チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
スカーレット母上の言い放ったセリフで呆気にとられた私はかなり長く硬直してたらしい。おーい、と言いつつ、アーサーが私の目の前で手を振るまで気付かなかった。
はっ! 私は魔法の訓練という名の猛特訓というか、無茶振りを何とかしようとしていたとこだったわ!
「大丈夫かー! リディアーー!」
「あなた……。リディアが驚いていますわ」
「えっ、そうなのか?」
うん。アーサーの声の大きさに驚いた。でもそれより、スカーレットの言ったことに驚いてる。スカーレットは『魔法の攻撃力を増すのは厳しいでしょう』と言ったのだ。てっきり魔法は筋肉だと思っていたのに! おのれ、アーサー! 幼児に嘘を教えるなと!
……ホントは『それだけでは』と言われたんだけども。これを世間では八つ当たりともいう。
それにしてもスカーレットも私をナチュラルに大人として扱ってるというか。この世界では話せるイコール大人なのだろうか。それとも単に二人がそういう性格なのか。ちょっと判らないとこではあるね。でもメイプルも同じような態度なんだよねえ。うーむ。やっぱり私がちょっとズレてるというか、転生前の世界基準で考えすぎなのかも知れない。
と言っても、私は元の世界で過ごした時間の方が圧倒的に長い。今どきなラノベテンプレ転生物世界に紛れ込んでるんだから、どうやっても他作品と比べてしまう。もしかしたらその中には幼少時から魔法とかの訓練をする小説もあったかも知れない。私が知らないだけで。
でも、一歳半の
はっ。話が逸れた。とにかく!
私は言葉が出たのが異様に早いと思われてるんだから、普通は文字の読み書きとかからスタートするもんじゃない!? そもそも文字を読むのだって両親に黙ってとか、隠れてとかが定番なのに。本がありそうな書庫とかにもまだ辿り着いてないよ。なのにアーサーもスカーレットも魔法の訓練にはノリノリなのである。解せぬ。
「リディア。まずは自身の魔力を感じるところから始めた方が良いのです。筋肉は無視で」
「はい。おかあさま」
にこりと笑ったスカーレットがさりげなく脳筋をディスる。ナイス。後ろでアーサーが引きつっている。もしかしたら前にもスカーレットはアーサーに同じようなことを言われ、ドン引きしたことがあるのかも知れない。
私は目を閉じて自分の体内をイメージした。すぐに目の前が暗くなる。そしたら何か見えてきた。
……おいおいおい! 何この光る塊! これが魔力!? 今やっと気付いたわ! 意識しないと見えないものなの!?
それにしてもさすがはラノベ寄り異世界転生。エフェクトがそのまんま。キラキラという音もついてる。見え方はいかにもアニメっぽいエフェクトだなあ。私が好きな作品だと青緑みたいな光の線が走ったりするけど。あれは魔術回路だったかな? 他の作品にもあったけど、特に○月の魔術師や魔術使いはみんなそうだった希ガス。折角ならそっち系の方が良かったんだけど仕方ない。
「キラキラの光が見えます」
判りやすく言ってから私は目を開けた。すると何故かスカーレットが不思議そうな顔をして頬に指先を当てる。これは疑問を抱いてるということ。転生して一年半ほどだけど、私はスカーレットの感じてることや表情は大体、読み取れるようになっている。……アーサーは煩く自己主張するから読むもへったくれもなく判る。
「きらきら……不思議なことを言うのですね。リディア。普通、魔力は光らないのですよ」
「えっ!? 私はおかしいのでしょうか!?」
本気で焦って思わず尋ねてしまう。今度はアーサーも腕組みをして、むう、と呟く。OH...。もしかして私は異端児なのだろうか。いや。雲のイケメンが「特典はない」と言っていたから、これはたまたまだろう。多分、見え方とかは性質に左右されるんじゃないかな。もしかして私がラノベをイメージしたからかも。
不意にスカーレットがどこからともなく棒……いわゆる魔法使いが持ってる感じの長い杖を出した。ええ! ここって杖がある世界なの!? 何という私好みの世界か!
