第49話 衆英社オンライン
3.Silver Christmas Eve――白銀のクリスマスイブ――Game Start.
日本の100層の壁が【クレセントムーン】によって完膚なきまでに破壊された直後、新たに出現した地球人類における200層の壁。
それこそがこれまで米国が秘匿してきた攻略情報を全面的に公開した理由だった。
グローバルマップの消失による人海戦術の封印。
プライベートマップの4人パーティー制限。
メニュー画面、及びストレージの使用禁止。
【情報共有】、【通信】といった外部連絡の遮断。
そして……マップ更新による退出不可。
【治癒士】の第二覚醒スキル【霊神の願い】によって蘇生された
【踊り子】の切り札である【武神の祈り】は口腔より発射されたレーザーブレスによって一瞬で剥がされて即死。
黄金大蛇ほどではないが高い物理耐性を持ち、致命傷を受けても
アメリカ合衆国とソビエト連邦はこの50年間にも渡って何度も何度も決死隊による挑戦を繰り返したものの、どうあがいても倒せなかったので諦めたというわけ。
これもいい機会だから日本に新たに現れた第二職業持ちの英雄【ドールマスター】大木土博士とインド最強の第二職業持ち【双頭の女神】アニカ・シャルマー/オニカ・シャルマーを召集して人類代表パーティーを作ろうというのが国際連合の主張である。
厚顔無恥とはまさにこのことだ。
欲の皮の突っ張った腐れ資本主義者どもはあの手この手で他国の頭を押さえつつ、【呪術士】の第二覚醒スキルで簡単に生み出せるグラビティメタルで世界経済を丸ごと牛耳っていたんだぞ。
ソビエト連邦にしたって30ヵ年計画で完成させた人民管理AI「ルサールカ」の力で創り上げた完璧な
どうせ200層を越えて不老不死を現実化する【隠者】の第三覚醒スキルを手に入れたらまた内ゲバを始めるつもり満々の癖に、人間ってのは本当に救いようがない生き物だ。
こんな有様じゃ、いつまでも旧石器時代で生き続ける50層のレプティリアンどもに馬鹿にされても仕方のないことだろう。
「ここが衆英社の本社ビルか。どうしてもって頼まれたから取材の話を受けたけど、何を聞かれるか怖いなぁ」
その日の俺は東京都千代田区一ツ橋にあるオフィスビルの前に立っていた。
記事に載せる写真の撮影もしたいとのことで、外歩き用のゴスロリ服を着た参号以外は普段の探索者装備に身を包んでいる完全武装の状態だ。
「話したくないことは黙秘権を行使して答えなければいいのではありませんか?」
「そりゃそうだけどさ、せっかくの機会なんだから凄い爆弾発言とかしてみたいじゃん」
「このびる、じばくでぶっこわしたらすごくおもしろそうなのだ」
「冗談に思えないからやめてね」
自動ドアを潜った先で受付の人に話を通すと、すぐに担当の人がやってきた。
くたびれたスーツを着たどこにでもいそうな無精ひげのおじさん記者は、ボサボサな小麦色の髪を手で掻きながらぺこりとお辞儀をする。
「どうもどうも、初めまして。私が取材をお願いした
俺は彼から受け取った名刺を読まずに懐へと仕舞い込んだ。
「ま、ダチの担当編集に頼まれちまったからな。お宅も忙しいだろうが、うちの参号が気になるらしいから先に少しだけ遊ばせて貰ってもいいか?」
こういう場所には来客用に自社が版権を持っている人気漫画キャラのでかいスタンドとか非売品のグッズとかが飾られているんだよね。
幼女人形のロリロリドラ娘はさっきから目を輝かせて、今にも駆け出しそうなくらいにウズウズとしている。
「ええ、ええ。もちろん構いませんとも。今日はお気の済むまで楽しんでいってください」
「おお、それはとてもうれしいのだ。いくぞあるじ!」
「また走って転ぶなよ」
「へいきへいき、どわーっ!?」
「言わんこっちゃない……」
俺達は参号が満足するまで社内見学に付き合った後、記者に案内された応接室で取材を受けることとなったのであった。
―――――
――初めまして、衆英社オンラインのたわらワタルと申します。本日はよろしくお願いします。
「初代ポコモンのチャンピオンみたいな名前だな」
―—よく言われます (笑)。
「【ドールマスター】こと大木土博士だ。みんなもポコモンゲットじゃぞ~」
――これ以上は危ないのでやめて貰えますか?
「じゃあ、さっさとインタビュー済ませてくれない? 俺ってこう見えて結構忙しいんで」
――普段はこの時間帯、探索の仕事はお休みして日課のトレーニングをされているとお聞きしましたけど。
「そうそう、課金の日ね。火曜金曜、課金の日。いい語呂合わせだろ。お前らも筋トレする時に真似していいよ」
――私も真似したいところですが、あいにく仕事がありますので (笑)。
「俺だって本当はサラリーマンになりたかったよ。職歴なしの中卒低レベルニートにはどうあがいても無理だったから諦めたけどさ」
――最初の質問なんですが、ヒロシ氏はどうやって第二職業を獲得されたのですか?
「突っ込んだことを聞くね。別に答えてもいいけど」
――えっ、本当にいいんですか?
「そこまで必死に隠すようなことでもないし。ざっくり言うと、俺って並行世界の日本からきた異世界人なんだよね。後天的に第二職業持ちになったのも多分それが原因。ダチの耕野豆腐が描いてる漫画を読めば世界観については大体分かると思うよ」
――突拍子もないお話ですね。ところで、その原因については何かご存じですか?
