ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第40話 白銀の同伴

 逗子(ずし)海水浴場まで遊びにやってきた俺と萌と高野とJK3人衆であるが、現在は妹の無茶によって穴の開いたイルカの浮き輪をレンタルショップに返却するついでにお昼の買い出しをしたい扶桑(ふそう)レンの付き添いで海の家まで向かっているところだ。

 

「最近のヒロシさんは80層を中心に活動されているとお聞きしましたが、精霊対策はどうされているのですか? 大変ではありませんか?」

 

 物理攻撃主体の人形を前衛で戦わせることしかできないソロの【人形使い】だと普通の手段ではまず対抗できないので、レンはその辺りが気になっているのだろう。

 

 攻略勢の壁とも称される70層より先の階層では、物理攻撃を完全に無効化するスピリット系のモンスターが雑魚敵として普通に出現してくるようになる。

 だから魔法職のいない探索者パーティーはここで一旦立ち止まるしかない。

 

「レンにはまだ話していなかったか。参号の【自爆】でみんな吹っ飛ばしてるよ。音に呼び寄せられてリンクされると厄介だけど、そこは寄せ狩りに適したマップを選べばいいだけだしな」

 

 実際は人形達の武器に【火属性強化】盛り盛りの【火属性付与(エンチャントフレア)】をして楽勝ゲーミングしちゃっているわけだが、それは親友の高野以外は誰も知らない秘密だ。

 

「【自爆】……もしや【ボマー】ですか?」

 

 レンは思い当たることがあったのか、納得したような表情を浮かべた。

 サブカルに弱い外国人の女の子なら知らないかもと思ったけど、地元の大学を飛び級で卒業するほどに超絶優秀な天才美少女キャラは普通に知っていたらしい。

 

「実は俺、【ボマー】の弟子なんだよね。うちの弐号なんて都子(みやこ)さんのシャドウが使ってた鎧装備を貰ったくらいだ。アレ神器だから超強いよ」

「それは、このような場所でお話ししても大丈夫なことなのでしょうか?」

「既に外には漏れてるみたいだし、気にするだけ無駄だと思う。まぁ、ネットで俺を叩いてるアンチにだけは知られたくないけどな」

 

 関西連合パーティーの90層ボス配信で伊佐那岐(いさなぎ)が事故死してからというもの、俺は「星崎聖夜に買収されて伊佐那美(いさなみ)を裏切ったクズ野郎の【人形使い】」としてツイフェミの棲み処である人形使いアンチスレの指名手配犯になっていた。

 

 XDみたいなSNSとか匿名掲示板の色んなスレで俺の個人情報を晒して叩いているのは大体【いけず石】の厄介ファンでイケメン【貴族】の熱心な追っかけをしていた主婦が中心の鬼女(きじょ)連中なんで、無視するほかにできることは何もない。

 

 いちいち開示請求だのなんだのと反応したらそっちの方が大炎上するからな。

 雄弁は銀、沈黙は金、こういうのは鎮火するまで黙っておくに限る。

 

 家とか大丈夫なのって思う人もいるかもしれないが、そっちは普通に大丈夫。

 高レベル探索者向けの警備保障会社DLSOCに大金払って年間契約したんで、スマホ片手に家の周囲をうろつく不審者はすぐに怖い【裁判官】から肩ポンされるぜ。

 

「ヒロシさんが責任を感じる必要はありませんよ。あの方々は自らの無能を棚に上げ、ただ現実逃避をされているだけなのですから」

「天才さんは辛辣(しんらつ)だ。でもな、時に正論は人から嫌われるぞ」

「ふふふ、嫌われるのが【商人】のお仕事ですよ」

「美人ってのは怖いね。下心のある顧客からどれだけ毟り取れば気が済むのやら」

Мой(モイ) золототой(ダラゴーイ) (私の大事な人)。仕事を忘れてプライベートで付き合えるのはヒロシさんだけです」

「そりゃあ、男冥利に尽きるってもんだぜ」

 

 そんなことを話しながら人の多いビーチを歩いていると、俺達の前にブーメランパンツを履いた二人組の男性が立ち塞がった。

 

「美しい外国人のお嬢さんを連れたそこの君!」

 

