メルトリリス(偽)、呪術の世界に降り立つ   作:ひのき

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 開戦の口上も、ゴングもない。

 式神が動き出す。

 

「!」

 

 右腕に括り付けられた剣が真正面から振り下ろされる。私は紙一重で躱す。

 直後、一瞬前に私の立っていた場所に叩きつけられる剣。

 大地に大きな亀裂が走った。

 

「速いわね! パワーもある! 防御力はどうかしら!!」

 

 攻撃後の隙をさらす式神へと、その頭部へ向かって回し蹴りを叩き込む。

 ぐらり、と巨体が揺らぐ。

 さらに流れるように体を動かして、式神の頭に蹴りの連打を加える。

 側頭部、顎、頭頂部。

 最後により出力を高めて、渾身の蹴りを顔面へと食らわせた。

 

 式神の巨体が吹き飛ぶ。

 私に何度も蹴られた頭部はぐちゃぐちゃに歪み、えぐれ、血を流しながら大地に横たわっていた。

 

「どうかしら?」

 

 それなりに強く蹴った。

 軽めの挨拶みたいなものだけど、頭のいろんなところを蹴り砕いた感触がある。

 普通なら死ぬだろう。

 でも、その程度じゃないよね。

 この式神から感じる強さは、さっきの火山頭よりも遥かに上。

 私は確信を持って見守っていた。

 

 その時、ガコン——と、そんな音が聞こえた。

 式神の頭上に浮かぶ法陣。

 それが回転した音だった。

 

 式神が立ち上がる。

 ぐちゃぐちゃだった頭部は完全に元通りになっていた。

 

「そうよね! そうこなくっちゃ!!!」

 

 再び式神が動き出す。

 

「いいわよ! 果てるまで踊りましょう!」

 

 突撃してくる式神。

 速度、パワー、やっぱりさっきまで戦っていた火山頭の呪霊とは比較にもならない!

 これだけで一級術師くらいは容易く完封できるほど。

 

 でも、その程度で捕まる私じゃない。

 私はさっきと同様に式神の攻撃を躱し、攻撃後の隙をついて蹴りをお見舞いする。

 

 違和感。

 

「硬くなってる?」

 

 さっきと同じ威力での蹴り。

 それなのに、蹴った際の感触がさっきよりも悪い。式神に効いた様子がない。

 与えるダメージが少なくなってる。

 

「なら、もっと上げましょう!!!」

 

 出力をさらに高める。

 

 式神が硬くなったなら、こっちもさらに威力を高めて蹴れば問題ない。

 

「いくわよ!!」

 

 蹴る。

 蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!!!

 

「いくわよいくわよいくわよいくわよっ!!!!」

 

 私の蹴りが式神の腹を蹴破る。

 肩を抉り蹴る。

 頭蓋を蹴り砕く。

 腰を粉砕し、背骨を蹴り折り、下半身の動きを止める。

 

 思った通り。

 

 防御力が上がって硬くなったみたいだけど、それに合わせてこっちもより出力を高めればいいだけ。

 簡単だ。

 

 全身をめちゃくちゃに蹴られた式神は、膨大な血を流しながら膝をつく。

 その巨体は見るも無惨に砕かれ、抉られ。

 動くこともできず、ただただ無抵抗に私に蹴られ続けるだけの図体だけ大きなサンドバッグ。

 もはやその命は風前の灯火。

 致命傷だ。

 終わりが近いことを残念に思いつつ、私はなおも苛烈に攻撃を続けていく。

 

 これで死ぬならその程度。サンドバッグを気持ちよく蹴り砕いただけで終わる。

 消化不良だけど、まあ悪くはない。

 

 でも、もしもまだやれるというのなら。

 

 ——ガコン。

 

 法陣が、回転した。

 

「っ!」

 

 突如として伸びてくる式神の腕。

 

 全身が砕かれ、腕も動かず、沈黙していたはずの式神の体はまばたきの瞬間に全快していた。

 急激な再起動に反応が遅れた私は脚を掴まれてしまう。

 

 そして式神は私を掴んだままぐるりと体を回転させ、遠心力を得てから手を離した。

 

 音速に迫るような速度で投げられた私。

 木々や岩など、障害物を巻き込みながら月の光が照らす山の中を滑空する。

 

 空に浮かぶ月が翳る。

 見上げるような形で投げ飛ばされた私の視界が、こちらへと右手の剣を突き刺すように降ってくる式神の姿で遮られた。

 

「やるじゃない!」

 

 空中で体勢を変え、吹っ飛ばされる私の進行方向にあった木へと着地。

 降りてくる式神の剣へと蹴りを合わせた。

 

