ヒフミ、あなたが平凡の生徒を名乗るのは無理があるわ 作:陰貴
二人の少女が巨大な校舎の近くにあるカフェで談笑を交わす。片方は涙目に、片方はやや引き気味ではあるが。
「そ、そんな訳はありませんよ、ユリちゃん!」
「あなたのペロロ様愛は知っておりますが、試験をすっぽかすのは流石に……」
「ゔ……」
先ほどまでは自らの戦利品について嬉しそうに語っていた少女、「阿慈谷ヒフミ」は桃髪の少女「春風 ユリ」の叱責に苦しそうな表情を浮かべる。一方のユリは注意はしたものの、あまりヒフミの奇行について見た目ほど、引いているわけではない。ユリにとってヒフミとはそういう人間であることは、とっくにわかっていることだったからだ。
「それで、どうしますの?あなたテストは」
「ほ、補修とかでしょうか。あ、あうう……。ナギサ様に直談判すればどうにか……」
「桐藤様はティーパーティーのフィリウス派閥のリーダーよ?私たちみたいな一般生徒にまで手を回す余裕がある訳がないでしょう?」
「あうう……、そうですよね。……どうしましょう?ユリちゃん」
「私に聞かないで頂戴……」
ヒフミはそこでようやく自身の行いに関して不安になったようだ。もはや今更の話ではあるのだが。
「そういえば『先生』という方にお会いしたのよね。どういった人物でしたの?」
「すごかったんですよ!アビドスの皆さんの指揮官かと思えば、途中で合流しただけの私も含めて的確に指示を出してくださったのです!」
「へえ……、それは……すごいのかしら?私はいつも先頭にたってばかりだから指揮のむずかしさというのはわからないわね」
「あうう……、そういうもの、でしょうか?」
「一回受けてみれば私もわかるかもしれないわね……。あら、学内連絡?」
「ユリちゃん、どうしましたか?」
「えーと、なにかしら……新設される部活?この時期に……って補習授業部?」
―――
トリニティ総合学園。そこは中央に大きな庭園が広がり、三方には特に大きな白い建物が並び立つ巨大な学園。正門から入って右手には最も大きな建物である大聖堂が、悠然とそこに立っていた。二人の少女は大聖堂に見下ろされながら、先ほど通達された目的地へ歩を進める。
「どうしましょう、ユリちゃん……」
「知りませんわ。というか、私からしたら随分温情ある措置に見ますけれど。四人いるようですが、四人全員が同時に合格すればいいんでしょう?」
「それはそうですけど……。あうう、先生になんていいましょう……。怒られてしまいますよね……」
「当然でしょう……」
少女たちは目的の教室に着く。だが、待ち人はまだ来ていないらしい。彼女たちは荷物を置き、銃を机に立てかけて、歓談に興じる。
「セリナからも聞きましたが……、男性なのよね?」
「はい。私、生で初めて人型男性を見ました」
「私も見たことがありませんわね。……少し、気になってきましたわ。肉体的な違いが知りたいですわね」
「あうう、私は複雑です。この後、テストを抜け出してペロロ様の公演にいっていたことを伝えなくてはなりません……」
そうしていれば二人のいる教室の扉が開かれ、一人の人間が足を踏み入れた。学園都市キヴォトスにいる唯一の男性であり、あまねく生徒を導く者。「先生」は白い制服に身を包み、その教室にいた二人の生徒に目を向ける。
"こんにちは、ヒフミ。それと……"
「あ、あはは……こんにちは、先生」
「初めまして。セリナやヒフミがお世話になっておりますわ。救護騎士団二年生の春風 ユリと申します。以後お見知りおきを」
"こちらこそ、よろしくね"
先生は初めて会う少女、ユリと握手を行う。彼にとって初めて会う生徒だが、先ほど見た資料の中に彼女の名は書かれてなかったことを思い返しつつ、問題児に目を向ける。
「あの、これはその、やむをえない事情がありまして……」
"そうなの?"
「流していただいてかまいませんわ、先生。このおバカ、ペロロ様のゲリラ公演に参加するためにテストを抜けだしましたのよ!」
「あうぅ……」
先生が脇にいる少女に問いかければユリはヒフミの頬をつまんで、回すように動かしながら彼女が弁明する前に、彼女の自称やむを得ない事情を語る。先生はその様子から二人の少女が仲良いことを知りつつ、ヒフミの行いにおもわず眉をハの字に傾けた。
"……"
「そ、そんな冷たい目で見ないでくださいぃ……。ちゃんと試験の日程は確認していたはずなんですっ。何かの間違いといいますか、手違いといいますか……」
小鳥の泣く声が聞こえそうなほどの静寂が美しい教室に広がっていく。
「あうぅ……ご、ごめんなさい……」
"いや、私に謝らなくても大丈夫だけど……"
「は、はい。えっと、それで……。その……ナギサ様に、先生のサポートを頼まれまして……」
ヒフミはユリにつままれた頬を抑えつつ、こうなった経緯を思い返しながら先生に、自らが補習授業部の部長であることを話す。
"部長だったんだ……!?"
