ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第47話 俺だけ使える第二職業

 体育館よりも広いボス部屋に侵入した俺達を迎えたのは、既に石室の中央に出現済みの見上げるほどに巨大な黄金大蛇だった。

 どうやら100層の門番はリスキルをさせてくれるほど甘くはないらしい。

 

「前衛、急げ!」

 

 京子の激励を受けた前衛は床を蹴って黄金大蛇へと駆け出す。

 まるでブースト移動したかのような勢いで真っ先に飛び出したのは、【重戦士】の佐々木三郎太。

 

 耐久値を筋力値に加算する【金剛力】を瞬間的に使用して爆発的な筋力を得るのが鍛え抜かれたタンクの本領だ。

 レベル分の耐久値を増加させる特殊な自己バフ【武神の肉体】を行使した【重戦士】ならばその倍率も更にドン。

 ただでさえ装備枠を+3する【重装備】を持っているのに、チート過ぎるぜ。

 

 赤備えの要塞が両手で構えた大盾で最初の噛みつき攻撃を耐えると、その両サイドを回り込んだ壱号と藤堂ララ、伊佐那美と九鬼菊花が武器を振るった。

 黄金大蛇の第一形態は魔法無効、物理攻撃でしか傷を与えることは不可能だ。

 

 ぐるりと薙ぎ払うように回転した黄金大蛇の尻尾攻撃を伊佐那美が右手で構えた青銅色の盾――八咫鏡(やたのかがみ)――で耐え、大斧を肩に担いだ菊花は持ち前の反射神経でジャンプ回避。

 

「ぐっ……」

 

 壱号もなんとかギリギリで後ろに下がって回避したが、鬼兜を被った武者姿のララはやすりのような黄金の鱗で足のすねを削られてしまった。

 慌てて一条マリアが首に提げたロザリオを両手で握り込み、回復しようとする。

 

「【霊神の癒し】……」

「待てっ!」

 

 京子が制止する間もなく、マリアの超強力な持続回復がララへと飛んだ。

 その瞬間、鬱陶しい前衛に向けられていた黄金大蛇の瞳がマリアのみを凝視する。

 

「いかんっ!」

 

 黄金大蛇はブースト移動して盾になろうとした三郎太の脇をすり抜けて、一直線に離れた場所にいる俺達の方へと向かってきた。

 速い、いくらなんでも速すぎる!

 

「ここは私が! 【仁王立ち】!」

 

 前に飛び出した弐号が構えた盾で黄金大蛇の鋭い牙を【仁王立ち】で受けると、全ての運動エネルギーが彼女の全身に降り掛かった。

 

 陶器で構成された弐号の身体が人工皮膚の外装ごと大きくひび割れるが、一瞬だけキラリと光って【武神の祈り】による致命回避が発動したことで九死に一生を得る。

 俺は弐号が機能を停止する直前に送還し、追加の魔力を消費して新品に戻した。

 

「【人形召喚】弐号」

「かたじけない、マスター!」

 

 マリアの前に弐号を再召喚した瞬間、彼女を食い殺そうと鎌首をもたげていた黄金大蛇は曲がれ右をして背中を見せる。

 

「そないに浮気してへんで、ウチを見ておくれやす……」

 

 伊佐那美が自己【治癒魔法】を用いて、マリアに向いていた黄金大蛇のヘイトをどうにか奪い取ったのだ。

 

 ピアス装備でHP上限を99%に固定することで、ヘイト獲得量の最も多い【治癒魔法】を最小限の魔力消費で連打することが可能となる。

 相応の痛みを伴うから覚悟は必要だが、魔法盾にはそうするだけの価値があった。

 

「削れ削れ削れ! ハハハハハ!」

「【武神の一閃】! チィ、回復が早すぎる!」

 

 ボス部屋の中央で伊佐那美が【受け流し】によって黄金大蛇の攻撃を耐えている間に、尻尾の方に取り付いた菊花、ララ、壱号がひたすら鱗を削ってダメージを稼ぐ。

 【侍】の覚醒スキル【武神の一閃】は防御無視の一撃を放てるが、硬い敵じゃないとそこまで効果はないだろうな。

 

「よくやった、ヒロシ」

「この程度で褒めるんじゃねぇ。マリアは弐号が絶対に守るから、前衛だけは死なせてくれるなよ」

「わ、分かっています……!」

 

