ようこそ鈴蘭のいる教室へ   作:catwillow

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Episode.Ⅰ Prologue

 

 

 

 この風景に、見覚えがある。そうだ。これは過去、そして回想であり、夢だ。せっかくだ。少しこの時の事を思い出してみることとしよう。

 

 その日は、初秋から晩秋へと入り金風が紅葉に染まった木々の葉を撫で、少し肌寒さを感じさせる日だった。

 

 朱に囲まれた中にひっそりと建つ、趣すら感じさせる年季の入った木造の平屋の校舎の職員室で、俺、“逢坂涼”は恩師である“殺せんせー”と向かい合っていた。

 

 一人の人間と一人の超生物。殺す者と殺される者。はっきり言って異常な光景だったが、この山の上の教室では“日常”であり“青春”だった。

 

『さて、君が最後ですね』

『よろしくお願いします。すみません。お待たせしてしまいました』

『いえいえ。ただ意外ではありましたね。君がまさか最後になるほど悩むとは思いませんでしたから』

『う……すみません』

『学ぶことの他にも、迷い、悩むこともまた君たちの特権ですし、人生の大きな選択の機会ですからね。良いことです。特に君が普通の中学生のように悩むことができるのは、ね』

 

 俺の言葉に、殺せんせーは三日月のような弧を口で描いたまま、穏やかな口調で寛容に許してくれる。気遣いに俺は小さく礼をして、手に持っていた進路希望調査の用紙を差し出した。

 

 もったりとした黄色の触手が用紙を受け取り、殺せんせーはそれに目を通して『ふむ……』と零した。

 

『“高度育成高等学校”、ですか。世間には良い評判をよく聞く国立の名門校ですね。なぜここへ?』

 

 やはり進学・就職実績ですか、と問うてくる殺せんせーに俺は首を振った。

 

『いえ。そこには全く興味ないです。それなら高校をすっ飛ばしてMIT行きますよ。あちらの教授にもお誘い頂いていますしね』

 

 暗にそんなことのためではないことは理解しているでしょうという意味を含めて、俺はそんな返事をする。

 

 というか、それのために行くのなら椚ヶ丘で浅野や業で遊んでいる方が余程有意義だ。そして、それを選ばずに外部に行くことを選んだのだからそれ以上に魅力的なことがあるということに他ならない。

 

 学費が全額免除だとか、全寮制であり水道光熱費と家賃がかからないだとか、里親への恩返しになる上、魅力を感じた部分ではあるが一番の理由はやはり。

 

『ぶっちゃけると好奇心、興味ですね』

『ほう。好奇心、ですか』

『はい。殺せんせーも分かるでしょう?この学校の胡散臭さ』

 

 その最たる例は現役生の声をほとんど聞かないことだ。卒業生ならあらゆる分野で活躍している姿を報道で目にすることはある。だが、どのような学生生活を送っているのかがSNSなどを駆使してみてもさっぱり分からない。つまり、情報が出てきていない、あるいは操作されていると考えられる。

 

『教師としては、頷きずらいですが』

『と、言うわけでちょっと調べてみたんですけど、セキュリティが国家機密かってくらい厳重だったんですよね。ま、俺にとってはイージーでしたけど。痕跡一切残さず入り込めましたよ』

 

 相手が悪かったね、と傲慢とも取れる発言をしながら悪戯小僧のような笑みを浮かべて理由を告げる。普通の国立高校にしてはありえないレベルのセキュリティを敷いてるのだ。あれだけ入念に情報をロックされていると余計気になってしまうのが性というものだろう。

 

 何をしているんですか、と呆れ混じりに呟く殺せんせー。あんたに言われたくないのだが。自分の生徒に自分を暗殺させようとしておいてどの口が言っているのか。

 

『中身は見てませんよ。ネタバレは一番つまらないですし。でも、余計好奇心は強くなりましたね。どんなものを隠しているのかって』

 

 そんな俺の言葉に今更だと思ったのか殺せんせーは溜息を吐いて、机のキャビネットからあるパンフレットを取り出し俺へと差し出してきた。

 

『私としても、君が進路選択をどうするのか気にしてはいました。その中で、君がもし高校に行く方を選び相談してきたら提案できるよう何校かピックアップしていたんです』

 

 目の前にあるのは“高度育成高等学校”の文字が印刷されたパンフレット。俺の性格や趣味趣向、そして関わった経験から選び抜いたのだろう。流石殺せんせー。俺のことをよく理解している。

 

