ヒフミ、あなたが平凡の生徒を名乗るのは無理があるわ   作:陰貴

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補習授業部+α

「では、ここに揃っているのが補習授業部のメンバーということですか?」

「私は違いますわ、ただのヒフミの付き添いです。それに補習授業部に入れられた4人中3人が友人ともあれば自ら怒りたくなっただけですわ」

「あら、そうでしたか。でしたら、私ともお友達になっていただけますか?いえ、ひとりぼっちにして放置プレイでも私は……」

「構いませんわよ。こうなったら三人も四人も変わりませんわ」

「ふふ、ありがとうございます。ぜひとも一緒に散歩しましょうね♡」

「少なくとも水着ではしませんわよっ!!」

 

 友人というかボケとツッコミの桃髪漫才コンビが完成する中、問題は解決どころかここからが始まりだった。羞恥心で無言のコハルと、話すことがないから無言のアズサを眺めながら、ヒフミはかいてないはずの汗をぬぐい、全員に聞こえるように口を開く。

 

「えっと、これで何とかみんな集まりましたね。補習授業部……こ、ここからが本当の問題なのですが…」

「ふふ、何をすればいいのですか?阿慈谷部長?放課後に人気のない教室で、素行の悪い女子高生と大人が集まって……ふふ、始まってしまいそうですね」

「勉強しかしませんし、させませんわよ」

「始まる……?まあ、なんだってかまわない。私は本気を出せば、この教室で一か月立てこもれる」

「死にたい……本当に死にたい……」

「え、っと……。先生……その、よろしくお願いします……」

「先生、私といたしましてもこのおバカな友人たちのことをお願いいたしますわ」

"……うん、頑張ってみるね"

 

 やや先行きの怪しいメンバーに囲まれて先生は少し間をあけて、しぼりだすように二人の少女の願いに首肯した。すくなくとも潤滑剤にはなりそうな人間がいることでメンバー間での中のコミュニケーションに悩まずにすんだことを彼は心の底から安堵した。先生らしいことができるのは嬉しいが、もう少しまともな生徒がよかったという思いを抱きつつ、ではあるが。

 

「何はともあれ、自己紹介からですわ。ヒフミ、あなたから始めなさいな、部長でしょう?」

「わ、私からですか!?あうぅ……。2年生の阿慈谷 ヒフミです」

「次は、アズサ」

「私か。ア……トリニティ2年生の白洲 アズサだ」

「ここにいるのは先生以外トリニティですわよ。次、ハナコ」

「2年生浦和 ハナコです♡ みなさん、仲良くしてくださいね」

「あなたの仲良くはなにか嫌な予感がしますわ。じゃあ、コハル。できるかしら?」

「う、うん。1年の下江 コハルよ。ユリ先輩はともかく、あんたたちを先輩なんて認めてあげないんだから!」

「最後はともかく、よく挨拶できましたわね。褒めてあげますわ」

「え、えへへ……」

「2年生の春風 ユリ。救護騎士団所属よ。私はあくまでボランティアよ」

"最後は私だね。連邦生徒会直属シャーレ所属、先生って気軽に呼んでね"

「えっと、そういうことですので……短い間ですが、これからよろしくお願いします」

"よろしくね"

「「「……」」」

 

 全員が自己紹介をしたが、落ち着きづらい空気が漂う。見かねたユリが机を手のひらで軽く叩く。

 

「雰囲気が暗い!」

「あはは……。な、何かわからない点とか気になる点がありましたら……」

「大丈夫。これからは普通の授業に加えて、毎日放課後に特殊訓練があるってだけでしょ」

「えっと、訓練と言っていいのかわかりませんが、そうです。私たちが目指すのは、これから行われる特別学力試験で、「全員同時に合格する」こと。先生も手伝ってくれますし、み、みんなで頑張って落第を免れましょう……!」

「特別学力試験は第3次まで、つまり3回あるようですが……そのうち一度でも全員同時に合格すれば、そこで補習授業も終わりとのことです!それで、先生には主に……スケジュールの調整や、いろんな補修を行っていただければと」

"わかったよ"

「それくらいでしたら私もお手伝いしますわ。ただ、私も少々忙しくなりそうであまり力にはなれないかもしれませんが……」

 

 手伝うと言った直後に、悩ましげに腕を胸の下で組み、右手を顎に添える。唯一、話すことができそうな相手があまり顔を出せないと知り、コハルは動揺する。

 

「そうなの!?」

「ええ、ミネ団長がいなくなったのでその対処が。とはいえ、団長がいないならいないであの人が生み出す負傷者を処置しなくて済むので、忙しくなるかは五分五分といったところですわね……」

 

 救護騎士団の団長である「蒼森 ミネ」について述べれば、困惑したヒフミが首をかしげた。

 

「あうぅ……、救護騎士団の団長なんですよね……?」

「そうですわ。間違いなく私の戦い方の先輩で、あの姿にあこがれて私は救護騎士団に入りましたのよ。……って私のことはいいわ、全員理解できましたの?」

「うん、理解した。3回のミッションのうち、一度でもいいから全員で成功を収める。そのために、ここに毎日集まって訓練を重ねる……それほど難しい任務じゃない。この集まりはつまり、各自のリタイアを防ぐための措置……私としては特に、サボタージュする気も理由もない」

