翌日の朝、泊まった高級ホテルを引き払った俺と萌は神奈川ダンジョン庁に行って落札した出品物を職員から受け取ると、そのまま自動運転タクシーに乗って伊古田製作所まで帰った。
事務所で店番をしていた萌の母の
カウンター向こうの作業台の前に立った萌は、父の
「よーし、やっちゃうよー! 【装備加工】!」
腕まくりをした萌が【鍛冶師】の【装備加工】スキルを発動すると、こぶし大の装備結晶が虹色の魔素の塊となり、特殊合金鋼製の大鎌の中に吸い込まれた。
ファンと最後に光った後、萌はふぅーと額の汗を拭うような仕草をする。
「次は装備強化。一度に纏めてできないこっちの方がよっぽど大変なんだよね……」
続けて萌は【鍛冶師】の覚醒スキル【創神の特技】によってソシャゲの強化みたいな形で多種多様な骨鎌の画像が中に浮かぶ装備結晶を山ほど――木箱一杯なので文字通り山ほど――消費してフル強化を施した。
「かんせーい! 名付けて
紐で背中に掛けられる専用の鞘とセットで新品ピカピカのバカ強い大鎌を貰った壱号は、コクコクと首を縦に振って喜んだ。
「よしよし、いい子だね〜。じゃあ、次はニコちゃんの番! ほらほら、こっちでお洋服脱ぎ脱ぎしましょうね〜♪」
鎧と服を脱がせて上半身裸になった弐号を作業台に横たえさせた萌は、胸元の外装を剥がして拳大の核がある心臓部の辺りを彫刻刀とかドライバーでちょいちょいと弄り始めた。
「やっぱりタンクのヘイト装備が急に壊れるのは怖いもんね。その点、人形に組み込めば絶対にロストしないし。本当、どうして誰も【人形使い】になりたがらないんだろう?」
バザーでゲットした50層産の【魔の指先】付き爬虫人骨製ネックガード――骨工船からの転売品だったので割高だった――を弐号の核に嵌め込むような形で同化させようという試みである。
これも参号の【自爆】装備と似たようなものと思ってくれたらいい。
「そりゃ深層を攻略しようとしない普通の探索者からしたら、使徒とかゴーレムの方が使い勝手がいいからだろう」
「ゴーレムなんて美しくないっ!」
「いやいや、巨大ロボットは男のロマンだろうが」
【偶像使い】の覚醒スキル【地神の恩恵】は素で3mはある召喚ゴーレムを一回り大きい6mサイズに巨大化させてしまうチートスキルだ。
これは魔改造で組み込んだ武装にも適用されるんで、戦時中はもうすんごいことになった。
昔はそんなんだったが、平和になった現代だとロボットオタクの探索者が版権モノのロボそっくりに見た目を弄った魔改造ゴーレムで戦っている姿をダンジョン配信なんかでよく見掛ける。
魔改造ゴーレムの作り直しの為にわざわざ無職のオーブでレベルリセットする豪の者もいるくらいで、実用性を兼ね備えた金の掛かる趣味という感じは否めない。
いくら人形とは違い自由意志を持たないからって、大事にしないのはちょっとね。
「わたしとしてはアメリカの【
「あれなぁ、実際どうなんだろうな」
【騎士】と呼ばれている【騎乗術】に長けた前衛職に就いている会ったことのない2つ上の兄の大木土
ジャップだからロクな機体も
「現代魔法科学の粋! って感じだから相当強いらしいよ。その分、他と違って維持管理に沢山のお金が掛かるみたいだけどねー」
「ブルジョワなアメリカ人の考えそうなことだ」
魔改造作業から目を離した俺は、ソファに腰掛けてリモコンでテレビをつけた。
丁度、先月行われたアルテミスⅡ計画の特集番組をやっているところのようだ。
「凄いよね、月まで行って帰ってくるなんて」
「そうか? ちょっと周りを回って帰ってきただけだろう。せっかくなら月の石でも拾ってきたらよかったのにさ」
「宇宙じゃ職業もスキルも使えないんだから無理だって。でも、これで月に住む未来も無くなっちゃったね」
この世界の魔法科学文明は、ダンジョン由来の魔法文字を使って【賢者】の覚醒スキル【魔神の真理】でプログラミングを
いわゆるところのグラビティメタル抵抗器を用いた積層型魔法回路というやつ。
1972年に初めて米国で発見され、東西冷戦終結の要因となったグラビティメタル――現在は米国とソ連、日本の村正重工だけが製造可能な特殊魔法金属――は電気回路を用いた技術が過去のものになってしまったほどの
しかし魔結晶から供給される魔素を動力源とする魔法陣は無重力下で機能を喪失してしまうという重大な欠点がある為、人工衛星は旧来の科学技術と専用の機械言語――元社畜SEの俺的に馴染みやすいのはこっち――でなんとかしているらしい。
