ドールマスターヒロシ   作:我島甲太郎

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第51話 自衛隊vs黄金大蛇

 神奈川県と静岡県に離接している相模湾(さがみわん)は、陸地から船で数分行っただけの距離でも水深が1000mを越えるような深い地形が特徴とされている。

 

 こんな場所にダンジョンモノリスがぶっ刺さっても普通は海底深くに沈んで利用不可になってしまうはずなのだが、運よく先っちょが海底の山の部分に刺さったことで漆黒の四角柱が20mほどちょこんと海上に飛び出すような形になった。

 

 そうして空間に座標固定されたダンジョンモノリスを基礎にして建造したのが、ここ相模湾(さがみわん)ダンジョンのある人工島だ。

 

「や、やっと着いた……」

「お疲れ様です、マスター。よく頑張りましたね」

 

 人形達の献身によりどうにか意識を保ったまま水上艦艇からコンクリートで固められた極小の港に降り立った俺は、産まれたての子鹿のようにプルプルと足を震わせながらもホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「既に探索の準備は整っております。ダンジョンモノリスの前に到着次第、ダンジョン内へと転移しましょう」

「あ、はい……」

 

 俺は弐号に肩を支えて貰いつつ、足早に進む更科(さらしな)つばさ1等空佐の後を追う。

 基地の中には日の丸印の輸送ヘリやジェット戦闘機の格納庫なんかも建てられていて、ミリタリーマニアなら見ただけで飛び上がるほど喜びそうな感じだった。

 

 見た感じ俺達が上陸した人工島の東側を自衛隊基地として利用し、分厚く高い壁で仕切った西側を50層の骨工船で働く受刑者の刑務所として利用しているようだ。

 ダンジョンは入った場所の近くにログアウトする仕様になっているので、こうしておけば使い分けることも容易なのだろう。

 

 とはいえ基本は戦時に使う緊急用のシェルターだから、自衛隊員や防衛大生の訓練なんかは内陸の自衛隊基地や防衛大学校にあるダンジョンモノリスを使っているらしい。

 

 人工島の重量を支える為か、スチームパンクみたいな内装の屋内にある漆黒の四角柱は、橋に使われるような金属製の巨大構造物でガチガチに固められている。

 表示板がなければここにダンジョンモノリスがあるなんて分からないくらいだ。

 

 護送車での移動中にフレンドIDを交換してパーティー加入も済ませてあったので、俺達は更科(さらしな)1等空佐のメニュー画面操作によってグローバルマップの100層にある石室へと転移した。

 

「お待ちしておりました、更科(さらしな)1等空佐!」

 

 囚人が規則を破って侵入した場合に備えてだろう、拘束用のネットランチャーを手に待機していた数人の自衛隊員がビシッと敬礼する。

 同じくビシッと敬礼を返した更科(さらしな)1等空佐に続いて石室の外に出ると、そこには見たこともないような光景が広がっていた。

 

 まず目に入ったのは石室の周囲の敷地を囲う壁に埋め込まれた魔改造ゴーレムだ。

 【地神の恩恵】で巨大化した高さ10m近くもある金属製の強固な防壁の上に対戦車ライフルを構えた【銃士】が何十人も待機し、遠方のモンスターを狙撃している。

 

 上空には編隊を組んだ無数の魔鳥が巡回しており、鳥型モンスターを湧いた端から数の暴力で圧殺していた。

 属性魔法の光が時折見えるので、精霊対策の魔法職も何人か乗っているようだ。

 

 【楽師】の軍楽隊は陣地のど真ん中で楽器を演奏して敷地内に【五彩の音色】の全ステータスバフを振りまいているし、物資の集積所から(せわ)しなくポーションや銃弾が詰まった箱を【銃士】の狙撃手に運んでいる【通信士】の姿まであった。

 

「いくらなんでもやりたい放題過ぎるだろ……」

「こ、これがこの国の軍隊……なんと精強な……!」

 

 女騎士のロールプレイご苦労様、弐号。

 

「まずは作戦室に案内します」

 

 陣地内に張られていた薄緑色の大きな天幕の中に入ると、そこでは見るからに高い階級を持っていそうな風格をした十数名の自衛隊員がでかいテーブルの上に広げられている100層の地図を(にら)み付けていた。 

 

 設置された巨大モニターには100層の航空図が表示されており、動いた光点から魔鳥の移動経路が視認できるようになっている。

 ひいふうみい……最低でもこの100層の上空には魔鳥が80羽は飛んでいるようだ。

 

 【魔鳥進化】を含めて一人4羽として、少なくとも二十人はレベル99の【魔鳥使い】がこの陣地内にいる計算になるか。

 自衛隊がどれだけこの作戦に力を注いでいるかが分かるというものだ。

 

