ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第14話 白銀の狙撃手

 翌日より俺は本格的なレベル上げに繰り出した。

 花畑はもう懲りたから、服の汚れないクリーンな狩り場を求めて16層からのスタートである。

 

 少しずつ巨大に凶暴になっていくモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。

 課金の日も筋トレを休んでダンジョンで延々と戦い続けたことで、1週間もする頃には【人形使い】のレベルが20の大台に到達した。

 

大木土博士 人形使いLv20 [精霊使いLv19] SP:0/0

筋力:1[+1]

魔力:10[+23]

敏捷:3[+1]

耐久:13[+1]*1.4

幸運:2[+2](+20)

 

スキル:人形召喚Lv3 [火精霊召喚 風精霊召喚]

装備:火精の短杖【火属性微強化】 魔法士のローブ+ 強化繊維の胸当て+ 登山靴++【耐久強化Lv2】 幸運の指輪Lv5*2

眷属:木人形壱号Lv20 木人形弐号Lv19 木人形参号Lv1

 

 既に20層には到達しているのでこのままボスに行ってもいいのだが、より効率的に突破できる腹案があるから【精霊使い】をレベル20まで上げることを優先する。

 ついでに新しくレベル20で取得した【人形召喚】で追加された3体目の木人形を本邦初公開。

 

「【人形召喚】参号。お前ら、これから仲良くしろよー」

 

 何の服も着ていないシンプルな木製のマネキン人形の肩を先輩面した壱号と弐号が撫でさするが、参号は特にこれといって反応しない。

 それも当然、レベル1じゃ直接指示しないと行動しないくらいのポンコツAIだ。

 

「参号の育て直しはまた今度だな。今日はこの辺で切り上げて、明日は朝一で萌のところに顔を出すとしよう」

 

 今日は土曜日。

 夕方から妹を近所の公園でやっている桜まつりに連れて行く約束がある。

 なんか数年ぶりに青春してるなって気がしてならない。

 

「兄さん遅い! もう集合時間とっくに過ぎてるよ!」

 

 陽の落ちる前に帰ったというのに、浴衣に着替えて準備万端の妹は玄関先でぷんすかと頬を膨らませた。

 

「嘘こけ、約束の時間まで後20分は残ってるだろ」

「これからシャワーを浴びて服を着替えて集合場所に向かって、それだけの時間が残ってると本気で思ってるの?」

「急げばどうとでもなる。あっちには高野もいるし、待てないなら先に行っててもいいぞ」

「あーもう、分かった。10分で済ませてきてね」

「うーっす」

 

 俺はそのまま風呂場に直行し、服を脱ぎながら召喚した壱号に自室から着替えを持ってくるよう冷静かつ的確な指示を出した。

 

 流石にレベル20を越えるとAIもかなり賢くなってきている。

 もうそろそろ料理の手伝いとかも覚えさせようかしらん。

 

 ふんふんと鼻歌を歌いながらダンジョン探索の汗をさっぱり流した俺は、パッパと外出着に着替えて玄関まで向かった。

 右腕に巻いた安物の腕時計の時刻はジャスト10分前、完璧なタイミングだ。

 

「さあさあ行くぞ、楽しい楽しい桜まつりによぉ」

「兄さん、なんか妙にテンション高くない?」

「そりゃあお前よぉ、現役のJKだぜJK。顔とか気になるじゃんね」

「私の友達に変なことしないでよ。もしそんなことしたら、お母さんに告げ口するからね」

「歳の差も結構あんのにするわけないだろ。お前の中の兄貴像は一体どうなっているのかまるで分からないぞ」

「リョウ兄さんに負けず劣らずのクズ」

「ひでぇ」

 

 真っ赤な夕焼け空の下、速足で道路の歩道を歩きながら妹とそんなことを話す。

 俺達は待ち合わせ時刻ギリギリで、桜公園の入口で待っていた3人と合流した。

 

「お待たせー! もう聞いて、兄さんったら酷いんだから」

「おいおい、ちゃんと間に合っただろう」

 

 今回のメンバー構成は俺、妹の春奈、高野仁、高野の姪っ子の高野彩芽(あやめ)、そしてもう一人が妹の友達の扶桑(ふそう)レンという娘だった。

 大方の予想通り、この3人娘は顔見知りどころか普通に同級生の友達である。

 

 一度は萌も誘ったのだが、彼女は明日の準備――20層踏破に向けて新たに仲間となった参号の改造をする約束をしている――で忙しいと言われて断られた。

 本当、そういうところだぞ。

 