 そうですか、と俺が返しパンフレットから顔をあげると、ふと満足そうに微笑んでこちらを見る殺せんせーに気づいた。それに俺は、怪訝な表情を浮かべる。

 

『なんです?』

『少し安心しました。君がまたDAに戻ることも考慮していたので』

『え?それはないよ。だってそれ選んだらここで皆と学んだこと全部無駄になるじゃん。それに、初めて尊敬した恩師の教えは大切にしたい』

 

 思わず敬語が外れ素の出たその言葉は、紛れもなく俺の本音だった。殺せんせーもそれが分かったのだろうより笑みを深める。

 

『そう言っていただけると教師冥利に尽きますねぇ』

『……まあ、ここを選んだのは“面白そう”だけじゃなくて、俺の将来したいことにここでの経験は役立つと思ったってのもあるんだけどさ』

『おや?そうなんですか?』

『勘みたいなものだけどね』

 

 殺せんせーは目を丸くして、俺の言葉に殺せんせーは意外そうな表情を浮かべているが、失礼ではなかろうか。目の前に人参を用意された馬のように後先考えず目の前の面白そうなことに飛びついている訳ではないのだ。

 

『俺、やりたいことを見つけたんです』

『やりたいこととは?』

『────────────────────────』

 

 夢に近いこの目標を包み隠さず言うのは少し気恥ずかしい気もするが、自分で見つけた答えを目の前の恩師に明かすことで少しでも報いることができるのならそれはそれで良いことだと俺は思う。

 

 呆気にとられたように、丸い目を更に丸くしてこちらを見ている殺せんせー。しかし、それも一瞬のことで、今度は堪えられないと言った様子で大きな笑い声を上げて潤んでいるように見える瞳を触手で覆い隠して頷く。

 

 

『ヌルフフフ!そうですか。そうですか……』

『何かおかしいですか?』

 

 突然笑う殺せんせーに俺はむっとする。が、殺せんせーはいつも通りの穏やかな笑みとは少し違う、慈愛のような何かと他の感情が複雑に入り交じったような表情に違和感を覚えた。だが、殺せんせーがすぐにそれを霧散させていつもの笑みになったのを見てまあいいか、とその違和感を放棄する。

 

『いえ。実に君らしい理由と目標だと思っただけです……“涼君に合ってる”。頑張りなさい』

『……ありがとうございます。勿論です』

『では、そんな君に課題を課しましょう。──────』

 

 

 

 

 

   ◇◆◇

 

 

 

 

 

 微睡みから目が覚める。これはまた懐かしいものを見た。とは言ってもまだ半年程しか経っていない過去の記憶ではあったが。

 

 どうやら、バスの中で転寝をしてしまっていたようだ。揺れがちょうど良かったのだろう。そんなことを覚醒しきってない頭で考えながら窓の外を見ると、目的地が既に見えていた。到着する直前だったらしい。

 

 到着する直前で目を覚ますということをこれまでの人生でももう何度も繰り返しているため、これは最早特技とか第六感とかその類なのでは、などというくだらないことを考えているうちにバスが停車した。

 

 俺が座っているのは最後列の窓際のため降りるまではもう少しかかると見て、ぞろぞろと出ていく搭乗客───そのほとんどが俺と同じ制服を来た高校生達だ───を眺めていると、ふと隣から視線を感じそちらを見てみる。

 

「あ、おはよ!よく眠れた?」

 

 人目を引くストロベリーブロンドの綺麗なロングヘアは腰辺りまであり、小さな卵形の顔、透明感のある肌、細く整えられた眉、大きな瞳に長い睫毛、すっと通った鼻筋、笑みを携えた桜色の唇、要素一つ一つが目の前の美少女の可憐な美貌を構成しているのが分かる。

 

「…………」

 

 さて、こうして特徴を列挙した訳だが、猛烈に見覚えがある顔だ。というか中学3年の時に多少疎遠になりかけたが関係は長く続いている幼馴染がそこにいた。

 

「あれ、まだ寝惚けてるのかな?」

 

 可愛らしく首をこてんと傾げているが残念。その予想は全てハズレだ。というか、知らなかった。高校が同じだなんて聞いてないが。

 

「……一之瀬?」

 

 街中を歩けば男の十や二十引っ掛けそうな容姿の美少女の名を、俺はぽつりと零す。すると、ぱあっと輝くような笑みを浮かべた。

 

「久しぶり!」

「久しぶり。去年の学園祭ぶり?」

「そだね!」

 

