メルトリリス(偽)、呪術の世界に降り立つ 作:ひのき
百鬼夜行という近年では最大級の事件が終息し、それに伴っていろいろな変化があった。
「停学んなったわ」
「え、え〜…………」
まず、秤君が停学になったとか言ってきた。
「金ちゃんさ、百鬼夜行のとき桜ちゃんが暴れ回ってる横で保守派の人と揉めて殴っちゃったんだよね」
「…………何やってるんですか」
「ムカついたからボコボコにしたぜ」
「術式絡みで難癖つけられたんだよ」
「ああ…………私も保守派というか、そっち系の思想の人たちは好きじゃないので気持ちはわかるんですけど」
「桜ちゃんも特級になる前はいろいろ言われてたもんね。一時期すごい悩んでたよね。正直、このままグレちゃうんじゃないかなって思ってた」
「んで、そのストレスのはけ口が戦闘だったってわけだな。桜との共同任務は一年の最初の頃に何度かしたぐらいだが、その頃はクソ強いこと以外は別に普通だったか。いつのまにかあんな風になってたんだな」
「笑いながら戦ってて戦闘狂みたいだったよ。呪霊ボコしてストレス発散? 頼もしかったけどね」
「ハンドル握ると性格変わるタイプだな」
「わ、私のことは今は関係ないですよね!?」
私は頭を抱えた。
消えない黒歴史が過去から私をいじめてくる。
「今は、秤君の話です!」
「ま、話つっても停学したってことだけだ。いつ復帰になるかわからねえし、任務も休止だな」
「あ、私も停学するよ。金ちゃん一人にはできないし」
え。
「き、綺羅羅まで!? 私が一人になっちゃいますけど、それはいいんですか!?」
「桜ちゃんは心配ないもん。強いし、しっかりしてるし」
「でも寂しいですよ!?」
「東堂いんだろ」
「!? あ、あんなのは別に友達でもなんでもないっ!!! 一方的に"ライバル"だの"とも"だの言ってきて、勝手につきまとわれてるだけです!!」
「傍目から見てると仲良さそうに見えるぞ」
「うわぁん!!!」
私は大声をあげて泣いた。
ひどい風評被害を受けている。こんなのってない。あんまりにもあんまりだ。
悲しみ。
つらい。
しんどい。
その後、停学処分となった秤君と綺羅羅は本当に高専を離れていってしまった。
ということで学年は私一人だけに。
ぼっちである。
とてもさみしい。
かなしい。
そしたら、このことをどこからか聞いたらしい東堂君に『京都校来るか?』と誘われたけど、想像したら一気に寂しさも悲しさも吹き飛んだ。
拒否した。
じゃあ、ぼっちの方が百倍いいや。
次に、この百鬼夜行のMVP。
首魁である夏油さんと戦い、見事に勝利してみせた乙骨君のことだ。
戦いの中で、彼は自分に憑いていた特級過呪怨霊の里香ちゃんの解呪に成功。里香ちゃんは成仏し、乙骨君はそれをちゃんとした形で見送った。
それによって、乙骨君の特級認定は取り消された。
普通の呪術師として改めての再スタートだ。
とは言っても、乙骨君の才能はすごい。
里香ちゃんとの縛りによって得ていた底なしの呪力や術式の模倣を失っても、それだけ強力な縛りを成立させていたのは他ならぬ彼自身の才覚。
その才能自体は一切損なわれていないのだ。
すぐにも等級は上がるだろう。
もしかしたらまた特級術師に戻るんじゃないかな。
あとは、いろんな人から感謝されたり尊敬されたりが多くなった。
特に百鬼夜行で京都にいた人たちから。
そんな現状が、今までがんばってきた結果が出たみたいで嬉しくはありつつも複雑だった。
災い転じて福となるみたいな。
でもどうしたってやっぱり、あれは私の意識としてはただの黒歴史なのである。
だから、複雑なのだった。
最近では、最強の座は五条さんから私に代替わりしたのではないかみたいな説もあるとか。
実際はどうかな。
私自身、力の総量的には五条さん以上だと思う。だけど技術とかはまだまだ未熟だし。
反転術式もまだ覚えられてない。
それに直接戦うとなると、やっぱり無敵状態がデフォルトの五条さんに私の攻撃を届かせるのは難しいし。
私の『メルトウイルス』は大抵の防御手段は問題なく破れるけど、五条さんの無下限バリアは物理的なものじゃなくて概念的なものだからね。
当たりさえすれば、どんなバリアでも溶かせる。
でも当たらない。
無下限はそういう仕組みのバリアだから『メルトウイルス』で破ることができないのである。
ただ、お互いに領域まで使って戦うなら五条さんに勝つこともできるかもしれない。
領域なら無下限バリアも破れる。
どっちが領域を通すかだ。
だけど、そこまでいくともはや殺し合いだし。私と五条さんがそんな戦いをすることは決してない。