 ま、撮影役のカオりんが踊りながらバラ撒いている【武神の祈り】があれば伊佐那岐のように即死するようなことはないし、安心して見ていられるってもんだ。

 

―――――

 

 十数分後、ボス部屋の中央で暴れ続けていた黄金大蛇の動きが止まった。

 ピシピシと音を立てて黄金の鱗が剥がれ落ちて消滅し、その下からより色の濃い黄金の鱗が現れる。

 

「第二形態に入ったな」

 

 黄金大蛇の第二形態は完全な物理無効で、先ほどとは異なり魔法でしかダメージが与えられない。

 

「貴様の本気を見せてみろ、ヒロシ」

「ハン、舐めんな。参号、やれ」

「やっとでばんなのだー!」

 

 床に押し付けた蛇尻尾をびょーんとバネのように伸ばした参号は、勢いよく黄金大蛇に向かって飛んでいった。

 小さな足で走るよりも速いからボス戦の時の参号はいつもこういうやり方をする。

 

 慌てて離れていく前衛を尻目に空中から長く伸ばした蛇尻尾を黄金大蛇の首筋にシュルシュルと巻き付けた参号は、蛇腹の収縮によって背中からピタッと黄金大蛇の首にくっ付いて【自爆】した。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 想定以上の強い爆風に巻かれて吹き飛ぶ前衛を見ながら、俺は魔力を消費して新品に戻した参号を再召喚する。

 ダメージを確認するまでもない、行動される前に淡々とHPを削り続けるだけだ。

 

「まだまだいくのだー!」

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 何度も何度も空を飛んでくる人形爆弾に黄金大蛇は一切行動できない。

 なんせ、ヘイトを向けるべき相手は既に死んでいる。

 せいぜいできるのは噛みつこうとして口の中を吹き飛ばされるくらいだ。

 

「じばくじばくじばくー!」

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 しかし、業火のタクト抜きの縛りプレイではそこまで火力は出ないな。

 俺も本当は使いたいのだが、これ以上爆発半径を広げて万が一にもタンクの防具が破損してしまったら困る。

 一応、無詠唱でこっそり参号の核に【火属性付与(エンチャントフレア)】はしているんだけど、首元がちょっと抉れたくらいでその傷もすぐに再生していた。

 

「どーらーごーんー!」

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 俺はメニュー画面のストレージより取り出したアイテム結晶から現実化(リアライズ)した魔力回復ポーションを頭から浴びながら【自爆】特攻を繰り返させる。

 

「たーのしー!」

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 おっと、ここいらでカルシウム補充用の治癒ポーションを一つまみ……。

 

「こ、これが【ボマー】……」

「いつ第三形態に入るか分からん。今のうちに心の準備をしておけ」

「ああ、分かっている……」

 

 待つことしばらく、黄金大蛇は動きを止めて再び脱皮した。

 黄金色をした鱗の輝きはこれまでよりも更に色濃く染まっている。

 俺は再召喚後にまた特攻しようとしたロリロリドラ娘に念で命じて制止しておく。

 

「あるじあるじ、サンはもっとじばくしたいのだ」

「俺達の仕事は終わりだ。さて、お手並み拝見といこう」

 

 京子は両手で八雷神(やついかづち)を構えると、形態変化中の黄金大蛇を睨んだ。

 長杖の先にバチバチと音を立てて魔力が集中し、プラズマの光が生成される。

 

「【魔神の恩寵】! この一撃に全てを懸ける……!」

 

 ヒュン、と放たれたプラズマ弾は黄金大蛇の脳天を直撃し、えげつない雷の光をボス部屋の全域に撒き散らした。

 ダンジョン内でのフレンドリーファイアが無効になる優しい仕様でなければ、味方は攻撃の巻き添えになって全滅していただろう。

 

「やったか?」

 

 当然だけどその程度で第三形態の特殊な魔法耐性を抜けるはずもなく。

 黄金大蛇はピンピンとした様子で首を横に振っていた。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

 絶句する京子をよそに、刀を鞘に納めたララが黄金大蛇へと突進して渾身の居合斬りを食らわせる。

 

「【武神の一閃】!」

 

 パキーン、と音を立ててバカ高い神器の刀が真っ二つにへし折れた。

 

「何ィ!?」

 

 当然だけどその程度で第三形態の特殊な物理耐性を抜けるはずもなく。

 黄金大蛇はピンピンとした様子でヘイトを取った伊佐那美の方を見つめていた。

 