「あ、あくまでも臨時の、ですが……補習授業場は、特殊な形で限定的に作られた部活ですし……」
「当然ですわ。そんな部活がずっと残ってる方が問題でしてよ……」
ヒフミの弁に呆れながらユリはぼそっとつぶやく。ユリはヒフミのいつものか細い鳴き声を聞きながら、二人の会話を進める。
「とはいえ、先生が来てくださって嬉しいですわ。セリナが最近お熱の先生の手腕、ぜひとも見てみたいので」
"普段はあまり教師のようなことはできていないからね。私としてもある意味楽しみだよ"
「と、とりあえずほかのメンバーに会いに行きましょう!まずはみんなで、どうすれば落第せずに済むかの計画を立てないと……」
「いや、素直に勉強しなさいな」
場所は変わり、正義実現委員会の教室。三人は、ここにいるはずの二人のメンバーを探しにきた。
―――
"ここは……"
「あうぅ……、あまり来たくはなかったのですが……。えっと、失礼します……どなたかいらっしゃいますか?」
その時、部屋の隅にいた一人の生徒にヒフミは話しかけに行った。ピンク色の髪に黒い頭翼、黒い制服はトリニティに伝わる正義の証。その少女は話しかけてきたヒフミを、警戒するようににらみつける。
「……」
「あっ、こ、こんにちは」
「……」
「え、えっと……」
「……何?」
「あ、あう……。その……」
人見知りで顔が険しくなる少女「下江 コハル」と、あうあう鳴いてしまうヒフミではうまくいかない様子。思わず動こうとする先生を手で制して、にらみ合う二人にユリは近づいて話しかけた。
「にらめっこするなら私も混ぜてくださいまし。私はこれでも救護騎士団にらめっこ大会優勝者でしてよ」
「ゆ、ユリ先輩!」
知り合いの登場にコハルは警戒をほどく。ピリッとした雰囲気にアーウしていたスピッk……ではなくヒフミもほうっと息を吐いて、落ち着きます。
「ここには人探しに来ましたのよ。といっても探してほしい訳ではなく、ここにすでにいるはず、なのですけれどもね」
「正義実現委員会にってこと?」
「いいえ、ここによくないことをして閉じ込められていると……」
「こんにちは。もしかして、私のことをお探しでしたか?」
「「「"!?"」」」
ドアを開けて一人の生徒が教室に入ってくる。学園が指定した衣装を身に着け、微笑を浮かべ、楚々とした振る舞いで新たな桃髪の少女が4人の目の前に現れる。
「え、は、何で!?あ、あんたどうやって牢屋から出てきたの!?ちゃんと鍵閉めたのに!?」
「いえ、開いてましたよ?こちらで話し声が聞こえたのでこちらに来てみました。そしたら私のことのようなので。何かご用でしたか?」
「ご用っていうか、いや御用ですわよ!」
「お縄につけってことですか?どうしましょう、縄で体を固められて無理やりあんな格好やこんな格好をさせられるんでしょうか!?」
「違いますわ!?」
"一旦、目を閉じておこうかな……"
「あうぅ……」
現れた楚々とした振る舞いの、長いピンクの髪を持つ少女「浦和 ハナコ」は、しかし水着であった。
「あら。大人の方、ということは……先生、ですね。改めまして、こんにちは。なるほど、もしかして補習授業部の?」
「ま、待って。その格好で出歩かないでよ、ちょっとぉ!?」
「……?何か問題でもありましたか?下江さん、春風さん」
「あるに決まってるでしょ!?なんで学校の中を水着で徘徊するの!?」
「ここまで当然のようにされると、私の方がおかしいのかと思ってしまいますわね……」
「あうぅ。そ、そんなはずはないんですけれども……」
ハナコの非常識的なはずの恰好だが、本人がけろっとしているので一般生徒のユリは常識が塗り替えられそうになる。しかし、コハルは真っ向から反発した。だが、ハナコの弁は止まることを知らない。
「そうでしたか、下江さんは全裸で泳ぐのがお好きなんですね。さすがは性技実現委員会、そういった分野まで網羅されているなんて」
「ばっ、バカじゃないの!?着るに決まってるでしょ!?それに、そんなことするわけ……!っていうか、ユリ先輩に悪いから出ていけっ!!」
