チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
実はあなたのことが好きだからいじめるんじゃないの? とかいう、子供の戯れ言みたいなことを真顔で言われ、困惑しているアラフィフ転生者の斉藤奈美恵です。ごきげんよう。未だにお子さんはそのようなことがあったりするのでしょうか。要するに好きな子イジメる現象ですが。転生前世界の私の息子娘にもそのようなことがあったりなかったりしたのかも知れませんが、残念ながら親の私には教えてくれませんでした。
って!
ファンだからってドS対応なの!? などとメイプルに散々突っ込みを入れた翌日。ジャスミンがあらわれた!
「あのさあ。ジャスミンってキツいと思うんだよ。だからもうちょい手加減してくれると嬉しいだが」
朝、私の部屋でお茶の支度をし始めたジャスミンに、ドキドキしながら言ってみた。メイプルが本人に言えって言ってたし。それまで優雅に茶を淹れていたジャスミンが、手を止めて、ガッ! とこっちを向いて目を見張る。
「自分は何か粗相を致しましたでしょうか!?」
「近い近い近い!」
「し、失礼しました」
いつの間にベッドに寄ってきたんだよ! という素早さだった。私が焦った声を上げた途端にジャスミンが大人しく引き下がる。こ、これはもしかして、ホントにメイプルの言ったことが正しかったのかも知れない。
「えーと、あの、正論パンチされるとキツいので、どーにかして欲しい。ずっとノリノリでも困るんだけど……その、もっと緩いというか?」
「なるほど!」
いつの間に出したのか判らんが、ジャスミンの手にはメモとペンがある。……もしかしてジャスミンって動きが速すぎて見えない? のかな?
「そーいえばジャスミンの得意技って」
「はっ! 諜報と暗殺であります!」
「思った通りだったー!!」
どうりで動きが見えないはずだよ! こっそりとかいつの間にかとか、そういうのが多分、染みついてるだと思う。しかも敬礼されたよ! 軍隊じゃないんだからさー!
「ええと、敬礼は要らんです」
「はっ、ええと、了解しました。ですが、自分はご主人様と奥様から侍女としての在り方を損なわないように、と厳命されております」
「……それ言うなら、メイプルなんか損ないまくりなんだが?」
私が半眼で言うと、ジャスミンがぽんと手を叩いて頷いた。
「メイプル先輩が問題なければ、自分が同じことをしても問題ないということでありますか!?」
「いやまあ、問題あっておかあさまに叱られるかもだけど」
「はっ! 自分はリディアお嬢様のためにお叱りをうけるのであれば、喜んで受け入れる所存であります!」
……こいつ、ドSじゃなくてドMだったのだろうか。しかも何!? 素は軍人系キャラなの!? 敬礼してるし! キラキラした目で言い放ったジャスミンを見て私はちょっと引きつった。そーいえば転生前世界日本でも、ミリっぽい感じのキャラが出てくるラノベとかを読んだりしてたなあ。私はそういうのは詳しくないけど、コッペパンを要求する! 的なアニメは観た覚えがある。あ、アニメといえばパンチラ……もとい、水着? だったか? がヒラヒラ見える感じで銃火器持って戦うのもあったなあ。あれはあれで面白かった。
しまった。話がまた逸れた。
とにかく、敬礼はやめろし、とジャスミンに言い聞かせた。どうやら私の命令待ちだったらしくて、これまでの態度は一変して随分と親しみやすく……まあ、親しみやすいというか、話しやすくは、なった。
「ジャスミン、次は乳しぼりだからー」
「はっ! 了解であります!」
「……だからフツーに喋って」
そんな感じのやり取りをしている。何か注意しても注意しても同じなので、私もある程度は諦めることにした。とは言っても、ジャスミンってアーサーとスカーレットの前では普通なんだよね! おのれ! 私にだけ特別対応……あれ!? そう言うと何だか良い感じに聞こえるけど、違うからね!?
「あれ? お嬢様、今日はこっちはお休みっすよね?」
私が命令したことでジャスミンが態度を変えたからか、テオも通常営業に戻った。……通常営業ってなんだろ。自分の考えなのに遠い目になってしまった。
「んー。乳しぼりしたからついでに来てみた。はい、差し入れ」
私は吸引しておいたカゴ入りカツサンドを放出し、テオに差し出した。するとテオがやったー!! とカゴを抱えてステップを踏む。何故かジャスミンが同じようにステップを踏んでる理由が判らんが。
「何でジャスミンまで小躍りする!?」
「はっ! リディアお嬢様がテオ先輩を見て、とても嬉しそうになさっていたからであります!」
「何でもかんでも真似すりゃいいってもんじゃねーし! 語尾にありますってつければいいと思うな!」
「はっ! 失礼しました!」
敬礼したジャスミンが私の橫に移動して大人しくなる。そんなことをしてる間に、テオが積み上がってる藁の上に腰掛け、さっそくカツサンドを口に入れる。
「は! これ、美味くなってるっす!」
「はっはっはー! ソースを開発したのだよ!」
私はここぞとばかりにドヤ顔をしてみた。実はトンカツにはソースが欲しいと思って、色々と試してみたんだよね。ソースの能書きを正しく覚えてなかったので、うろ覚えのものを吸引しては放出するってのを何度もやった。で、その度に味見をした。舌が馬鹿になる前にやめて、次の日にまた実験、というのを繰り返した結果!
出来たよ! 私の念願のソースが! お好みソースが!
……は? トンカツソース? あれって香辛料が利いてるから、あんまし好みじゃないんだよね。でもまあ、要るだろうと思ってそっちも一応、作った。
テオに渡したカツサンドには、キャベツの千切りとトンカツ、ソースが挟まれている。ほどよく味が馴染んでいるはずだ。それをかじりついたテオを見たジャスミンが、私にガッ! と寄ってくる。
「リディアお嬢様! 自分は聞いてないであります!」
「は!? ジャスミンが乳しぼりの時に食ったのがそれだよ!」
「なるほど! 自分は試食会に参加しておりませんので、違いが判らなかったようです」
あ、そうか。トンカツ祭の時、ジャスミンはいなかった気がするね。……ていうか、試食会て。トンカツ祭ってそう呼ばれてるんか。祭の後も私たちの食卓にトンカツは出てきたけど、まだ使用人の賄いにはなってないのかも知れない。豚肉の下処理とか部位とか考えると、気軽に賄いに出来ないだろうし。
「そうですか……あれが……」
テオがガツガツ食ってるかと思えば、私の橫にいるジャスミンが遠くを見つめて目をキラキラさせている。こ、こいつもまさかウマ飯スキーなの!? メイプルと同じ反応をする将来が見える!
「お嬢様! おかわりをくださいっす!」
「ねえよ!」
図々しくおかわりを要求したテオに言い返してから、私とジャスミンは農園から移動した。