「ヒ、ヒロシ……貴様の【自爆】で……」

「えー、じゃあやってみるけどさー」

「またじばくできるのだー!」

 

 再び蛇腹尻尾ジャンプで空を飛んだ参号爆弾を首筋にくっ付けて、味方が退避したタイミングで【自爆】させてみる。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 当然だけどその程度で第三形態の特殊な魔法耐性を抜けるはずもなく。

 煙の中から現れた黄金大蛇はピンピンとした様子で伊佐那美の背中を追っている。

 

「【人形召喚】参号。やっぱり駄目みたいだな」

 

 京子は余裕な態度をしている俺の襟元を掴んで思いっきり迫ってきた。

 

「きっ、きききき貴様! 何か手はあるんだろう!? あると言え!」

「おいおい、最初から第三形態はお前らの仕事だって話だっただろう」

「貴様は死が怖くないのか!?」

「俺にはヘイトを受け持ってくれる人形がいるからよ、次のマップ更新まで2ヵ月くらい天井近くの壁でビバークして焼肉食いながら耐えられるぜ」

「こっ、ころ……!」

 

 いくらなんでもブチギレ過ぎだろこの女。

 視聴者の前でこんな無様な姿を見せてもいいのかよ。

 

「マスターから手を放せ!」

 

 弐号が背後から京子を羽交い絞めにして引き剥がした。

 

「フーッ、フーッ!」

「あるじあるじ、へんなかおをしているのだ」

「言ってやるなよ、可哀想だろ」

 

 人に見せられないような顔をした京子は荒い息をしながら全身からバリバリと雷を放っているようだが、ダンジョン内ではフレンドリーファイアができない優しい仕様になっているので俺達には一切効いていない。

 

「ど、どうしたら……」

 

 何の手立てもないマリアはおろおろとするばかりだ。

 前衛は頑張って絶望的な戦いを続けているのに、後衛は未だに内ゲバをしている。

 

「京子ちゃん、もうやめてぇー!」

 

 ああっ、カオりんがものすごく辛そうな顔をして京子の胸元に泣きついた。

 そんな状態でも足元はリズミカルなステップを踏んだまま、【五彩の舞い】のバフだけは何があっても切らさない【踊り子】の(かがみ)だ。

 

「済まない、(かおる)。取り乱した……」

 

 カオりんの愛の力で正気を取り戻した京子は弐号の羽交い絞めから解放され、静電気でボサボサになった白髪を手櫛で整えた。

 それからカオりんが発動している【情報共有】画面に向かって深く頭を下げる。

 

「私が愚かだった。自らの保身と無能を棚に上げ、仲間の信頼と視聴者の期待を裏切ったことを大変申し訳なく思っている」

 

 目にも止まらぬ速さで書き込まれ続けるチャット欄の多くはケツ上げ土下座しろのコピペで埋まっているようだが、京子は完全無視を決め込んだ。

 

「んで、何か対抗策はあるか?」

「何もない」

 

 俺は顔に手を当てて、大きく溜め息を吐いた。

 

「はぁ~……」

 

 首尾よく謝罪の言葉を引き出せたわけだし、お遊びの時間はここまでにしよう。

 ここから生きて帰りたかったらケツ上げ土下座しろって詰めてもいいんだが、喧嘩をしている間に前衛が事故って死んだらそれこそ大惨事だ。

 

「カオりん、俺を撮れ」

「えっ……うん、分かった!」

 

 黄金大蛇と戦う仲間達の方に身体を向けた俺は、目を閉じて深呼吸をする。

 

 まったく、どうしてこうなったのやら。

 俺は一人でダンジョンに潜って、一人で黄金大蛇を倒したかったってのによ。

 ま、添い遂げると決めた相手の為ならどんなことでもやるのが男ってもんだろう。

 

 気合を入れた俺は目を開けると、慣れた所作で【人形召喚】スキルを行使した。

 

「【人形召喚】零号」

 

 床に召喚陣が浮かび、堕天使みたいなポーズで片膝立ちをした零号が姿を現す。

 高そうなスーツに身を包んでいる俺と同じ顔をした影武者人形は、両手に持った紅い金属製の指揮棒のような見た目の業火のタクトを頭上に捧げた。

 

