ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第11話 花畑を踏み荒らす

 小数点以下の確率を乗り越えて運よくボスの激レアドロップを引いたというのに微妙な結果に終わったことを引きずりつつロビーで少し奮発した昼食を終えた俺は、午後から11層の探索に乗り出した。

 

 俺と人形達の装備的には30層まで行けると萌も言っていたし、効率的なレベル上げの為にも少しだけ冒険するとしよう。

 魔力回復ポーションが結構余っているから、道中の露払いに精霊魔法を使う余裕もかなりある。

 

 相も変わらず自然豊かなダンジョンを徘徊する奇怪なモンスターをぶち殺しつつ、俺はスマホにダウンロードしたマップを頼りにどんどん階層を更新していく。

 今日はボス戦もあったから、14層までの踏破で切り上げて夕方には帰宅。

 

 翌日の木曜日は朝から15層の狩り場で狩りをすることにした。

 今期の横浜海上ダンジョン15層の一角に広がる花畑エリアには大芋虫の進化系っぽい大羽蝶とか大王蜂とかの虫系モンスターが出現するそうだ。

 

 この世界におけるダンジョンの特徴として、ドロップテーブルに肉がないモンスターは必ずと言っていいほどポーションの入ったアイテム結晶を落とす。

 これがまあ、いい稼ぎになるんだ。

 

 製薬工場でもっといい性能のポーションが大量生産されているからそんなの要らないじゃんと思う貴方、そうは問屋が卸さない。

 

 ダンジョンで落ちるポーションはアイテム結晶なので当然ストレージにも入る。

 ポーション類は結構かさばるし、筋力値を捨てている魔法職としてはいざという時にいつでもメニュー画面から取り出せるというのはかなり嬉しい。

 

 ストレージにも容量制限はあるんで適当に管理しているとドロップアイテムが虚空に消えたりすることもあるが、10層ごとのボス戦に持ち込むなら十分にアリだ。

 

 そしてストレージに入るということは、メニューからバザーに売ることもできる。

 つまり他の人間がバザーにポーション入りのアイテム結晶を出品さえしていれば、ダンジョンの中でいつでも魔結晶を対価に購入することが可能ということ。

 

 タンクや前衛が前の方でボスモンスターのヘイトを取って抑えている間に、後ろに下がった魔法職がメニュー画面をポチポチしてポーションを補充したりするわけだな。

 

 もっともバザーは世界中の人間と自由に取引ができるというわけではなく、現在使っているダンジョンモノリスでしか商品を売買できないという制限はある。

 

 【商人】の固有スキル【商取引】に加えて、覚醒スキル【天神の助け】を使えば安全な自宅からでも支店登録した複数のダンジョンモノリスのバザーを利用することができたりもするけどな。

 

 それもあって相場より安くバザーに出品されたアイテム結晶は大抵の場合、せどり目的で24時間待機している無数の強欲【商人】どもに一瞬で狩られてしまう。

 

 相場よりも高くていいなら狙ったスキルの付いた装備結晶を購入することもできるし、逆に出品する場合も安くていいなら手軽に捌ける。

 

 とはいえ普通は財閥企業の運営する買い取り店とか、ダンジョン庁の自動買取機とか、公営のオークションサイトを使うことが多いかな。

 後は俺がやっているみたいに付き合いのある鍛冶工房や装飾品屋に持ち込む感じ。

 

 国家公務員立ち合いで公正に金銭とトレードできるならそれに越したことはないわけだし、買う側も買う側でうっかり死んだら虚空に纏めて消えて無くなる魔結晶をいつまでも大量に抱え続けているのはちょっと心配だ。

 

 金庫に仕舞って強盗や空き巣に入られ仮想通貨を盗まれるどころの被害じゃなくなるくらいなら、多少の税金を支払ってでもリアルマネーに換金する方がマシだしな。

 

 だからまぁ、バザーのせどりで大金を稼いでいる【商人】はみんな引きこもりと言われている。

 元の世界で言うところのデイトレーダーの亜種みたいなもんだ。

 

 調子に乗ってネットでイキッたやつは真っ先に強盗から狙われるんで、個人情報を一切外部に漏らさないセキュリティ意識の高い者だけが生き残る修羅の世界である。

 

 色々グダグダと話したが、要するにポーション入りのアイテム結晶は肉目的でモンスター狩りをするよりもよほどいい儲けになるってことだ。

 なにより、適正レベルなら俺達の経験値稼ぎになって一石二鳥だもの。

 

「俺が先にフレアとシルフの自動攻撃で空の敵を撃ち落とすから、お前らは地上に落ちたやつを優先して攻撃しろ。布防具の壱号は大王蜂の針に要注意、弐号は気にせず適当にやれ。では出発!」

 

