ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第27話 爬虫人類の化石

 金の力で手に入れたオーバースペックなチート武器をぶん回し、ひたすら階層を更新し続けること1週間。

 課金の日(休日)を挟みつつ、俺達はようやく50層の入口へと到達した。

 

 ついに待ちに待った骨工船の時間がやってきたのだ。

 さて、ここで読者の皆様が疑問に思っている骨工船について説明するとしよう。

 

 以前にもどこかで話した覚えがあるが、50層は特殊なマップとなっている。

 レベル差があってもレベル49まで経験値減衰補正の掛からない特別仕様で、通常はボスモンスターしかドロップしない無職のオーブを1/44444の確率で落とす。

 

 50層のボスを倒せば晴れてレベルキャップが初期の49から99まで解放されて覚醒スキルを習得できるから、ここで頑張ってレベルを上げてねということなのだろう。

 

 出現するモンスターは爬虫人骨という名前の特殊なアンデッドモンスター。

 3mほどの身長を持ち4本指で石器を片手にフィールドを徘徊するこのスケルトンこそ、俺達が普段レプティリアンと呼んでいる宇宙人の成れの果てだ。

 

 大量絶滅前のジュラ紀に繁栄していた割には化石が見つかったことなど一度もないので、やはりこいつらがダンジョンモノリスを地球に落とした元凶に違いない、とみんながみんな考えているわけだ。

 

 ダンジョンでモンスターからドロップする装備結晶の籠手や手袋はどれもこれも4本指で、アイテム結晶は肉かポーションしか落ちない異常性……。

 明らかにこのダンジョンの仕様は肉食のレプティリアンがプレイすることを前提に作成されている。

 

 かと思えば海にあるダンジョンモノリスだと海中フィールド率が異様に高かったり、人間が潜り続けているとマップ更新の度に地上フィールド率が目に見えて上がったりと、生存環境の異なる異種族が利用するのに適したちぐはぐ加減が悩ましい。

 もうこの辺の謎をいちいち考えていたら、頭がパンクしてしまいそうである。

 

 それはさておき、50層が骨工船と呼ばれる由来について。

 名前からしてあらかた予想は付いているだろうが、50層は小説の蟹工船を元ネタにしたベーリング海の遠洋漁業並みの地獄とされていた。

 

 元々はここを専門に活動する探索者クランも沢山あったのだが、時代の流れで禁職が増えて国が大量の無職のオーブを必要とするようになったことで事態は急変する。

 

 一般人では利用するのが困難な領海上のダンジョンモノリスを基礎にして造ったいくつかの小さい人工島に、通常の刑務所で服役させるのが困難な高レベル探索者の罪人や莫大な債務を抱えた元経営者を集めて、刑務作業代わりに50層の爬虫人骨を狩らせるようになったのだ。

 

 レプティリアンどもは見た目通り強いので――四人一組(フォーマンセル)のパーティーを組んでランダムな職業まで持っている――その死傷率は目も当てられず、人工島内の特殊な魔結晶経済を含めて福木漫画の地下帝国みたいな状況に陥っている。

 

 探索前に【天神の接吻】と呼ばれる特殊な幸運バフを掛けてくれる【使徒使い】という名の看守がいることもあり、稼げる者には稼げる場所としてわざわざ自分から島に飛び込むような奇特な人間もそれなりにいたりするのだが……。

 

 口には出さないが色んな意味で地獄であることには変わりないから、入島時に国から課せられた無職のオーブの納品ノルマを達成したらさっさと外に出るのが通例だ。

 金だけは稼げるので再スタートも容易になり再犯率まで激減する素晴らしい政策。

 

 俺も家まで借金の取り立てにやってきた金田の野郎をぶっ殺していたら、社会のゴミを始末した情状酌量の余地がある犯罪者として相模湾(さがみわん)辺りの人工島に送り込まれていたことだろう。

 

 そうなれば、新たな特殊性癖に目覚めていたことは想像に難くない。

 ワンチャン自分の身にも訪れていた未来を想起しお尻にキュッと力を入れてぶるりと身震いをした俺は、頼れる人形達の顔を見回してこれからの探索計画を説明する。

 

「ここからが正念場だ。まずは先にボスを倒してレベル上限を解放し、それから50層のボス周回で参号のレベルを50まで上げる。そうしたら次は51層の先でレベル上げだ。よーし、行くぞお前ら!」

 

 えいえいおー、と拳を振り上げて気合を入れた俺達は50層の探索に乗り出した。

 遠くに穏やかな川の見える起伏が印象的な草原を延々と進んでいると、木製の柄がある槍や短剣の石器を持つ4体の爬虫人骨と遭遇。

 

 木の杖を持ったスケルトンからいきなり火の槍が飛んできて俺の身体に直撃する。

 しかしまぁ、露ほども痛みは感じない。

 魔力と耐久に特化してなかったら、これだけで普通は死んでるけどな。

 

