メルトリリス(偽)、呪術の世界に降り立つ   作:ひのき

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 この間、パンダをもふりに行くついでに一年生たちと顔合わせを済ませた。

 

 禪院真希ちゃん。

 狗巻棘君。

 パンダ。

 そして、特級術師の乙骨憂太君。

 この四人が一年生。

 

 みんな優秀だ。

 

 真希ちゃんは天与呪縛のフィジカルギフテッドで、呪術師としてやっていけるだけの呪力がない代わりに、普通の人間より身体能力が高い。

 でも、私なら縛りを溶かすことで破ることなく消し去ることができそうなんだよね。

 津美紀ちゃんへの処置を経て、そういうこともできるだろうなって確信を得た。

 少し概念的な部分はあっても、縛りも結局のところ術は術。それを成している呪力や式自体を消し去ってしまえば、問題なく無効化できる。

 普通は無理かもだけど。

 だけど、私の『メルトウイルス』は呪いの論理の外にある。

 

 それをかいつまんで、私なら天与呪縛解けるよって話して、どうかなって。

 真希ちゃんに相談してみると驚かれたけど、しばらく悩んでから断られてしまった。天与呪縛を解いた結果、それで今よりも強くなれる保証はないだろって。

 まあ、そうだよね。

 私もそう思う。

 縛りがなくなればリターンもなくなるもんね。

 

 狗巻君は『呪言』という、言葉だけで呪霊を祓えるすごく強力な術式を相伝する家系の末裔。

 でも暴発の恐れがあるから自由に話せず、語彙がおにぎりの具しかない。

 不憫だ。

 強い術式だけど、喋れないのはたいへんそう。

 

 パンダはパンダ。

 この六年間ですごく大きくなった。動物の成長は人間の何倍も早いもんね。

 相変わらずかわいいし、もふもふしてる。

 高専のマスコット枠だ。

 

 乙骨君。

 私と同じ特級術師。

 正確には特級呪霊に憑依され、その力を利用することができる特級被呪者。

 彼に憑依している里香ちゃんという呪霊は、五条さんも警戒するくらいにすごいらしい。乙骨君は、里香ちゃんの解呪をしようとしてるんだって。

 ちゃんとした形で送り出したいんだって。

 私なら里香ちゃんを彼から引き剥がして消し去ることもできるんだけど、それは違うんだろうね。

 呪霊でも元は大切な幼なじみ。

 野暮なことをするのはやめておいて、応援だけにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 呪霊が増える夏が過ぎ、九月。

 任務が落ち着いた――というか、この一年ほどで間違いなく一番暇な最近。

 

 別に祓いすぎたとかじゃない。

 実際に呪霊発見の報告数自体が例年よりも、ものすごく少なくなっているんだって。

 上層部から嫌がらせ――とは個人的にはあんまり思ってないけど、とにかく嫌がらせをされてて任務がめちゃくちゃ多い私でも暇になるくらい。

 そもそもの話、呪霊自体がいなければ任務は出ないのだ。

 

 夜蛾さんとか、大人たちは少しピリピリしてる。

 明らかな異常事態だ、って。

 

 そんな九月のある日のこと。

 高専内を散歩してたら、乙骨君とばったりした。

 

 挨拶だけしてすれ違うのもなんか変なので、少しだけ話をしてみる。

 自然とその会話の内容は、近日に迫った京都高専との姉妹校交流会についての話になった。

 

「乙骨君も交流会出るんですか」

 

「は、はい。そうみたいです。なんか、人数合わせだとかで。五条先生が」

 

「人数合わせ?」

 

 別に人数、足りてると思うけど。

 

 これはあれかな。

 人数合わせっていうのはただの建前で、実際はお気に入りの乙骨君に経験を積ませたいとか。

 見せびらかしたいとか。

 多分、そんな感じなんじゃないかな。

 

 だって五条さん、そういうことするもん。

 

「それなら、私は不参加にしましょうか。その方が人数はちょうどよくなりそうですし」

 

「あ、あれ? それなら僕は、人数合わせって」

 

「私の代わりに、お願いしますね」

 

「???」

 

 困惑した様子の乙骨君だけど、何はともあれ彼のおかげで私は助かったよ。

 

 だって、これで東堂君に会わなくて済む。

 本当にありがたい。

 