 一之瀬帆波。俺が小学校に入学した日に出会い、中学は違うもののずっと縁が続いている幼馴染だ。椚ヶ丘の学園祭を最後に帆波は受験シーズンに本格的に入り、俺は俺で受験、暗殺、仕事、研究の日々に明け暮れていたから顔を合わせることはなかったが、メールでのやり取りを毎日していた位には仲のいい関係だと思っている。

 

 搭乗客が減り俺達も他の搭乗客と同じようにバスを降りて目的地へと歩を進める。一人分もない距離感で並びながら歩いていると、一之瀬が口を開いた。

 

「でも私ビックリしちゃった。バスに乗ったら涼くん熟睡してるんだもん」

「俺もびっくりだよ。一之瀬が同じ高校だったの知らなかったし」

「私は知ってたけどね〜」

 

 え、と気の抜けた声が漏れる。そして頭に疑問が浮かぶ。誰から聞いたのだろう、と。俺は当然言っていないし、俺の里親である義両親と一之瀬は交流はない筈。となれば候補になるのは俺と一之瀬の仲を知っていてかつ共通の知人である。そして、そいつは割と口が軽い傾向にある。

 

 そこまで思考して、俺はコーヒーと和菓子という一見合わなそうな掛け合わせを提供するユニークな喫茶店を営む2人の顔が頭に浮かんだ。片方はまあないだろうと選択肢から切り捨て頭に浮かんだ顔の名前を声に出した。

 

「……もしかして千束から聞いた?」

「お、凄い。流石涼くん」

「別に口止めはしてなかったけど、口軽いなぁ」

「お菓子作ってあげたら教えてくれたよ」

「しかも餌に釣られたのかよ」

 

 俺はあいつがリコリスのファーストであることを疑った。あいつ仮にもリコリスの中でも群を抜いて優秀だったんだよな?と。そして、類を見ないほどに裏も表も善性の人間である一之瀬がさらりとした手段に、一之瀬ってこんな買収みたいな手使う子だっけと多少違和感を覚えたわけだがそれは一旦脇に置いておこう。

 

「ところで、餌で釣ってまで俺の進路を探った理由は?」

「ん〜」

 

 人差し指を頬へ当てるというあざとい所作を取りながら悩んだ様子を見せる一之瀬は、今度は頬へ当てていた人差し指をくるりと円を描いて口の前へ持っていき答えた。

 

「内緒っ」

 

 可愛い。いや、そうではなく。

 

「……ま、いいか」

 

 一之瀬の花が咲くような笑顔を前に、何としても知りたいという訳でもないし、本人が言いたくないなら無理に聞く必要もないと俺は引き下がる。千束曰く、『涼ってば帆波に甘すぎ〜』らしいが、そんなことはない。

 

「あ」

 

 鼻歌混じりに機嫌良さげに歩いていた一之瀬が何かを見つけたように前を向くのを見て俺も前へと視線を移す。どうやら校門のすぐそこまで来ていたようだ。バス停の名前に学校名が入っているだけあって学校は目と鼻の先だった。

 

 一枚絵としても映えるであろう桜吹雪に彩られた校門に取り付けられた銘板には、『高度育成高等学校』という文字が刻まれている。

 

 高度育成高等学校。60万平米という越谷と同程度の敷地面積を持つこの学校は、小さな街を形成しておりその様は都会と言って差し支えなく、一切の不便を生徒が被らないよう気を使っているのが分かる。

 

 この時点で割と普通の高校からは離れているが、この学校の一番の特殊な所は在籍している間は学外との連絡は断たれ、しかも学外に出ることを禁止されるという点だろう。衣食住は寮に入ることになっている上、水道光熱費は学校負担のため路頭に迷うことはない。だが、合格通知を受けてすぐ入学案内と共に届いた資料で知った時は「……監獄か?」という感想を漏らした俺は間違ってない、筈。

 

 関連する形で金と無形・有形サービスの流れも気になるところだ。ここは国立高校、言い換えれば国営機関になる。改めてになるが、この学校は学費が全額免除される上、色々な制約はあるが生活にかかる水道光熱費も学校、つまりは国が負担することになっている。国立大学の寮ですら水道光熱費は本人負担なのだから、額面通りに見るのであればこれは破格と言える。ただ、得てして美味しい話には裏があるものだ。ある程度情報を探りつつ身構えておいた方がいいかもしれない。

 

 他にもこの学校の強みなのだろうよくアピールしている希望する進学先、就職先にほぼ100%応えるという文言。「ほぼ」なんて逃げ道を使っている時点で信用に値しないが、高校なら予備校みたいな進学実績の出し方せずに自校の生徒の進学先くらい纏めて全て公開しないのかとは思う。もしやらない理由がしないのではなくできないなのであれば、こんな詐欺まがいの逃げ道を作っていることにも納得がいく。

