ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第18話 魔の指先

 俺がリアルなクソゲーのゲームバランスを完膚なきまでに破壊するチート戦術を手に入れてから3週間の時が過ぎた。

 

 世間はゴールデンウィークに沸いていたが、元社畜にとって国の決めた祝日ほど存在意義のないものはない。

 妹は友達と高校最後の思い出作りに励んでいたけど、俺には全く関係がなかった。

 

 どっかにレジャーとか行くにしたって本命はやっぱり夏だろ、夏。

 そんなどうでもいいことは置いておいて、直近に行なったダンジョン探索の成果について話そう。

 

 最初の1週間でレベルを25に上げて30層まで軽々と踏破した俺は、次の週に入ってからは東京の江戸川ダンジョンにわざわざ遠征して朝から晩まで延々と30層のボスモンスター周回をしていた。

 

 一般探索者の基準とも言えるレベル30を越えて母による時間外労働の制限が解けたおかげで、俺もようやく大手を振って東京都内のビジネスホテルに外泊できるようになったってわけだ。

 

 この世界のダンジョンは定期的――具体的に言うと444万4444秒、おおよそ51日間隔――にマップが更新されるのだが、その際にエリアや出現モンスター、石室の配置や距離などがランダムに変動する。

 

 モンスターテーブルが固定されている50層と100層以外はマップの更新ごとにボスモンスターの種類も変わるので、自分の職業で倒しやすいボスモンスターが出てくるダンジョンを求めて日本各地のダンジョンモノリスを渡り歩く探索者は数知れない。

 

 今回は横浜海上ダンジョンよりも東京江戸川ダンジョンの方が30層の入口からボス部屋までの距離が近かったので、周回効率を優先してこちらを選択したというわけだ。

 大体1時間で1匹倒せるから、効率よくマラソンすれば1日で15匹はボスを狩れる。

 

 家を出て社畜モードに入った俺なら1日16時間労働だろうと大した労力ではない。

 いや、ジム通いで鍛えていなかったら絶対途中でバテてたな。

 やはり筋肉……筋肉は全てを解決する……。

 

 それはともかく。

 確率は極めて低いものの、レベル上げついでに80層相当の性能があるボスドロップ装備を狙えるのは非常にでかい。

 

 なにしろボスモンスターは例外的にレベル差の経験値減衰補正が入らないからな。

 瀕死まで【自爆】で弱らせてから精霊魔法で止めを刺せば参号のレベリングにもなる。

 効率的には適正階層で育て直した方が圧倒的に早いけど、今はお金の方が大切だ。

 

大木土博士 人形使いLv33 [精霊使いLv33] SP:0/0

筋力:1[+1]

魔力:10[+37]

敏捷:3[+1]

耐久:26[+1]*1.4

幸運:2[+2](+32)

 

スキル:人形召喚Lv3 [火精霊召喚 風精霊召喚 水精霊召喚 属性付与]

装備:火精の短杖【火属性微強化】 魔法士のローブ+ 強化繊維の胸当て+ 登山靴++【耐久強化Lv2】 幸運の指輪Lv8*2

眷属:陶器人形壱号Lv33 木人形弐号Lv33 木人形参号Lv10

 

 現在のステータスはこのような感じだ。

 25層から29層辺りのモンスター狩りで手に入ったコモン装備や装飾品、ポーション類を売り払い、それを資金源にして装飾品屋で幸運+8の指輪を2つ買った。

 

 もうそろそろボス戦に向かう道中で露払いにシバく30層の雑魚モンスター相手では経験値が入らなくなってきた頃合い。

 参号はここだとボスからしか経験値が入らないのでまだまだ弱いな。

 

 【水精霊召喚】については説明せずとも分かるだろうから置いておくとして、注目して欲しいのは【人形使い】のレベル30で新たに取得した【人形進化】によって陶器人形へと進化を果たした壱号だろう。

 

 うちの壱号は外装を高価な人工皮膚で覆っているから分かりにくいけど、球体関節部分なんかはツルツルとしたセラミック状に置き変わっている。

 

 正直な話、ダンジョンの外で人形を仕事に使う人は進化させる必要性が薄い。

 どうせなら【人形召喚】のレベルを上げて数を増やした方が潰しが利くからな。

 3体より4体、4体よりも5体の方が多くの収入を得られるのは当然のことだ。

 

 進化するとステータス補正でもかかっているのか目に見えて性能が上がる――とはいえ、素材が素材なのでゴーレムと比べると耐久は低い――ので探索者として上を目指すならまず【人形進化】は必要不可欠。

 

 レベルアップで得られた【精霊使い】のステータスポイントを全て魔力に振っているので、進化で増えた人形の召喚コストが全く気にならないのは本当にありがたい。

 

「おらー、行くぞお前らー」

 

 さっさと借金を返して早く先の階層に進みたい俺は本日5度目のボス部屋に入り、すっかり【自爆】が板についた参号を出現中の30層ボス――砂岩河馬という名のクソでかカバ――へと特攻させた。

 

 なんかこいつに似たような見た目のポコモンとかいたなーと思いながら、爆発で岩のように硬い外皮が吹き飛んで剥き出しになった弱点部分に【水精霊召喚】で呼び出した水精霊アクアによる強力な氷槍をぶち込む。

 

