ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第79話 すーぱーどらごーん!

 初めてのダンジョン配信で幸運にも (?)ユニークボスを引いてしまった俺は、緩んでいた気を引き締めてひとまず参号を再召喚した。

 

 巨大な白い人魂のような見た目をした四彩精霊王改め八彩精霊王は、周囲に浮かんだ8体の大精霊から四方八方に無数の精霊魔法攻撃を放ち始める。

 さしずめ、3D弾幕シューティングってところか。

 

 赤い人魂が発射する火力の高い炎の弾丸、黄色い人魂がばら撒くスタン効果を持つ雷の球、青い人魂が放つ一発一発の威力は低いが数が多い氷のつぶて、茶色い人魂が時折放つ物理攻撃の特性を併せ持った岩の砲弾――ここまでは四彩精霊王と同様。

 

 更にここから追加された聖霊らしき白い人魂が白い米粒弾を乱雑に連射し、闇霊らしき黒い人魂が暗黒魔法の大粒弾を放っている。

 緑の人魂は恐らく植物魔法、種子に当たると成長した根っこで拘束されるはず。

 紫の人魂はきっと呪詛魔法、デバフを与える呪いの魔弾には当たりたくないな。

 

「ユニークボスは黄金大蛇同様、体力を削り切らない限りは無限に再生するはずだ! 壱号は圧を減らす為に俺から距離を取って回避に専念! 弐号はとにかく俺を守れ! 参号は隙を見て突撃!」

 

 大盾持ちの零号が速攻で岩の砲弾に胸の中心を貫かれて消滅していくのを横目に、俺は人形達へと矢継ぎ早に指示を出した。

 

「了解しました、マスター!」

「【魔法耐性】があるとはいえ、【治癒魔法】で耐えられる時間は僅かだ! 私の魔力が尽きる前に再召喚を願いたい!」

 

 俺はポーションベルトに提げていた肆号の留め具を外し、人形師の外套の下に着ている防弾ベストに吊って懐の内側に隠した。

 流れ弾を貰って【情報共有】の撮影が途切れる事態は避けたい。

 

「だんまくなんてしったことではないのだー!」

 

 蛇腹尻尾のバネで高く飛び上がって空中から接近を図った参号は、精霊魔法の集中攻撃を食らってあっという間に蒸発した。

 再召喚された参号は俺の後ろに隠れて呟く。

 

「サンはかみそうこうだからきびしいのだ……」

 

 やっぱり楽はさせて貰えないみたいだ。

 四彩精霊王の攻略法は分かっているから、そっちの線で攻めるのがベストだろう。

 

 俺は弾幕の隙を見て――岩砲弾とデバフ弾以外は魔力と耐久が高い俺には効かないので無視――弐号を送還、魔力を補充して再召喚する。

 

「参号、ポーション投げよろしく」

「やってみるのだ」

 

 弐号が再び盾として耐えている間に、ストレージを開いて取り出したアイテム結晶を5個ばかり参号に渡す。

 やることないなら魔力回復ポーションをぶっかける役割を与えよう。

 

「頼むぜ、フレア……!」

 

 俺は【霊神の偏愛】を使って周囲に4体の炎精霊フレアを浮かべ、巨大な白い人魂の周囲を周回している色とりどりの人魂に狙いを定めて炎槍を連射した。

 参号に渡した全ての魔力回復ポーションを使い切るまでとにかく撃つ。

 

「うっし、4体は落とせた! 今のうちに行け、【炎属性付与(エンチャントフレア)】!」

「こんどこそぶっとばすのだー!」

 

 弾幕が薄れたタイミングで参号を突っ込ませる。

 蛇腹尻尾ジャンプだと空中で回避ができなかったので今度は走っていくようだ。

 何発か回避し損ねて被弾しつつも、ロリロリドラ娘はなんとかボスの近くに到達。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 強烈な爆風がボス部屋の中を駆け抜け、炎の弾丸を除いた全ての弾幕が途切れた。

 しかし煙が晴れる間もなく、八彩精霊王の弾幕攻撃は再開される。

 倒してからまだ30秒も経っていないぞ、眷属が再召喚されるの早過ぎない?

