チートがチートじゃない世界に転生したらしい 作:よしほ
海水を吸引することにしたけども、どのくらいの量を吸引すればいいのかよく判らない。にがりを作るのにどんだけ海水がいるのか、私は知らないのだ。ま、いっか。ということで、深く考えずに私は崖下の海水を吸引した。
……海水を吸引しただけのつもりが、ついでとばかりに海産物も一緒に吸引したのは誤算だった。OH...。海水に色んな魚とか貝とかが混ざってる! これをどう処理しようか、と迷ったのは一瞬だった。私はお茶用のテーブルの橫に作業用のテーブルを放出した。調理用台ともいう。ついでにまな板とか包丁とか七輪とかを出す。……実は七輪はメイプルとテオにしか見せてない。他の使用人とかアーサー&スカーレットに見せると、色々とめんどくさいことになりそうだったから!
色々出したものを見て悟ったのか、慌てたメイプルが台の前につき、木箱をテオが支える。それを確認してから、私はちょっとだけ海産物をその中に放出した。
「ばーん!」
心底、呪文が欲しいんだけど、もういい。ということで、最近はこういう感じで放出している。木箱には色んな魚と貝が入った。意識してなかったけど、海水をちょっと遠くから吸引したからか、タイとかカツオが入ってる。ちょっとした投網になった気分である!
「おおー! さすがお嬢様っす! 鮮度もばっちり! 超美味そうっすね!」
「さすがはお嬢様! 素晴らしいです!」
……うん、二人とも感心してるのは判るけどね!? 三人旅で慣れっこになってるのか、さっさと調理が始まった。くっ。嬉しいけど微妙な気分だよ! 特にテオ! 貝は砂抜きしないと駄目っすかねー、とか呑気に言うんじゃない! ちなみに二枚貝だから、砂抜きはいるとは思うよ!? 思うけどさ!
テオの主張と同意したメイプルに圧をかけられた私は、仕方なく金属製の箱を放出した。木箱だと海水が漏れるからなあ。樽ならいいんだけど……コップ型とかになるし、こっちのが早いと思う。でもこんなことなら、厨房で借りてくれば良かったよ! 基本、調理器具とか調味料は布袋やガラス瓶に入ってるし! ガラスの瓶も小さいから砂抜きには向かない気もするし!
判ってる、判ってるんだよ!? 頭では! けど、ルンルンと調理するメイプルと、ルンルンと貝を金属箱に入れていくテオに突っ込みを入れたくて仕方ない!
「メイプル! それは大きいからさばく! 三枚おろし!」
「さん……まい? えっ、どういう……」
「こうだよ!」
どうせメイプルは包丁を持たせてくんないと思って、私は周囲の風をちょっと吸引してから、微調整しつつ風を放出した。メイプルが尾を持ってぶら下げてた魚が見事に三枚おろしになる。
「え!? 何ですか、これ!」
「七輪で焼くにはでかすぎるから! 串はこれ!」
今度は某白ポケットに入ってた木を合成してから放出する。よーするに長い竹串もどきだ。竹があれば使ったんだけど、この辺って竹がないんだよね……。
「テオ! それは内臓とって! 包丁使えないなら風の魔法を使えばいいと思うけど、出来ないならメイプルに頼んで!」
「判ったっす!」
……しまった。突っ込みを入れるつもりだったのに、指示出ししてしまった……。美味い魚を食べたい欲求に負けた。
他にも焚火を作ったり(丁度いい感じに切った木を乾燥させて放出した)、石を合成した(レンガ)のを積んだりした。何で私が!? とも思ったけど、二人ともでかい魚の焼き方を知らんのよ! 調理専門のスティーブンを連れてくれば良かったかもだけども! 今はアーサーとスカーレットの食事とか、賄いの準備とかで忙しいだろうし! 連れ出すのは無理過ぎる!
結局、魚であれこれ作って、ついでにご飯も炊いて私たちは食事をすることにした。普段は一緒にテーブルについてくんないメイプルも、出先の食事では一緒に食べてくれる。それがちょっとした私の楽しみでもある。
「美味いっす!」
「本当に! とても美味しいです! 出先で食べた小魚とは違う味で!」
塩焼きをフォークでつつきながらテオとメイプルが同時に言う。はっはっはー! そうだろうそうだろう! しかもご飯も一緒に食べてるから、きっと美味しいのだと思う。私も頂こう! 白飯に海の魚は最高である!
