チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
ひき殺されないだけマシじゃね? と思う今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。永遠のアラフィフ主婦の転生者の斉藤奈美恵です。重い、大きいまでは判りますが、角いと文句を言われるのは解せぬです。
そんな訳で私とザビエルの言い合いは一段落はした。というか、メイプルに割って入られて終わった。ヒートアップしてた私たちの言い合いは子供かという次元になってたからだ。バーカ! アホ! マヌケー! みたいな。でも私は子供だから許されるくね!? と思ったら、私のことは子供扱いしなくていいと言われてる、と言い返された。……しまった。そーだったわ。
それにして雇い主の子供を馬鹿とか! 阿呆とか! 間抜けとか! 言うかね!? フツー! 私も似たようなこと言ったけどさ! あ、思い出したら腹立ってきた。
あんなのに轢かれたらフツーは死にます、と言い張ったザビエルは、自分にはちゃっかり防御用の結界を張ってたらしい。おのれ! 自分の身だけ守ればいいってか! と言い返したら、使用人にも全員、といい返された。おい、私は!? 入ってないんかい!
「リディア様には必要ありません。空間魔法というものを体感して頂かねば」
「やかましい! 要するに私だけは護らんよ、決して。みたいな感じだろ!? それ!」
「ははは。リディア様はご冗談がお上手ですな」
厭味を言い合ってたら、またメイプルが間に入った。
「はい。そこまでです。繰り返しても不毛ですよ」
「うっ、そうなんだけど、腹立たしい」
ギリギリと歯軋りをして言い放つと、メイプルがため息を吐いて私の目の前に何かを出した。おお! クッキーじゃありませんか!
「わーい!」
取ろうとするとメイプルがすいっと腕を上に伸ばす。あっ、何でさ!? 取れない高さにすんなし!
「お嬢様。大人しくされるんなら、これをあげます」
「くっ、餌で釣ろうとか恥ずかしくないんか!」
「私たちはお嬢様から餌で釣りまくられてますが何か」
あーーー! そう言われると言い返せない。くっそ、これまでのことが蘇る!! 怒りと情けなさにプルプル震える私を見たメイプルがじーっと見つめてくる。
「しっ、仕方ない。判った」
「はい。いい子ですね」
「こんな時だけ子供扱い!?」
とは言ったものの、私はクッキー一枚で釣られて大人しくなった。でも子供を餌で釣るような教育は良くないよ!? 私の中身が永遠のアラフィフだからいいけどさ。小さい子にやったら駄目だよ? と、私は念を押したくなった。多少なら問題ないかもだけど、それやると何かもらえないと何もしない子になったりもするし。
転生前世界で私は食い物や玩具で息子娘を釣ることはほぼしなかった。完全に、ではないけども。教育がどーとかじゃなく、私の気分的に良くなかったし。長い目で見るとやっぱ、報酬ないと何もしなくなるぽいんだよね。言葉で褒めるのはアリなんだけどさ。何かをしたらご褒美というブツがもらえる、と覚えてしまうのはなあ……。子供の育て方は人それぞれだと思うけど。
うっかり話が逸れた。いかんいかん。
そして私はクッキーで釣られているわけで。まあいい! 今回はこれで手を打とう! ということで、私はポリポリとクッキーをかじった。
「ごほん。先ほどリディア様が出されたものは、確かに空間魔法のひとつではありますな。尖ってて死ぬほど痛かったですが」
「おい、尖っててとか余計だろ」
ぶつぶつと口の中で呟いてみる。が、すぐにメイプルににっこりされたので私は黙った。くっそ、ムカつく! ザビエルってどうしてこう、言葉に刺があるんだよ!
「ただ……そうですな。ご自身を囲むように箱を作れませんかな?」
「は? やろうと思えば……ちょっと待って。うっ、喉に!」
慌ててクッキーを食べようとした私は、うっかり喉を詰まらせそうになった。慌てたメイプルが持って来てくれた水を一気飲みする。はー、危ない危ない。
「えーと、自分が箱の中に入れってことだよね? 空気とか大丈夫なのか」
「空気は通すイメージで」
「はー!? 空気!? まあ、出来なくもないか?」
コンテナも密閉されていないと考えればいいかな。うーん、通気口があればいい? 色付きなら判りやすいか? どこに通気口があればいいのかな。コンテナの下側? それともサイド? 上? まあいっか!
クッキーをかじりながら、私はさっき吸引したコンテナを某白ポケットの中でいったん分解した。でもって畳んで硬くして、今度は自分を取り囲むイメージで放出する。
「どーん!」
呪文がないから最近はこんな感じで放出することが多いんだよね。でもって放出したピンクコンテナの中には、私とメイプル、仕方ないからザビエルが入ってる。
「これでどうだ」
「ふむ」
ザビエルが杖を片手に周囲を歩く。私はその場にべたっと座り、残ってたクッキーをかじった。ピンクコンテナの壁を叩きながら歩いていたザビエルがぴたりと足を止める。んー? 何かあったのかな。
「リディア様。これは」
私は立ってザビエルに駆け寄った。ザビエルが杖の先で指してるのは、通気口だ。
「空気の出入り口だけど?」
「空気が通るように、というのはこういう意味ではありません!」
「はあ!? 空気が通れば何でもいいだろ!」
「結界全体が空気を通すように作るのですよ!」
「知らんわ!」
「とにかくこれでは駄目ですな!」
バチバチにやりあった後、ザビエルが少し歩いてまた杖の先で指す。だから、一定の幅で穴は開けたよ!? 何かまずいのか!
「攻撃された場合、こういう穴があるとどうなりますかな?」
またコンコン、と通気口を軽く叩いたザビエルが訊いてくる。私はちょっとだけ真面目に考えてみた。
「うーんと、風とかなら入ってくるかな?」
「火は?」
「場合によっては入るね」
「土は?」
「うーん……土埃とかは入るか? 小さな石とかも」
問答を終えたザビエルが、心の底からうんざりしたという顔で深いため息を吐く。
「それでは結界とは呼べません。隙間があるただの箱ですな」
「箱をイメージしろって言ったの、そっちじゃん!」
「ですから概念です! 箱そのものではないのです!」
「はあ!? 概念!? 推し活か!?」
「おしかつ、というものは判りませんが、非常に馬鹿にされた気分ですな!」
お互いにギリギリと歯軋りしてると、またメイプルが割って入った。
「お二人とも落ち着いてください。ところでお嬢様、おしか、つ、というのは」
「食い物じゃねーし! トンカツかよ!」
メイプルがまた、がっ! と食いついてきたので、私は叫ぶように答えた。するとメイプルが目をキラキラさせて私に迫る。何故かそこにザビエルの姿もあった。
「とん、かつ、ですか!? それは美味しいんですよね!?」
「非常に気になりますな!」
「おまえら、訓練か食い気かどっちかにしろし! ていうか、ザビエルもウマ飯スキーか!!」
二人に迫られた私は悲鳴を上げた。