ということで、どっちの方が強いかなんてわからない。今後も明確になることはない。
それが結論だ。
でも、ずるいよ。
無下限バリア。
本物のメルトリリスも電脳世界特有のチート行為によって当たり判定消滅という無敵状態になってたけど、あれと似たような感じだよね。
チート行為って立派な犯罪だよ。
現実でやるのはずるだよ。
あれがある限り、最強っていう肩書きの説得力は私よりも五条さんの方があると思う。
別に最強だとかなんとか興味ないからいいけどね。
百鬼夜行という呪術界の歴史に残るような大事件があっても、日々が過ぎれば日常は戻る。
数ヶ月も経てばいつも通りだ。
そして今は四月。
私は三年生になり、新一年生が高専にやってきた。
「えへへ、ぼっち同士、仲良くしましょうね!」
「…………はい」
今年の新入生は津美紀ちゃんの弟の恵君。
以上。
なんとたった一人だ。
秤君と綺羅羅が停学になり、ぼっちになってしまった私とお揃いというわけである。
二年生は四人なのに。
それなのに、三年生と一年生は一人ずつ。
ひどい格差だ。
私と恵君で手を結んで、賑やか仲良しな二年生たちに対抗しなければいけないのだ。
そう思って声をかけたけど、微妙な顔をされてしまった。
「たしかに一人だと寂しいし、これからは一年と三年の担任を僕が兼任しようかな」
「良い案です!」
「恵もそれでいいよね」
「異論はないです」
と、五条さんの提案もあってそういう話になった。
すごく嬉しい。
「ま、桜と恵じゃ進みが違うし授業は恵が優先ね。桜は呪術の授業はもう必要ないだろうから、手が空いてたら恵に指導してやって。座学についても一般科目だけを基本的に自習ってことで」
「そもそも私は高専にいないこと多いですもんね」
「桜は忙しいからね。任務も恵は一人かな。僕か桜のどっちかが付き添うこともあるだろうけど」
「ごめんね、恵君」
「いえ、問題ないです。本格的な任務はこれからが初めてですが俺は完全な素人ではないので」
「恵の実力は現時点で準二級くらいかな。入学時点でそのレベルはだいぶ上澄みだからね」
「…………上澄みと言われても、実感ないんですが。主に裏月さんと乙骨先輩のせいで」
「あはは……」
恵君の言葉には苦笑するしかなかった。
私は入学以前から五条さんに任務を丸投げされる形で大量に呪霊を祓ってた。
一級呪霊の祓除の実績も山ほどあった。
だから特例での最初から一級認定。
乙骨君に関してはいきなり特級だ。
超強い秤君とかもいるし。
入学時点で準二級レベルって言われても、上の二つの世代には入学時点で一級に特級だ。
恵君の反応も仕方のないことであった。
「ここ数年はバグかってくらい豊作だからね。でも、恵も間違いなくバグってる側だよ」
「術式もすごいですし!」
「そうそう、桜の言うとおり! 恵は僕や桜と同じレベルのもの持ってるんだよ。自信持ちなって!」
「…………」
恵君がじとっとした目で私たちを見ていた。
やめて、そんな目で見ないで。
本当なんだよ。
六眼に『無下限呪術』の抱き合わせの呪術界最強の五条さん、他の呪いを吸収して無制限に成長する毒使いであり式神使い(ということになってる)な私。
対して恵君の術式は『十種影法術』という、御三家である禪院家の相伝術式。
なんとびっくり、過去には五条さんと同じ六眼無下限の五条家の人と相討ちしたこともあるのだという。
とてもすごい術式なのだ。
そんな術式を持ってる恵君の才能は他の呪術師と比べても最高峰。これは決して誇張じゃなく、私や五条さんに匹敵するものを秘めているのだ。
だから本当に自信を持っていいのだ。
ただちょっと周囲がおかしいだけなのだ。
「とにかく、入学おめでとう恵君!」
「ありがとうございます」
私の言葉に、恵君はふっと笑みを浮かべるのであった。
そんな感じで。
学年が上がって、恵君が入学してきた高専での新生活はスタートした。
でも、私のやることはあまり変わらない。
呪霊の発生件数も例年通りに戻り、それに合わせて私の任務の密度も元に戻ったので忙しい日々だ。
多分、夏油さんだったんだろうな。
去年露骨に呪霊が減ってたのは、夏油さんが頑張って呪霊を集めまくってたからなのだ。
それがなくなって呪霊の数も例年通り。
と、そういうことだ。
任務の合間があれば高専で自習し、恵君を指導したり彼の任務に付き添ったり。
秤君と綺羅羅がいなくなったのはやっぱり寂しいし物足りないけど、それも少しずつ慣れていく。
そうして二ヶ月が経ち、六月。
なんと、一年生に二人の編入生がやって来た!!!!
あれ、私だけまた一人?
…………………………………………そっかあ。