 見るからに前衛職をしているであろう日に焼けてガン黒な筋骨隆々の男達の姿を見てすわナンパかと思った俺は、か弱い銀髪碧眼ミステリアス白人美少女を庇うように前に出る。

 いつでも人形達を再召喚できるよう身構えたものの――。

 

「いいカラダをしているな! どこのジムに通っているんだ?」

「俺かよ!?」

 

 思わずズッコケるところだったわ。

 

「この筋肉の張り、前衛職ではないな。しかし非常にステータスが高く見える」

「恐らくは魔法職だろう。装飾品抜きでも耐久にかなり振っている。これは間違いなく掘り出し物だ……!」

 

 気色悪いんで、寄って(たか)ってベタベタ肩とか腹筋とか触らないでくれる? 

 あの、本当にお願いだから。

 

「すいません、俺はソロ専なんで勧誘は勘弁して貰えませんか?」

「ソロだと!?」

 

 二人はバッと俺から離れると、驚愕に口をおっ広げた。

 

「なるほど、召喚士系統……ならば【人形使い】か!」

「ふうむ、それは非常に残念なお知らせだ。魔法職でないなら諦めるしかあるまい」

 

 謎の男達はうんうんと頷きながら歩き去っていった。

 俺達はぽつん、とその場に取り残される。

 

「何だったんだろう、今の……」

「どこかの攻略クランに所属されている【蛮族】の方でしょう。私はそれくらいのステータス差を感じました」

「やっぱりレンもそう思う? まぁ、悪い人達ではなさそうだったから良かったよ」

「ふふふ、そうですね」

 

 イルカの浮き輪を借りたレンタルショップに着いたので、俺は店員に事情を話す。

 持ち物は【情報共有】付きの防水腕時計だけでスマホも財布も持ってきていなかった為、近くのATMに行き【収納庫】を使ってストレージから魔結晶貯金を下ろし、それで損害賠償金を支払った。

 

「んじゃ、次は昼飯か。レンはどこの店がいい?」

 

 海水浴に訪れた客に食事を提供する海の家は軽く10を越えるほど林立しており、どこの店を選べばいいのかさっぱり分からない。

 どうやらレンも同じ感想を抱いていたようだ。

 

「私もここにやってきたのは初めてなので、詳しくは分かりません。一つ一つのお店を訪ねてみるしかないでしょう」

「そうするか。どうしても悩んだら【情報共有】で高野に連絡して聞いてみよう」

 

 ということで適当に近くにあった海の家に入る。

 するとそこではなんと、おかっぱの金髪をした糸目でアロハシャツの男が手ぬぐいで作ったねじり鉢巻きを頭に巻いて、ピック両手に大壺蛸のたこ焼きを焼いているではないか。

 

「その顔はヒロシの兄さんやないか。こんなところで会うなんて奇遇やなぁ。おっ、そこの子はワイのテキ屋で大物を落とした凄腕の姉ちゃんやないか! あん時はほんま助かったでぇ、めっちゃ儲けさしてもろうたさかいな!」

 

 コテコテの関西弁を操る胡散臭い糸目の男は、まさしくニコニコ消費者金融の社長をしているヤクザの金田(かねだ)(いさむ)その人だった。

 今更になって気付いたが、この店の屋号は「海の家ニコニコ」である。

 

「おい金田、どうしてこんなところにいやがる。お得意の本業はどうした?」

 

 俺が不快感を隠そうともせず彼の顔を睨み付けると、苦笑いを浮かべた金田はピックを掌の内側に握り込んでから指先でポリポリと頬を掻いた。

 

「ワイの親父(・・)がガキの頃【ボマー】の屋敷に忍び込んでこっ酷うやられたみたいでのぉ、組を潰す気かって死ぬほど怒られたんや。デカいシノギが無かったらケジメでほんっとーに沈められとったで。ほんま、怖かったわぁ」

 

 そのまま東京湾に沈められてしまえばよかったのに。

 いっそのこと、今からでも妹の人間バナナボートを使って沖に捨てちまおうかな。

 

