メルトリリス(偽)、呪術の世界に降り立つ 作:ひのき
そうして始まる学生生活。
とは言うものの、やっぱりやってることは基本的には今までと同じ。
勉強して、鍛えて、呪霊を倒して。
ただしその中に二人の仲間が加わって、反対に正式な呪術師となったことで五条さんの手伝いという建前が必要なくなり、一人の任務がほとんどになった。
秤君と綺羅羅は二人で任務を受けることが多いみたいだけど、一級術師である私は高専一年生ながら一人前と認められて単独の任務が基本なのだ。
少し寂しくはある。
二人が仲良くしてる間、私だけ仲間はずれだ。
任務も多い。
人手不足の呪術界は、学生だろうと一人前の呪術師ならば馬車馬のように働かせるのである。
でも苦戦はまったくないし、ドレインのペースも上がったし、何よりたくさん呪霊を倒すことができるというのは、それだけ多くの他人を助けているということでもある。
だから、そこに不満はない。
充実感すらある。
呪霊が増える夏は忙しく過ぎ去って、九月になると京都校との呪術高専同士の交流会があった。
本来は上級生が参加するイベントだけど、私は一級術師だからと特別に参加することになった。
そしたら京都校の方にも人数合わせなのか一年生がいた。
東堂葵。
彼も、私と同じように一年生ながらに目覚ましい実績を積んでいる期待株だそうだ。
交流会の一日目は団体戦。
広い会場の中で偶然にも遭遇した私と東堂君は、自然と戦うことになった。
開口一番、彼は言う。
『どんな女がタイプだ?』
と。
急に意味のわからない質問を受けた私だけど、困惑しつつも素直に答えた。
『うすくてほそくてかわいい女の子がすきです』
って。
そしたらめちゃくちゃにブチギレられて、殺意をみなぎらせ、勝手に失望されて。
あげく不倶戴天の宿敵扱いまでされた。
さすがに納得がいかない。
むかついた。
むかついた、ので、東堂君をズタズタのくたびれたぼろ雑巾ぐらいになるまでぶちのめした。
なんだか一刻も早く帰りたい気持ちになった。
先輩たちがメインのイベントだからと自重していたけど、それを取り払ってリヴァイアサンを出した。
ビルぐらい、おっきいやつ。
怪獣みたいなリヴァイアサンを解き放って、交流会の団体戦は蹂躙して終わらせた。
当然、『メルトウイルス』は使ってないよ。
気をつけたから死者もいない。
やってしまったことがことだから、京都の人にも先輩にも怖がられてしまったけど。
終わった後でちょっと後悔した。
そんな感じで。
まあ、呪術師としての活動自体はおおむね順風満帆で、仕事に対するやりがいも感じていた。
だけど、万事が万事上手くいくわけじゃない。
悩みは別のところにあった。
それは呪術界の価値観や伝統、そして歪み。そういう形のないもの。
端的に言うと、めちゃくちゃ面倒くさい。
女だからと。
それだけの理由で侮られ、蔑まれ、馬鹿にされ、笑われたりする。
嫌なことも何度も言われた。
主に上層部の関係者、年嵩の人たち、由緒ある古い呪術家系の人たち。
そういう人たちの中では、頭江戸時代かってくらいに当然の理としてそういう価値観がまかり通っている。
ただ女なだけなら問題なかったのだろう。
でも私は強いから。
女で、強いから余計に目立っている。女の分際で、と下に見ないと彼らは生きていけないのだ。
凝り固まった旧態依然とした彼らのその価値観が私という存在を許さないのだ。
出る杭は打たれる、というやつだ。
なんだかなあ、って。
私はただ呪霊を倒しまくって人を助けたいだけだから、面倒で煩わしいなって思っちゃう。
「特級、ですか?」
ある日。
私は五条さんから、次の任務についての話をされていた。それ自体はよくあること。
でも、今回はその内容が特殊だった。
確認された未登録の特級呪霊の祓除。
それが、任務の内容だった。
「どうして私なんでしょうか。そういうのは五条さんに任されるのがいつものことだと思うんですけど」
「上層部が直々に桜を指名したみたいだよ」
「何を考えて?」
「さあ? あいつらのことだから、どうせろくなこと考えてないと思うけど。まあ、多分だけど桜の底を測りたいんじゃないかな」
「私の底ですか」
「桜、正式に呪術師になってから暴れまくってるでしょ。一級呪霊だろうと、他の呪術師を何人も返り討ちにした呪霊だろうと、あっさりと無傷で祓ってる。上層部は桜の実力の底を測って、自分たちにとってどれくらい"使える駒"なのか探ろうとしてるんじゃない?」
「上層部…………」
その単語に嫌な気分になる。
呪術界の上層部は腐敗している。
権力、利権、そういったものに執着し、呪術師としての理念を忘れて私利私欲に奔走する。
五条さん曰く、腐ったミカンのような人たちだって。
私はまだ直接的にはそんなに関わったことがないし、五条さんが積極的に矢面に立ってくれるから、上層部の政治とかに巻き込まれたことはないけど。
でも、よくない噂はしょっちゅう聞く。
