200層のフィールドは荒野と休火山で構成された単一のマップだ。
100層の時と同じく、101層から199層までのマップで出現した全ての雑魚モンスターがランダムにポップする高難易度エリア。
俺達を乗せて石室を飛び出した蒼い【
「フィールドのモンスターはアニカオニカさんに任せます。ヒロシさんは【人形召喚】を駆使して取りこぼしを。スタリオンが接敵する前に全て潰すつもりですが、失敗した場合はアーサーさんが対処してください」
コックピット上の箱型搭乗部に乗っている司令塔のレンは、【魔神の手品】によって虚空から取り出した古い軍用ボルトアクションライフルを手に俺達へ指示を出す。
『その時はこの聖剣カリバーンでぶった斬ってやろう』
【森神の伝心】で【
コックピット下の腰部に掴まっている俺は【
スタリオンの左腰に納まっている刃渡り4mの長剣、そして俺の背中にへばりついている参号の蛇尻尾と核にも【
後は壱号を召喚した際に大鎌へ【
『そうら、やってきたぞ!』
コックピット上の箱型搭乗部でレンの隣に立つアニカオニカは下の両手で手すりに掴まりながら上の左手で腰から
「「インドラの雷よ!」」
見る間に収束して放たれた二筋の
二つの職業とステータスを共有している特別なシャム双生児のアニカオニカだからこそできるダブルキャストだ。
【魔法士】の職業に由来する【風属性強化】が2積み、神器の
これを無防備に受けてしまえば、魔力と耐久に特化した第二職業持ちの俺でさえ一撃で蒸発するだろう。
ま、ダンジョン内はフレンドリーファイア無効の優しい設定だから大丈夫だ。
「魔力回復ポーションの在庫は十分あります。どんどん撃ってください」
レンは虚空から取り出した魔力回復ポーションをアニカオニカにぶっ掛けた。
【魔神の手品】は非常に便利だが、【裁判官】からデバフスキルの【霊神の判決】を受けるとアイテムボックスの中身をばら撒いてしまう。
だから彼女は今回、ギリギリのタイミングで合流するしかなかったわけだ。
『音と光に惹かれて周囲に湧いていたモンスターが集まってきたようだ。山に登る前にあらかた狩って数を減らすとしよう』
人類最強の魔法アタッカーと呼ばれているアニカオニカの火力はとんでもなく、俺達の出番はまったくと言っていいほどない。
【火属性強化】の2つ付与された小弓だの、【土属性強化】の2つ付与された矢だのを持ち「シヴァの怒りよ!」などと叫ぶだけで焼けた大岩がメテオのように降り注ぎ、地を這う雑魚モンスターはことごとく魔素となり消滅していく。
「さんのじばく……」
「落ち込まない、落ち込まない。ボス戦ではちゃんと出番があるからね」
これでもまだ手加減しているってんだから末恐ろしいものだ。
イカれた火力の魔法アタッカーがあらかた周辺の雑魚モンスターを片付けたものの、流石に道も整備されていない山をタイヤで走ることはできない。
滑落の危険がない安全なルートは分かっているから、先日アーサー達とリハーサルした時のように山の周囲を回るように【
「上から電甲団子虫の群れが転がってきます! 退避してください!」
「こんどこそサンの――」
「「ヴァルナの水よ!」」
【水属性強化】の2つ付与された蛇縄を持ったアニカオニカが槍先から魔法を放つと、電鋼団子虫くんは永久凍土に閉じ込められて山のオブジェと化した。
しかし、その内の1体だけは止まらない。
いやむしろ、冷気を纏って強化されていないか?
「凍鋼団子虫が混じってやがる……!」
大きな影が【
まさしく絶体絶命。
『
アーサーは【
そして燃える長剣を抜刀し、目前に居た8m級の岩窟大蜥蜴をぶった斬る。
「行け、参号!」
俺の指示を受けた参号が飛び出し、傾斜を削りながら崖下へ転がっていく凍鋼団子虫くんを追い掛けていく。
「とびっきりのじばくをくらえー!」
谷底にぶつかって丸まりを解除した凍鋼団子虫くんが見せた金属質な腹に、上から降ってきたロリロリドラ娘が頭から突貫し【自爆】を発動した。
ドゴォォォォォン!!!
