ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第33話 大大大爆発

 それからの数日間は当初の予定通り休養期間に充てた。

 言うなれば、2ヵ月遅く訪れた俺だけのゴールデンウィークである。

 

 学校をサボった扶桑レンとこっそり秘密のデートをしてみたり、久しぶりに高野の家まで遊びに行ったり――最近は骨工船中に買った【情報共有】付きの防水腕時計でセキュリティを意識したテレビ通話をすることが多かった――、無料ジムでお馴染みのくっさい川崎区健康増進センターに顔を出したり。

 

「骨の状態を確認したいから【診察】して欲しい、ですか? ええ、別に構いませんけど……」

 

 筋トレの帰りがけには毎回、センターの医務室まで行って当直の医療スタッフにお願いし【治癒士】の【診察】スキルによるお手軽健康診断をして貰う。

 

「……特に問題はないみたいですね。骨密度も正常の範囲内です」

「あ、そうですか。それはどうもありがとうございます」

 

 度重なる蘇生召喚の代償でボロボロになっていた俺の骨も、歯科医の先生に処方して貰ったカルシウム錠剤を毎日3回食後に飲んだおかげかようやく良好な状態に戻ってきたようで非常に嬉しい。

 

 それなりに便利な魔法のお薬があるとはいえ、これからは探索帰りに一本の治癒ポーションを飲む習慣を心掛けることにする。

 カルシウムの補充を考えると骨折用が適切なので、結構高く付きそうだ。

 

 ポーション代とかを経費で落とすなら個人クランでも立ち上げるのがいいのだろうが、そうすると年度末の確定申告が面倒極まりないことになるので放置している。

 

 探索者としてダンジョン庁公式アプリに登録しておけば、所得税と住民税は魔結晶とかアイテム結晶の売却時に勝手に源泉徴収されるしな。

 問題があったら税務署からメールが届くし、それに合わせて追納したら済む話である。

 

 さて、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が治ったらいよいよダンジョン探索が再開できるわけだ。

 いつものように朝一で横浜海上ダンジョンまでやってきた俺は、ロビー広場でメニュー画面を開いてプライベートマップの51層に転移した。

 

「よーしお前ら、楽しいダンジョン探索の時間だぜ」

「きょうこそ、まちにまったかんちょーぼんばーができるのだ!」

「まだ言っているのか、サン……」

「【自爆】で壊れてしまわないようにお洋服を脱ぎ脱ぎしましょうね」

 

 壱号と弐号が参号の着ている外歩き用のゴスロリ服を脱がせて畳んでいる間に、俺は手の甲からDカードを取り出して現在のステータスを再確認することにする。

 

大木土博士 人形使いLv54 [精霊使いLv54] SP:0/0

筋力:1[+1]

魔力:20[+58]*1.8

敏捷:3[+1]

耐久:37[+1](+40)*1.8

幸運:2[+2]

 

スキル:人形召喚Lv4 霊神の神格 [火精霊召喚 風精霊召喚 水精霊召喚 土精霊召喚 属性付与 霊神の偏愛]

装備:業火のタクト★【火属性強化】【火属性強化】 防水腕時計【情報共有】 人形師の外套++【魔力強化Lv2】【耐久強化Lv2】 強化繊維の胸当て++【魔力強化Lv2】 登山靴++【耐久強化Lv2】 耐久の指輪Lv10*2

眷属:陶器人形壱号Lv54 木人形弐号Lv54 木人形参号Lv50 木人形零号Lv1

 

 宮本邸から帰った後、余っていたスキルポイントで新しい人形を追加した。

 零号は都子(みやこ)さんに教わった影武者人形として、普段は俺の装備や壱号の大鎌――ずっと背負っているのは壁にぶつけたりしてとても邪魔である――といった盗まれたら困る大切な代物を預ける金庫にするつもりだ。

 

 本当は箱でも持たせて荷物持ちとかさせたいんだけど、装備として判定されない持ち物は送還した時に落としちゃうんだよね。

 その辺りの不便な仕様はガチのアイテムボックスな【催眠術士】の【魔神の手品】があるからなのだろう。

 