「相変わらずお元気そうで何よりです。初めまして春奈さん、僕はハカセさんの友人の高野仁と申します」

「春奈ちゃん、叔父さんは超売れてる漫画家の先生なんですよ。凄いでしょう」

 

 俺も直接会うのは初めてな高野の姪っ子の彩芽(あやめ)は、高野と強引に腕を組んで自慢気な様子だった。

 

 採光事件で派手にやらかした祖母の血か、彼女の髪は高野とよく似た深い緑色をしており、更に言うとその髪型も含めて負け組委員長っぽい雰囲気を醸し出していた。

 叔父活で随分と稼いでいるのか、学生にしてはお洒落な春コーデをしている。

 

「兄さんから散々聞かされたから実は知ってる。それと、こっちの子が扶桑(ふそう)レンちゃんね。お父さんが貿易業を営んでいる【商人】で、スウェーデン人のハーフなんだって。兄さんには萌姉さんっていう素敵な許嫁がいるんだから、絶対に惚れちゃ駄目だよ?」

「初めまして、扶桑(ふそう)レンです」

 

 なんというか、ミステリアスな白人の銀髪碧眼美少女というイメージが先行する。

 明らかにお金持ちの娘っぽい服装をしているし、目を離したらガラの悪い男に付き纏われて変なことをされそうで怖い。

 

 レンの見た目がちょっと好みだった俺は、しっかりと彼女達の保護者として付き添いをしようと心に誓った。

 これは決して下心などではない。多分、きっと、メイビー。

 

「春奈から聞いてると思うけど、俺が兄貴の大木土博士な。ヒロシでもハカセでも、好きな風に呼んでくれ」

「ふふふ、ではヒロシさんと呼ばせて頂きますね」

「わたしはハカセさんでいいですか? 叔父さんがよくそう呼んでいるから、そっちの方が覚えやすいです」

「ああ、もちろん構わないさ。俺も勝手に下の名前で呼ぶからお相子(あいこ)だ」

「じゃあじゃあ、自己紹介も済んだところで早くお祭りに行こっ! 今日は全部兄さんの奢りだから食べ放題だよ!」

「おいおい、手加減してくれよ……」

 

 綺麗にライトアップされた美しい夜の満開な桜並木の下を、俺達は大勢いる他の来場客に混じって歩き始める。

 色気より食い気、妹は早速とばかりに大壺蛸のたこ焼きの露店へ飛び付いていた。

 

―――――

 

 ぎりおのお面にわたあめにかき氷、お祭り料金の高額商品を一通り手に抱えた俺達は桜公園の反対側までやってきた。

 どうやらこの辺りには射的やくじ、金魚すくいなどの娯楽が集まっているようだ。

 

「おっ、その顔はヒロシの兄さんやないか」

 

 どれから先に遊ぼうかとみんなで話していると、露店の店主から声を掛けられる。

 そこにはなんと、おかっぱの金髪をした糸目でアロハシャツの男が腰掛けていた。

 

「1週間ぶりやのぉ。元気にしとったか?」

 

 台に置かれた空気銃とコルク弾、奥の棚に並んだぬいぐるみやお菓子に「射的屋ニコニコ」の屋号、彼はどこからどう見てもニコニコ消費者金融の社長をしているヤクザの金田(かねだ)(いさむ)その人であった。

 

「兄さん、知り合い?」

「ああ、ちょっとな。金田、あんたこそ何でここでこんなことをしてるんだ。お得意の本業はどうした?」

 

 苦笑いを浮かべた金田は、右手に持っていたハンドベルを掌の内側に握り込んでから指先でポリポリと頬を掻いた。

 

「昭和の匂いがいまだに抜けきっとらんワイの親父(・・)はこういうのがほんっとーに大好きでな。祭りの時期になるといーっつも駆り出されるんよ。ほんま、けったいなことやで」

「ケッ、いいザマだ」

「そう笑っておられるのも今のうちやで。兄さんの方はどうや、仕事サボって遊んどる暇なんてあるんか?」

「ああ、来月にはしっかり耳を揃えて用意できるだろう」

 

 俺と金田の意味深なやり取りを聞いた妹は、不審げに俺の顔を見つめる。

 

「もしかして兄さん、この人に借金でもしているんじゃないでしょうね」

 

 いやに鋭い。

 この直観はきっと母親譲りに違いない。

 ここで嘘を吐くと大層不味いことになるので、俺は上手いこと話をごまかす。

 