範囲は狭いがアニカオニカの合成魔法に負けず劣らずな超火力を出した参号の【自爆】攻撃で急所を抉られた凍鋼団子虫くんが虹色の魔素となり消滅していく。
どうやら誰かにスキル付きの装備結晶がドロップしたようだ。
「【人形召喚】参号。ナイス【自爆】」
「サンはしっかりしごとをしたのだ。もっとほめろ」
「崖が崩落したらコトだから、あんまり無茶はするんじゃないぞ」
そんなトラブルがありつつも、2時間ほどで俺達は山頂まで辿り着いた。
カルデラの底にまるで神殿のように存在する巨大な石室を見て、アニカオニカは目を細める。
「ついに着いてしまいましたね」「楽しい冒険ももう終わりです」
『特殊な仕様でこのカルデラの内部にモンスターは湧かず、侵入もできない。さて、暗黒邪竜戦の前に作戦会議と行こう』
【
ずっと腰の辺りに掴まっていた俺は、ハシゴを登って搭乗部の近くに移動した。
どうせ弐号は話に参加できないだろうから、召喚するのは壱号だけでいいか。
「攻略情報については全員把握していると思うが、再確認も必要だ。レン、頼む」
「まず、第一形態は巨大な爪と牙、尻尾を用いた物理攻撃で襲ってきます。大きな翼はありますが、飛行はしません。他のボスとは異なり優先攻撃対象がランダムに変動し、【魔の指先】の効果も1秒程度しか持たないのは非常に厄介です」
「ムラマサ=ニンジャの話によると【忍者】の【気配遮断】を使っても狙われたそうです。マスターも【守護暗幕】には頼らず戦うべきでしょう」
「それは重々承知している。足元の削りは壱号と参号に任せるつもりだから、アニカオニカにはできるだけ上半身を狙って貰いたい」
「四属性合成魔法の出番ですね」「腕が鳴ります」
俺も伝聞でしか知らないが、通常は二属性しか混ぜられない【魔法士】の合成魔法をアニカオニカだけは四属性全て混ぜることができるらしい。
つまり、一撃に全ての【属性強化】の効果が乗算される。
要はこれまでの道中で見てきた恐るべき合成魔法の倍以上の威力があるわけだ。
ここから【魔神の恩寵】によるレベル分魔力値増加、トリシューラの【魔神降臨】による魔力値倍化が加算されて相手は死ぬ。
もっとも、かなりの集中力が要るらしいから普段は良くて三属性合成魔法くらいしか使わないとも聞いている。
だからきっと、アニカオニカが本気を出すのは最後の最後になるだろう。
「第二形態はタイミングが重要です。レーザーブレスのリキャスト時間は44秒。私が合図をしますので、必ずアニカオニカさんかヒロシさん、ターゲットされていない方が妨害をしてください」
「サンのでばんだな。わくわくするぞ」
レーザーブレスは頭を潰しても発動はキャンセルできず、4秒間照射される。
僅かでも掠ったら、その時点で俺達全員ゲームオーバーだ。
『レン。第三形態について隠していることがあるなら今ここで話して欲しい』
アーサーの要望に、レンは二つ返事で応じた。
「一つ、第三形態に突入した時点で【霊神の願い】による蘇生は不可能になる。二つ、88秒間隔で何かしらの即死攻撃を放ってくる。三つ、即死攻撃は生贄を捧げることでキャンセルできる。データベースに記録されているのはこの三点のみです」
「生贄ですか?」「穏やかではありませんね」
レンは俺に視線を向ける。
「ヒロシさん、スキルポイントはきちんと残してありますよね?」
「ああ、召喚契約済みの伍号を抜いて7ポイントある。タイムリミットは10分弱、それまでに撃破できなければ俺達は終わりだ」
俺は100層の壁を壊した後、黄金大蛇周回が終わった頃合いにレンから「【人形使い】のスキルポイントは極力使わず残しておいてください」というメッセージを貰っていた。
当時のレンはソ連のスパイであることを明かしていなかったものの、俺は「善処しよう」と返してスキルポイントの温存を図った。
もしも俺が彼女との約束を守っていなかったら、その時はレンではなく別の生贄要員がユニーク神器を引っ提げてこの国連パーティーに参加していただろう。