「ケホッ、後衛を真っ先に狙うとは舐めた真似しやがって。(すけ)さん(かく)さん、見せてやりなさい!」

 

 風精霊シルフの【風属性付与】で雷をバチバチさせる大鎌を持った壱号と、水精霊アクアの【水属性付与】で霧のようなモヤをまとった盾を構えた弐号が爬虫人骨との戦闘に入る。

 

 いくら俺の方が硬いからって主人を盾にする参号――幼女らしいと言ったほうがいいかも――の前で、空中に浮かべた火精霊フレアによるお返しの火槍を撃ち込む。

 

 だがしかし、【魔法士】スケルトンはバックステップで余裕の回避をしやがった。

 ウザったいことに、肩を竦めて首を横に振り「ダメダメこんなんじゃ」みたいなボディーランゲージまで見せつけてくる。

 

「チクショー! お前ら、絶対に油断するなよ!」

 

 更なるお返しに飛んできた火の槍をボコボコ食らいながら人形達を激励する俺。

 しかし、装備すら身に着けていないのに壱号よりも明らかに動きがいい前衛職スケルトンに人形達は苦戦を強いられる。

 

「当たりさえすりゃ殺れるんだ、当たりさえ……」

 

 と、弐号が盾で攻撃を防いだ素手の【格闘家】スケルトンがピシリと凍りつく。

 その直後に【魔の指先】で【軽戦士】スケルトンのヘイトを取って、シールドバッシュでもう一発凍結。

 

 数が減ってタイマンできる余裕が出たので、武器破壊によって隙を見せた石槍持ちのスケルトンから順番に壱号による大鎌の一撃で仕留めた。

 

「ふぅ、弐号の盾に水属性を付与したのが効いたな。この調子でガンガン先へ進むとしよう」 

 

 前途多難とはいえ、初戦に勝利してひとまずの成功体験を得たのは大きい。

 【投擲術】持ちのスケルトンから投槍が飛んできたら参号を盾にしようなどという卑劣な考えを脳裏に浮かべつつ、俺は人形達とともに草原の奥地へと歩を進めた。

 

―――――

 

 パーティーメンバーは何処へやら、1体だけでうろつく凶悪な【狂戦士】スケルトン――強いは強いけどヘイト管理が余裕で逆に楽だった――や【時空魔法】でいきなり倍速行動を始める【時空術士】スケルトンなどレパートリー豊富なレプティリアンどもに苦戦しつつも、どうにか俺達は50層のボス部屋へと転がり込んだ。

 

「こいつらさえ殺れば豪勢な昼メシが食えるぞ! うおおおおおおお!」

 

 広い石室に敷かれた魔法陣の中心に光が集まり、2体の爬虫人屍が出現する。

 挑戦者と同じ職業、更には覚醒スキル持ちのレプティリアンゾンビだ。

 パーティー構成によってはガチで詰みかねない凶悪なボスモンスターである。

 

 第二職業持ちだとそれぞれ別のレプティリアンゾンビとして再現されるので、大して強くない覚醒スキルしか覚えない俺の場合はそこまで苦戦することもないだろう。

 とはいえ、この距離からでも分かる鼻が曲がりそうな腐臭には嫌気が差すが。

 

「参号、君に決めた!」

 

 【人形使い】レプティリアンゾンビによって召喚された1体の陶器製レプティリアン人形と2体の木製レプティリアン人形が特攻した参号に掴みかかるも、カッと大爆発が起こって粉微塵に砕け散る。

 

「悪いな、このまま勝たせて貰うぞ」

 

 【魔の指先】で【精霊使い】レプティリアンゾンビのヘイトを取った弐号が赤い人魂みたいな3体(・・)の火精霊によって放たれてくる大量の火槍から走って逃げ回っている間に、参号が再召喚されたレプティリアン人形ごと【人形使い】レプティリアンゾンビを爆殺。

 

 後は背後から忍び寄った壱号が【精霊使い】レプティリアンゾンビを大鎌でぶった斬ってトドメを刺した。

 幸運の指輪に着け替えたものの、ボスドロップは魔力回復ポーションのみだ。

 

「お前らおっつー」

 

 それにしても、ボスが死んだ途端に漂っていた腐臭がスッと消えたのは助かった。

 壱号の大鎌にも特に匂いが付いたりはしていないようだし、【死霊使い】の扱うゾンビ――ダンジョンの外で召喚したら即通報――とは違うのかな。

 

「まぁ、それはどうでもいいことか」

 

 何をしてくるか分からない爬虫人骨どもと比べたら特に問題なくサクっと倒せたし、参号のレベルが上がって気分もいい。

 

 メニュー画面を開いて51層ワープで階層更新をしてから横浜海上ダンジョンのロビー広場に戻った俺は、先ほどの宣言通りにお高いチェーン店のうな重を心ゆくまで堪能したのであった。

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