「わたくしはこのように見えています」
そう言うが早いかスカーレットが地面を杖の先でとんと軽く突く。するとその場に薄い青の透明な人体模型のようなものが出てきた。ああ! 卑怯な! 魔法で立体映像が出せるとか聞いてない! しかも人体と言っても透明ぽい形で内臓や危ない部位は表示されて……もとい、現れてない。光の帯でヤバいとこを隠したりしてないし、さすがの異世界と言うべきか、安心の全年齢仕様だ。
スカーレットが出したなんちゃって青色人体模型の胸の位置に脈打つ青い粒の寄せ集めみたいのがあった。確かに私が見たようなものではない。うっすらぼんやりしてる。多少はアニメ的エフェクトを思わせるけど、私が見たような白い光とは違う。
でも私は現在進行形でスカーレットの杖が気になる! 木で出来たぽい杖の先には飾りがついてる! 魔法杖といえばハリー何とかか! いや、それより某フ○ーレンか! ぶっちゃけ、格好いいよ! スカーレットは長い金髪なんだからそこからプラチナブロンドにして、がっつりコスプレすればいいと思うよ!? 似合うよ、きっと!
「リディア?」
「すっ、すみません。驚いてしまいました」
スカーレットは私と人体模型もどきを交互に見ていた。しまった。色々考えててついついリアクションが遅れたみたい。
「そうですか。では続けますね。魔力はこのように感じられるのです」
そう言ったスカーレットが杖でまた地面を突くと、集まってた青い粒が動いて全身を巡る。例えるなら血液? かな? 心臓の位置から身体を巡ってまた戻る。あれ? これは本○きのイメージではなかろうか。あれも良かったなあ。死んで石になるのは困るけども。
「そうなのですか。ちょっとやってみます」
今度はノータイムでスカーレットに返事して、私はもっかい目を瞑った。意識するとまた白い光がキラキラという音を立てた後、分裂してあちこちに飛び始めた。ちょっ! 意識したからって、雑にばらけてあちこち飛ばないで! 把握できない!
「……えっと、キラキラが飛んでいます」
目を開けて正直に答えると、今度は納得したのかスカーレットが頷いた。及第点の答えだったらしい。
「リディアにはそう感じられるのですね。魔力が光るように感じるのは、初めて意識したからかも知れません。ねえ、あなた。あなたもリディアに見せてご覧になってはいかがかしら?」
「そうだな! よし、判った!」
スカーレットに筋肉をディスられて凹んでいたアーサーが、ぱっと嬉しそうな顔になって近づいてくる。判りやすいな、このおっさん。……しまった。私の息子と大して変わらない年齢だった。まあ、いっか。ガタイが良くてあごひげがあるから、見た感じは筋肉おじさんなんだもん。
「私はこうだな!」
今度は唐突にアーサーが剣を出した。……待った! 剣は光ってないし、見えにくくはないけど、安定の想像通りの形!! あっ、このアーサーは男だからプロトタ○プか! いやいやいやいや! 待ってってば! さすがに異世界でもこれはない! 私のいた世界の影響!? 雲のイケメン、どうなってんの!? せめて剣じゃなくて刀とかにしてよ! 混乱するから!!
でもアーサーは私の心の叫びを無視して剣の先を地面に触れさせた。
今度も色は薄いけど火だるまの人体模型もどきが現れた。スカーレットとは見た目が全く違う。……なるほど。属性別人体模型もどきと言えばいいのかも? 火だるまの人体模型の中にはやっぱりスカーレットが出したのと同じように粒々があった。それがぐるんぐるんと身体を巡る。やっぱり私が見たのとは違う。
二人が出した人体模型もどきを見つめ、私は首を傾げた。
「私のイメージが間違っているのでしょうか?」
「いいえ。イメージの間違い、ということではないでしょう。魔法が使える者はどのような生まれでも、見える魔力の姿は同じなのです」
青い人体模型もどきと杖を消したスカーレットが微笑む。アーサーも剣と人体模型もどきを消す。そして私はうっ、と言葉に詰まった。生まれつきとか聞いてないよ!
「うむ。リディアは話せるようになったばかりだ。難しい表現はまだ出来ないのかも知れん」
「そうですわね」
勝手に納得しないでってば! ちげーのよ! 私は言葉はちゃんと理解してるし、異世界だけどみんなに理解可能なように発音も出来てるの! 前の世界でアラフィフ日本人だったから本も読めたし(日本人の識字率は100%に近い)、人との意思疎通も会話で出来たし、オフゲとかネトゲだってプレイしてたし! 何ならネットスラングだって多少は会得しているし! 昔のだけども! ……うっ、一歳半プラスだからアラ還とか言うなし。
いや。もしかしたら勘違いしてもらっておいた方がいいのかも知れない。特典はない、ということは単に見え方が違うだけだろう。
うん、私の心の平穏のためにそういうことにしておこっと。