「生贄はレベルを持つ召喚モンスター、もしくは探索者でなければなりません。今後の攻略メンバーは【妖精使い】【偶像使い】【人形使い】【魔鳥使い】のうちのどれかが必須となるでしょう。非戦闘員を【隠者】や【占星術士】に転職させることを考えると【魔鳥使い】がベストだと思います」
『まさか……その為の禁職指定なのか?』
アーサーの声色に疑念が混じった。
【魔鳥使い】が国際連合によって第五の禁職に指定される原因となったDシェパート事件はソビエト連邦が引き起こしたものだ。
「Dシェパード事件における一連の航空テロはソビエト連邦と裏で繋がっていた
『……胸糞の悪い話だ。反吐が出る』
その禁職指定がきっかけでデスラ社の研究開発が大きく進んだ【
「ゴルビチョフって【魔鳥使い】だったのか。俺はてっきり【隠者】だとばかり思ってたわ」
「生贄が必要なことが分かるまでは【隠者】でしたよ」
どうでもいいことで話が逸れたので、本題に戻ることにする。
「んで、他に何か話しておきたいことはあるか?」
「お分かりだとは思いますが、アニカオニカさんの【魔神の恩寵】と【魔神降臨】を使用するのは第三形態に突入してからです。これだけは必ず守ってください」
「ええ、もちろんそうします」「私達も長生きはしたいですからね」
そうこう話しているうちに、蒼い【
壱号を送還した俺はハシゴを降りて、先ほどまでいた腰の後ろ辺りに戻る。
『いよいよ本番だ。君達、準備はいいかい?』
流石にこの流れでトイレに行きたいだなんて言い出すやつはいないだろう。
と思ったら、アニカオニカが申し訳なさそうな表情を浮かべて手を挙げた。
「非常に申し訳ないのですが……」「少々お時間を頂いても……」
「どうぞお構いなく。一度、下まで降りましょうか」
レンと二人で連れ立って遠く石室の死角まで移動したアニカオニカは、5分ほどしてから戻ってきた。
【
「お待たせしました」「もう大丈夫です」
「それじゃあ……今度こそ配信、付けるからな」
「時間も限られていますし、自己紹介が終わったらすぐに突入しましょう」
レンがそう言うと、スタリオンが渋い男性の機械音声で返事をする。
『
零号を召喚した俺は、自分に【守護暗幕】のバフを付与させて送還した。
この特殊バフはユニーク神器に紐付けられている為、蘇生召喚などでリキャスト時間が踏み倒せない代わりに一度付与したら効果が切れるまで持続する。
『ピピピ、配信を開始しました』
目の前に浮かんだチャット画面に表示された視聴者数は配信開始時点で1000万人を越えていた。
今回は俺のDTubeチャンネルでもミラーしているし、【クレセントムーン】の黄金大蛇挑戦時の同接記録をも塗り替える伝説的配信になるに違いない。
「レディース&ジェントルメン! 待たせたなお前ら、いよいよ人類代表国連パーティーが暗黒邪竜に挑戦するぜ! パーティーリーダーはこの俺、【ドールマスター】こと
肆号は【情報共有】のカメラを動かし、一人一人順番にフォーカスしていく。
「アニカ・シャルマーです」「オニカ・シャルマーです」「二人で一人の【双頭の女神】と呼ばれています」「ヒンドゥー教徒の力、とくとご覧あれ」
下の両手を合わせたアニカオニカは、上の右手で持った三又槍を掲げて微笑んだ。
「ロシア連邦保安庁長官、レナータ・ニコラエヴナ・プレオブラジェンスキーと申します。このモシンナガンは【白い死神】として恐れられたシム・ヘイヘの愛銃だったものですが、彼の血縁者に当たる私には正当な相続権があります。ふふふ、革命を起こした甲斐はありましたね」
レンは氷のように冷たい笑みを浮かべ、細い指先で古ぼけた軍用ボルトアクションライフルの銃身を撫でた。
『アメリカ代表、アーサー・ウィリアムズだ。今回はアタッカーではなく運び屋としての役割を担っている。合衆国の誇りにかけて、預かったレディには傷一つ付けずお返しすることを約束しよう』
アーサーの操る【
「自己紹介はもう十分だ。お前ら、行くぞ!」
『
そのスタリオンの掛け声とともに、石室の大扉はバーンと勢いよく押し開かれた。
地球人類の底力、200層の壁を守り続ける邪悪な門番に見せてやろうじゃないか!