ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第43話 戦利品売却

 ついに俺達は100層まで到達し、レベルも上限の99でカンストした。

 次のレベルキャップを解放する為には、無敵の第三形態でお馴染みな100層の門番をしている黄金大蛇を倒さなければならない。

 

 今の人形達の火力では例え【自爆】を使ったとしても魔法耐性のある第一形態を抜くことはできないので、しっかりと準備を整えてから挑む必要がある。

 逆に言えば、これで心置きなく自由にボス周回ができるというわけだ。

 

 そういうわけで俺達のレベルがカンストした次の日から横浜海上ダンジョンの90層をひたすら周回して、ボスモンスターの電鋼団子虫を狩る日々が始まった。

 

 こいつは物理耐性が非常に高い上に再生力も超強いという物理職泣かせの強敵だ。

 その名の通り雷攻撃を受けると超絶強化されるので実質風属性は無効の激ヤバダンゴムシくん。

 

 何がヤバいってある程度ダメージを受けるとクルンって丸くなってギャリギャリギャリって高速回転しながら突進してくんのねこいつ。

 ちょっとでも触れたら【武神の祈り】付きの耐久極振りタンクですら一瞬で装備ごとすりおろされて即死する。

 

 まぁ、それさえ避けたらボス部屋の壁にぶち当たって混乱状態になるから、餓者髑髏みたいな厄介なパターン変化がない分90層のボスの中では倒しやすい部類に入るのかもしれない。

 

 もし仮に物理職で戦うのなら、最低でも防御無視の攻撃技がある【侍】か、【貫通撃】や【浸透撃】辺りの攻撃スキルが付いた武器は必須と聞く。

 要するに【火属性付与自爆】戦術を使いこなす俺のカモってことだ。

 

 この電鋼団子虫がドロップする生体装備は現代の全固体バッテリーに必須なメツニウムという超電導レアメタル100%でできている為、1/44の確率で拾える肉のアイテム結晶ですらグラム単価で金より高く売れるっていう神神神モンスターである!

 

 鋼鉄団子虫がうようよいるちょっと危険な――ちょっととは到底言い(がた)い――鉱山を通ってボス周回するだけで金の延べ棒がポンポンドロップするって言えばその凄さが伝わるか。

 まさに現代ダンジョンのメタルなキングが如き最高のボスモンスターだぜ。

 

 俺の攻略法は至ってシンプル。

 1回目の【自爆】で装甲を剥がし、2回目の【自爆】で肉を穿ち、3回目の【自爆】で心臓を完全に破壊してデッドエンドだ。

 

 「テテテテーン♪」またひとつ、何もせずに零号のレベルが上がった。

 

 ボスを倒す時しか出していないからレベル上げはかなり遅れていたが、彼もようやっとレベル50の大台が見えてきたな。

 この調子で頑張るがいい、武器ドロップ狙いで大盾を持った俺の影武者人形よ。

 

「うほっ、今度は肉が2個も同時に落ちたぞ。うんめぇ~、美味すぎてやめられねぇ~」

 

 マップ更新が入ってボスモンスターが変わる前に稼いで稼いで稼ぎまくるぜ。

 その資金で買い揃えた神器で人形達の全身を固めたら、満を持して100層のボスに挑戦するってのが「ぼくのかんがえた最高の探索計画」である。

 

「マスター、そろそろ終業のお時間ですよ」

 

 ストレージに並ぶアイテム結晶のリストを見ながら舌なめずりをしていたら壱号に注意されてしまった。

 夢中でボス周回をしているうちに、もう夕方になってしまったようだ。

 

「ちゃんと分かっているさ。しっかり休むのも探索者の仕事の内だからな」

 

 装備結晶は引けなかったものの、今回のところはこれで満足しておこう。

 いつものように参号にゴスロリ服を着せた俺は、メニュー画面からログアウトしてロビー広場に出る。

 

「相変わらずダンジョンの外は暑いぜ。冷房代ケチってないでクーラーくらい付けたらいいのに。いつか権力を得たら県民を代表して神奈川県知事に直訴してやる……」

 

 俺はそんな恨み節を吐きながら、ドームが全開にされているせいで天から照り付ける日光を忌々しげに見上げた。

 今は真夏だからね、夕方でもまだまだ陽は高い。

 

「このあつさにはさすがのサンもじんこうひふがとけちゃいそうなのだ」

「うそこけ、100℃くらいまでは大丈夫だって萌が言ってたぞ」

 

 ちなみにこの会話は出口に向かってロビーを歩きながら(おこな)っている。

 帰宅ラッシュのピーク中は仕事を終えた探索者が続々とロビー広場にログアウトしてくるので、さっさと移動しないとトラブルになってしまうからだ。

 

「この時間帯だと渋滞に捕まってしまう可能性がありますね。マスター、今日はダンジョン庁に寄ってから帰りましょう」

 

 最近の俺達は自動運転タクシーを使って移動することが多い。

 暑苦しい夏の満員電車に1人で乗るより、クーラーのガンガンに効いた車に4人で乗った方が気分的に楽だ。

 というよりも、金があるのにわざわざ自分から苦しみに行く理由がない。

 

