チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
スパルタザビエル&ステラの教育は毎日地獄。ホントに地獄。転生前世界で塾にすら通ったことがない私は勉強とか訓練という文字は無縁だった。
なのに! 何だよ、これ!
「リディア様! また足が逆です!」
「何度目か!」
「それはこちらのセリフです! どうして社交ダンスだけが愉快なのですか!」
「愉快!? 愉快と言ったか!?」
私は踊りの練習をしている最中、ステラと言い合っていた。最初はステラも大人しか……まあ、厭味とかは連発してたけど、それでも遠慮してたんだな、と今は思う。だって今は遠慮ナシで私に文句つけてるし! ていうか、ザビエル化してない!? これ!
カセットデッキでカセットテープで音楽流してるとか、ステラがパンパン手を叩いて私にテンポとかリズムを教えてるんならいいけど! 生演奏をさせないでくれ! ホントに! 手を叩けばいいじゃん、と食いついた私に、ステラはさらっと、
「リディア様は罪悪感がある方がよろしいかと」
とか言いやがった! 確かに罪悪感があるから、早くしないととか、覚えないととか、思うよ!? だけどそれって、演奏してる方はどうなんだ!? 大丈夫か!? 怖くてそっち見れないんだけど!?
「それではお話になりません! 何故、2年……いえ、3年ですか。ずっと練習してらっしゃるのにお出来にならないのか判りません!」
「私だって知らないよ! 私的にはものすごく頑張ってるんだけど!?」
「最低でも一曲は習熟して頂かねば、わたくしのお給金がまた下がります!」
「本音はそこかよ!?」
そんなことを言ってる間にうっかり自分の足につまづいて転けそうになる。けど、その前に瞬時に動いたジャスミンが私を抱きとめた。
「リディアお嬢様、ご無事ですか!?」
「あ、うん……。カーペットの上でこけても大したことないから、その、全力で飛んでくるのは」
「大事に至ってからでは遅いのです! リディアお嬢様は何よりも大切であるが故に!」
ステラもジャスミンも、ホントにどこにでも突っ込みどころがあるので、私の頭の中は大忙しだ。ちょっと足がもつれてもジャスミンが飛んでくるし、ステラはやかましいし! なんだろ、もう拷問だよ、これ!
ダンス以外の教養とかそういうのは、私はとっくにクリアしている。その辺はステラも文句は言わない。むしろ何故か褒められる。気持ち悪い。多分、ステラは切り替えが早いんだと思う。でも私はそんな風にすぐに切り替えられんわ! さっきまでスパルタダンスをやらせてたのが、テキストの返答を見てさくっと褒める。どういう切り替えの早さなのかと小一時間。
今日もワルツは踊れませんでした。盆踊りは出来るのに何故だ。もしかして私の身体にはワルツとかそういうののリズム取りが欠落してるんか。あー、そういえば転生前にうちに遊びに来てた娘の友達に微妙な顔をされたことがあったわ。家事しながら私がフンフンと鼻歌を歌ってただけなんだけども。多分、あれはかなり突っ込みたかったんだろうな。微妙な顔をされた理由が転生した今頃判るとか、ホントないわー。
カテキョステラのスパルタ教育が終わった後、私は気晴らし……いや、これもスケジュールに組み込まれてるんだが、書庫に向かった。レベッカが笑顔で迎えてくれる。ああ、可愛いは癒し……。
「リディアお嬢様、本日はどのような本をお求めなのですか! 自分が取って参ります!」
「いや、待て、ジャスミン。レベッカと会話させてくれ」
「はっ!」
何度言っても聞かないので、ジャスミンが敬礼するのを止めるのは諦めた。何だろうね、この子。可愛いのに残念過ぎる。そんなやり取りをしているとレベッカがくすくすと笑って軽く首を傾げる。
これだよ! 可愛いはコレ!
と、全力で叫びたくなりつつも、私は大人しく課題の本を取ってもらった。ステラに言われた本を読むというのが日課になってるのである。ていっても、行儀作法とかそういう本が中心。私は転生前はアラフィフ(永遠)だったから、計算とか読み書きはさくっとクリアしてるんだよなあ……。そしてテーブルマナーも転生前世界とあんまし変わんないっぽいから、そこまで難しくはない。
それにしても土下座とか万歳三唱とかがある世界で行儀作法って。あれか。前世で言えば畳の歩き方とかか。縁を踏む踏まないみたいなのがあった希ガス。茶道とか華道的には色々あったぽいし。でもここって畳はないんだよなあ。和装も今のところ見たことない。だから今のところは転生前世界でいえば西洋風? みたいな教養ということになってるぽい。
っても、挨拶の仕方とかは転生前にラノベとかアニメとか漫画とかで見たもののままだったりするんだよね。スカートつまんでちょっと頭下げるとか。土下座まではいかんけども。あとはあれな。手を合わせて頂きます、とかはないぽい。まあ、あれも転生前世界日本の作法な気がするし。あ、もしかしたら他の国にもあったかもだけど判らん。
スカートの丈が年齢によって変わるらしいけど、私が作るとかじゃないから関係ない。お嬢様の言葉遣いは……今のところは自動翻訳機に頼りっぱなしだから、もし使えなくなったら大変なことになりそうだな、とは思う。けど、雲のイケメンはその辺のことは何も言ってなかったんだよなあ。自動翻訳機みたいのがあるなら最初に言って欲しかった。
それにチートはないと言ってたけど、アーサーとスカーレット、でもって使用人もチート級のスキルを持ってると思う。私の吸引からの放出も妙な魔法らしいから、ここにいる全員がチート、と言えなくもない。その中にいるのなら、どんな魔法でもチートじゃないという意味か? だとすると雲のイケメンの言ったことは正しいかも知れん。チートというのは不正行為とか言ってたし。
あ。考えてる間に読み終わった。一冊の内容が薄いんだよね。本は厚いんだけど。多分だけど低年齢の子が読む用の本だからだろうな。私は本を閉じて次の本を取ってもらった。ステラが読めって言った本は三冊。他も私はさくっと読み終えた。
……隣にべったりとジャスミンがくっついてるのが謎だが! 侍女の距離感が判んない! 助けてメイプル!