気がする。
急にスカーレットが立ち上がり、私が座ってる椅子の背をがっつりつかむ。ちょっ! これは逃げられんやつ!
「リディア! 貴女、まさか空間魔法を会得している、と!?」
「は!? えっ、知らないです。空間魔法って、テオの転移魔法と関係あるんですよね? でも私、転移とか出来ないです」
「空間魔法は才がなければ使えないのです!」
空間魔法と言っても、例えばちょっと物を移動させるくらいしか出来ないこともあるという。テオのように転移魔法を使える者はそうはいないらしい。しかもテオは転移魔法とは別に光の魔法を固定したり移動させたりすることが出来る。それを応用して遮音結界を張ったり、虫除けが出来たりするようだ。ちなみに虫除けは対象の身体を纏うように、平たく薄く伸ばした空間を貼り付けているらしい。
どうやらテオはものすごいレアスキルを持っているということらしい。ていうか、あの光にはやっぱリモコンとかコントローラーがあったのか。コントローラーはテオだけど。
「OH...」
スカーレットの説明を聞いて私はびっくりすることしか出来なかった。
いや、判ってたけど! あのテオが!! レアスキルを無駄遣いしていることは! 転移の距離制限とかがあるものの、実はかなり優秀らしいっぽいが! でも山の頂上3回はごめんである! テオはぶっちゃけポンコツ!
「チューターをつけるべきですわね」
スカーレットに間近で呟かれた私は必死で抵抗した。チューターってカテキョじゃん! これ以上、増えたらハードすぎて正直、保たん!
「嫌です! もうカテキョはいるじゃん!」
「ステラは魔法を教えることは出来ません。貴女に魔法は教えられません」
そこまで言ったスカーレットは我に返ったのか椅子をつかんでいた手をやっと離した。ほう、と息を吐いてから椅子に腰掛ける。
「話を戻しましょう。貴女が吸引した魂を扉の向こうに移動させなさい」
「させられるか、ではなく、させろ、と」
うっかり口に出してしまった。しまった、と思った時にはもう遅かった。にこりと微笑んだスカーレットが頬に指を触れさせて少しだけ首を傾げる。……あ、これ何か考えてる。悩んでるっていうより、私をどーしてくれようか、という感じか!
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した!