 

「まだまだ削り足りないか。この分だと魔力回復ポーションをバザーで仕入れ直す必要があるだろうな……」

 

 その為の魔結晶貯金だ。

 先ほどと同様の精霊魔法攻撃と並行して、メニュー画面のバザーから性能順にソートした魔力回復ポーション入りのアイテム結晶を探す。

 

 どうやらアンチの愉快犯が妨害工作を始めたらしく、八王子ダンジョンのバザーに出品されている魔力回復ポーションがどんどん売り切れに変わっていく。

 その代わりに出品されているのは相場の何百倍もの値付けがされたゴミみたいな回復量の魔力回復ポーションばかりだ。

 

「買い占めで潰せると思ったか? フレンドから直接仕入れるに決まってるじゃん」

 

 攻略クラン【クレセントムーン】の探索を支援する三日月プロダクションのサポート体制は万全だ。

 俺はフレンド限定出品されている魔力回復ポーションを纏めて購入し、ストレージから取り出したアイテム結晶を背後の参号に手渡した。

 

「あるじあるじ、そろそろじばくしてもいいか?」

「青と白が落ちたらな――よし、行け!」

「うおー!」

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 そのルーチンを10回ほど繰り返した後、急に八彩精霊王の弾幕攻撃が停止した。

 周りを周回していた色とりどりの人魂が巨大な白い人魂の中に吸い込まれ、本体がカラフルな虹色に染まっていく。

 

「け、形態変化……」

 

 ユニークボスは体力を削っただけで倒せるほど楽な相手ではないらしい。

 離れた場所にいた壱号が俺の方に駆け寄りながら、大きな声で注意を呼び掛ける。

 

「どんな攻撃がくるか分かりません! 警戒してください、マスター!」

「警戒ったってな……」

 

 いつでも回避できるよう身構えるくらいしかできることはないぞ。

 とりあえず核に【炎属性付与(エンチャントフレア)】した参号を突っ込ませてみるか。

 

 八彩精霊王の名前に相応しい巨大なレインボー人魂は、ある程度接近したところでロリロリドラ娘にピッとレインボー光線を放った。

 案の定、参号はジュッと音を立てて蒸発する。

 

「やっべー、どうしようこれ……」

 

 どうも相手は守りに入っているらしく、近付かなければ攻撃してくる気配はない。

 それでもいつ行動が変化するかまでは誰にも分からないので、視界から外さないよう注意しつつみんなで対抗策がないか相談する。

 

「精霊魔法で遠距離から攻撃するのはどうでしょう」

 

 どの属性攻撃も直撃するより先にレインボー光線で迎撃された。

 4体の炎精霊で連打しても同様だったので、範囲攻撃がないと厳しそう。

 

「私が【魔の指先】でヘイトを取っている間に接近するのがいいと思うぞ!」

 

 弐号が【魔の指先】を使った瞬間、攻撃範囲外にいたにも関わらずレインボー光線が飛んできて蒸発した。

 初見殺しのトラップ過ぎる……。

 

「ぞんびあたっくしかないのだ」

 

 魔力回復ポーションが勿体ないので却下。

 

「うーん、いっぺん範囲攻撃を試してみたいけど【属性魔法】付きの装備は持ってないんだよな。今から三日月プロの人に装備結晶を仕入れてきて貰うか……」

 

『ピピピ、[耐性付与を試してみるのはどうでしょうか?]』

 

 業務連絡を送ってバザーに装備結晶がフレンド限定出品されるのを待っていると、視聴者からそのような提案を受けたので試してみることにする。

 

 いつものように参号の核に【炎属性付与(エンチャントフレア)】しつつ、ボディに追加で【冷気耐性付与(エンチャントフレア)】、【熱耐性付与(エンチャントアクア)】、【雷耐性付与(エンチャントシルフ)】。

 

「おお、思いのほか格好いいな」

 

 火・水・風の三属性耐性を付与されたロリロリドラ娘は全身から赤と青と黄色の入り混じった派手なオーラを放ちながら、ボス部屋の中心でふわふわと浮遊するレインボー人魂へと突撃した。

 

「すーぱーどらごーん!」

 

 ピッと放たれたレインボー光線は果たして、すーぱーどらごんの纏った三原色オーラに弾き返される。

 すーぱーどらごんは蛇腹尻尾でジャンプしてレインボー人魂の中に突っ込み――。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 間もなく懐の中から「テテテテーン♪」という肆号がレベルアップする音が響く。

 

「か、勝った……?」

「やりましたね、マスター」

「知恵と勇気の勝利だ!」

 

 懐に隠していた肆号を腰の定位置に戻しつつ今回の功労者たる参号を再召喚すると、ロリロリドラ娘は握り込んだ両こぶしを上に突き上げて叫んだ。

 