更科(さらしな)つばさ1等空佐、ただいま大木土博士殿をお連れしました!」

 

 再びビシっと敬礼した更科(さらしな)1等空佐に敬礼を返した自衛隊員の中で最も偉そうで最も老けた顔をしているガタイのいい軍服姿の爺さんが俺に話し掛けてきた。

 

「君が宮本雅史(まさし)の弟子か。なるほどどうして、見るからに性格の悪そうな顔をしている。あの男が気に入るわけだ」

 

 どうやらこの自衛隊基地のトップはマサ爺と面識があるようだ。

 

「性格の悪そうな、は余計だ。早く家に帰りたいからさっさと仕事の話をしてくれ」

「目上の者に対する態度がなっておらん。君は社会に出たことがあるのか?」

 

 そりゃ、元の世界では社畜をしていたからそれなりにはあるけども。

 こっちの世界の俺は学のない中卒ヒキニートをしていた探索者なのだから、敬意を持つべき相手以外に対しては敬語を使う必要なんてないと思っている。

 

赤峰(あかみね)空将、説教もいいですが先に作戦内容の説明をお願いします」

「分かっているとも。さて、君にはこれより第一空挺部隊の指揮下に入り、黄金大蛇討伐のサポート役をして頂くことになる。ボス部屋までの移動を10分、戦闘を1時間として本日中に最低5周を目標とする。何か質問は?」

 

 さっきは陸路で2時間弱も掛かった移動時間が空路ならばたったの10分か。

 人を背中に乗せて空を飛べる魔鳥ってやつは本当にズル過ぎるぜ。

 

 Dシェパード事件後に国連から禁職に指定されていなければ、今でも【魔鳥使い】はボス周回において【使徒使い】と並んで人権に近い職業になっていただろう。

 

 まさか国連は一般人から【魔鳥使い】を取り上げるのを目的としていたのか?

 それなら大きな被害を受けたアメリカがDシェパード事件の黒幕と噂されているソ連を非難しただけで済ませた理由も……。

 

 いや、これから仕事だってのに陰謀論について考えている暇なんてないな。

 

「まずは職業構成を教えてくれ」

 

 俺の質問に答えるように、迷彩服を着込んだ四人の自衛隊員が赤峰(あかみね)空将の隣に並んだ。

 誰も彼も、歴戦の風格を醸し出す壮年の爺さん婆さんだ。

 

「物理攻撃役に【偶像使い】を二人、盾役に【魔鳥使い】を一人、【属性付与】役に【巫女】を一人。これに君を加えた五人を攻略班とし、残りを【軍師】といった育成要員で埋める。火力支援の【踊り子】と【楽師】は【軍師】の育成が終わってから順次投入する予定だ」

「第二形態の魔法アタッカーは俺だけでいいってことか。攻略手順は?」

「黄金大蛇の動きを対ボス戦闘用ゴーレムで封殺し、ひたすら削り続けるだけだ。安心したまえ、我々はこの日の為に十分な訓練を積んできた。万が一の事態など、決して起こることはないだろう」

 

 訓練を積んでいる間に随分と歳を取っているように見受けられるが……。 

 そんな俺の不安をよそに、赤峰(あかみね)空将は感極まった様子で拳を握り込んだ。

 

「我々が皇居を守る防空体制を整えている間に政治の首根っこを掴まれてから50年……ようやく、ようやく我が国がアメリカの経済的植民地から解放される時がやってきた……。大木土(おおきど)博士(ひろし)、君には本当に感謝しているぞ……!」

 

 やっぱり【魔神の秘匿】で政府の中枢が腐っていたせいで自衛隊も身動きが取れない状態になっていたのね。

 それなら仕方ないかぁ。

 

「俺だって日本生まれの日本人だ。お国を信用してお仕事に励むとしますか」

「その意気やよし! では、これより作戦開始だ!」

 

 ということで出発前の下準備として、後方支援部隊に所属する美人な【使徒使い】が連れていた使徒から【天神の接吻】の幸運バフを付与して貰った。

 軍事費を稼ぐ為、この手の探索部隊には必ず一人は【使徒使い】が同行している。

 

 士気と風紀に関わる――軍の内部に同性愛者が増えるとどうなるかは言わずもがな――という理由で顔がいい女性なのは嬉しいのだが、順番的に加齢臭漂うジジイと間接キスする羽目になった俺のテンションは駄々下がりだ。

 

 用意もできたところで、俺は更科(さらしな)1等空佐のパーティーに加入した六人のジジババと共に天幕の外で待機していた魔鳥の鞍に乗り込んで空の旅人となった。

 

 積載重量の関係で人形達は参号を除いて送還、黄金大蛇に挑む攻略パーティーの周囲は航空部隊の召喚した魔鳥の編隊で厳重に警護されている。 

 

「おー、すごくたかいのだ。あるじあるじ、やっぱりいらいをうけてせいかいだぞ」

「【魔鳥使い】の人が間違って送還したら俺達は大地に真っ逆さまだけどね……」

 

 移動の最中、俺はカバンみたいに背負っているパラシュートの紐の位置を何度も何度も確かめていた。

 ひーん、現代ファンタジーなんて大嫌いだ!