「そんで若頭から下っ端に降格して、こんな場所にいるってわけか」

「よく分かっとるみたいやな。おかげさまで消費者金融の会社も人形風俗のシノギもぜーんぶ取り上げられてしもうた。せやけどな、ワイはぜんぜーんへこたれてへんで! このちっさいシマから再出発して、またてっぺんまでのし上がるんや!」

 

 金田は焼き上がった爆弾サイズのたこ焼きをピックで持ち上げて天高く掲げた。

 こいつは骨工船に落ちても持ち前のバイタリティで簡単に生き残りそうだ。

 不幸の手紙の件なんてもう忘れて、このまま放っておいてやろう。

 

「ま、勝手にしていたらいい。釣りはいらんから、えーと……適当に10人前くらい包んでくれ」

 

 俺が先ほど損害賠償金を支払う時に一緒にストレージから下ろしておいた凸状の黒い魔結晶――日本円にして10万円分の価値がある――を差し出すと、金田は非常に嬉しそうな顔をして受け取った魔結晶をアロハシャツの胸ポケットに仕舞った。

 

「毎度あり、兄さんはいっつも気前が良くてほんっとーに助かるでほんまに。――おい郷田、ヒロシの兄さんに『海の家ニコニコプレミアムセット』を包んでやれや。超特急で10人前やで!」

「うす、金田の兄貴」

 

 祭りの屋台で(つちか)った経験を活かしているのだろう、店内にはアロハシャツ姿でモンモンだらけの強面店員しかいないというのに、客足は一切途絶える気配がない。

 俺はレジ前に行列を作って順番待ちしていた他の客にペコペコと頭を下げる。

 

「なんかすいませんね、割り込んじゃって」

「いえ、大丈夫です……」

 

 邪魔になるといけないので、ちょっと離れたところで人形達を呼び出す。

 単に荷物持ちをさせようと思っただけなのだが、楽しそうにパフォーマンスをしながら大壺蛸のたこ焼きを焼く金田の胡散臭いツラを見た人形達は顔をしかめた。

 

「マスター、どうしてもっと早く呼び出してくれなかったんですか?」

「イチゴの言う通りだ! ここで会ったが百年目、今こそ年貢の納め時だろう!」

「サンはいつでもじばくできるぞ。こんなほったてごやなどいっぱつなのだ」

「頼むからやめてね」

 

 悪の首魁のニコニコ本社ビル――少し語弊がある――を人形爆弾で吹っ飛ばされたのがトラウマになっているのか、行列に並ぶ母親の手を握っている幼女とまるで変わらない年齢のワンピース水着姿をした赤髪ロリロリドラ娘の一挙一投足にビビっている舎弟どもを見てレンは上品に笑った。

 

「ふふふ、とても愉快です。ヒロシさんと一緒にいると飽きることがありませんね」

「どうしてこんなにも変な人間とばかり関わる羽目になるんだろう。まぁ、レンが楽しんでくれているなら別にいいんだけどさ」

「ヒロシの兄さん、婚約者に隠れて浮気はアカンで~!」

「あるじ、やっぱりじばくしたほうがいいかもだぞ」

「それだけはやめてね」

 

 それからしばらくして、出来立てホヤホヤの屋台料理が何種類も入った――海の家ニコニコプレミアムセット、1人前3000円――プラ容器がパンパンに詰まった大きなビニール袋を五つも【芸術家】の舎弟が持ってきた。

 力持ちの壱号と弐号にそれぞれ二袋ずつ持たせ、俺も右手に一袋ぶら提げる。

 

「じゃあな金田、達者でやれよ」

「ほな、さいなら~」

 

 屋号に相応しいニコニコとした笑顔を浮かべて手を振る金田に見送られながら、俺達は大繁盛している「海の家ニコニコ」を後にした。

 

 それから元いたテントの建ててある場所まで持ち帰ってお昼にしたのだが、金田特製の大壺蛸のたこ焼きを食べたみんなの評判は非常に良かった。

 妹なんて3人前をペロッと平らげたくらいだし、多めに買っておいて大正解だ。

 

 【調理師】でもないのにこれだけ腕がいいなら足を洗って料理屋でもやればいいのに、本当にヤクザという生き物はどうしようもない連中である。

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