チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
みんなを凍らせた罰なのでしょうか。と、考えている、アラフィフ(永遠)主婦だったのに転生してこの世界にきた斉藤奈美恵です。何故、罰なのかといえば、またスカーレットに正座させられているからです。体育館のような形の空間魔法訓練場の床もやっぱり硬いので足が痛いです。
「どうして訓練していることが身につかず、訓練していないことが身につくのかしら?」
ちょっと眉間にしわを寄せたスカーレットが私を見下ろして言う。もう何度目か。
「ですから、おかあさま! 私は意図的にしてるわけじゃないです!」
「ジャスミン。貴女が密かにリディアに稽古をつけたのではなくて?」
ちらっとジャスミンを見つつ、スカーレットが言う。するとジャスミンが少し頭を下げて返答した。
「いいえ、奥様。わたしはリディア様には何も教えておりません」
こっ、この! 何でジャスミンは対スカーレットだとマトモに喋るのか! これはあれか!? 奥様と娘の私で差をつけてるとかか!? いや、理由は判ってるけどね! 前にメイプルに聞いた通り、ジャスミンは私のファン(狂信者)なんだろう。納得出来ないけどさ!
「リディア。もう一度、訊きます。貴女、本当に心当たりはなくて?」
「は、はい」
スカーレットにじと目で見られて私はどもりながら返事した。だってさ! 雲のイケメンのせいですとか! 転生したからですとか! そもそも吸引とかは掃除機のイメージだから出来るとか! そういう説明出来ないじゃんか!
「そうですか……」
ちょっと見は愁いを思わせる顔をしてスカーレットが呟く。ヤバい! こういう時のスカーレットは愁いとかじゃない! ブチキレてるのである!
「リディア。貴女、ダンスの訓練はどうなっていますの?」
「うっ。ま、まだ、合格できてません」
「空間魔法は?」
「ううっ、ま、まだです」
スカーレットがガチギレしてる! ヤバいヤバいヤバい! 私、逃げ場ない! 何しろジャスミンとザビエルだけじゃなくて、藁を敷いてくれてるメイドたちと、スカーレットの侍女に取り囲まれてるんである。
「では、明日からステラとザビエルに半日ずつ教わりなさい」
「いやあああああああああああああああ!!!」
やっぱりそうか! スカーレットの言ったことに私は悲鳴を上げた。判る! 判るよ! 出来ないからそれを集中的にやらせるっていうのは! 理屈では判るけど、判りたくない! ていうか、平たく言えば嫌だ!
「おかあさま! ひどいです!」
「ひどいのは貴女の訓練の結果が出ていないことです。特にダンスは数年も習っているはずですわよね? なのにダンスを習得出来ないどころか、ステラと常に喧嘩をしているそうですね?」
あー! くそステラ! やっぱチクってるし!
「ちっ、違うんです、おかあさま! ダンスは……そう! 三拍子は難しいんです! 盆踊りならいけます!」
「その、ぼんおどり、という踊りのことも、ステラから聞いていますよ。貴女の不思議な踊りは社交界ではとても通用しないと」
りでぃあは ふしぎなおどりをおどった!
とか、そういうイメージなの!? ステラ、覚えてろよ!
「それに貴女。海水はいいんですの?」
「はっ!」
そうだった! 私はにがりを求めている! 豆腐のために! でも空間魔法で転移できないと駄目と言われてるんだった! 訓練の時にいつもザビエルと罵倒しあってたから、目的をすっかり忘れてたわ! 私は手をぎゅっと握って力説した。
「海水は欲しいです! 絶対に!」
「では、訓練時間の変更に問題はありませんわね」
「え!? 嫌です!」
思わず素で嫌がってしまった。するとスカーレットの目がギラリと光った……ような気がする。
「貴女に拒否権はありません」
「いーやー!!! すみません、おかあさま! 訓練はしますけど、他のこともしたいんです! 子供にこのハードスケジュールはどうよ!? とか言いませんから!」
「……貴女、そんなことを思っていましたの?」
「はっ!」
スカーレットの突っ込みに思わず息を飲む。しまった。ついつい本音が漏れてしまった。ヤバい!
「いえっ、その、時間割が学校みたいでアレだなー、とか、6時間目じゃなくて7時間目とか8時間目の授業枠があるのはどうかなーとか! そんな風に思っただけです!」
転生前の小学校から高校までの時間割を思い出して、私は必死で喚いた。転生前世界日本で私が学校に通ってた頃は、土曜日も授業があった。昼までだから半ドンって言い方してたけど。高校までそれだったから、長くても6時間目までしか授業はなかった。
ところがある時から土曜日が休みになった。すると授業時間が増えた。7時間目とか、下手すると8時間目とかあったのだ。私は卒業してたから、関係あったのは私の息子娘だけども。
最初はマシだったんだよ? 月に1日とかだったから。それでもちょっと授業時間は減る。しかもどんどん土曜日が休みになって授業時間が減るにつれて、息子娘の時は7時間目、8時間目まで授業があることが多くなった。アレはちょっといかがなものかと小一時間だったんだよね……。
って、は! そんな場合じゃなかった!
「学校……は判りますが、6時間、め? ですの?」
「あっ、えっと、つまり、時間詰め詰めスケジュールのことです!」
スカーレットの反応から、この世界ではどうやらイミフなことを言ってしまったらしいと気付いて、私は慌てて言い直した……けど、言ってることは変わらんよな! だよね!
「そういえばリディアは学校に行ったことがありませんわね。行きたいんですの?」
「いえ! 全力でお断りします! めんどくさいです!」
私は即答した。お弁当作るとか色々考えると、正直、めんど……あれ? この世界、しかもお嬢様だから弁当は誰かが作るとか……あれ? 待って。もしかして学校に食堂がああったりする? 転生前にそういうのを見たことがある。どのラノベだったかな。アニメか? 漫画? そういうのがあった気が……って、違うううう!!
スカーレットがため息を吐いて額に指を当てる。はー……何とかこの場はしのげたか……。私もスカーレットの仕草を何となく覚えてるから、それだけは判った。
「嫌がることを強制しても仕方ありませんわね。ですが、訓練は先ほど言った通りにするのですよ」
「嫌だああ!」
叫ぶ私を無視してスカーレットが去る。それと同時に私を取り囲んでいたメイドたちもばらけた。
あああ、私のウマ飯ライフの時間が削られた!