 そもそも特級術師が二人なんて、過剰戦力もいいところだもんね。

 なぜか東京校には教師の五条さん含めて三人の特級術師がいるから感覚がおかしくなりそうだけど、特級術師って四人しかいないからね。

 呪詛師になった夏油さん含めても五人だ。

 

 当然ながら、京都校に特級術師はいない。

 

 戦力の偏りがひどすぎる。

 乙骨君が参加するなら私は不参加の方が戦力の均衡が取れるし、公平だよ。

 お互いの学校にとってもその方がいいんじゃないかな。

 私も東堂君に会わずに済んで助かるし。

 

 Win-Win、というやつだ。

 

「秤君と綺羅羅は参加だろうし、多分不参加なパンダや後輩たちと一緒に遊ぼうかな。あとは津美紀ちゃんのお見舞いして、恵君の様子も見に行こう」

 

 呪霊が少なくなって、時間ができたからこの機会にいろいろとやっておこう。

 ずっと忙しくて遅れ気味になってた勉強も。

 と、姉妹校交流会への不参加を決めた私はそんな風に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

「――何言ってんの? 桜は当然参加でしょ」

 

 だめでした。

 

 私は今、森の中にいます。

 団体戦の一日目。

 結局五条さんの強権によって強制的に参加することになってしまった私は、正直あんまりやる気もないし、気配を消して森の中にひっそりと潜伏していた。

 せめて、東堂君との関わりを極限まで減らす構えだ。

 

 一日目の団体戦はこのままこっそりして終える。

 そして明日の二日目は、なんか急にお腹がいたくなってきて出場を取りやめる予定だ。

 この完璧な布陣で、私は東堂君をやり過ごすことにした。

 

 それなのに、さ。

 

「見つけたぞ。我が終生の宿敵(ライバル)!!」

 

「わあ…………」

 

「交流会に参加しているはずが、まったく姿が見えないから心配したぞ。どうやら、わざわざ戦場を選んでこの俺を待っていたようだな!」

 

「べ、べつに」

 

「フッ。皆まで言わなくともいい。長い付き合いだろう。お前のことはよくわかっているさ」

 

「会うの、三度目ですけど」

 

「お前とは今まで、何度も衝突してきたな。初めて会ったのは中学の頃だったか。俺とお前は決して相容れない、どこまでも続く平行線のようなものだ」

 

「あの、お願いだから勝手に記憶捏造するのやめてくれませんか…………?」

 

「最初は失望したよ。女の趣味が悪い、ただのつまらんヤツだと。決して生かしてはならん、薄っぺらく、細いだけのゴミクズのようなヤツだとな。心底軽蔑したさ。俺はお前のようなつまらんヤツを認めるわけにはいかなかった」

 

「ひどい」

 

「だがな、俺はお前との殴り合いの日々でいつしか、気づいたのだ。たしかに俺たちは対極の位置に立っている。交わらない平行線の存在だ。しかし、だからこそ、俺たちは互いにわかりあえるのかもしれないとな」

 

「…………この人、蹴りすぎて壊れちゃったのかな」

 

「さあ、宿敵(ライバル)よ。334度目の死闘を演じようか」

 

「…………会うのも戦うのも今日で三度目なんですけど」

 

 もうやだ。

 この人、ほんとやだ。

 こわい。

 何言ってるのか意味わからないし、勝手に記憶捏造して巻き込もうとしてくるし。しかも、なんか前会ったときよりもさらに馴れ馴れしくなってない?

 

「というか、東堂君。どうやって隠れてた私を見つけたんですか?」

 

「フッ…………何、このあたりから宿敵(ライバル)の匂いがしてな」

 

「っ!!?」

 

 ぞわってした!

 ぞわって!

 

 きもい! ほんときもい!

 

 ただのセクハラ!!!!

