メルトリリス(偽)、呪術の世界に降り立つ   作:ひのき

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 ある日のこと。

 それは任務を終え、高専に戻る途中のことだった。

 

 ふいに、強大な呪力を感知した。

 

「! 全力で離れてください!」

 

「え?」

 

「私は出ます! 急いで!」

 

「ちょ、裏月特級!?」

 

 補助監督の運転する車から飛び出す。

 走行中で無理矢理降りたので綺麗に着地できなかったけど、車を止めている余裕はなかった。

 

 夜の帳の落ちた周囲が明るく照らし出され、肌が焼けつくような膨大な熱を感じる。

 頭上を見上げた。

 そこには、空を焼き尽くすような巨大な隕石があった。

 

「————極ノ番『隕』!!」

 

 上空。

 迫る巨大な隕石の横に、小さく、だけど強大な呪力を放つ呪霊の姿が見えた。

 一つ目に火山のような頭をした呪霊。

 間違いなく特級。

 それも、今まで見たどの呪霊よりも圧倒的に強い!

 

「死ね! 裏月桜!!!」

 

 呪霊から明瞭な殺意を感じる。

 

 それは無差別に呪いを振り撒くはずの呪霊でありながら、たしかな意志を感じる殺意。

 私は違和感を感じながらも、術式を動かす。

 

 迎撃する。

 避けることはできない。

 あの隕石をそのまま落とせば、周辺一帯にどれだけの被害があるかわからない。

 幸い今は夜で、ここは人通りのあるような場所ではない山道ではあるけれど。

 でも、補助監督は逃がさないと。

 逃げてとは言ったけどまだ距離も取れてないし、このままだと巻き込まれてしまう。

 

 構えをとった。

 片手で弓を番えるように、空から迫る隕石へ向けて。

 

 最大出力の光の矢を放つ。

 

「——『月女神三星愛詠(アルテミス・メルトフォール)』!』

 

 放たれた光の矢が、極大のビームとなって隕石と衝突。呑み込み、消し飛ばし。

 夜の世界を真昼のように煌々と照らしながら、はるか上空の雲を割った。

 

 しかし、安堵する暇はなかった。

 

 突如として背後の壁がまるで火山の火口のような形状に変化。

 そしてその火口から、莫大な火炎が放たれる。

 

「っと!」

 

 全力で地面を蹴り跳躍し、範囲から離れた。

 

 見下ろすと、さっきまで私が立っていた場所を含めたかなりの広範囲にわたって、コンクリートがドロドロに融解していた。

 たった一瞬で。

 あまりにもすさまじい超高温の炎だった。

 

 でもまだ終わってないみたい。

 

 私の視界の中で、融解した地面に火山の火口のようなものがまた形成された。

 それも同時に五つ。

 空中にいて身動きが取れないと考えたのだろう。

 

 たしかに、ちょっと危ない。

 

 私はリヴァイアサンを空中に呼び出し、それを足場にしてその場から離れようとして。

 ——それより早く、呪霊が私の背後に現れた。

 

「ヒャアッ!!!」

 

「っ」

 

 呪霊の両手を握った振り下ろしが、空中で身動きの取れない私の背中を強打する。

 

 別にダメージはない。

 かなりのパワーだったけど、私の呪力出力による基本的な防御を貫通するほどのものではない。

 でも、衝撃は殺せない。

 私は地面に叩き落とされてしまった。

 

 そして、叩き落とされた私を中心に五つの火口がその矛先をこちらへと向けていた。

 

「終わりだ」

 

 直後放たれる、コンクリートを一瞬で融解させる火炎のオールレンジ五発同時放射。

 その圧倒的な超高温が、私を蹂躙するように包み込んだ。

 

「フン。禪院め、この程度の小娘に怯えおって」

 

 呪霊が勝ち誇るように笑った。

 

「もう、勝った気ですか」

 

「は?」

 

 熱によって発生した煙が晴れる。

 

 呪霊が驚愕したように一つだけの目を見開いて、炎に焼かれたはずの私を見ていた。

 