「あー、この間ちっとばかし雀荘でな。そう大した額じゃないから安心しろ」

「クズ、バカ兄さん。お父さんとお母さんには絶対に迷惑かけないでよ」

「分かってるよ。で、金田。ここのテキ屋はちゃんと落ちるんだろうな?」

「あったり前田のクラッカーやで。ワイは他の連中と違ってケチケチしたりはせん。ちゃーんと当てれば全部プレゼントしたるやさかい、妹さん達と一緒に思う存分遊んでってくれや!」

 

 その言葉、信用しようじゃないか。

 妹の追求から目を逸らしたい俺は彼の提案に飛びついた。

 

「ほらみんな、金田もそう言ってるしいっちょ遊んでいこうぜ。あ、高野は敏捷が高すぎるから見学で頼む。こいつが破産したら可哀想だ」

「そうですね、ハカセさん」

「私がいっちばーん! あのでっかいハムマンは私のものに決めた! 喰らえー!」

 

 俺の財布から代金を払って安っぽい空気銃を手に取った春奈がヘタクソなエイムで棚に並んだオモチャや菓子の箱を外しているのを少し後ろで眺めていると、隣にいたレンが服の袖を引いて尋ねてきた。

 

「【人形使い】のヒロシさんはお一人で探索者をされていると春奈さんに聞いていますけど、実際のところどうなんですか? 大変ではありませんか?」

「言ってもまだ20層も越えていないし、ちゃんとした装備さえあればそんなに苦労はしないよ。幸運低いから稼ぎはそこそこだけどさ」

「はあ、そこそこですか」

 

 そんなことを話している間に、妹は最後の一発を撃ち切った。

 当然のように全弾ハズレである。

 これでは金田を破産させることなど夢のまた夢だ。

 

「あーもう、全然当たらない! 彩芽ちゃんパス!」

 

 ノーコン春奈はイライラした様子で彩芽に空気銃を投げ渡した。

 高野に代金を支払って貰った彩芽は台の前に立ち、恐る恐る空気銃を構える。

 

「ええと、それでは行きます!」

 

 なんということでしょう、これまた彩芽も外しまくる。

 俺は太客に欠陥品の空気銃を渡した金田にクレームを入れた。

 

「おいおい金田、いくら良心的だろうと当たらなかったら意味がないだろう」

「ワイにそんなこと言われても困るで。そこの可愛い娘さんとかどや、いっぺんやってみんか?」

「私は、こういうのはちょっと……」

 

 遠慮がちなレンの手に、妹が彩芽から奪った空気銃を強引に押し付ける。

 

「ほらほらレンちゃん、一発だけでいいから。ね、撃ってみて?」

「……仕方のない子ですね。それでは、あのぬいぐるみを狙ってみます」

 

 台の前に立ったレンは見惚れるほどに綺麗な姿勢でスッと銃を構えて、妹が執拗に狙っていた大きなハムスターのぬいぐるみに銃口を向ける。

 

 引き金を引いてポンと放たれた一発のコルク弾は、見事にそのハムスターの額を撃ち抜いて棚から落下させた。

 

「やるなぁ姉ちゃん、これはとんでもない大物やで! 大当たりやあ~!!!」

 

 金田が右手に持ったハンドベルをカランカランカランと大きく打ち鳴らすと、周囲にいた人々の視線が一斉にレンへと集まる。

 一躍注目の的となった彼女は所在なさげにそっと空気銃を台に置いた。

 

「すっご!!! レンちゃん【銃士】の才能あるんじゃない!?」

「そうですよ! 当たると思っていなかったから、わたしもびっくりしました!」

「いえいえ、ただのビギナーズラックです。きっと次は当たりませんよ」

 

 俺は金田から抱えるほど大きなハムスターのぬいぐるみを受け取った。

 これ、家に帰るまで俺が持つことになるのか……。

 腕が疲れたら壱号でも召喚して荷物持ちをさせるとしよう。

 

「ハカセさん、早めにここから離れましょうか」

 

 高野の提案に俺は頷く。

 

「そうだな。金田、じゃあまた今度な」

 

 簡単に景品が取れると思われたのか、順番待ちの人がどんどん集まってきている。

 残弾はまだ残っているが、この辺りでお開きにするべきだろう。

 

「ほな、さいなら~」

 

 新たにやってきたカモの群れを見て心底嬉しそうなニコニコとした笑顔を見せて手を振る金田に見送られながら、俺達は次なる遊びを求めて露店巡りへと舵を切ったのだった。

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