 

 こんな粗のあるアピールがまかり通っている時点で何か裏があって然るべきだ。あと、仮に事実だとして本人の実力にそぐわない場所への進路実現を成したとて明らかに能力不足の人間がいたら不審に思う人は出るし問題になると思うのだが、現状そういった問題や不満は出ていない。となれば本当に卒業した者達は全員もれなく優秀ということになるのだけれどどうにも違和感が拭えない。

 

 他にも細かい所を気にしだしたらキリがないから、そこに関しては追々探っていこうとは思うが、現状分かる範囲で言えることがあるとすれば、ただでさえもっと国立大学の研究費や国立の博物館などにお金を回せと叫ばれるこのご時世の中でこれだけお金をかけられた環境で教育を受けるのだからここで学ぶ生徒は将来どんな形ででも国に貢献していないと国からすれば割に合わないだろうということだ。

 

 まあ、どれだけお金をかけようが努力の仕方を間違えればその一切は自分の望む形で報われることはないし、どんな環境に身を置いても輝く奴は正しく輝くものだ。最低限の環境さえあるのならそれ以上は本人の資質の問題だろう。

 

 閑話休題。

 

「そういえば、涼くんはクラスどこ?」

「Bだよ」

「わ、一緒だ!運命だね」

「大袈裟じゃない?」

「もう!こういうのはロマンチックに考えた方が幸せでしょ?」

「まあ……そうかも」

 

 ぷくっと頬を膨らませて肩で俺の腕に突撃しながら言う帆波にとりあえず納得して返す。

 

「涼くんってすっごい格好よくて何でもできちゃうのにそういうとこ下手っぴだよね。経験がないからかな?」

「……え」

 

 誠に遺憾である。言いたい放題されている。というか今非モテ認定されたような気がする。誠ショックである。とはいえ、モテる云々はもうどうでもいいがどちらかというと感情を紐解いて理解したり人の機微を察するのは得意な方だと俺自身は思っているのだが、どうも勝手が違うのかもしれない。

 

「あ、そうだ。私のことは名前で呼んでほしいな」

「へ?え、でも……」

 

 一之瀬で呼び慣れちゃってるし、と言おうとした俺を遮って、一之瀬は有無を言わさぬ笑顔を浮かべて告げた。

 

「帆波、って呼んで?」

 

 なおも抵抗しようとした俺だったが、一之瀬の言い表せない圧に気圧されてしまってついに折れた。

 

「分かったよ。“帆波”」

 

 そして、必要だからと連絡先を交換したあとも会話は途切れることなく、他愛ない会話をしている間にあっという間に教室へと着いてしまった。どうやら、教室には既に半数程度のクラスメイトがいるようで、教室からは話し声が聞こえてきた。俺は、引き戸へと手を掛け開けながら一之瀬、いや、帆波へと目を配る。こちらの意図を察したのかうっすら笑みを浮かべると小さな声で「ありがと」と言って教室へと入っていく。

 

 帆波に続く形で俺も教室へと入れば、俺達を出迎えたのはまさかの沈黙からのざわめき。なんでだよと内心でツッコミを入れながら、黒板に貼られた座席表に目を通す。どうやらこのクラスは40人いるようだ。定員は160人、そして四クラスあるということは一クラス40人ということだろう。

 

 自身の名前を見つけてから自分の名前の座席へと座る。俺の席は窓際最後列、一般論では当たりとされる席だった。流石に帆波と席が隣通しとはいかないらしい。そんな帆波は中央列前から3番目、ど真ん中だった。もはやそういう運命なのだろうか。輪の中心になるという。

 

 それにしても視線と、ひそひそ話されているのが気になる。自意識過剰とかではなく、俺は他人より多少耳がいいから聞こえてくるのだ。

 

 「あの子かわいいー」「隣の人彼氏かな?」「男の子も格好よくない?」「さっきの見た?騎士様みたいだったね〜」というのは女子の声。陰口でないだけマシだが、落ち着かないというかこそばゆい。「なんだアイツ初日から女子とイチャつきやがって爆発しろ」「イケメンめ爆発しろ」「リア充め爆発しろ」などなど嫉妬、怨嗟の嵐なのが男子の声。実に素直、欲望に忠実でよろしい特に男子。将来は爆弾魔に就職だろうか。

 