「貴様……耐え切ったというのか!!」

 

「なかなかでしたよ」

 

 本当に、なかなかだった。

 さすがにこれはちゃんと防御しとこうって思ったもん。

 まともに命中しても死にはしないし、今は反転術式もあるから回復もできるけど。

 少なくとも、単純な防御力なら呪術界で一番な私の呪力出力の上からそこそこダメージを通してくるだろうなって、そう思わせるほどの威力だった。

 この呪霊、本当にすごく強いと思う。

 最初の隕石もびっくりした。

 

 でも、防御は間に合った。

 

 リヴァイアサンを召喚して、その中にすっぽりと私の体を匿わせてもらったのだ。

 たくさん呪力を込めて性能を底上げして召喚すれば、もともと耐久力に優れたリヴァイアサンなら問題なく耐えられる程度の攻撃ではあった。

 とんでもない威力ではあったけど。

 

「儂の極ノ番に、加えてこの一撃を受けて無傷か。裏月桜、これで最強ではないというのか。チッ…………わかってはいたが簡単にはいかんようだな」

 

「えと、呪霊ですよね。私のこと知ってるんですね。呪霊なのに理性もありますし。変ですね」

 

「変、だと? 人間風情が儂を見下しおって……!!」

 

「あと、さっき"ぜんいん"って言いましたよね?」

 

 気になることが多すぎる。

 呪霊でありながら持っている明瞭な意思と理性、私が戦ってきた特級呪霊の中で比べても圧倒的な強さ、それと私の名前を知っていること。

 目的は、私を殺すためみたいだ。

 何のために?

 

 ぜんいん、っていうのは人の名前な気がする。

 協力者。

 呪詛師かな。

 そのぜんいんとかって言う呪詛師がこの呪霊をそそのかして、私を殺そうとしてる?

 ぜんいん、全員…………まさか禪院?

 だとしたら大変なことだけど。

 あの家の人たちからは基本的に嫌われてる私だけど、さすがに特級呪霊を唆して暗殺しに来るのはおかしいというか、無理があるというか。

 さすがにそこまでバカではないでしょ。

 禪院家も、この呪霊も。

 

 情報が足りない。

 禪院家の方については、後で五条さんに調査してもらおう。それか、一番は目の前のこの呪霊から直接聞き出すことだけど。

 

「気になることが多くて、あなたを生け捕りにして聞き出すべきだと思うんですけど」

 

 でも。

 

「どうしましょう…………楽しくなってきちゃった」

 

 茹だるような熱が脳から全身に満ちていく。

 

 目の前の呪霊は強者だ。

 これを完全に上回っていると断言できるのは、私の知る限り五条さんだけ。乙骨君なら勝つことはできても簡単にはいかないんじゃないかな。

 それくらい目の前の呪霊は強い。

 

 だからこそ、私の全身全霊が叫ぶ。

 

「よくってよ」

 

 相手は私を殺そうとしてる。

 こんなに強い呪霊が、わざわざ出向いてきて私を殺すために一生懸命がんばってくれている。

 だったら応えてあげるべき。

 

 だってこんなにも、蹴りごたえがありそうな顔してる!

 

「お望み通り蹂躙してあげる!!!」

 

 全力で、地を蹴った。

 

「な、消え——」

 

「アン!!!」

 

「ぐぉッ!!!?」

 

 相手が私を見失うほどの速度で、正面から、呪霊へと接近してその腹を思いっきり蹴り飛ばす。

 吹き飛んだ呪霊が山中に突っ込み、何本もの樹々を薙ぎ倒しながら、それでも勢いは止まらず吹き飛んでいく。

 

 私は吹っ飛ぶ呪霊を追い越して先に回り込む。

 

「ドゥ!!」

 

 そして今度は、空へと向かって蹴り上げた。

 

 合わせて私も跳躍し、打ち上がっていく呪霊よりもさらに高所を取り。

 

「トロワ!!!!」

 

 渾身の踵落としを、その顔面にぶち込んだ。

 

「サッカーはお好きかしら? 私は好き! だってこんなに好き放題蹴れるなんてたまらないもの!! これでバロンドールは私のものね!!!」

 

 ルールよく知らないけど!