 式神の剣、鋼の足。

 二つが衝突し、その余波によって周囲一帯が吹き飛ぶほどの衝撃が巻き起こる。

 ギリギリ、と鍔迫り合う。

 

「ふんっ!!」

 

 私は目の前の式神を上回る程度の力を込めて、鍔迫り合う剣ごと蹴り飛ばして距離を取らせる。

 

 両者の激突の衝撃によって障害物がなくなり、ぽっかりとできた山の中の広場。

 私たちは仕切り直すように真正面から対峙する。

 

「五条さんとの模擬戦(あそび)以外でちゃんとしたダメージを受けるのは、いったいいつ以来かしらね?」

 

 山の中を吹き飛ばされて、何度も岩やら木々やらにぶつかったせいで体が少し痛む。

 打撲、擦過、切り傷もある。

 ところどころ制服も破れちゃってる。

 でもたいしたダメージではないし、戦闘にはまったくもって支障がない。

 制服は予備があるし大丈夫。

 

 でもまあ、せっかくだから傷は治しておこう。

 反転術式。

 呪力を掛け合わせて正の呪力を作ると、一瞬で私の体にできた傷もダメージも完治する。

 やっぱり便利だよね、この技術って。

 

 反転術式を実戦で使うのもこれが初めてだ。このレベルの強敵との戦い。

 簡単には死なない蹴り放題のサンドバッグ。

 

 ますます気分が高揚する。

 

 でも。

 

「すぅ…………ふぅ〜」

 

 深呼吸する。

 

 荒ぶり猛っていく興奮、戦いという快楽に浮かされていく頭と体。

 今までにないほど感じる『加虐体質』の昂り。

 

 そんな熱を冷ますように、息を吐く。

 

 私だって馬鹿じゃない。

 

 いつまでも自分の中に眠る『加虐体質』という困ったちゃんな性質に振り回されているばかりじゃない。

 あの忌まわしき百鬼夜行を経験した私が、そのままにしておくわけがない。

 この半年くらいの間、『加虐体質』と上手く付き合っていくために、多少なりとも制御できるように、と。

 がんばって鍛えてきたのだ。

 戦闘が長引くほどに我を忘れ、攻撃性を増していくこの『加虐体質』を放置すればいずれ身の破滅を招く。

 社会的にも、精神の安寧にも、命にも。

 だからある程度は制御しないといけない。それは私という存在にとって至上命題ですらあった。

 

 深呼吸をして少しだけ冷静になる。

 

 私はもう、『加虐体質』に振り回されるだけの私じゃないのだ。

 

「————さあ!! ぶっ殺すわよ!!!!!」

 

 地面を蹴って距離を詰める。

 

 その勢いのまま、思いっきり式神の首へと蹴りを叩き込む。

 効いてない。

 なるほど。

 

 私はその一撃を当てた後、カウンターを狙う式神の一撃を避けつつ元の位置に退がった。

 

「致命傷でも即座に全快する回復能力。加えて、攻撃を受けるほど防御力が上がる感じかしら?」

 

 少しだけ冷静になった頭で思考する。

 

 この式神の持つ特性。

 最初は軽めの蹴りで頭をぐちゃぐちゃにできたのに、それが回復した後は同じ威力ではほとんど効かず、さらに出力を上げて死ぬほどボコボコにした。

 それでまた回復して、今回。

 一度回復した後にボコボコにした威力で蹴ったのに、もうほとんど効いてない。

 

 回復能力、防御力の上昇。

 

 おそらくそのトリガーはあの法陣。

 一度目の回転後は硬くはなったけど出力を上げたら対応できた。

 でも、二度目の回転を経てもっと硬くなった。

 今回蹴った感覚かなり硬い。

 出力を最大まで上げればまだダメージを通すことはできるだろうけど、もしも三度目の回転をしたら?

 もう効かなくなるかも。

 

 つまりこの式神は戦えば戦うほどに硬くなる。

 そういう能力。

 

「ちょっと、危ないかしら?」

 

 戦いが長引くほど硬くなるというのがこの式神の能力だとしたら、私にとってかなり相性が悪い。

 こっちは戦いが長引くほど『加虐体質』のせいで冷静じゃいられなくなるのだ。

 正反対とすら言えた。

 

 求められるのは短期決戦。

 防御力が強化される前に、初手で倒しきるレベルのダメージを与えて速攻で終わらせる。

 そんな攻略法が思い浮かぶ。

 でもそれは、最初から知っていないと難しい。

 

 今の現状ではもう遅い。

 というより、だからこそ私を殺そうとしている相手は、領域展開後で私の術式が焼き切れたタイミングにこの式神を投入してきたのだろう。

 

