チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
そーいえば魔法の威力の話じゃなかったか? そんなことを思う今日この頃、こんにちはアラフィフ主婦&死んで転生した斉藤奈美恵です!★
……って、魔法少女のように華麗に名乗ってみたけど、前の名前ってこの先、使うことはあるのかな。多分ない。でも私はこの名前は忘れないだろう。郷愁とかのロマンティックな理由ではなく、単に50年以上使ってた名前を忘れるとかはないってだけ。
父母の杖とかを見てテンションが上がりすぎた私は、魔法の威力がどーとかの話をすっかり忘れていた。アーサーとスカーレットが仲良く話しているのは微笑ましいとは思うけども、私には私の都合というか、筋肉系訓練を避けるための方法が知りたい!
「あの、おとうさま、おかあさま。わたしは魔法をどうすれば……」
息を詰めて根性を入れ、うるっと目を潤ませてみる。演劇とかやってたらもっとそれっぽくうるうる出来るのだろうか。私は少しもそういうのはやったことないんだよね。でも異世界で幼児である以上、多少はそれっぽくしないと周りに怪しまれる。
私が涙ぐんだのを見たせいだろう。それまでのんびりとアーサーと話していたスカーレットが、私と目線を合わせるように少し屈む。
「そうでした。リディアの吸引という魔法は個性的です。その場にある魔法などを吸引して放出しているのですよね?」
「はい」
「それでしたらやはり、その魔法単体で攻撃力を上げるのは難しいでしょう。リディアの攻撃魔法はその場に残った魔法を吸引したものを増幅して放出しているように見えます」
言われた通りなので私は頷いた。スカーレットも頷きかえしてくれる。そしてスカーレットは更に説明してくれた。
スカーレット曰く、吸引するものがその場にある魔法の欠片だと増幅には限界があるらしい。私の放出は吸引で吸い込んだものを百倍程度にするのが限界らしい。……百倍って普通に多くないか? で、逆に吸引したものをほぼゼロまで極小に収縮することも出来る。これはスカーレットの病気の時に検証済み。
私はちょっとの間、考えてみた。スカーレットが言うように百倍に出来たとしても、さっきみたいにアーサーの出した火の欠片を吸引しただけだと出せる力に限界があるのだろうか。確かに私が吸引したのって、百円ライターで点けた火より小さかったけども。
「つまり吸引した魔法が小さいと放出できる威力が小さい……?」
「そうです。ですので」
立ち上がって私に背を向けたスカーレットがまた杖を出したかと思うと、杖の先端から超速で吹雪が出てきた。ちょっ、おま! いきなり何すんの!? そして手加減なしじゃない!? 猛吹雪なんですけど!?
驚く私とは対照的に落ち着いた様子で振り返ったスカーレットがにこりと微笑む。
「これを吸引なさい」
「はっ、はい!」
急に命令口調になったスカーレットに慌てて返事をし、私はその場に出ていた吹雪を全て吸引した。吸引っていっても身体に入れるわけじゃない。どこかは知らないけど、入れ物みたいのがあってそこに入れてるぽい。……白い某ポケットかな? それとも某胃袋かな? と思ったけど、黙っておく。
とにかくそこに入れてるからなのか、吸引した魔法の影響は私にはない。それはいいんだけど! スカーレットがまたにっこりと笑って私の橫に立つ。
「はい。増幅して放出」
「はっ、はいい!」
気軽に言ってくれるけど、なんかこの人、アーサーより厳しくない!? と、思いつつ、私は言われるままに吸引したものを最大限にまで増幅して放出した。その場に現れたものを見た私はあんぐりと口を開けた。
ぶりざーど、ぶ-りざーーーーど。
と、いう昔懐かしい曲が私の頭の中に流れた気がする。吸引した吹雪を増幅して放出した途端に、その場が一気に雪と氷のコラボ景色になったかと思うと、風と共に雪が吹き荒れたのだ。……え。これ、某ダイナス○・ブレスとかの非じゃなくね!? っていうか、見間違いじゃなかったら、屋敷が凍ってますけどーーーー!?!?!?
「はい、吸収」
「えっ、はいいいいい!!!」
寒さにガクブルしている私にスカーレットがさくっと命じる。私は言われるままに、さっき放出した魔法を吸引して、それをまた増幅して放出した。
……とんでもない雪国があらわれた。というか、豪雪。雪の深さが十メートルは超えている。私とスカーレット、アーサーのいる場所だけ丸く切り取ったように雪がない。わーい、縦になったかまくらだー。
ではなく! 穴の上から冷たい風が吹きつけてきてる! そしてびしばしと雪と氷が降りかかってきてる。三人が凍り付いてないのが不思議だよ! ていうか、私が出したんだから、氷と雪、私を避けろや! 当たっても痛くないのは嬉しいけども!
「このように吸引した魔法が強ければ、増幅を繰り返すことで威力は上がります」
杖を消してにっこりと笑ったスカーレットがアーサーを振り返る。するとアーサーが待ってました、と言わんばかりに剣をあらわし、両手で柄を握って剣を天に向けた。待って! まさかと思うけど、あれは止めてね!?
「うおおお!」
気合いのこもった叫びをあげたけど、アーサーはえくすなんとかは撃たなかった。……良かった。色々と良かった。私の都合的に。もしもやらかしたら、小一時間ほど雲のイケメンを問い詰めたいところだった。まあ、無理なんだけども。
でもこの世界の魔法には呪文とかは要らないんじゃないんかい。という私の突っ込みより早く、アーサーの剣を中心にして火の嵐とでもいうものが現れ、上に向かって吹き出した。すると私が放出した雪や氷があっという間に融ける。凍り付いていた屋敷も元通りだ。
ん? ちょっと待って。私のこれってもしかして無限増幅なのでは……。
「判りましたか? リディア」
「はあ……おかあさま。わたしの魔法の威力は……」
「先ほどのように吸引と放出を繰り返す限り、威力は無限大に増幅すると言えるでしょう。ですが、リディアの魔法は吸引するものを増幅する際に魔力を使っているようですね。魔力の消費を考えると最初に吸引する魔法は大きい方が増幅の効率は良いようです。練習をすればもっと効率良く吸引と放出が行えるでしょう」
これ以上の練習ってか。筋肉馬鹿……もとい、アーサーよりスカーレットの方がスパルタだということが判った。魔力を使ってると断言したということは、私の中の魔力も見えるんだろう。それにさっきまでと違って、私は息切れとかはしてない。むしろ体力は減っていない気がする。魔力は、と身体の中に意識を向けてみたら、キラキラは多少は減ったかもだけど、ぱっと確認できるほどの変化はない。
ていうか! 無限大!? この世界にチートはなかったんじゃないの!? これはチートじゃなくて!? デフォルト!?
あ、でも私の場合は吸収と放出、という手順を踏まないといけないとか、最初に吸う魔法のサイズで増幅回数をマシマシにしないといかん、という条件があるのか……。そう考えるとスカーレットのさっきの威力の魔法から吸引、増幅しないと、私の魔力ではそこまで魔法の威力は出ない……と思う。
そんなことを考えていると、アーサーが目を輝かせてこぶしを握り締めた。
「なるほど! つまりは筋力を上げればリディアの魔法の増幅もより一層、強」
「筋力は関係ございません」
にっこり笑ったスカーレットにぴしゃっと遮られたアーサーがしょんぼり顔になる。私は力なく、ははは、と笑っておいた。