 本人に似せる為にはリアリティが絶対に必要と言い張る下心丸出しな萌の前でパンツ一丁のヌードモデルをする羽目にはなったものの、ドスケベ機能の組み込みだけは回避したので安心してレベル50まで育てられるのが嬉しいところだ。

 

 とはいえ戦闘用の人形ではないので、ボス戦の時だけ出すくらいに留めるつもり。

 パーティーメンバーが5人を越えると経験値が分散しちゃうから仕方ないというか、単純にもう骨工船でのレベリングをしたくないだけである。

 

 それと将来的にステータスを人に見せることもあるかなと思って、【人形使い】のステータスポイントをいくらか魔力に振り分けることに決めた。

 【精霊使い】については50層のボス周回が終わった時に【土精霊召喚】を取って土精霊のサンドを仲間に加えたほか、覚醒スキルの【霊神の偏愛】も同時に取得。

 

 【霊神の偏愛】は最大4つの精霊召喚枠を好きな属性に振り分けられるという神スキルで、これさえあれば業火のタクトの効果を最大限に引き出すことが可能となる。

 もうこの先、俺が火精霊のフレア以外を使うことはないのかもしれない……。

 

「マスター、準備が終わりましたよ」

 

 可哀想なサンドくんに想いを()せている間に人形達の用意が整ったようだ。

 持っていたDカードをパリンと割って虚空に溶かした俺は、壱号から受け取ったゴスロリ服と幼女靴の入った袋をカバンの中に仕舞う。

 

「さてと、そろそろ出発するか」

「おー!」

 

 意気揚々と真っ先に石室から飛び出した参号が目にしたもの、それはどこまでも続くゴツゴツとした岩場に白波を湛える青い海岸線であった。

 今期の横浜海上ダンジョンの51層は珍しい部類に入る海岸フィールドだ。

 

「かんちょーぼんばー……」

 

 こんな場所に大型の哺乳類モンスターが出現するはずもなく、そのことに気付いた参号はがっくりと肩を落として落ち込んだ。

 いや、海の中にはシャチっぽい見た目の斑大鯱が出るらしいけどね。

 水没したら速攻であの世行き間違いなしなのでスルーして終点に直行である。

 

「なあなああるじ、つよくなったサンのじばくをためしてみてもいいか?」

 

 岩場に擬態した巨大なフジツボっぽい触手モンスターの岩藤壺 ――その場を動かない上に火精霊の自動索敵で確実に発見できるのでカモでしかない――の硬い殻をフレアエンチャントパンチでぶん殴っていた参号が尋ねてきた。

 

「マスター、一度試してみてもいいのではないか?」

「別にいいけどさ、それならついでに【金剛力】の方も試してみようぜ」

 

 弐号が身に着けている白銀色のプレートアーマー、仁王の鎧に付いている【金剛力】は【僧兵】と呼ばれる前衛職が取得できるアクティブスキルだ。

 

 発動中だけ耐久値が筋力値に加算されるという、ピンポイントでの使用ならリキャスト時間も容易に踏み倒せる耐久特化のタンクなら誰でも欲しがる最強スキル。

 

 1層で落ちるようなゴミ装備でも億単位で取引――大体【重戦士】のせい――されているそうで、横綱【力士】の活躍でここ最近高騰している【仁王立ち】まで付いた深層の神器ともなれば、百億単位のお値段がついたとしてもなんらおかしくはない。

 

 なんとなく通った健康増進センターで偶然にもマサ爺と友達になっていなかったらそのまま冥途の土産にされていたって言うのだから、本当に恐ろしい話である。

 

「参号の核に【火属性付与(エンチャントフレア)】。よし、もう行っていいぞ」

「【金剛力】! こちらも準備万端だ!」

 

 水際近くでレシーブするように両手で盾を構えた弐号に向かって、ダダダッと勢いよく助走した参号がぴょーんとジャンプした。

 レベルが上がってステータスが伸びたおかげか、脚の短い幼女にしては足も速い。

 

「それっ!」

 

 【金剛力】で加算された筋力の力によって、弐号はまるで自身が巨大なバネにでもなったかのような勢いで盾に飛び乗った参号を思いっきり遠くの海まで投げ飛ばす。

 目標は壱号が現実化(リアライズ)して海に投げ込んだ岩藤壺の肉に集まった斑大鯱の群れだ。

 

 ひゅ~……ドゴォォォォォォォォォン!!!!!