あとまあ、それが原因で自分とか持った物に重力軽減を掛ける【軽業】という固有スキルを持った【飛行士】が禁職になっていたりもする。
【軽業】を発動してペタペタ触るだけでありとあらゆる電子機器を簡単に破壊できるんだから、疫病神よりも嫌われるのは当然だ。
ちなみに【軽業】はインターネット上の匿名掲示板において、複数のSIMを切り替えIDを変更して自演する荒らし行為の俗称としても使われている。
元の世界だと機内モードを飛行機飛ばすとかよく言ってたし、大体そんな感じ。
「現実は小説より奇なりってか。俺はこの世界の方が奇妙に思えるがな……」
「ヒロくん、何か言った?」
「いや、高野の漫画の話だ」
「あー、今度アニメ化するって言ってたよね」
この間の編集との打ち合わせも、アニメの監修に関する話だったようだ。
AIとアンドロイドの台頭で究極の就職氷河期に入って久しいこっちの世界では敏捷特化の狂った画力を持ったアニメーターを最低賃金で好きなだけ使い潰せるから、深夜アニメでも映画ばりの予算をつぎ込んだようなエグい動きとか滅茶苦茶するぜ。
彼の描いた「ダンジョンのない平和な世界」がどんな素晴らしいクオリティのアニメになるのか、期待で胸が膨らみまくりだ。
「あ、そうだ。今度会った時にアニメ化祝いも渡さないとな。萌、Gペンの付与頼んだやつどうなった?」
「あるよー、あっちの棚に入ってる」
「サンキュー」
こうして、その日は装備更新だけで丸ごと1日が終わった。
それからの数日間は高野の家に遊びに行ったり、川崎区健康増進センターへ筋トレに行ったりと普通の休日を過ごした。
最近、マサ爺の姿を見掛けないのがちょっと心配ではある。
【ボマー】の片割れである妻の宮本
ま、生きてるならそのうちばったり会うだろう。
―――――
やったぁ、1週間の謹慎が明けたからようやくダンジョンに潜れるぞ。
これまでとは印象の違う派手な一張羅に身を包んだ俺は、意気揚々とホームである横浜海上ダンジョンのロビーでメニュー画面を開き、31層の石室にワープした。
このまますぐに狩りに行ってもいいのだが、まずは2章に入ってリニューアルした俺達のステータスと装備を紹介するべきだろう。
大木土博士 人形使いLv33 [精霊使いLv33] SP:0/0
筋力:1[+1]
魔力:10[+37]*2.2
敏捷:3[+1]
耐久:26[+1](+40)*1.8
幸運:2[+2]
スキル:人形召喚Lv3 [火精霊召喚 風精霊召喚 水精霊召喚 属性付与]
装備:魔法士の短杖【魔力強化Lv2】 人形師の外套++【魔力強化Lv2】【耐久強化Lv2】 強化繊維の胸当て++【魔力強化Lv2】 登山靴++【耐久強化Lv2】 耐久の指輪Lv10*2
眷属:陶器人形壱号Lv33 木人形弐号Lv33 木人形参号Lv10
今回の目玉は人形師の外套!
これはローゼン閣下でお馴染みの漫画家、桜井純氏が少し前まで使っていた装備のお下がりを友達価格の3億円で譲って貰ったもの。
フル強化もしっかりされているので、普通に買えば軽く5億円は必要だ。
他はまぁ、バランスを優先して装備結晶によるスキル合成を加えてある。
本当はもっと何か強いスキルでも付けた方がいいのだろうが、そこまで俺自身が戦うわけでもないので今回は基礎ステータスを重視した。
ステータス強化系のコモンスキルはレベル1ごとに最終倍率に1.1倍の補正が加わるので、装飾品は耐久が増える指輪に変えている。
しばらくは階層更新を優先するつもりだから、ボスにトドメを刺す時にちょいちょい幸運の指輪に換装するくらいでいいと思う。
こうして見ると、装備スキルが2個扱いされる第二職業持ちのアドバンテージがえげつないな。
もうこのままの装備で100層まで行けるんじゃないかとさえ思うくらいだ。
これならもっと早くスキル付きの装備に乗り換えた方が安定して30層のボス周回をできたかもと今更になって後悔する。
その場合は補正値の高い幸運の指輪を買えなかったから、12億円で売れるようなレアスキル付きの装備結晶なんて絶対に落ちていなかっただろうけどさ。
俺は現状でもレベル50の耐久特化型タンク以上の防御力があるんで、余程のことが無ければ死ぬことはないと思う。
50層から先は魔法を使ってくる特殊な敵も増えてくるし、耐久上げは必須!