 地属性には水属性が効くと相場が決まっているものだ。

 こいつの突進を下手に受けると盾と鎧でガチガチに防御を固めた弐号でもぺしゃんこになって装備ロスト間違いなしなので、仲良くみんなで逃げ回りつつ参号爆弾で足止めする。

 

 上手いこと安全に倒したところで、ついに念願の虹色ドロップ演出が見えた。

 苦節2週間、軽く200匹近くも倒してようやくスキル付きの装備が出たのである。

 

「う、うおおおおお……!」

 

 80層相当の防御力補正が付いたコモン装備はこれまでに8つばかり落ちていたものの、それだけでは5月末までの返済期限には到底間に合わない。

 だからここで当たりを引かなければ、俺はいよいよプライドを捨てて親友の高野に金の無心をしなければならなくなる。

 

「頼む頼む頼む……! レアこい、レアこい、レア……!」

 

 祈るような思いでメニュー画面を開き、ストレージ欄を指先でスクロールする。

 空き容量にはかなりの余裕を持っているので間違っても溢れるようなことはない。

 

「砂岩河馬の兜……【魔の指先】だと!?」

 

 これはとんでもないことだ。

 俺はあまりの幸運に呆然と立ち尽くした。

 

 【魔の指先】は魔法職の【催眠術士】が覚えるアクティブスキルのことだ。

 効果は発動中、敵モンスターのヘイトを一手に引き受けるというもの。

 

 1体にしか効果が無いという欠点はあるものの、パーティーの盾役であるタンクは持っていないと野良パーティーで地雷扱いされるほどの必須級スキルだ。

 

 引退者が放出した【魔の指先】付き装備の中古品はそれなりに出回ってはいるが、大抵はもっと低層でドロップした装備結晶を合成した品に過ぎない。

 

 破損のしにくい兜防具で、それも80層相当の防御力を誇るボスドロップ。

 探索者の人口ピラミッドを考えると、ほぼほぼ市場には出回らない代物だ。

 一体、どれだけの値がつくかまるで見当が付かない。

 

「これ、普通にこのまま弐号で使いたいな……。でも、売らなきゃいかんのか」

 

 それもこれも金田とかいう胡散臭い糸目野郎が悪いのだ。

 こんちくしょうめ、今に目に物を見せてやるから覚えていろ!

 

 十分以上の収穫を得たのでボス周回を早々に切り上げた俺は、メニュー画面からログアウトして江戸川ダンジョンのロビー広場にやってきた。

 

 平日の昼前と言っても首都圏のダンジョンを囲う複合施設はかなりの混雑状況だ。

 GWの最中とか学生が多すぎてロクに昼飯も取れないような状況だったからな。

 それに比べたら、まだまだ人通りが少ない方と言えなくもない。

 

「とりあえずオークションに出してみて、それで様子を見るとするか」

 

 そうしておけばきっとどこかの攻略クランに所属している盾役が食いつくだろう。

 焦ってバザーに流して、転売ヤーの食い物にされるなんてもってのほかだ。

 

 先ほどボス部屋にいた時にスマホで撮影しておいたストレージ欄の画像を添付して、ダンジョン庁公式アプリのオークション機能で「装備結晶 砂岩河馬の兜 魔の指先付き」を5000万円スタートで出品する。

 

 ちなみに俺が使っているアカウント名は【ドールマスター】だ。

 【人形使い】のポコモンマスターって意味。

 もちろん最新作の「ぽこ・あ・ポコモン」も図鑑を埋めて全クリしたぜ。

 

 引き渡し場所は東京ダンジョン庁で落札期限は明日の朝9時に設定してみたが、はてさてどうなることやら。

 

―――――

 

 江戸川ダンジョンロビー施設の外に出た俺は、思い切って少し遠くまで足を延ばし江戸川区最大の商店街であるフラワーロード商店街までやってきていた。

 半ドンの今日はここの飲食店で優雅にランチタイムでもと思ったのだ。

 

 明日は休日にする予定だし、東京でもう一泊してレア装備の売却を済ませてから実家の川崎に帰るのが一番時間を有意義に使えるというものだろう。

 

「それにしても、腹が減った……」

 

 孤独なグルメの主人公にでもなったような気分で人通りが多いお昼時の商店街を目移りしながら歩いていると、偶然にも見知った顔と出会った。

 

 扶桑(ふそう)レン。

 妹の同級生で現在高校3年生の在日スウェーデン人が、何故か平日の真っ昼間に東京の商店街をうろついていたのだ。

 

「もしかしてレンか? 今日は平日だぞ、学校はどうした」

「貴方は、ヒロシさん……?」

 

 どうやらレンは学校をサボって東京で遊んでいたことを知人に知られたくなかったようで、非常に気まずそうな表情を浮かべている。

 

「あー……その、もし暇ならどこかでランチでも食わないか? この辺りにくるのは初めてでな、できれば美味い店でも紹介して貰えると助かるんだが」

「ふふふ、そうですね。私も一度は貴方と二人きりでお話ししてみたいと思っていました。とても静かでいいお店を知っていますから、すぐにでもご案内致しましょう」

「言ってみるもんだな。よし、飯代くらいなら(おご)るからよろしく頼むぜ」

 

 この時の出会いより俺は、目の前にいる銀髪碧眼ミステリアス美少女と恐ろしいほどに強い縁を結ぶことになる。

 でもそれはまだ【占星術士】さえも知らない、遠い未来の話だ。

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