 

―――――

 

 首尾よくボス部屋の前まで到着したところで、俺達は雑魚モンスターに絡まれる前に急いで大扉を潜って巨大な石室の中に侵入する。

 真っ先に飛び出したのは魔鳥の鞍に乗った更科(さらしな)1等空佐だ。

 

『まずは私がヘイトを取ります! 後は移動中に説明した作戦通りに!』

 

 なお、今後の会話は育成要員の自衛隊員が発動している【通信】――装備スキルを用いたもの――によるパーティー内念話で行う。

 耳たぶピアスでHP上限を99%に固定している更科(さらしな)1等空佐が自己【治癒魔法】を使用すると、黄金大蛇の視線が天井付近を周回する魔鳥に引き寄せられた。

 

 一見するとダメージを受けない無敵のタンクに思えるが、下手に距離を取り過ぎるとヘイトが外れてしまう危険性がある。

 噛みつかれたら一巻の終わりだし、かなりリスキーな役割だ。

 

 とは言いつつも更科(さらしな)1等空佐が追加で召喚している3羽の魔鳥の鞍にもお高い【治癒魔法】が付与されているのを見た限り、航空自衛隊所属の【魔鳥使い】飛行盾が事故を起こす確率はゼロに等しい。

 

 鬱陶(うっとう)しい魔鳥に(たか)られて高く背伸びするように鎌首をもたげた黄金大蛇に向かって、二人の【偶像使い】に召喚された8体の魔改造ゴーレムがのっそりと接近する。

 更には【地神の恩恵】によって、ただでさえ大きな巨体が見る間に倍加していく。

 

『第一ゴーレム、アンカー射出!』

 

 黄金大蛇の四方を囲んだ4体の巨大ゴーレムが右腕に融合するように取り付けられた巨大パイルバンカーを射出すると、太く長い超合金の杭が蛇身を貫通して石室の強固な床に突き刺さった。

 

 彼らはパイルバンカーに付与された武器スキル【呪いの楔】の空間固定によって、痛みに暴れる黄金大蛇の動きを封じて一切の行動を許さないつもりだ。

 

『第二ゴーレム、アンカー射出!』

 

 ヘッドスタンプで潰されて消滅した2体の巨大ゴーレムの隙を埋めるように、残りの4体の魔改造ゴーレムが巨大パイルバンカーを射出した。

 再召喚された魔改造ゴーレムがのっしのっしと接近し、更に杭を打ち込む。

 

 その首筋すらも石室の床に縫い留められた黄金大蛇は、まるで昆虫標本にピン止めされたムカデのように動きを完全に封じ込められてしまった。

 空いた左拳でゴツゴツと殴られ続ける黄金大蛇を俺達はただただ呆然と見つめる。

 

「うわぁ……」

「なんという恐ろしい戦い方だ……!」

 

 弐号は訓練された自衛隊員による封殺戦術に戦々恐々としているようだ。

 これって予算のある軍隊だからできることで民間じゃ絶対に真似できないからね。

 恐らく魔改造ゴーレム1体につきジェット戦闘機並みの費用が掛かっているはず。 

 

「マスター、私も攻撃に参加した方がよろしいでしょうか」

「いや、このまま任せてしまおう」

 

 わざわざ自分から装備をロストするようなリスクを取りに行く必要もない。

 というか事前に第二形態での参号の【自爆】攻撃と第三形態の【炎属性付与(エンチャントフレア)】以外は絶対にしないでって言われている。

 どんな世界でも作戦行動中の命令違反は懲罰ものだ。

 

『大木土さん、そろそろ準備をお願いします』

『了解』

 

 早くも第二形態に移行しそうになっているようだ。

 きっとタイマーでも使って黄金大蛇のHP残量を管理しているのだろうな。

 

「参号、俺が合図をしたら【自爆】しろ」

「うひょー、きょうはたくさんじばくができるぼーなすでーなのだ!」

 

 業火のタクトを抜いて参号の核に【炎属性付与(エンチャントフレア)】すると、てくてくと走っていったロリロリドラ娘は黄金大蛇の首筋に長く伸ばした蛇腹尻尾をしゅるりと巻いてくっ付いた。