 

 衝撃が山を揺らす。

 その周囲がクレーターのように陥没するほどの威力と速度で大地に叩きつけられた呪霊は、全身から血を流し、血を吐きながら地面に這いつくばっていた。

 

 私は空中に召喚したリヴァイアサンに座って、悠々とその無様な姿を眺める。

 

「グ、ガ、ハァ……ハァ!!」

 

「これで終わり? たった三回ちょっぴり強めに蹴っただけなのだけれど。歯応えがないにもほどがなくて?」

 

 少し失望する。

 

「強いと思ったのに、呪霊なんかに期待しすぎだったのかしら。このままだと消化不良になってしまいそう」

 

「ナメ……るなァ!!!!」

 

 火山頭の呪霊が、血だらけの顔に怒りの形相を浮かべて地面に強く叩く。

 するとその隣に火山の火口のようなものが現れた。

 

 今までのものより数倍大きい。そこから噴き上がるのは、一際大きく高温の火炎。

 

 でも。

 

「それはもう飽きてしまったわ」

 

 私は新しく超巨大リヴァイアサンを呼び出す。

 とても大きな、ビルぐらいの。

 

 大地に立つ呪霊をめがけて、それをただ落とした。

 

「どうかしら? 質量攻撃は私もできるのよ」

 

「なァ……!」

 

 頭上から迫る超巨大クラゲを前に、愕然とした表情で見上げる呪霊。

 放たれた火炎なんて、リヴァイアサンが何のダメージもなくあっさりと呑み込んでしまった。

 

 呪霊は両手を掲げた。

 そしてリヴァイアサンと接触、押し合いが始まる。

 

「ぬ、ぬおおおおおおおお!!!!」

 

 落ちていくリヴァイアサン。

 両手を掲げ、それをなんとか押し返そうと全身全霊を込めて抵抗する呪霊。

 

 大質量が、呪霊の立つ地面に亀裂を刻み、山を崩すように沈み込んでいく。

 それでもなんとか火山頭の呪霊はがんばっていた。

 

 でも、それじゃダメだ。

 触れたら厳禁。

 私のリヴァイアサンはあらゆるすべてを溶かし尽くす『メルトウイルス』そのものなのだから。

 

「な……! こ、これは!!!?」

 

 呪霊の顔が驚愕に歪む。

 

 リヴァイアサンを押しとどめていたはずのその指先が、少しずつ沈んでいく。私の毒の中へと指先から手、腕、肩と呪霊の体を呑み込んで溶かしていく。

 

「これで終わり? そのままだとあなたの全身が私の養分になっちゃうわよ」

 

「おおおおおおお————!!!!!」

 

 呪霊が叫ぶ。

 

 直後、膨大な熱を感じた。

 発生源は今にもリヴァイアサンに押しつぶされそうな火山頭の呪霊。

 その圧倒的な超高温によって、呪霊の周囲の地面が溶け出し、木々は炭化していく。

 

 やがてその熱は一点に収束し——放たれる。

 

「ビャアッ!!!!!!!」

 

 爆発が起きた。

 周囲一体をまとめて焼き尽くすほどの、超大爆発だった。爆心地は火山頭の呪霊。

 自爆かのようなその大爆発によって、爆心地の目の前にいたリヴァイアサンは一気に消し飛ばされた。

 

 その場に残るのはただ一体の呪霊。

 

「ハァ、ハァ…………ハァ…………!」

 

 自らの放った爆発によって全身が焼け焦げ、リヴァイアサンに呑み込まれた肩の先を失い。

 膨大な呪力消費に息を荒くしながら。

 それでも火山頭の呪霊は、絶体絶命の危機から己の生存を勝ち取り、笑みを浮かべながら、上空から見下ろす私を見上げていた。

 

「なによ、やればできるじゃない!!!」

 

 その様子に私は興奮する。

 

 この呪霊、やっぱり強い!

