チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
トンカツ祭はしばらく続いた。食卓にも何度か上がってきた。うっぷ。さすがにこんだけ出てくると、私も辛い。しかもソースの作り方はまだ教えてないから、トンカツオンリーなんだよ!
でもアーサーとスカーレットは喜んで食べている。しかも出かけるアーサーが弁当にトンカツサンドを持っていくという徹底ぶりだ。おおい! 胃は大丈夫か!? いい年だろ、アーサーもスカーレットも! 私が転生した時は息子娘と同じくらいだったけど、今はアラサーだよ!? なのにトンカツ三昧ってどーなのか!
そして私の訓練はやっぱり続いた。が! トンカツサンドを持参した時は、多少、ザビエルが優しくなった……気がする! メイプルもトンカツサンドを欲しがる時があるので、ザビエルに持ってく時は、ついでにメイプルのも持ってくことにしてる。
でもって私の箱練習は少しは上達した! コンテナサイズから半分以下になった! でもって薄くなったからか、密閉しても多少は空気が通るようになった! 入ってしばらくしたら酸欠になるけど! 酸素実験にはザビエルを突っ込んだ。ザマア。まあ、すぐに助けたけども。
当然だけど空間魔法の訓練と並行して剣術の訓練も行われる。でもって農場で作業したり、納品したり、厨房で手伝ったり……あー!! ナンデダヨ! 七歳児のスケジュールじゃないよ! しかも最近、メイプルじゃないメイド、ジャスミンが侍女としてついてくることも多くなってきた。コノヤロ! 誰の仕業か! まあ、メイプルにも休みがないと駄目っていうのは判るけどさ!
ジャスミンって正論パンチしてくるから、突っ込み所がないんだよなあ……。そこが面白くない。私的に。ザビエルのがまだマシ。ノリ的に。しかもジャスミンって可愛い年頃の女子なんだよ。突っ込みを入れちゃいかん、みたいに私がセーブしてるのもある。
「リディアお嬢様は訓練がお嫌なのですか」
「あー……」
訓練の合間にお茶してる時、ジャスミンに訊かれた。嫌だよ! こんなスケジュール! けど、必要なのも判ってる! そもそもアシュフォード家が誰に狙われるかも判んないし、前みたいに変なのに襲われたたら、戦うしかない。戦い方を教えてもらうのは当然。スカーレットは空間魔法で転移出来たらOK、みたいに言うけども、あれは私が自力で身を守れるように、という気遣いだということも理解してる。
だけど! それを正論パンチでぶった切られると面倒くさいんだよ!
「あんまし好きじゃないね。七歳なのにスケジュールが詰まりすぎだと思うし」
「リディアお嬢様は大人として扱うように、とご主人様と奥様からうかがっております」
「あー……そうなんだけどさー」
駄目だ。これは。何言っても無駄感。それにジャスミンってすごく真面目で、農場で作業する時も一秒たりともサボらない。私の方が不安になるくらいによく働く。テオの冗談にも正論パンチするので、テオも困ってるんだよね……。判る。判るよ。私なら突っ込み入れるんだけど、それより早くジャスミンが返しちゃうからね。
はー。と私はたびたびため息を吐くようになった。サトウキビの収穫から砂糖を作る時も、テオはあんまし喋らなくなってしまった。ああああ! テオが真面目になったら気持ち悪い! ポンコツなところはまだ残ってるんだけどさ!
ホレスのトコでもエミリア相手でもレベッカに対しても同じ。あ、ステラとは気が合うぽい。ダヨネー。あのカテキョもそういうとこあるし。ジャスミンは私のダンスもじーっと見ては感想を言うんだけど、ステラと同じこと言うし。
「どうしました。お嬢様」
「ストレスが溜まる……」
メイプルがついてくれた時、私は愚痴った。ていうか、いつも愚痴ってる。メイプルにしか言えないからなあ。他の使用人に言うと困るだろうし。
「ジャスミン、嫌いじゃないけどさあ……何かこう、付き合いにくい」
「そうですか。他のメイドをつけるという話もあったのですが」
「そうだよ! 色んなメイドを侍女にするって話だったのに! 何でジャスミン限定なんだよ! 他はどーした!」
寝起きだった私は布団からガバッと顔を上げてメイプルに訊ねた。朝のお茶をいれながら、メイプルが困ったような顔をする。
「ジャスミンが譲らないんですよ」
「は?」
「お嬢様の侍女は私以外いない! って」
「はー!?!?!?」
なんだそれは! どういう理屈だよ! 顎か外れるほどあんぐりと口を開けてると、メイプルが私の顎を支えて口を閉じさせた。
「他のメイドも立候補していたのですが、ジャスミンが絶対に駄目と」
「何で!?」
「え。お嬢様のファンだからですが」
それを聞いた私の思考が止まった。数秒くらいか。もっと長かったか。それくらい唖然としてから、私はメイプルのスカートをつかんで揺すった。
「ナニソレ! ファンならファンらしく普通に接してくれてもいいじゃん! ドSかよ!?」
「ど……えす、というのは判りませんが、真面目すぎるのはわかります」
どえす、にまた引っかかったらしいメイプルが顔を寄せてくる。違う! 食い物じゃない! と必死で抵抗して、私は改めて訊ねた。
「ファンっていうか、私のことを好きだというのは判った。でももうちょい緩くていいのでは」
「そうですか。では、ジャスミンに伝えれば大丈夫ですよ」
にこりと笑ったメイプルが言ったことが本当はどうか怪しい。もしかしたらメイプルの思い込みって可能性もあるし。次にジャスミンが来た時に言ってみようかな。