魚にかぶりついて私は美味しさに感動した。……が! ここに醤油があれば! と願わずにはいられない。でも我慢! 他にも作りたいものがあるし、いきなり醤油はハードルが高い気がするんだよ。まずは豆腐からみんなの味覚を慣らして……いや。洋食というか、中世ヨーロッパ的な食事もいいんだよ。でも私は出来れば和食も欲しい!
そして私たちはアラ汁もどきも食べた。三枚おろしにしたからアラがあるし、折角だからと私が指示出しして作ってもらったのだ。最初はおっかなびっくりだったメイプルも、作ってる間に慣れて、味見したら感動してたからOKPK。あ、アラ汁っても、私が教えたのは本格的な作り方のものじゃないと思う。新鮮な魚を鍋に叩き込み、水でちょっと煮て、アクを取って塩味つけただけだから。味噌とかないしね!
あ゛ー。醤油と味噌が欲しい。即席なんちゃってアラ汁は美味しいんだけどさ! 他の味も欲しくなるよ! 私が難しい顔で考えてたからか、うまうまと食っていたメイプルが不思議そうに訊ねる
「あの、お嬢様? 味付けに問題が……?」
「いや、違う違う。美味しいよ、うん」
「そっすねー。微妙な顔してるっすね。なんかあるとか?」
テオ。珍しく敏感というか細かいことに気付いたな、おい! 余計な時に!
「うーん。海水ゲットできたから、後でいろいろするよ。その時に言う」
「えっ!? また美味い飯っすか!?」
「美味しいんですか!?」
「何でこういうのは食いつきがいいんだよ!」
アシュフォード家は主一家も使用人もウマ飯スキーなんだよなあ。でもこのままだと島独自食文化になるやも、と若干不安にもなった。そのことをアーサーとスカーレットにこっそり話したら、気にする必要はないと言われた。むしろその方が良いらしい。え、とびっくりしたら、
「ここの特別なお食事となれば都合がいいのですよ」
「そうだぞ! リディア! 遠慮なくやってくれて問題ない! というか美味いのはいいことだ!」
とか言われたのだ。あー……これもしかして、レシピを秘密にしたまま、料理をこっそり持ってってるやつだ。と、私でもさすがに気付いた。どこに持ってってるかは知らんけど!
食事をしたら私は他の魚介類を吸引した。もちろん貴重な昆布も吸引した。これは持って帰るから放出はしない。ワカメも同じ。乾燥は後でも出来るから問題ナッシング。あと、残ったカツオも吸引した。ホントは鰹のたたきとか食べたいけどさー。醤油とかないんだもん。すだち代わりのレモンはあるんだけど……。要するにここにはポン酢醤油がない。他の調味料で食べてもいいかもだが、私はポン酢醤油派である!
そんなことをぐるぐる考えてたから気付かなかった。いつの間にかメイプルとテオが私に迫ってる。
「近い近い近い!」
二人を慌てて押しのける。なにごと!?
「作った時じゃなくて、先に教えて欲しいのですが!」
「俺も興味あるっす!」
「先に教えてもらえるのが私たちの特権だと思うのです!」
「ですです!」
二人が交互にそんなことを言う。あー! 何でウキウキとついてきたか判ったよ! よーするに飯狙いか! 転移魔法とか護衛とかもあるけど、使用人の間で私の付き添い権を取り合いしてた理由はこれか!
「あーあーあー! 現物がないと説明出来ないの! とにかく、今日は小屋で一泊! そろそろ日が落ちてきたし、とっとと火の始末とかして! あと、小屋には暖炉は要らないから、放出しないからね!」
三人で島の外に出た時は寒いと感じることが多かったけど、島内は関係ない。むしろ年中、過ごしやすいので室内の温度を調整する必要がないのだ。夜は多少、冷えるけど毛布を被れば問題ない。
私は二人を急かして周りを片付けた後、小屋を放出した。……この小屋、前に三人で島の外に出た時から使ってるんだけど、ずっと某白ポケットの中にあるんだよね……。他のところで使う機会があるんだろーか。とか思いつつ、私は二人を小屋に押し込んだ。まだブツブツ言ってるメイプルとテオを大人しくさせるために、私は仕方なくフランスパンサンドを一本ずつ投げつけた。