「これはどう?」

 

 私は脚を魔剣へと変形させる。

 膨大な呪力を集めて、それを振り切ると同時に解放し斬撃の衝撃波を放った。

 

 ——『踵の名は魔剣ジゼル』

 

 狙うは首。

 普通に考えたら致命傷にしか見えないほど、あれだけボコボコにしても死ななかった。

 それなら首と体を分けてしまえばどうだろう。

 

 そう思い飛ばした斬撃が、ひどくあっさりと狙い通りにその頭と体を分断した。

 

「あら……?」

 

 困惑する。

 

 たしかに『踵の名は魔剣ジゼル』は強力な一撃だ。単純ではあるけど、術式を用いない手段において私が出せる最高火力を担う攻撃でもある。

 でも、それにしては変だった。

 

 こんな簡単に斬れるだろうか。

 

 法陣の二度目の回転を経て、蹴った後の感触を考えるといくらなんでも柔らかすぎる気がする。

 

「もしかして、防御力の強化じゃない?」

 

 じゃあ、どうして硬くなったのだろうか。

 

 蹴りは効かなくなった。

 でも斬撃は通る。

 

 それなら。

 

「…………耐性の獲得かしらね」

 

 蹴られること、あるいは打撃に対する耐性を獲得し、私の蹴りが効かなくなった。

 だけどその耐性はあくまで蹴られることに対して。

 斬撃に対しての耐性は得ていない。

 

 おそらく、それが正しいのだと思う。

 

 でも、ということは。

 

 ——ガコン。

 法陣が三度目の回転をした。

 

 頭を飛ばされた式神の体が当然のように動きだし、その頭部が生えてきて回復する。

 これで斬撃の耐性を獲得ってことね。

 

「う〜ん、厄介ね!!」

 

 からくりはわかった。

 

 でも、それがわかったところでって感じ。

 致命傷を与えられようが、首と体を分けられようが、問題なく復活する不死性。

 それ自体が極めて厄介。

 さらにはダメージを受ければ受けるほど、その攻撃方法に対する耐性を獲得してさらに倒しづらくなる。

 

 戦いが長引くほど強くなり、最終的にこちらのすべての手札への耐性を獲得されてしまえば勝ち目が消える。

 やっぱり大事なのは初手必殺。

 でも生半可な必殺では、意味がないどころか耐性を獲得されて手札を減らされるだけ。

 致命傷でもなく、頭を落とすのでもなく、それよりももっと——例えば全身を消し飛ばすほどの必殺で、一撃で終わらせるのがこの式神への正攻法。

 私は状況を整理し、そう結論づけた。

 

「でも、それならむしろ相性よかったのかしらね」

 

 術式が二つある私は、他の呪術師よりも手数が多いもんね。

 一撃で終わらせられる大技だってある。

 

 まあ今は術式が焼き切れてるし、『踵の名は魔剣ジゼル』では一撃で消し飛ばすまでのことはできないし、斬撃の耐性を獲得されてしまっただろうし。

 じゃあ、焼き切れた術式の回復待ち?

 

 一応『メルトウイルス』は今のままでも使える。

 あれは術式の能力ではなく、私という人間の持つ身体機能でしかないのだ。

 だから使える。

 でも、まだ使わない方がいいかなって思う。

 

 直接注入したとしても、別に弱ってもいない目の前の式神を速攻で溶かすほどの速さはない。

 必殺たり得ない。

 普通なら一度注入すれば解毒なんてできないし、時間経過で死ぬだけの運命。

 だけど目の前の敵は耐性を獲得できる。

 時間が経過するほどに法陣が回転し、『メルトウイルス』の耐性を獲得されてしまえば、毒が完全に回りきる前に克服され回復されてしまう可能性が高い。

 それなら、使わない。

 領域展開で即座に溶かすのが、この式神相手に『メルトウイルス』という手札を切る最善。

 そう判断する。

 

「っと!」

 

 私が考えている間に、式神が待っていてくれるわけでもない。

 飛び込んでくる式神の攻撃を避ける。

 

「まあでも、パワーと速度が強化されないのは残念ね。耐性を上げられて倒せなくなったとしても、そっちが私を倒せるようになるわけではないもの」

 

 もっとも、パワーも速度も十分過ぎるほどにはあるけれど。これとまともに殴り合えるのは、私と五条さんと、ギリギリ乙骨君くらいじゃないかな。

 まともに戦うのに特級であることが条件だなんてとんでもないフィジカルだ。

 それに加えて、不死と言っていいほどの回復能力と耐性の獲得能力。

 改めて考えると、やっぱりとんでもない怪物だ。

 