 恐怖の時限爆弾、設置完了。

 

 それから十数秒後に動きを止めた黄金大蛇が脱皮を始めた途端、蛇身を床に縫い留めていたゴーレムの超絶頑丈な杭がバキバキと音を立てて折れていく。

 物理無効の特性が発揮され、一切の物理的干渉が不可能になったのだろう。

 

『――さん、にー、いち……ゼロ』

 

 そうカウントダウンを(おこな)いつつ魔鳥に乗った更科(さらしな)1等空佐が遠くに退避し、魔改造ゴーレムが全て送還されたタイミングを見計らい、俺は参号に【自爆】するよう指示を出した。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 先ほど【クレセントムーン】と挑戦した時とは比べ物にならない強烈な爆風を、俺の前にいる弐号が左手で構えた隕鉄の盾によって防ぐ。

 

 参号に仕込んだ二重の【範囲縮小】がなければ、今頃はみんなボス部屋の内壁まで吹き飛ばされた末に地形ダメージで死んでいたに違いない。

 

『なんという、なんという……』

 

 まさかまさかの一撃必殺。

 

 レベル100で追加された【精霊進化】によって一回り大きな炎精霊に進化したフレアと【火属性強化】4積みによる超火力【自爆】攻撃によって頭の千切れ飛んだ黄金大蛇の蛇身の鱗が剥がれ落ち、失った頭を高速再生しながら第三形態へと移行していく。

 肉体の多い部分が本体のようで、千切れた頭部は魔素となって消滅した。

 

『すぐに【属性付与】の用意を!』

 

 再び自己【治癒魔法】でヘイトを取った更科(さらしな)1等空佐の指示を受けた【偶像使い】に召喚された魔改造ゴーレムの群れがのっしのっしと突撃する。

 

其方(そなた)の力を借りるぞ。【降霊魔法】……!』

 

 【巫女】の婆さん自衛隊員が【降霊魔法】によって俺の【精霊使い】の職業とスキルをコピーし、空中に浮かんだ四色の属性精霊をゴーレムへと向かわせた。

 【属性付与】されたパイルバンカー射出機構に美しいエフェクトが現れる。

 

 職業固有の覚醒スキルはコピーできない仕様だから【霊神の偏愛】は使えない。

 まぁ、【巫女】は一定時間魔力無限で魔法使い放題のチート覚醒スキル【霊神の恩寵】を覚えるから実際はそっちの方が百倍強いんだけどね。

 

『んじゃ、俺は残りを……』

 

 余った4体の魔改造ゴーレムに【炎属性付与(エンチャントフレア)】っとな。

 緋炎を纏ったパイルバンカーが何本も黄金大蛇に打ち込まれると、ジュッと音を立ててその蛇身を焼き貫いた。

 

 その後は第一形態の焼き直しだ。

 もはや左拳で殴りつける必要すらなく、黄金大蛇が暴れれば暴れるだけ燃える杭から火傷の追加ダメージが入っている。

 

 この戦闘風景がリアルタイム配信されたら現在ストップ高状態の【クレセントムーン】の株価は大暴落を引き起こし、一流探索者を目指す若者が減少してその代わりに防衛大学校の受験倍率が上昇するに違いない。

 だから俺は事前に【情報共有】装備を取り上げられたのかもしれないね。

 

「なんにせよ、楽をできるに越したことはない。俺にとって大事なのは、黄金大蛇がレアドロップを落とすかどうかってくらいだな」

「さっきみたいにたくさんじばくできるとおもったのに、ざんねんなのだ……」

 

 俺は再召喚されてしょんぼりしている参号の頭を撫でながら、高そうなスーツ姿の影武者人形、零号を召喚した。

 今回は取得経験値を2倍にしてくれる素晴らしい覚醒スキル【武神の指導】を持つ【軍師】が同じパーティーにいるから、ありがたくその恩恵に預かろうと思ったのである。

 

 しばらくボケーっとつっ立っていると、床の魔法陣が活性化を始めた。

 すぐに零号から「テテテテーン♪」といういつものレベルアップ音が響く。

 

 ……どうして他のメンバーのレベルアップ音は揃いも揃って君が代なんだろう。

 俺はこれを軍規で定めた上層部の人間に文句を言いたくて仕方がなかった。

 

『状況終了! これより我々は101層に転移し、パーティーメンバーを入れ替えて2周目へと移ります!』

 

 ドロップアイテムを確認をする暇もなく、二度の転移で100層の入口へと逆戻り。

 さてと、また人形達を送還して空の旅に出なければならない。

 参号の【自爆】で時短した分だけ、早く帰して貰えたらいいんだけどな。

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