 

 業火のタクトのダブル【火属性強化】――更に第二職業の2倍補正でクアドラプル(4重)――によってかつてない程の最大火力を出した参号の【自爆】は、まるで爆撃でもされたのかと思うくらいの轟音を響かせて高いキノコ雲と水柱を上げた。

 

 巻き上げられた海水が雨のようにザーッと降り注ぐ中、3人分のレベルアップ音が響く。

 やったぁ、いっぱい斑大鯱を倒したからレベルが55に上がったぞ。

 

「なぁ、これマズくね?」

「そうですね。ボス部屋でこれを使ったらと思うと……」

 

 ダンジョン内では鋭利な武器で斬られても無傷でへっちゃらなフレンドリーファイアが起こらない優しい仕様になっているとはいえ、この爆発の巻き添えになったら壁まで吹き飛ばされて伊佐那岐みたいに地形ダメージで即死すること請け合いだ。

 

「【人形召喚】参号」

「たはー、ひさしぶりのじばくはきもちよかったのだー」

「良かったですね、サン」

「火力はいいけどさ、ボス戦での【自爆】戦術を封印するべきか悩むなぁ」

「がーん!」

 

 アイデンティティを喪失して偉くショックを受けたような表情を浮かべた参号は、育ての親の萌とそっくりの口ぶりでガーンって言った。

 

「その言い方、なんか萌と似てる」

「サン、そう落ち込むな。業火のタクトを使わなければ何も問題はあるまい」

「じゃあじゃあ、サンはまたじばくしてもいいのか?」

「ボス部屋では今まで通り魔法士の短杖を使えばいいか。56層にはかんちょーぼんばーにお(あつら)え向きの毛長象が出るらしいし、早くそこに行ってレベル上げしまくろうぜ」

「おお、それはとてもたのしみだ。いそいでさきにすすむぞ、あるじ!」

 

 あっという間に元気を取り戻したサンは勢い余って走り出した。

 フレアの索敵範囲から出たら岩場に擬態している岩藤壺の触手に捕まるぞ。

 まぁ、その時は殺られる前に参号を送還すりゃいいから気楽なもんだけどさ。

 

「岩場は足元が不安定ですから、そんなに走ってはいけませんよ」

「へいきへいき、どわーっ!?」

「ああっ、サンが触手に絡め取られてしまった!」

「言わんこっちゃない……」

 

 自我を手に入れた人形達が好き放題に喋れるようになったせいか、これまでの探索と比べて随分と騒がしくなってきた。

 決して悪いことではないのだけれど、緊張感が抜けてしまうのは困りものである。

 

―――――

 

 スマホにダウンロードしたマップを頼りに不整地の岩場を歩きながら、参号のフレアエンチャントパンチで邪魔な岩藤壺をしばき続けてしばらく経つ。

 

 なんとなく高野と話したくなった俺は、右腕に巻いたアウトドア用の防水腕時計に付与された【情報共有】を使う。

 カテゴリー的には片手武器扱いなので、防具装備枠とは競合しないのである。

 

 ブゥンと開いた乳白色のメニュー画面のフレンドID欄から高野仁の名前をポチっと選択すると、数十秒の待ち時間の後に画面が切り替わってソファに座った深い緑髪で頬のこけた男の姿が映った。

 

『ハカセさん、急にどうされました?』

 

「すまん、仕事中だったか?」

 

『いえ、今日は休みにしようと思って朝から積んでいたアニメを消化していました』

 

 画面越しに聞こえてくる環境音からして、先日会った時に「単行本作業が終わったら纏めて視聴したい」と言っていたほのぼの系の百合アニメのようだ。

 以前勧められたものの、キャラが俺の好みに合わなかったから3話切りしたやつ。

 