 俺は業火のタクトを手に取って零号を送還する。

 注目を集めるようにゆっくりと右腕を上に挙げ、タクトの先を天に向けて叫んだ。

 

「星崎聖夜、見ているか! 京子が絶望している様をでけぇビルの社長室でワイングラス片手に鑑賞して、さぞや気分がいいだろう! 俺はてめぇが大嫌いだ! 一度ならず二度までも人の女に手ぇ出しやがって! 俺が今ここに立っているのは、全てお前の行動が引き起こした結果だ! 喜べ、今すぐてめぇをその天国みたいな社長室から地獄の骨工船まで突き落としてやるぜ! 覚醒スキル、【霊神の偏愛】!!!」

 

 一つ、二つ、三つ、四つ。

 ポツポツと、俺の周囲に赤い人魂が浮かび上がる。

 隣に立っていた京子は、言葉もなく息を呑んだ。

 

「【火属性付与(エンチャントフレア)】!!! 【火属性付与(エンチャントフレア)】!!! 【火属性付与(エンチャントフレア)】!!! 【火属性付与(エンチャントフレア)】!!!」

 

 業火のタクトを振り下ろし、遥か前方で黄金大蛇との戦いを続ける仲間達にも聞こえるよう、大きな声でスキル名を叫ぶ。

 

 俺の意思に従った火精霊達はまるで磁石に引き寄せられるかのように、黄金大蛇の薙ぎ払い攻撃を必死に回避し耐えている仲間達の武器へと向かっていく。

 

 壱号の大鎌に。

 藤堂ララの骨刀に。

 伊佐奈美の槍に。

 九鬼菊花の大斧に、美しい炎のエフェクトが宿った。

 

(とお)った!!!」

 

 藤堂ララの振り抜いた緋色の骨刀が、まるでバターでも切り裂いたかのように黄金大蛇の蛇身に赤い線を引いた。

 

「ヒロシはん、愛してる!!!」

 

 突然の痛みに身を大きくよじらせた黄金大蛇の鎌首を八咫鏡(やたのかがみ)で斜めに受けて横に反らした伊佐奈美は、行き掛けの駄賃のように赤炎を纏う天水鉾(あまのみなほこ)の槍先で黄金の鱗を焼き抉る。

 

「遅いですよ、マスター」

 

 炎を宿した大鎌で尻尾の先を焼き斬った壱号は、防御をかなぐり捨てて緋色の骨刀を振り回すララをカバーするように立ち回っているようだ。

 いつも世話を掛けてごめんね。

 

「【武神の舞い】! うらあああああああああああ!!!」

 

 蛇身が伸び切ったタイミングを見計らい、燃え盛る大斧を両手に構えた菊花が勢いよく助走して飛び上がる。

 

 ズガァァァァァン!!!

 

 大斧は強固な床に地割れを作り、黄金大蛇を横から真っ二つに叩き割った。

 普段のボス戦ならばこれで終わるはず、しかし――。

 

「油断するな! まだ終わってなどいない!」

「その通りじゃあ!」

 

 京子の激励よりも早く【金剛力】でブースト移動した三郎太が、床に刺さった大斧を引き抜こうとする菊花に迫った黄金大蛇のアギトを大盾で防いだ。

 【仁王立ち】を使ったのだろう、ひび割れた頬から吹き出した血が宙を舞う。

 

「菊花を守ってくれてありがとうな、三郎太はん」

 

 伊佐奈美がピアスの刺さった舌先をチロッと出して三郎太に【治癒魔法】を使用すると、失われた下半身の高速再生を続ける黄金大蛇のヘイトが彼女に向かった。

 八咫鏡(やたのかがみ)の【受け流し】で勢いを反らし、その隙に他の前衛が更なる火傷を負わせる。

 

「勝ったな」

「ああ……」

 

 それから十数分後、【精霊使い】の加護を得た前衛からメタメタに切り刻まれて再生能力が尽きた黄金大蛇はようやく地に伏せ、息絶えた。

 床の魔法陣が活性化し、ボス部屋の中に全員のレベルアップ音が響き渡る。

 

 うーん、非常に(やかま)しい。

 ポコモンマスターの俺も大概だが、カオりん……持ち歌がフルで流れるのはやり過ぎだと思う。

 

 さて、これ以上何も語ることはない。

 ちょっとだけ101層を見学して、観衆の待つロビー広場に帰るだけだ。

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