 花畑の手前でざっと作戦を説明した後、俺達は早速モンスター狩りへと移った。

 色とりどりの花弁が俺のへそくらいまで伸びてて歩き辛いので、壱号の草刈り鎌で下草を刈って貰いながら先に進む。

 

 なんだかミステリーサークルでも作っているような気分だ。

 

 花壇の水やりくらいしか家の仕事をしていない弐号と違って、毎日のように庭いじりをしている壱号はどうも美しい花畑を荒らすのが心苦しいようで、普段よりも微妙に動きがぎこちなく見える。

 

「壱号、そんなに嫌ならここで狩りをするのはやめるか?」

 

 と、尋ねると壱号はフリフリと左手を振って拳をグッと握り込んだ。

 どうやらちゃんと頑張ってくれるつもりらしい。

 ならばと移動を再開すると、すぐさまフレアが空から飛来してくる影に反応した。

 

「敵だっ!」

 

 バシュンと火矢が飛んでいき、毒々しい見た目をしたくそでか蝶の羽根の一部に直撃して風穴を開けた。

 

 墜落して花弁の中で鱗粉と火の粉を撒き散らす大羽蝶に、人形達が花畑を掻き分けながら接近して止めを刺す。

 うむ、でかいといっても所詮は虫だしこんなものだろう。

 

 どっちかと言うと人間大の蜜蜂っぽい大王蜂の方が脅威だ。

 エンカウント率が低いのがちょっと気になるものの、俺達は魔力を節約しつつ広大な花畑の中を延々とうろつくこととなった。

 

―――――

 

 マップの距離的に昼飯で外まで帰るのは大きなタイムロスなので手作りのおにぎりで空きっ腹を満たしつつ、普段よりもちょっと早めに狩りを切り上げて15層の終点に向かう。

 

 広い花畑を抜けたら見晴らしのいい丘に出たので、俺はそこで座り込んで手に入ったポーションをメニュー画面からバザーに纏めて放出した。

 

 レアドロップも筋力+2の補正が付いた筋力の腕輪Lv2――装飾品は10層ごとに補正値が1増える――が1個落ちただけだし、今日の日給はおおよそ5万円ってところか。

 

 あらかじめ稼ぎ用に幸運の指輪Lv5を2つ買い揃えてあったものの――これで2倍補正がかかって4+20の幸運24になる――、俺のステータスは幸運特化じゃないしこんなもんだ。

 

 稼ぎ特化の職業にしてもまずはレベル50まで頑張って育てて、ドロップ率の上がる覚醒スキルを手に入れなければ始まらない。

 

 職業評価サイト「みるダム」の職業ランキング堂々の1位で殿堂入りの【貴族】はレアドロップ率が上がる【武神の願望】を覚えるし、【狩人】は肉ドロップ率の上がる【森神の願望】を覚える。

 そんでポーションのドロップ率を上げるのが【錬金術師】の【創神の願望】だ。

 

 しかしまぁ、普通はこのレベル帯だと日給は半分以下なんだよな。

 やはり第二職業持ちはドロップ判定も2回になっているっぽい。

 道理で幸運値が低いのに一発でボスの激レア装備が出たわけだよ。

 

「うーむ、チートと言うには微妙か。あまりにも素のドロップ率が低すぎる」

 

 そもそもの話、ソロじゃなければドロップ判定も人数分増えるわけで。

 判定が2回になったところで4人パーティーの半分、覚醒持ちの【貴族】と同等。

 それが人形しか一緒に組む相手のいないソロ【人形使い】の悲しい現実である。

 

「……帰るか」

 

 散々花畑を踏み荒らしたので、俺達の装備や服は草花の汁が染み込んで青臭い異臭を放っている。

 これはダンジョンを出る前に念入りに洗浄しないと、お掃除ロボットから違反チケットを貰って大赤字になってしまうかもしれない。

 

 ダンジョンの中で疑似的に再現された植物とか土とかは一切外部に持ち出せないのに、こういった汚れだけはしっかり残るのが困ったものだ。

 二度と顔も見たくないクソ猿の汚物もそうだし、ダンジョン製作者によるプレイヤーへの嫌がらせだけは一丁前である。

 

 ちゃんと着替えを用意しておく必要性があることを一つの教訓とした俺は、壱号に汚れたローブを着せて送還したりなんかして――運の悪いことに途中で洗浄スプレーが切れちゃった――どうにか危険なロビー広場から脱出した。

 

 なお、帰宅後に母からめちゃくちゃ怒られたことをここに記録しておく。

 

 いくらお金を稼げたところで、20を半分も過ぎた成人男性が泥んこだらけで家に帰った腕白少年のように親から説教を受けるのは非常に面白くない。

 もう花畑はこりごりだ。ぴえん。

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