それに上層部の使いっ走りみたいな関係者は、女だからと私にいろいろ嫌なこと言ってくるお得意様みたいな人たちだ。
当然、嫌い。
どうせ上層部の重鎮とかも、直接会ったら嫌なこと言ってくるんだろうなって嫌な確信がある。
「目、つけられちゃいましたか?」
「かもね」
「うへぇ……」
思わず、うめいてしまう。
「あいつらは呪術界最強でありながら反抗的で使い勝手の悪い駒である僕の代わりになるような、従順で使い勝手の良い駒を求めてるんだろうね」
「その候補が私?」
「そゆこと。僕への牽制、対抗策としてね」
「バカなんじゃないですか? 私が五条さんに敵対なんてするわけがないのに」
「バカなんだよ」
やれやれ、と五条さんは大げさに肩をすくめてみせる。
上層部の人たちだって、私が幼い頃から五条さんに面倒を見てもらっていることは知ってるだろうに。
そうでなくとも教師と生徒だ。
私は五条さんに敵対する気なんてまったくないし、それは五条さんからしても同じだろう。
私が上層部と五条さん、どっちを優先するかなんて少し考えればわかると思うけど。
現実が見えていないのかな。
呆れてしまう。
「ま、上層部のくだらない政治はおいといて。それはそれとして、これは正式な任務だからね」
「未登録の特級呪霊の祓除ですね」
五条さんは愉快そうに笑う。
「桜なら楽勝でしょ?」
「…………特級なんて戦ったことないですけど」
「僕が保証するよ。今の桜は、呪術界で僕ともう一人の特級の次に位置する実力の呪術師だ。単純な呪力量や出力では僕よりも遥かに上だし。そのスペックがあるんだから、特級呪霊程度には負けないさ」
五条さんはキッパリと断言する。
私は特級呪霊には負けないと。
たしかに、呪力量はすでに五条さんの数倍ある。出力も倍以上はある。
呪力操作も、五条さんから自分の次に上手いとお墨付きを受けている。
でもまだ反転術式も領域展開も使えないし、できるのはスペックを叩きつけるゴリ押しだけだ。
それでも五条さんは特級呪霊に勝てると言った。
なら、勝てるんだろうな。
私は五条さんの普段の性格や言動といったものはともかく、こう言う類の言葉やその善性はちゃんと信じてる。
「それに経験値大量ゲットのチャンスだしね」
「あ、それは魅力的です」
「今の桜は完全体ってところかな。んで、領域展開と反転術式の習得条件で究極体進化。今は完全体で足踏みしてるけど、桜なら究極体に進化してもさらに先まで成長できるんだから本当に未来が楽しみだよねえ」
「この人また私をデジモン扱いしてる…………」
五条さん、私が能力で強くなるのを育成ゲームみたいに本当に楽しそうにするよね。
前に『桜はくれぐれも暗黒進化しないようにね』とか言われたし。
人をなんだと思ってるんだ。
あまりにもあんまりだけど、何年もこの扱いされてたらさすがにもう慣れちゃったよ。
「ともかく、せっかくならド派手にやっちゃいなよ。今後、上層部の干渉は避けられない。なら、完全な制御なんてできないって思わせるくらい暴れた方が後が楽だよ」
「経験則ですか?」
「特級術師っていう等級はそういうものだからね。桜も特級になった方がいいよ」
「なった方がいいって。そんな簡単なものじゃないですよね」
「簡単さ。単独での国家転覆の可否が基準なんだけど、桜ならできるでしょ?」
「…………まあ、できるかもですけど」
というか、特級の基準ってそうなんだ。
野蛮すぎる。
もしかして特級術師って最強の呪術師を示す等級というよりも、制御しきれない厄災みたいな危険人物をラベリングしてるだけなのでは。
そんな風に思ってしまう私だった。
「じゃ、桜。そういうことだから任務頑張ってね」
と、そんなわけで。
私は特級呪霊の祓除という、今までで一番の大きな任務を受けることになったのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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評価や感想、いつもありがとうございます。
誤字報告も助かってます。
ここすきも皆様のダイレクトな反応が見れて楽しいです。
私は感想への返信がちょっと苦手で、内容を考えるのに時間もかかってしまうので申し訳ないと思いつつ勝手ながら返信を控えさせていただいてます。
でも、皆様からいただいた感想にはすべて目を通させてもらっていて、楽しみに読ませてもらっています。
本当に、ありがとうございます。
あとがきもできるだけ書かないようにしていたのですが、今回はどうしても感謝をお伝えしたく。
邪魔に思われてしまいましたら申し訳ございません。
引き続き、このお話にお付き合いいただけると嬉しい限りです。
感想、評価、ここすき等、お待ちしています。
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