チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
……元アラフィフ主婦の斉藤奈美恵です。死んでから転生しました。死んだ目(多分)で毎日毎日毎日毎日、ダンスと空間魔法の訓練を続けました。ウマ飯は食卓に出てきますが、それまで他のことが出来ていた日々が遠く感じられます。
そう! 遠い! 私はもう8歳である! もうすぐ9歳!
2年だよ、2年! ないわー!!
「まあ、いいでしょう。この程度に踊れれば社交界で恥をかくことはない……ギリギリですが。さすがにこれ以上の訓練を行うと、リディア様が憔悴して倒れそうですので」
ステラが厭味をこめて言い放ったけど、私には突っ込む気力も残ってなかった。床にひれ伏しているっていうか、私は訓練が終わって倒れてしまった。バタンキューである。
2年の間に侍女は何度か入れ替わった。でもメイプルとジャスミンしか覚えらんない。超訓練が始まってからは、覚える余裕がなくなってしまった。いや、突っ込み入れる暇もないし! 定期的に入れ替わってたぽいけど、疲れてベッドに倒れ込むように寝てるから、余裕もへったくれもない! だから覚える隙もなかった。それに正直、メイプルとかジャスミンみたいに特徴らしいものがねーのである。
でもって、ザビエルは粘りに粘ってたんだけど、ちょうどステラから合格をもらった辺りで折れた。
「はー。リディア様は何度やってもどうしてもこーなるのですな。これではわたしには何も教えられません。はっきり言って論外……もとい、想定外です」
「えう、文句、いうな」
私は藁に突っ込む形で倒れたまま言い返した。
空間魔法は使えるようになった。ただし、私がやったのはフツーじゃない方法らしい。最初はコンテナサイズだったのを変えて、空気を通せる箱を作ることは出来た。頑丈な箱からそうでない箱まで、自由自在に作れるようにはなった。でも吸引と放出とかを使ってるから、誰にも真似が出来ないと言われた。
でもって問題は転移と浮遊である。転移は先に目標を決めて、空気を吸引してから自分をぶっ飛ばす、というイメージでやってみた。ものすげえスピードだからか、その方法で空間を越えられるようにはなった。ただし、下手すれば壁に突っ込んだりするけど。目標を上手く定められないと、海にも落ちるかも知んない。
浮遊は最初は箱を何個も作って、飛び石みたいにジャンプしてみた。それは違う、とザビエルに突っ込まれたけど知るか! 出来てんだからいいだろ! 浮いてればいいんだから! と、何度も喧嘩になった。
仕方ないから私は自分の周囲に空気の膜みたいのを放出し続けることにした。このやり方で飛べるようになったので、もーまんたい! と思ったけど、ザビエルの言う通りの方法じゃない。これも私にしか出来ないと言われた。まあ、判る。吸引と放出が出来ないと無理ぽいし。
それに吸引から合成、増幅、畳むとかを入れて放出すると、ものすごい高く飛べたりする。試しにそれをやった時はザビエルが悲鳴を上げて、私は一気に雲の上まで飛んでしまって慌てた。転移して地面に戻れば良かったんだろうけど、私が不器用だからか、浮遊と転移が同時に出来ないんだよなあ……。
仕方ないので、私は逆の手順で急降下した。発狂してるんか? という悲鳴を上げたザビエルが急降下した私を柔らかくした結界で受けとめた。ちなみにその時、メイド全員が叫んでたので、かなりの無茶をしたんだと思う。いや。さすがに地面に激突する前に止めるつもりだったんだが? とか言ったら、ザビエルにブチギレられた。知らんがな!
あれだよ。転生前世界でいえばエアカー? ほら、SFに出てくるじゃん。空気で浮くヤツ。それかドローンかな。あ、でもドローンはプロペラで浮くぽいから違う……? あ、イメージとしてはあれかな? アニメであったじゃん。飛びながらアクロバットしつつ、色付きの煙を出すヤツ。マク□スFだったかな。あれみたいな感じなのかなあ。そいえばあれ、高速で飛んでる時ってどーやって息してんだろ。アニメは面白かったからいいけどさ。
話が逸れた。いかんね。永遠のアラフィフにもなると、話がそれまく……は!? アラ還!? 9歳近いから……えーと、アラ還の次は何だっけ。まあいい! 私はアラフィフだから! さっさと話を戻そう!
私の場合、飛んでる間は空気の膜で覆われてるから、呼吸はフツーに出来る。アクロバット飛行も可能。酔わない程度なら、だけど。転生前にやってたゲームで3D酔いすることあったんだよなあ……。でも自分で飛んでる時はそこまで酷くはならない。無茶苦茶に飛ぶとアレだが。
まあいいや! なにはともあれ、飛べるようになったんだから! 速すぎてザビエルはついてこれないらしいけど!
そしてステラとザビエルから合格をもぎ取った私は、しばらく放心状態になってしまった。気が抜けたんだと思う。ベッドで橫になってる日が続いた。ウマ飯への欲求はあるんだけど、身体と精神がついてきてくんない。やっと解放されたのに! 大豆! 豆腐! 醤油! 味噌! あ、味噌カツもいいな!
「お嬢様。ものすごい顔してますけど、大丈夫ですか」
ベッドの近くにいたメイプルが小声で言う。すごい顔って何だよ。あ、必死で考えてたからか! でもものすごいってどういう表現か!
「失礼極まりない表現に涙がちょちょぎれそうだ」
やっと突っ込む気力は戻ってきたらしい。でも声は掠れてるし、身体はあんまし動かない。やっぱ年単位での特訓って無茶だったと思うよ!? さすがに心配したのか、アーサーとスカーレットがちょいちょい様子を見に来るけど。来ても遅いんだよ! まあ、出来るようになったからいいけど!
実は9歳くらいになったら社交界でおひろめ? みたいな? ことがあるっぽい。断固として拒否である。わざわざ王都でやるらしいし。嫌だよ! めんどくさい匂いがぷんぷんだし! 転生前世界日本のラノベとかアニメとか漫画とかでは定番ではあったけど! 何だっけか。デビュタント? とか言うやつか? 嫌な予感しかしない! それよかウマ飯の探求する方がいい! 私のにがりを邪魔するな! である!