「あんまり溜め込むとストレージが溢れるかもしれないか。よし、そうしよう」

 

 さて、複合施設の端っこにある神奈川ダンジョン庁――ここだけは昼夜問わず働く探索者から散々に抗議を受けたので24時間365日営業だ――にやってきた俺は、高レベル探索者向けの特別買い取り窓口へと顔を出した。

 

「すいません、レアメタルの買い取りをお願いします」

「Dカードをご提示ください」

「はいはい、これね」

 

 Dカードに書かれた名前と職業、そしてレベルを【裁判官】の職員による目視で確認された後、お手持ちのスマートフォンを使って2段階認証。

 更には【罪の天秤】で問題がないことを確かめてから奥の別室に案内される。

 

 ストレージから取り出して現実化(リアライズ)した電鋼団子虫の金属質な肉を一つ一つ【山師】の職員が【元素鑑定】によって3人態勢でチェックした後、専用のベルトコンベアが付いたでかい機械に流して重量を査定し――。

 

―――――

 

 それから30分後、窓口に戻った俺は職員から買取明細書を受け取った。

 夕方から働く夜勤の職員にお礼を言ってその場を後にし、近くのタクシー乗り場で拾った自動運転タクシーに乗り込んで帰路につく。

 

「たまんねぇなぁ、おい」

 

 今回は電鋼団子虫のアイテム結晶を18個も溜めていたから、収入は手数料(ぜいきん)抜きでざっと10億円を越えている。

 道中で拾った不要な鋼鉄肉とか装備結晶は全部バザーに流したので魔結晶貯金もたんまりだ。

 

 流石に90層のドロップ装備となると、地元の大手探索者クランと提携していない小さな鍛冶工房の伊古田製作所では身内価格で安く買い取ったところで全部は捌き切れないからな。

 今後は必要になる強化素材だけを預ける方針に変更している。

 

「マスター、次にオークションで落札する装備結晶は決まりましたか?」

 

 額を見ただけで用済みになった明細書をクシャクシャにしてポケットへ突っ込むと、隣の壱号がそう尋ねてきた。

 

「俺的にはもう少しボスまでの道中を楽にしたいし、そうなると弐号の片手剣かな。でも、武器カテゴリー的に競争率がバカ高いのがね。首尾よく落とせても遠方だと引き取りに行くのが大変だし、それなら周回を優先したい気持ちがある」

 

 片手剣は【剣術】系のスキルを持つ前衛職なら大抵使えるので、オークションでも他の武器カテゴリーの数倍の相場になる傾向がある。

 

 武器縛りの技術系スキルを持たない人形は普通に何でも使えるけど、折角の女騎士人形に色物武器を持たせると絵面的に映えないし選択肢から外していた。

 なにせ、そういうのは壱号と参号だけで十分に間に合っている。

 

「スキルなしとはいえ、私にはこの電鋼の剣があるからしばらくは問題ないだろう。マスター、そろそろ高級オークションを狙ってもいい時期ではないか?」

「あれって国家認定の攻略クランに入ってないとチケット流して貰えないからなぁ。一度、閣下が世話になってる名軍師に連絡して聞いてみた方がいいかもしれない」

「サンはどらごんのつのがほしいぞ」

「参号に必要なレアスキルの付いた神器の頭装備があれば一番いいんだけどな。そう簡単には見つからないさ」

「むー、ざんねんきわまりないのだ」

 

 適当に人形達と駄弁っているうちに、自動運転タクシーは自宅の前で停車した。

 ダンジョン庁で結構な時間を使っちゃったから、お外は既に真っ暗だ。

 もう家族は夕飯を済ませた後だろうか。

 

「……ん?」

 

 タクシーから下りる時は暗くて気付かなかったんだけど、よく見たら来客用の狭い駐車場に黒塗りの高級車が止まっている。

 近くに行って覗き込んでみたが、中に運転手らしき姿はない。

 

「もしやと思うが、金田(かねだ)の野郎じゃねぇだろうな……?」

「ほんとうにいたら、けつにゆびをつっこんでおくばをがたがたいわせてやるのだ」

「汚いからやめてね」

 

 念には念を入れて人形達は武器を抜いた状態で送還しておく。

 指示して動いて貰うより、無詠唱で即時召喚した方が一手早く動けるからな。

 伊佐奈美の屋敷でやったみたいな感じでいつでもどこでも対応できるぜ。

 

 準備が整ったところで鍵を開けて玄関に入る。

 玄関には女性用の靴が二足だけ置かれていた。

 家族の靴は雨の日以外は常に靴箱に入れているので、間違いなく来客のものだ。

 

(かす)かに(ただよ)うこの柑橘(かんきつ)系の香水の匂い、望月京子か」

 

 伊佐那岐が抜けた戦力の穴を埋めるべく、クランに所属していないレベル99の野良専探索者を勧誘して回っている話は実際に勧誘を受けた卑弥呼からも聞いている。

 

 決行日を2日後に控え、いよいよ彼女も後が無くなってきたらしい。

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