 

「御託はいらん!! 行くぞッ!!!!」

 

「ぐちゃぐちゃ御託言ってきたのそっちなんですけど!?」

 

 ――と、殴りかかってくる東堂君と戦うことになり。

 

 まあ、勝った。

 今まで二回の戦いと同じように、蹴りまくってボロ雑巾みたいにして倒した。

 

 というか、東堂君はどんどん強くなるね。戦うたび、目に見えて強くなってるのがわかるのだ。術式もシンプルながら応用性があって強いし。

 でも、だからこそ不気味だった。

 こんな頭のおかしい人が強くて、その事実がただこわい。

 本当にこわい。

 やめてほしい。

 

 その後私はボロ雑巾になった東堂君を森に放置したまま、交流会からリタイアした。

 もうとにかくなんでもいいから帰りたかった。

 お布団に入りたかった。

 だから帰った。

 五条さんに来年は絶対出ないとだけ宣言して、私はその時点で交流会をバックれた。

 

 ちなみに。

 私が帰った後の交流会は乙骨君が圧倒して、東京校の勝利という形で終わったらしい。

 里香ちゃんを完全顕現させなくても、ちゃんと強いんだね。少し見てみたかった思いもあるけど、別に後悔とかは一切ない。

 一刻も早く東堂君から物理的な距離を取りたかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 忌まわしき交流会からしばらく。

 

 相変わらず去年と比べて忙しくない日々を送っている、ある日のこと。

 その日は任務がなかったので、高専内で一般科目の自習をしている最中だった。

 

 突然、その人はやってきた。

 

 夏油さんである。

 

「――来たる12月24日! 日没と同時に、我々は百鬼夜行を行う!!!!」

 

 それは宣戦布告だった。

 新宿に千の呪霊を、そして京都には()()の呪霊を放ち鏖殺するという宣戦布告。

 高専はこれを、なんとしてでも止めないといけない。

 

「――思う存分、呪い合おうじゃないか」

 

 と。

 そう言い残して、夏油さんは去った。

 

 その後、高専内で会議が行われる。

 生徒という立場ではあるけど高専側の主戦力であるとして、私もその会議へと参加した。

 

「夏油さんはどっちに現れるのでしょうか?」

 

「本命は三千の呪霊が放たれる京都…………と、数だけを見ればそう考えるのが普通だな」

 

 私の疑問に夜蛾さんが答える。

 だが、五条さんはそれに異を唱えた。

 

「明らかに釣りでしょ、これは」

 

「釣り、ですか?」

 

「合理的に考えれば、高専側は二つの戦場に僕と桜を一人ずつ配置する必要がある。そして、多数を相手にするのなら僕よりも桜の方が適任だ」

 

「ああ。桜を京都の守りに、悟を新宿の守りに。これに関してはどうあっても確定だ」

 

「京都…………」

 

 ため息が出そうになる。

 

 でも、仕方ない。

 私の希望としては本当は新宿の方がいいけど、わがままを言っていられる状況じゃない。

 持ってる術式の性質上、五条さんよりも多数相手が得意なのは事実だ。

 京都に行くべきは私だ。

 

 その判断は当然だ。

 

 しかし、京都には東堂君がいる。

 …………はあ。

 

「傑が本気で高専を落とす気でいるなら、最低限この戦いで僕か桜のどちらかを倒さないと意味がない。だとしたら、狙われてるのは僕だろうね」

 

「私じゃないんですか?」

 

「僕には長距離の移動手段がある。傑が桜を狙えば、僕は応援に駆けつけられる」

 

「…………なるほど」

 

 夏油さんが私を狙った場合、他の戦場を守る五条さんは連絡を聞いてから駆けつけ、二対一の状況を作りだすことができる。

 でも、五条さんが狙われた場合は、五条さんのような移動手段がない私では駆けつけられない。

 

 つまり。

 私を京都に向かわせることを確定させ、五条さんとの協力をさせないため。

 そのために三千の呪霊で私を釣り出すと。

 

「傑のことだ。僕に勝つ算段でもあるんだろうね」

 

「乙骨君は?」

 

「乙骨は高専で待機だ。実力は間違いないが、敵味方が入り混じる戦場で暴走のリスクがある乙骨は出せん」

 

 妥当な判断だった。

 乙骨君という戦力を遊ばせるのはもったいないけど、そうするしかないだろう。

 

「ガッデム!!」

 

 怒りをあらわにし、夜蛾さんが宣言する。

 

「OB、OG、それから御三家。アイヌの呪術連にも協力を要請しろ。総力戦だ。今度こそ、夏油という呪いを――完全に祓う!!!!」

 

 敵は最悪の呪詛師――夏油傑。

 決戦が、始まる。

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