 

 まさか私の超巨大リヴァイアサンを自爆という手を取ったとはいえ、跳ね除けるなんて。

 火力に関してだけは、本当にすっごい呪霊だ。

 

「降りてこい、裏月桜!! 儂が貴様を殺すぞ!!」

 

「いいわ。乗ってあげる」

 

 ボロボロの姿で、呪力もほとんどないだろうに、壮絶に笑って啖呵を切る呪霊。

 そんな必死な姿を見てもっと楽しくなった私は、そいつの言うとおりに地上で戦ってあげることにした。

 

 別にこのまま、超巨大リヴァイアサンの質量攻撃を連発してすり潰してあげてもよかったけど。

 呪力量的には後100回でも問題なく同じことできるし。

 でも、それは興醒め。

 

 私の頭も体も心も、この呪霊のがんばりを見てそんなつまらない決着はしてはいけないと叫んでいた。

 

 リヴァイアサンまかせじゃない。

 この私が直々に、蹴り殺してあげないと!!

 

 地面に降りる。

 目の前には満身創痍な火山頭の呪霊。無事なところなんて一つもない。

 だけど殺意にみなぎるその目だけは、今にも私を殺してやると強い意志を爛々と輝かせていた。

 

「死に方だけは選んでいいわよ! 死んだ後は私の養分で決定だけどね!!」

 

「抜かせ! 死ぬのは貴様だ!!!」

 

 呪力の消費なんて皆無に等しく、無傷な私。

 対するは呪力も体もギリギリの呪霊。

 

 お互いに目の前の相手を殺さんと、動き出す。

 ——その瞬間。

 

「!」

 

 突如として私の目の前に、植物の根っこが絡み合った杭のようなものが突き刺さる。

 そして、それを起点に周囲に花が咲き誇る。

 

 何かが頭の中に作用してくる感覚がした。

 感情へ訴えかけるような。

 

 そのとき、新たな呪霊が現れる。

 人間とそっくりな白い体。歯を剥き出しにした頭には、目の部分から木のようなものが生えている。

 

 突如として乱入するように現れたその呪霊は、だけど私の方には目もくれず満身創痍の火山頭の呪霊の方へと。

 

「花御!!!!」

 

 火山頭が驚いたように叫ぶ。

 仲間?

 白い呪霊、花御って名前なんだ。こいつも特級呪霊っぽいけど、特級呪霊同士で徒党を組んでる?

 

 花御と呼ばれた呪霊は、どうやら火山頭の呪霊を回収して逃げようとしているみたいだった。

 火山頭も、それを断ってなお戦おうとはしていない様子。

 満身創痍だったのだ。

 啖呵を切って奮起していたけど、実際はまともに動けるような状況ではなかったのだ。

 

 呪霊のクセに目の前の敵を殺すより、仲間を助けて逃げようとする。

 自分から挑んだクセに、仲間の救援に頼ろうとする。

 

 私はため息を吐いた。

 

「つまらないわ」

 

 足を振る。

 即座にそれを剣へと変形させ、反応するのを許さない速度で白い呪霊の体を三つに分割した。

 

「花御……!?」

 

 目の前で仲間が刻まれ、愕然とする火山頭。

 さっきまでの根性はどこいったの。

 一気に冷めちゃった。

 

「悪いけど。私は精神攻撃(こういうの)効かない体質なの。リヴァイアサン、食べちゃって」

 

「————」

 

「? 何言ってるのかわからないわ」

 

 リヴァイアサンを呼び出して、花御と呼ばれた白い呪霊を食べさせてしまう。

 三分割にされた体では脱出は無理だろう。

 すぐにゼリーになって、私の経験値だ。

 

 みるみるうちに、リヴァイアサンの中で溶けていく仲間を見て火山頭が絶叫する。

 

「貴様!! 花御を!!!!」

 

 どこに力が残っていたのか、火山頭から強大な呪力が立ち上る。

 

「お仲間が殺された怒りで呪力を絞り出して出力も増加? 呪霊なのに、まるで人間みたいなことするのね」

 

「黙れ!!! 我々こそが本当の呪い(ニンゲン)だ!!!!!」

 