「さぁ、普通の社畜をしてたのにいきなりダンジョンがある現代ファンタジー世界に飛ばされた俺にはさっぱり。入れ替わりで俺の世界に渡ったもう一人の大木土博士に聞いた方が早いんじゃないかな。どうしても知りたいんだったら、実家の近くで【天神の追想】でも使えばいいわけだし (笑)」
――聞けるなら聞きたいくらいですが、【裁判官】の私には難しいようです。それでは次の質問ですが、弊社のWeb漫画サイトチャンプ+で好評連載中の「ダンジョンのない平和な世界」の作者である耕野豆腐先生との出会いについて教えて頂けますか?
「それお前が知りたいだけだろ」
――きっと読者の皆様も知りたがっていると思いますよ。
「まぁいい。俺はあいつがこの世の全てに絶望したような顔で公園のベンチに座って、砂場で遊ぶ幼女をジーっと見ていたからお巡りさんに通報しようとしただけだ。【芸術家】だったら間違いなく【自爆】していたね。ま、実際は姪っ子の子守りをしていただけなんだけどさ」
――それは本当のことですか?
「【罪の天秤】を使ってるんだから本当だって分かるだろ。そんであいつな、連載を打ち切りになったせいで婚約者に浮気されて捨てられたんだってよ。お前んとこの編集のせいだぞ」
――それを私に言われましても。一応、伝えてはおきますが。
「よろしく。そういう経緯で俺はあいつとダチになったってわけ。ネームのネタ出しにもめっちゃ付き合ったよ。元いた世界で人気だった漫画の話とかしてな。まぁ、あいつの漫画には一切活かして貰えなかったんだけどさ」
――並行世界の日本の漫画、凄く興味があります。詳細なプロットを知る耕野豆腐先生にどうにか再現しては頂けないものでしょうか?
「【贋作師】のタイパラ野郎になりたくないから嫌だって断られたんで絶対に無理。あいつすぐ影響される癖に頑固なところがあるから」
――それは残念。
「他に質問は?」
――ヒロシ氏は今後、どのように探索活動を行われるつもりですか?
「常に安全マージンを確保しつつ、強い装備を集めて金になる倒しやすいボスをひたすら周回する。それに尽きるね」
――攻略の最前線を走るとか、そういう感じではないんですね。
「つっても200層までは既に踏破されているわけだし。そこまでは自分のペースでゆっくり行かせて貰うとするよ」
――国際連合から召集を受けているともお聞きしていますが。
「それこそ準備を怠るわけにはいかないからな。最低でも1年は見ておきたい」
――ヒロシ氏のお考えはよく分かりました。次の質問ですが、ヒロシ氏はあの【ボマー】の弟子とお聞きしています。どのような経緯で知り合ったのですか?
「ジムに行く金ねーから近所の健康増進センターで筋トレしてたらマサ爺に絡まれたってだけ。
――背筋がゾッとするような話です。夜眠れなくなったらどうしてくれるんですか。
「うちの参号が庭木の下からしゃれこうべ掘り出してさ、泣きついてきたんだよね。今でもあの日のことは夢に見たりする (笑)」
――想像すると少し落ち着いてきました。さて、次で最後の質問になります。
「想定していたよりも少なかったな。そんなやり方で記者が務まるのか?」
――規定文字数を越えると原稿料が出ないので。ヒロシ氏は最終的にどのような目標を掲げて探索を行っているのですか。やはりダンジョンの完全踏破でしょうか?
「そりゃあ、探索者たるものゲームクリアを目指すのは当然。俺的にはもっと社会全体の利益になるような結果を出したいとは思っているんだけど、なかなかどうして難しい」
――ヒロシ氏はあの演説一つで既に十分なほど日本社会の利益になることをしたはずですが……そんな貴方の語る社会全体の利益とは?
「こっちの世界にいた俺って自分の職業が好きじゃなかったみたいなんだよね。学校でイジメられたのかどうか知らんけど、少なくとも10年近くダンジョンに潜ろうともしなかった。そういうのって凄く嫌だから、できれば日本人だけじゃなくて世界中にいる全ての子供が自分の望む職業に就けるような社会になったらいいな、と個人的には考えているよ」
――その為には数えきれないほど多くの無職のオーブが必要になります。
「だからまぁ、それは最終目標。恐らく【無職】のレベルを400まで上げたら無制限に他人を転職させることが可能になるんじゃないかと睨んでる。レベル150で第三覚醒スキルが解放されなかったわけだし、この先は100刻みになるかなって」
――150層のボスである爬虫死人は第三覚醒スキルを使ってくるらしいですね。
「そうそれ。死ぬほどレベル上げが大変だけど、350層まで【無職】の足手纏いを連れて行ったら分かると思うから頑張って検証してみて欲しい」
――気が遠くなるような話です。
「ハナから諦めて何もやらないよりはマシだ。とはいえ、まずは下を底上げするところから始めるのがいいだろうな。そうすりゃ、骨工船も多少は楽になるだろうし。今後は深層で手に入れた装備結晶を京子経由で流すつもりだから、攻略に挑む気概がある連中はそれでどうにか頑張ってくれ」
――本日はどうもありがとうございました。
「んじゃ、そういうことで。バイナラー」
――バイナラー。