『それにしても、ハカセさんがダンジョン探索の様子を中継するなんて珍しいですね。何か心境の変化でもあったんですか?』

 

 高野はこっちの様子が気になるようで、手元のリモコンを操作して動画の再生を一時停止させた。

 

「いやさ、この間【ボマー】から業火のタクトとかを貰ったハナシしたじゃん。さっき一回だけ試してみたんだけど……ちょっと見てくんない?」

 

 一度海水に濡れたんだから、二度も三度も変わらないだろう。

 51層を抜けたら洗浄スプレーでしっかりメンテしないと鋼装備が錆びちゃうな、などと考えつつ……先ほどと同じように参号を海に飛ばして強くなり過ぎた【自爆】を実演させてみる。

 

 ひゅ~……ドゴォォォォォォォォォン!!!!!

 

『たーまやー!』

 

 かーぎやー……って花火じゃねーんだぞ。

 

「【人形召喚】参号。どうよ、これ」

 

 高く打ち上げられた海水の雨に降られて大雨の災害現場から生中継するニュースキャスターみたいになった俺は、再召喚した参号の頭をぐりぐりと撫でた。

 

『これが米兵に恐れられた【ボマー】の真価ですか……末恐ろしい威力ですね。もしこの爆発が起こったのが町中だったらと思うとゾッとします』

 

 高野の言う通り、もしもこれを外の世界で一発でもぶちかましたらその日から俺は空前絶後の爆発テロを起こした国際指名手配犯に早変わりだ。

 まったく、この世界の日本はよく治安が守られているものだと感心する。

 

 いや、俺が生まれた頃にヤバい大事件が起きてたりもするけどね。

 渡航ビザの厳格化と禁職が増えて骨工船での刑務作業が始まる原因となった、その名もDシェパード事件である。

 

「こんなんボス部屋の中で使ったら余波だけで全滅するじゃん。だからこの先のボス戦でどう扱うべきか、お前に相談したくてさ」

 

『うーん、そうですねぇ……。ちょっと待っていてください』

 

 離席して別の部屋からタブレット端末を持ってきた高野はしばらく何かを調べた後、俺にタブレットの画面を見せてきた。

 どうやら彼はダンジョン庁の公式ホームページにあるスキルデータベースから一つのスキルをピックアップしたようだ。

 

「【範囲縮小】?」

 

『これはいわゆるハズレスキルなのですが、装備すると一部の魔法やアクティブスキルの効果範囲が半減してしまうそうです。武器カテゴリーなら割と付きやすいみたいですし、2つ装備しておけば4分の1まで爆発半径を削れますから空間の限られたボス部屋でも十分な効果が期待できると思いますよ』

 

 なるほど、そういうやり方もあるのか。

 【ボマー】の片割れは面会した次の日に安楽死しちゃったからなぁ。

 庭の散策なんてしてないで、もっと装備のこととか聞いておけばよかった。

 

「使い物にならないデメリットスキル付きなら性能の高い神器もワンチャン狙えるか。サンキュー高野、後でじっくり探してみるわ」

 

『いえいえ、このくらいお安い御用ですよ。ハカセさんもダンジョン探索、頑張ってくださいね』

 

「あたぼうよ、今日はがっつり5層くらい踏破するつもりだぜ」

 

 用件も済んだし、高野もアニメの続きが観たいだろうからそろそろ通話を切って探索に戻ろう。

 と、思ったところで下から参号がぴょこっと顔を覗かせた。

 

「あしたはサンのかんちょーぼんばーをみせてやるからたのしみにしておくがいい」

「……じゃ、そういうことで。バイナラー」

 

『フフッ、バイナラー』

 

 思い出し笑いで噴き出しそうな顔をしている高野が手を振りながら【情報共有】を切ったので、俺はメニュー画面を閉じてぐりぐりと肩を回した。

 

耕野豆腐(こうやどうふ)先生のお悩み相談室で【自爆】問題もスッキリ解決してよかったよかった。んじゃ、後半戦を頑張るとしますか」

「おー!」

 

 つよつよ過ぎる新たな力を得た俺達のダンジョン探索は、こうして続いていったのであった。

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