 ちらりと帆波を見れば帆波の席の周囲には既に4、5人の男女の輪が形成されていた。今となってはもう見慣れたものだが、あれも一種の才能なのだろう。誇らしいやら何やら複雑な思いだ。はて、何が複雑なのかよく分からないが、まあいい。

 

 そんな居心地の悪さから逃れるために、持ってきておいてよかったと俺は学生鞄から一冊の本を取り出して物語の世界へと逃げ込こもうとした時、ふと隣から同情的な視線が送られているのを感じ取った。

 

 その視線に本を置いてそちらを見れば、隣の席に座った名も知らぬ男子がこちらに視線を送ってきていた。

 

「え、と。何か?」

「気を悪くしたならすまない。ただ、入学早々大変だな、と思ってな」

「はは……まあ、大したことじゃないよ」

 

 お気遣いどうも、と手をひらりと振って言う。本当に大したことではない。実害もなければ、無茶振りをされている訳でもないのだから瑣末なことだ。それに、帆波の横にいたらこういうことはそれなりに起こることだ。最早達観してすらいるかもしれない。そんな俺に、目の前の名も知らぬ男子生徒は感心したように呟く。

 

「嫌ではないのか?」

「もう、慣れたよ」

「そうか」

 

 別に慣れなくていいなら慣れたくはなかったというのを言外に察したのか同情的な色を濃くした名も知らぬ……面倒だな。後でもう1回座席表見ておくか。それで覚えられるだろう。

 

「改めて、初めまして。俺は逢坂涼。よろしく。君は?」

「神崎隆二だ。よろしく頼む……ところで、勘違いであれば申し訳ないが、逢坂のお父上は医師か?」

 

 どうやら俺のことは苗字で呼ぶことにしたようだ。なら俺も合わせよう。それにしても、何やら俺のことを知っている口振りだが、会うのはこれが初めてのはず。自慢ではないが俺は一度見聞きしたものは忘れない特技がある。だから人の顔を忘れるなんてことはないはずなのだが、何処かで会っていたのだろうか。

 

「そうだけど……ごめん。さっき初めましてって言ったけどもしかして面識ある?」

「いや、ないぞ。こちらが一方的に知ってるだけだ。俺の父と逢坂のお父上は大学が同じだったようでな。お父上に一度逢坂の写真を見せてもらったんだ」

「なるほどね。ちなみにどういう経緯で俺の写真を見せるようなことになったのか教えてもらっていい?」

「その時はパーティだったんだが、多少お酒がはいってたんだろうな。機嫌よく子自慢をしてくれたよ。逢坂がチェスの世界大会で優勝した時の写真を誇らしげに見せてくれたよ」

「……何してんだよ父さん。ごめん。迷惑かけなかった?」

「普段は理知的な人だから意外で面白かったし、同い年にこれほど凄い人がいるのかと刺激になったよ」

「フォローになってないよそれは」

 

 頭を抱える思いだし、ちょっと顔から火が出そうだ。赤くなってるかもしれない。義父さん。いくらなんでも友人の子どもとはいえ他所の子ども相手に子自慢はいくらなんでも親馬鹿入ってるんじゃないですかね。

 

「何はともあれ、改めてこれからよろしく頼む」

 

 でも神崎が俺を一方的に知っている理由は理解した。呆れ混じりに相槌を打つと神崎がこちらに右手を差し出してくる。これは多少親交が深まったという認識でいいだろう。

 

「ああうん。こちらこそよろしく。仲良くしよう」

 

 俺も手を差し出し、握手を交わしたタイミングで教室前方の扉が開かれ担任らしき女性教師が入ってきたためお互い手を引いて前を向く。その時ちらりと帆波を見れば、先程よりも多くの人数でグループを形成していた。このクラスも、帆波中心の集団になりそうだなと思いながら教壇に立つ女性教師を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

 

 

逢坂 涼  Ryo Aisaka

 

クラス   1年B組

部活動   無所属

誕生日   5月1日

 

〈能力評価〉

学力    A

知性    A

判断力   A

身体能力  A

協調性   B-

 

〈生徒調査書〉

 全てにおいて高水準の能力を有しており、コミュニケーション能力も優れており交友関係も広い。また、特定の研究分野において目を見張る成果を残していることや一企業の代表取締役であることからも非常に優秀であることが伺えるため、本来であればAクラスに配属予定であった。しかし、中学時代、三年次では改善されたが度々無断欠席を繰り返していたことと本人の抱える疾患によりBクラスに配属とする。

 

 

 




 
 
 
よう実4期が始まったようなので原作を読み始めました。

一之瀬帆波が可愛い。
 
 
 
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