「すーぱーどらごーん!」

 

 一時はどうなることかと思ったが、なんとか打開することに成功したな。

 

「いやー、よかったよかった。これデカいケツですね」

 

『ピピピ、[早くドロップアイテム見せろカス]』

 

「あーはいはい。分かってるって」

 

 俺はストレージを開いて一番下までスクロールする。

 えーと、なになに……。

 

八彩(はちさい)精霊王の紋章【四霊召喚】【魔法の腕】……だと……」

 

 【魔法の腕】は後衛物理職の【念術士】が習得できる固有スキルだ。

 その効果は武器装備枠が+2されるというもので、【重戦士】の【重装備】――防具枠+3の効果を持つ――の劣化版として扱われていた。

 

 【念術士】自体はホモ・サピエンスがサイコキネシスを扱えない種族なせいで探索者界隈ではハズレ職業の一つに分類されている。

 覚醒スキルの【霊神の頭脳】を取得することで念力を使えるようにはなるけど、脳みそが茹で上がるような修行が普通に辛いんで探索者として活動している人は稀だ。

 

 ユニーク神器に職業限定の固有スキルが付与されている事例は幾つも確認されているが……これだけでお釣りが出るレベルの大当たりじゃねぇか。

 考えてみろ、第二職業補正込みで武器枠+4だぞ、+4。

 ダブルスキル付きのアクセ型片手武器でステ強化系スキルを盛り放題だ。

 

「どこの国の探索者が隠し持っていたかは知らんが、ありがたく使わせて貰うぜ」

 

 ストレージから取り出してみると、こぶし大の透明な結晶の中には召喚陣によく似た意匠の紋章の画像が浮かんでいた。

 現実化(リアライズ)すると同時に、俺の右手の甲に同様の紋章が刻み込まれる。

 

「んじゃ、早速ユニークスキルを試してみよう。【四霊召喚】!」

 

 すると俺の周囲に赤、青、黄、茶色の人魂が浮かび上がった。

 

「【精霊使い】と同様、四属性の精霊を召喚できるようになるスキルのようですね」

 

 【属性付与】ができない他の魔法職だと普通に属性魔法の杖でいいやつだこれ。

 せいぜい【巫女】で【霊神の恩寵】の一定時間魔力無限バフを使った時にDPSの底上げができるくらいか。

 

「どうもリキャスト時間はないっぽい。追加された4つの召喚枠を【霊神の偏愛】で大精霊に回して運用するのが基本か。耐性付与前提のユニークボスといい、【精霊使い】専用のユニークスキルとして設計されている感じかな」

 

 一通りユニークスキルの検証作業が終わったところで、俺は人形達――ちゃんと零号も召喚した――を周囲に集めて視聴者に向けた配信終わりの挨拶を始める。

 

「えー……そういうことで、今回はユニークボスの八彩(はちさい)精霊王を討伐してみました。こういう風にユニークボスが出現する可能性も決してゼロではないので、視聴者の皆さんも60層以降のボスモンスターに挑む時はしっかりとした準備をしておくことをお勧めします。そんじゃ、腹減ったんで俺はこの辺で失礼させて貰うわ。バイナラー」

「ばいならなのだー」

 

 カメラ目線で手を振り、肆号に念じて【情報共有】を打ち切った。

 

『ピピピ、配信を終了しました』

 

 緊張で強張(こわば)っていた肩の力を抜いた俺は、人形達を見回す。

 回避に専念して被弾ゼロだった壱号はともかく、魔法攻撃を受けまくっていた弐号の鎧装備は結構痛んでいるようだ。

 家に帰ったら萌にしっかりメンテナンスして貰わないとな。

 

「いやー、大変だったね。まさかいきなりユニークボスを引くとは思わなかったわ」

「一時はどうなることかと……。八王子ダンジョン、次のマップ更新まで1ヵ月くらいありましたよね?」

 

 もしも打開策が見つからなかった場合は、1ヵ月くらい焼肉食いながらにらめっこする羽目になるところだった。

 

 いや、待てよ……?

 

 あのボスが体力回復目的で閉じこもっていて、放っておいたらHP全快して再び弾幕攻撃をしてきた可能性も考えられる。

 その場合、確実にジリ貧で詰んでいた。

 

 これじゃ、撮れ高を気にして大失敗した【いけず石】のことを笑えないな。

 安全を期して、190層のボスに挑む時はちゃんとマップ更新直前にしておいた方がよさそうだ。

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