チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
玄米をつまんだスカーレットが厨房に凸りそうなのを何とか押し止めたら、今度は玄米を増幅するように言われた。ま、まあ判るよ? 一粒じゃ駄目って言ったから、たくさんにしろと。でもまだ精米してないってば! でもスカーレットがどうしてもって顔してるから逃げられない!
仕方なく私は一粒の玄米を吸引し、増幅しながら合成、よーするに精米をしていった。何でこっちの世界でもマルチタスクを求められるんか。何かしながら別のことをするって、転生前世界の私は主婦業では当たり前にしてたけども……こっちの世界でそれを求められると混乱するんだよ! 前世でおかず作りながら洗い物して、ご飯仕掛けて、付け合わせとか作って、洗い物を片付けて、ってやってたから! ついでに洗濯したり掃除したりね! 一気に片付けないと時間が勿体ないからやってたけどさ!
しまった。それどころじゃない!
考えごとしながらやると、別のものが混ざる! ……気がする!
私は頭を切り替えてとにかく増幅・精米・増幅・精米を繰り返した。一粒から一合くらいまで行った後は楽になった。とりあえず一升炊き分……えーと、10合くらいにまですればいいよね。ちょっとだけ玄米を某白ポケットもどきに残しとけば、後でまた増幅とか出来るし。
そして私とスカーレット、メイプルとスカーレットの傍付メイドの四人で厨房に突撃した。……あの。どーでもいいけどさ。先触れを出さねばならぬ、と言ってたスカーレットは大丈夫なのか!? ていうか、それ無視していいのか!?
やっぱ無視じゃヤバかったらしい。四人で乗り込んだ厨房は一瞬で大騒ぎになった。
「奥様!? お嬢様!? あのっ、食事に何か問題がございましたか!?」
五体投地な感じでスティーブンが飛んでくる。OH...。土下座みたいのを久しぶりに見たよ。でもそんなスティーブンを見下ろしたスカーレットが、微笑みを浮かべて首を振る。
「食事は美味しく頂いていますわ。今日は別件で……あら。わたくしとしたことが。先触れを出すのを忘れていました」
ほほほ、とスカーレットが上品に笑う。私は目を丸くしてスカーレットをガン見した。厨房の人たちもそんな感じでスカーレットを見ている。でしょうね! 私も驚いたからね!
「そっ、そうですか、あの、では何故」
「あー……えっと、ボウルある?」
説明するより見せた方が早いだろう。キョドってるスティーブンに私はさくっと要求した。すると慌てふためいたスティーブンがそこそこ大きいボウルを持ってくる。7歳児の私にはちょっちでかいけど、このくらいじゃないと米が研げないからなあ。
「どーん!」
近頃は呪文の代わりに気合いの声を出したりしてなかったけど、景気よく声を出してから私は精米をボウルの中に静かに放出した。……気合いの声は気合いのためのもので、その勢いで放出したらばらけるから、あくまでもそっと出さないと!
さらさらと音を立てて米がボウルに注がれる。この場合、注ぐでいいのかな。ま、いっか! 何でも! 米が食べられるのであれば! 見ていたスカーレットやメイプル、でもって寄ってきた厨房のみんなが注目している。うむうむ、気持ちは判る。初めて見るものだろうし。興味津々だよね!
「あれ? これ、米ですよね?」
「……は?」
厨房の誰かが言った。私は声のした方にぎゅんと首を回してそっちを見た。言葉を発した若い女子コックを私ががっつり見ると、その子が慌てたように口を手で覆う。
「いま、なんと……?」
私が震える声で訊ねると、女子コックが何度も頷いて挙手して言った。
「はっ、はい! あたし、最近、こちらに雇って頂いて! 故郷が大陸東部の奥地で!」
「つまり……米を……知っている?」
「はっ、はい。田舎で作ってまして、ですので、普通に食べて」
「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!? どういうことーーーー!?」
私は絶叫した。