「あんっ♡」
「早く戻れ、この公共破廉恥罪!!」
ハナコ持ち前の弁舌はしかれども、裁判官の前には無力だった。容赦なく部屋からたたき出されるハナコ。扉が開き、閉まる音でようやく先生の視界は光を得る。
"……"
「先輩大丈夫だからね、あたしが追っ払ってあげたから!」
「あ、ええ。ありがとうございますわ。ですけれども、あちらの浦和 ハナコさんが私たちの尋ね人なのですのよね」
「あ、あんなの外に出したらダメに決まってるわ!エッチなのはダメ!死刑よ!」
「あうぅ……、どうしましょう……?」
「とりあえず、正実の委員長である剣先さんか……」
抵抗の強いコハル、問題を解決してくれそうな人材をユリが挙げ始めたその時に、一人の長身の女性が息を吐き、教室に現れた。
「ただいま戻りました」
黒い長い髪、腰元まで入った深いスリットの服を着こなした正義実現委員会副委員長「羽川 ハスミ」だ。また、広げていた羽をたたんだその後ろに隠れていたのだろう二人の生徒がハスミに続いて顔をのぞかせる。片方は「静山 マシロ」。正義実現委員会の一年生で、優秀なスナイパーである。
「任務完了です!現行犯で白洲 アズサさんを確保しました!」
(シューッ、シューッ……)
しかし、もう一人はガスマスクで顔が見えなかった。
「はい……はいぃっ!?」
「あ、ハスミ先輩、マシロ」
「コハルさん、お疲れ様です。あれ……?」
「先生?」
一番最初に挨拶したコハルに挨拶を返すハスミとマシロ。そしてハスミは近くにいた先生に気づく。先生もまた、ハスミが自分に気づいたのを見て手を振って応える。その端で、ユリはガスマスクをつけていた少女「白洲 アズサ」に声をかけた。
「……なにをやっていらっしゃいますの、アズサ?」
「ああ、ユリか。弾薬倉庫で立てこもっていた。弾丸さえあればもう少し道連れにできたんだが……」
「はぁ……、なんらかの理由があるのでしょうけど、聞くのは後にしますわ。アズサ、あなたも補習授業部に入ってもらいますわよ」
「補習授業部?」
「細かいことは後で説明されますわ。とりあえず、そのガスマスク外しなさいな」
「拷問は行われないのか?」
「されませんわよっ!」
会話を聞き、ユリとアズサの二人が友人であると先生は理解する。これであれば楽に話を進められるかもしれないが、テストさぼりのヒフミ、弾薬倉庫占拠かつ約1トンの催涙弾を爆破したアズサ、赤点3連発のコハル、とユリの友人関係に一抹の不安を抱えながら、アズサの逮捕理由を把握した先生はハスミに話しかけて、事情を伝えつつ、ハナコとアズサを連れていく許可を求める。
「……なるほど、お話は理解しました。先生が、補習授業部の先生になられると。残念です、できればお手伝いをしたかったのですが」
"当番としてただでさえお世話になっているから、これ以上は私が申し訳ないかな。それであの二人、連れて行ってもいい?"
「はぁ?ダメに決まってるでしょ!?絶対ダメ、凶悪犯なのよ!?」
「コハル。先生はシャーレの方として、ティーパーティーからの依頼を受けてこちらにいらっしゃったのです。規定上は何の問題もありません、補習授業部の顧問、担任の先生になるのですから」
「ふ、ふん!まあでも良いザマよ!こっちはこんな凶悪犯たちと一緒にいなくて済むし、そもそも補習授業部だなんて!恥ずかしい!あははっ!良いんじゃない、悪党と変態の組み合わせ!そこに「バカ」の称号だなんて、私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」
嘲笑するコハル。しかし、この世にはフラグという言葉があることを彼女は知らなかった。
「その、非常に言いにくいのですが……。最後の一人は……下江 コハルさんです」
わずかな沈黙の後、コハルは眼を大きく見開いた。
「えっ、私!?」
「コハル、一緒にいるだけで羞恥心で……、なんですって?」
「あ、あ……」
その後、正義実現委員会の教室から離れて補習授業部用の教室に向かうまで道中、水着のド変態に絡まれ続けるコハルがいたという。