「そ、そうですね、頑張りましょう!えっと、アズサちゃんは、転校してからあまり時間も経ってないんですよね?まだこの学園に慣れてなかったせいもあるでしょうし、みんなで頑張ればすぐに何とかなると思います!」

 

  話題は移ろい変わる。女三人寄れば姦しいとはいうが、5人もいれば話題もころころと変わっていく。話はアズサが転校してきたことに変わる。少し話せばアズサの人となりを理解できたのか、ハナコは座っているアズサの顔を覗き込みながら尋ねた。

 

「それでは、私もアズサちゃんって呼んでいいですか?」

「……?別にいいけど?」

「では、アズサちゃん。ヒフミちゃん。それからコハルちゃんに、ユリちゃん。うふふふ、なんだか良い響きですね。私たちはこれから補習授業部の仲間ということで。アズサちゃんは一見冷たそうに見えますが、なんだか可愛らしいですし。ふふふっ」

 

 ハナコについて訝しみながら、推察する。かつてトリニティの才媛であったことはトリニティの生徒の大部分が知っている。そのハナコの考えを理解することはできずとも、ユリは自身の知恵と、培ったコミュニケーション能力を用いて理解しようとする。

 

(なにか計画してるのかと思ったら、思ったより素直に名前呼びに移行したわ。単純に友達になりたがっている?……うーん、まだよくわからないわね)

 

「あら、そんな憎悪に満ちた目で、どうしたんですかコハルちゃん?」

「言っておくけど、私は認めないから……!」

「えっと……?」「あら、何のことですか?」

「わ、私は、正義実現委員会のエリートだし!こんな部活さっさと抜けてやるんだからっ!あんまりなれなれしくしないでもらえる!?」

「なるほど……補習授業部の中でまで、年齢の上下なんて気にする必要は無いと思います。私としても何も問題ありません」

「私も別に。そもそもそういう文化は不慣れだし。そもそも仲良くするために集まっている会じゃない。あくまでお互いの利益のためなんだから、親しいふりをする必要もないはず。違う?」

 

 アズサはそこにいる少女たちに問うた。あくまでそれぞれの利益のためであり、そこに親しい振りはいらないのでは、と。場は何も答えない。先生は生徒同士で仲良くすることは素晴らしいことだとは思うが、それを強制することはできない。それを見てユリは

 

「いいえ、違うわ。アズサ」

 

 と明確に否定した。

 

「どうしてだ?」

「だって、そうね……。アズサ、そもそもあなたに基礎知識が足りていないのは理解しているでしょう?」

「うん。前のところとは学習進度が違うから」

「じゃあ勉強する必要があるけれど、あなたが受けている1年生の試験でも難しいということは、あなたは前提知識が足りてないか、学ぶのに時間がかかるかのどちらかよ。けれど、これまで教室で教えた感じ、あなた自身の頭は悪くないと、私は思うの」

「じゃあ……、前提知識が足りてないということ?」

「ええ。でもそのあなたは前提知識のための教科書を持っていない以上、誰かに教えてもらう必要があるけれど、転校してすぐのあなたに友人は?」

「……、ユリくらいかもしれない」

「誘導するようで悪いけれど、そうでしょうね。今の時期はもう派閥が固まっている頃で、どこもあまり手を広げたくはないのでしょう。けれど、今はここにいるのは偶然あまり派閥に属していないメンバーばかり。じゃああなたがするべきことは?」

「ここにいる人に教えてもらうこと?」

「そう。頼み事をするならコミュニケーションは必須よ。親しい振りをする必要はないけれど、親しくすることは頼み事をする上で大切ともいえる。それがあなたの言葉を否定する証拠だけれど、いかがかしら?」

「わかった。ユリのアドバイスに従ってみよう」

「それに、友達が増えてくれると私もうれしいですわ。アズサのよいところ、みんなに知ってほしいですもの」

 

 椅子に座っているアズサの背中に回り、椅子を回す。補習授業部のほか3人に向ければ、コハルはともかく、ハナコやヒフミは笑顔をアズサに向けた。

 

「さっきはごめん。私にいろんなことを教えてほしい」

「はい、アズサちゃん。仲良くしてくださいね!」

「うふふ。もちろんです。なんなら手取り足取り、あんなことやこんなことまで実践形式で」

「ハナコ」

「よろしくお願いしますね、アズサちゃん」

 

 その後はコハルが赤点をとった理由を言い、1年生のテストを受ければ大丈夫と言い、出て行った。ユリは先生に「あれでいいのか?」という目を向けたが、先生にとっては学生特有の無鉄砲さを理解し

 

"別に一度の失敗で、すべてが終わる訳じゃないから"

「……一回は失敗する前提ですのね」

 

 と言うにとどめた。ユリは呆れ、でも60点なら頑張って勉強すれば大丈夫か、と安易に結論づけた。

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