さて、お次は人形達の装備だ。
陶器人形壱号Lv33
装備:農夫の大鎌++【筋力強化Lv2】【魔力強化Lv2】 麦わら帽子++【筋力強化Lv2】 強化繊維のオーバーオール++【筋力強化Lv2】 牛革のグローブ++【筋力強化Lv2】
木人形弐号Lv33
外装:爬虫人骨のコアリング++【魔の指先】
装備:鋼の剣++【耐久強化Lv2】 隕鉄の盾++【魔法耐性】 鋼の鎧++【耐久強化Lv2】 鋼の籠手++【耐久強化Lv2】
木人形参号Lv10
外装:大顎鰐革のビキニ+【自爆】
メインアタッカーの壱号は筋力全振り、タンクの弐号は耐久全振りのスキル構成。
お高い【魔法耐性】の付いた盾を高級オークションで買って弐号に持たせてある。
参号はどうせ突っ込んで【自爆】するだけだからどうでもいいだろう。
「大体こんな感じだな。よしお前ら、新武器の試し斬りでも行こうぜ」
ここ数日で更新後のマップ情報も一通り出揃っている。
今期の31層はサバンナフィールドに逃走型草食モンスター数種類のほか、クソでかライオンの狒々獅子が単体で徘徊しているそうなので楽々踏破できるだろう。
スマホアプリへダウンロードした地図に従って移動していると、遠くからたてがみフッサフサの黒ライオンがこちらに向かって駆けてきた。
精霊魔法で先に削ってもいいのだが、ここはパワーアップした壱号を信用しよう。
「壱号、まずは【属性付与】なしでやってみろ」
木製から陶器製に進化した上にスキル効果で筋力値が2倍近く伸びた茶髪金眼農民娘人形の壱号は、これまでとは目に見えて違う速度で狒々獅子と接敵。
猫科らしい爪の一撃を身を翻すように回避し、両手で構えた大鎌を横に一閃。
まるで豆腐でも切り裂いたかのように狒々獅子は骨ごと真っ二つになった。
うっそーん、即死やんけ。
「火力たっかいな。よくよく考えてみれば、130層の雑魚が落とすレベルの武器を大金使ってフル強化したんだから当然なのか?」
じゃあ、今度は魔力値が当社比2倍になった俺の【属性付与】を試してみよう。
参号の核……ではなくボディの方に火精霊のフレアを宿らせると、赤髪紫眼ロリロリドラ娘の両拳にメラメラと燃え上がるような炎のエフェクトが現れた。
「DTubeで見たステゴロ魔法アタッカーの【賢者】さんみたいでかっけぇ。これは期待が持てるぞ」
また少し歩いたら次の狒々獅子が見つかったので、俺達は戦闘態勢に移った。
金髪碧眼女騎士人形の弐号に【魔の指先】でヘイトを取らせつつ、参号に命令して無防備なブラックライオンのケツに向かってパンチさせてみる。
ボゴォン!
無邪気な幼女人形から突然のフィストファックを喰らった狒々獅子は、穴という穴から爆炎を噴き出して消滅した。
「うわようじょつよい」
振り返ってドヤったロリロリドラ娘の両拳からは炎のエフェクトが消えている。
えっ、もしかしてボディに付与されていた火精霊を【自爆】でもさせたの?
そんな謎の応用技術、Wikiにも書かれていなかったはずなんだけど……。
「まぁいいか。……って汚い手を見せびらかしながらこっちにくるんじゃない!」
トコトコと小走りで戻ってきた参号のハイタッチをサッと避けてその手に洗浄スプレーを何度も何度もぶっ掛けた俺は、ヌルい冒険に慣れる前に早く深層へ行きたいなと思いながらマップの奥へと歩を進めたのだった。