「あなたも何言ってるかわからない。呪いは呪いでしょう?」

 

 火山頭が失った両腕を生やす。

 そして、掌印を結んだ。

 

「——領域展開!!!!」

 

 周囲の景色が切り替わる。

 火山の内部のような、焼けた岩や溶岩が流れる洞窟。立ってるだけで燃え尽きてしまいそうな灼熱の世界。

 

「『蓋棺鉄囲山』!!!!」

 

 領域展開。

 このレベルの呪霊なら当然、持ってるよね。

 

 私も掌印を結んだ。

 

「領域展開————『弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)』」

 

 灼熱の領域に対抗するように、私の領域が現れる。

 

 どこまでも青く、私の(どく)に満たされた空間。

 

 領域と領域がぶつかるとき、互いの領域が自らの世界を主張するように押し合うことになる。

 呪力の出力、結界術の練度、相性。

 即ちその領域の完成度。

 より洗練された領域が、相手の領域を押し返し、自分の領域で塗りつぶすことができる。

 

 同時に展開された火山頭と私の領域。

 本来ならば領域同士の押し合いが発生する。でも、押し合いは——なかった。

 

「何!? 儂の領域が…………溶けていく!!!?」

 

「これはあらゆるすべてを溶かし尽くす猛毒の領域。その術式が付与された外郭自体が、同じ性質を持っているの。私の領域は、たとえそれが敵の領域だろうと、触れた先からその存在自体を溶かしていくわ」

 

「クッ……ありえん!!!!」

 

 そうして、あっという間に私の領域が火山頭の領域を溶かし尽くして世界を青く染め上げた。

 

 理不尽だと思うかな。

 でも、普通に押し合いしたとしても私が勝つよ。

 

 そのまま必中となった術式が、なすすべもなく火山頭の呪霊を溶かして、吸収して。

 役目を終えた領域はあっさりと閉じた。

 

「…………それで」

 

 あえて頭部だけ溶かさず残した火山頭を、足で地面に押さえつけながら尋ねる。

 

「あなたは何ですか? 私を襲った目的は? 誰かにそそのかされたんですか? "ぜんいん"って誰ですか? どうして特級呪霊同士で徒党を組んでるんですか? 他の仲間の数と居場所はどこですか?」

 

「…………」

 

「まあ、答えないですよね。答えても答えなくても祓いますし。一応聞いてみるだけ聞きましたけど」

 

「…………」

 

「じゃあ、もういいです」

 

 押さえつけた足の先から、剣を突き刺して『メルトウイルス』を流し込む——直前。

 突如として地面がぬかるみのようになり、その中へと火山頭が沈んでしまった。

 私は慌てて、その場から退く。

 

「…………影?」

 

 影がうごめいて、飲み込まれたように見えた。

 また新手の呪霊だろうか。

 いや、人間だ。

 

「そこですね!」

 

 夜に紛れるような人影が見えた。

 黒髪、長髪。

 女の人だ。

 

 あの人が"ぜんいん"だろうか。まず間違いなく、影を操って火山頭を助けたのはあの人だ。

 逃してやるもんか。

 私は即座に追いかけようとして——弾かれたように顔を上げた。

 

「!」

 

 強大な力を感じた。

 さっきまで戦っていた火山頭の呪霊よりもはるかに強い。

 本気の五条さんとか、解呪前の乙骨君とか、そんなレベルの底知れない力。

 

 そこに、()()はいた。

 

 筋骨隆々な体。

 身長は私の倍以上、四メートルくらいはあるだろうか。右手には縛り付けられた剣、目の部分からは羽が生えていて、後頭部は蛇のように伸びている。

 そして何より異質に感じるのが、その頭上。

 巨大な法陣。

 

「呪霊…………じゃない。式神?」

 

 冷めて引いてしまっていた熱が、また私の頭や全身を満たしていくのを感じた。

 

 ゾクゾクと興奮が上がってくる。

 

「なるほど、こっからが本当の本番ってことなのね!!!」

 

 私は高揚のままに、笑みを浮かべるのであった。

 

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