チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
捜索は数日、いや、一週間以上かかった。あるはずの場所にそれはなく、どれだけ探しても無駄だと思うこともあった。だがそのたびに身近な人々に励まされ、気力を取り戻しては探し、落ち込んでは励まされ、という日々が続いた。
って! そうじゃねー!!! 限界だから頭がバグってるのか、私!
闇色の何かとか蠢く何かとか、そういう感じだったはずの魂? は、探し当ててみれば形とか色が、まっく○くろすけだった時の衝撃! いやもう、何ですか!? おまえはススですか!? ジ○リマニアですか!? と、心の中で罵倒したら、見つけたそいつが萎縮したみたいにプルプルしていたのはちょっと笑った。
だがしかし! 私が頑張った時間と引き換えに出来るほど笑えるわけじゃない! 対価のつもりならもっと笑いをよこせ! ていうか、何日もかけて捕獲したのに、扉の向こうに放出したらあっさり飲み込まれるってどういうことかと! 私の立場は!? でもって急にさくっと出来たのを見たスカーレットが宇宙猫みたいになってたけど!? さすがのスカーレットも取り繕うことが出来なかったぽい。それがちょっと可哀想だったかも。
そして私は倒れた。頑張り過ぎたかららしい。書庫にこもりっぱなしで、某白ポケットの中を必死で探す時に魔力を消費したっぽい。あー……確かに途中、意識したらキラキラが少なくなってた気がしたよ。でも毎度毎度、意識する癖がないから、いきなりぶっ倒れたんだと思う。でもってやっぱりベッドに押し込まれた。仕方ないから某白ポケットに残してあった瓶詰めの米ぽい何かを放出したり吸引したりしてたら、メイプルにめっさ怒られた。回復水の瓶の口をねじ込まれて飲まされた時は死ぬかと思った。ちょっとテオの気持ちが判った気がする。
「復活!」
魔力が少しずつ戻ってきて、MPバーが半分くらいになった。なので私はベッドに立って魔法少女みたいにピースした手を額に持って来て、ポーズらしいものをとってみた。すると傍にいたメイプルが困った顔で私を見る。
「お嬢様。何してるんですか」
「復活のポーズ。我ながら痛々しいと思った」
恥ずかしさを隠して私はベッドから飛び降りた。メイプルに叱られたが、これまでのことを考えたら大したことない。このくらい平気! うん、どんどん耐性がついてきた気がするね! 怒られすぎて耐久度がマシマシになったから、多少の攻撃を食らっても何ともないというか! 転生前のゲームで言ったらタンク! 要するに盾ジョブだね!
まだ本調子じゃないからとベッドで朝食を摂り、私はスカーレットのところに向かった。米がどうなったのか訊かれたのだ。返答しようとした時に倒れたから、まだ何も言ってないんだよね。私も気になるし、確認は一緒にした方がいいかと思う。
「おはようございます。おかあさま」
「ごきげんよう、リディア」
いつものようにスカーレットは執務机について仕事をしていた。書類を確認してはサインするという、一見大したことがないように見える仕事なんだけど……メイプルにこっそり聞いたら差出人がヤバかった。王宮からとか上級貴族とかから着ている書状らしいのだ。それに返答のためのサインを軽々としているのだから、スカーレットって大物だと思う。それかアシュフォード家がそういう立ち位置なのかもだけど。
「どうしたのですか? 何か用があって来たのでしょう?」
手を止めたスカーレットが私を見ながら立ち上がる。私はこないだまでのことを思い出して緊張した。メイプルにちょっと叱られる程度なら慣れっこになったが、スカーレット相手だと話は違う。つまり習慣的にビビってしまうのである!
「えっと、あの、そろそろ米をどうにかしたいな、と」
「吸引したという、こめ、ですね。もう一度、確認してもよくて?」
「あっ、はい!」
私は慌てて例の瓶を放出し、スカーレットの執務机に置こうとして困った。書類が山盛りなのだ。どうしよう、と思ってたらメイプルが別のテーブルに誘導してくれた。スカーレットも寄ってきたので、私はそのテーブルに瓶を置いた。
「これは、植える前の穀物の種に見えますわね」
「おかあさまは植物とかにも詳しいんですね」
「貴女が食事に拘りがあると判りましたから、図鑑などを読んだのです」
なるほど。スカーレットも書庫で色々調べたっぽい。それまでは植物図鑑を読み込んでなかったようだ。ふむふむ、と納得しながら私はスカーレットとメイプルを見た。
「これ、開けた方がいいですか?」
「そうですわね。メイプル」
スカーレットが声をかけるとメイプルが瓶の蓋をそっと開けた。するとその場に香ばしい匂いが漂った。よし! 少なくともカビてない! 米ってカビると油分が酸化するんだよね。だから変な匂いになる。湿気に弱いから転生前世界日本では、どうしてもって時は冷蔵庫に突っ込んでた。米の袋の封を切らなきゃいい、という訳じゃないんだよね……あれ。特に日本は湿気がすごいから家庭での長期保存は難しいと思う。
って、そんなことはよくて!
「これなら大丈夫な気が……」
ドキドキしながら私は瓶の中身をちょっとだけ手に取った。一粒だけつまんで慎重に籾殻を外すと玄米ぽいのが出てきた。香りを確認して……
米! 米だよ! 私の米道ーーーーー!!
「多分、米です!」
私は目を輝かせ(多分)て、スカーレットとメイプルを見た。すると二人が判りやすく微笑む。
「これをそのまま食べるのかしら?」
スカーレットが私の指からそっと玄米を取り上げる。まじまじと見るスカーレットの後ろから、メイプルも首を伸ばしてそれを見ている。
「いえ。これを精米……えーと、茶色のトコを取り除いて白くしてから、炊きます」
「炊く……煮炊きのことかしら?」
指につまんだ玄米から視線を私に戻したスカーレットに問われ、私はがくがくと高速で頷いた。
「はい!」
「では、厨房に」
「待って、待ってください! おかあさま! これ一粒じゃどーにもならんです!」
指に玄米をつまんだスカーレットが今にも厨房に凸りそうだったので、私は慌てて止めた。いつの間にかスカーレットにウマ飯好きが伝染ってる気がするね!