吸血鬼のイメージが強い。実際に自分でもそう思っていて、過去にはコスプレ衣装を自作したこともある。しかし人間の歯というものは根本的に吸血に向いていない。これが血吸い蝙蝠ならばまだしも、ちょんと小さな犬歯が上下に二本ばかり生えているだけなのである。こんな歯でモンスター相手に吸血回復を使おうとしたところで、ゴソゴソの毛皮やら、ぬちゃっとした皮膚やら、カチンとした外皮に阻まれる。ただでさえ生かしたまま吸血しなければならないのに、これはもう辛いと言うほかない。最初から無理だと諦めて、血操魔法で縛ったモンスター相手にアイスピックみたいな細剣でつんつんして穴を開け、傷口にちゅうちゅうとママのおっぱいに吸い付くようにしてようやく血を飲むことができる。これでは自分が蚊にでもなったかのような気分になる。辛い。頑張ってそこまでするくらいなら耐久の高い仲間に血を分けて貰ったり、治癒士に治癒魔法を掛けて貰った方が明らかに効率がいい。本来なら治癒魔法の杖でも使うのがいいのだろうが、強力なスキルの付いた高価な装備にただでさえ不遇な血操士の手が届くとは到底思えないので諦めた方が無難だ。そもそもの話、そんなものが買えるなら先に無職のオーブを買って他の職業に転職した方が遥かに強いという本末転倒な状況に陥る。頼みの覚醒スキルは血操魔法の攻撃範囲が広くなるだけだし、名前も酷い。暗神の血鞭を使う度にパーティーメンバーから血便野郎って馬鹿にされる。無性に腹が立つけど、喧嘩をすると野良パーティーから追い出されるのは僕の方だから文句一つ言えない。ああもう、誰だよこんなハズレ職業を作ったやつは。絶対に許せない。このレビューを読んでいて人は思うかもしれない。輸血パックでも持ち込めばいいじゃんって。言っておくけど、それをやるのは凄く大変だからね。病院の人から白い目で見られながら期限切れの輸血パックを分けて貰うのもそう、自分で血を抜いて用意するのもそう。RH-みたいな希少な血を持っている人はいいよ。僕みたいなどこにでもいるA型とかB型とかそういう人間の血には何の価値もないから。最終的に家畜の血に落ち着くにしたって酪農家とのコネがないとどうにもならない。似たような考えの血操士は沢山いるから当然のように取り合いになる。何より、鮮度が落ちないようにクーラーボックスへ入れてダンジョンの中を持ち運ぶのは本当に大変なんだ。だって僕はダンジョンに釣りをしにきたんじゃないんだよ。冷蔵だから凄く冷たくて飲むのも大変だし、お腹が冷えて痛くなりがち。でも野良パーティーだとお腹が痛いからトイレに行きたいなんて早々には言い出せない。結局、我慢できずに何度も何度も狩りを中断させて迷惑がられる。だからって無理に我慢をしたら漏らしてもっと迷惑をかけることになる。もう君とは組まないからって何度言われたか分からない。逆ブロックリストはあまりにも数が多すぎてスクロールするのすら一苦労。こんなにも人から嫌われる職業なんて血操士の他には覗き魔観測士とか旗振り軍師、スマホを壊す飛行士くらいなものじゃないかな。国の人も配慮して血操士のことも禁職にしてくれたらいいのに、直訴したところで無職のオーブが足りないから駄目って言う。世知辛い。探索者なんて辞めて別の仕事に就くにしたって取れるのが魔力強化じゃ何の役にも立ちやしない。日雇いバイトを転々とし、やっぱりそれだけでは食べていけないからしょうがなくダンジョンに潜る。そうして一人で黙々と大芋虫を狩っていると、どうして僕はこんな職業に就いたんだっていう考えが延々と頭の中をループする。とても辛い。寿命を迎えるまでずっとこんなに辛い思いをするくらいなら、死ぬまでダンジョンの奥に進み続けたほうが気が紛れていいんじゃないかとさえ思う。だから僕は今日も野良パーティーに参加するし、探索後は当然のようにブロックされる。もう完全に開き直って誰ともマッチングしなくなるまでダンジョンに潜り続けているのが僕という血操士なのである。これから新たに血操士として探索者を始めるつもりの人は、そういう未来が自分にも待っているということを十分に理解した上で、あらかじめ覚悟の準備をしておいてください。
カクヨムの近況ノートにちょっとした職業レビューを投稿しておりますので、裏設定に興味のある方はご一読頂けると嬉しいです。
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