 たいていの術師は、まずこのフィジカルを前にしてなすすべもなく敗北する。

 その足切りラインを超えれたとしても、一撃必殺の有無というDPSチェックが入る。

 まごついていれば、やがて耐性の獲得で詰んでしまう。

 

 総評して、めっちゃ強い。

 

 でも私からしたらどうとでもなる強さではあった。

 

 そんな風に考えながら、式神の攻撃を躱して、鋼の足で斬り刻む。

 

「やっぱり、斬撃も通りにくくなってるわね」

 

 それでも斬れないわけではない。

 

 式神の腕、脚、脇腹、頭、胸、と相手の追いつけない速度で脚を閃かせ斬り刻む。

 だけどそうやってつけた傷も。

 

 ——ガコン。

 と、その音と同時に全回復し、さらに耐性を獲得したのか斬れにくくなってしまう。

 

「千日手というか。まあ、術式が戻るまでだけど」

 

 式神との殴り合い、斬り合いが激化していく。

 

 目にも止まらぬ速さで繰り出される圧倒的なパワーによる拳の連打、括り付けられた剣による斬撃。

 対する私は、そんな式神をさらに上回る速度で連打も斬撃もいなし、一撃たりとも掠ることすらなく一方的に蹴りを、斬撃をぶつけていく。

 式神の攻撃は私には当たらない。

 私の攻撃は耐性によって防がれる。

 

 まさに千日手。

 

 私と式神の戦闘の余波によって、局所的な暴風雨か地震でも起きたのかと言わんばかりに山が破壊されていく。

 

 果たして均衡を破るのは私の術式が戻るのが先か。

 それとも。

 

 ——ガコン。

 式神の頭上の法陣が五度目の回転を見せる。

 

「ぐっ!!?」

 

 私の腹に、式神の蹴りが突き刺さった。

 

 その圧倒的なパワーをもろに受けた私は、勢いよく吹き飛ばされる。

 けど、すぐに体勢を整えて身構える。

 

 目測を誤った?

 いいえ!

 

「なんだ、まだ上があるのね!!!」

 

 式神が突っ込んでくる。

 

 その速度が、さっきまでとは比較にならないほどにまで上がっているのを即座に理解する。

 

「うふふ! 盛り上がってきたじゃない!!!」

 

 劇的に速くなった式神の速度。

 

 まだ私の方が速いし、パワーだって私の方がある。式神の攻撃を受けたって、呪力出力が高い私の体はたいして傷つくことはないし反転もある。

 だけど、さっきまでほどの余裕はなくなった。

 

 パワーも速度も上がらない。

 しょせんは耐性の獲得能力。

 

 なんて、そんな判断は早計だった。

 

「私と対等に踊るために、速くなった! 楽しいわ! そうやって私を楽しませてくれるのね!!」

 

 式神と殴り合い、蹴り合い、斬り合う。

 

 ——ガコン。

 六度目の回転。

 さらに式神の速度が上がっていく。

 

 お互いの速度はますます加速していき、音速を超えた世界で互いが互いを仕留めるために壮絶な攻撃を繰り出していく。

 

「楽しい! 楽しい! 楽しいわ!!!!」

 

 全身全霊で目の前の敵との戦いを楽しむ。

 

 頭が、体が、心が。

 私のすべてが、目の前の最強の式神との戦いに歓喜していた。

 こんなのは初めてだ。

 今までにないほど、私は快楽に溺れている!

 

 だけど、歓喜する本能とは裏腹に思考の中にわずかに残った冷静な部分が警鐘を鳴らしていた。

 このままだと手に負えなくなるかもしれない、と。

 

 この式神は戦えば戦うほどアップデートされていく。

 最初は耐性の獲得能力だと判断した。

 だけど違う。

 その能力の本質は、目の前の敵を屠るための手札を戦いの中で分析し獲得していく自己進化。

 それは耐性だけじゃない。

 敵を殺す手段を——私という敵を殺すために、この式神は自らの速度を私に届かせんと高めていく。

 

 ()()

 言葉にするのならば、それが適切だろうか。

 

 相手の攻撃に適応し、耐性を獲得する。

 相手を殺すために適応し、その殺害手段を獲得する。

 

 危険だ。

 今はまだ問題ないし、もしかしたら適応するにも限界があるのかもしれない。

 だけどその適応能力に限界がないとしたら。

 

 いったい、あと何回この式神の法陣が回転したら私は負けるだろうか。

 そんな思考が頭をよぎり——すぐに否定する。

 結局のところ、この均衡は私が術式を使えないことが前提としてあるだけのもの。

 

 焼き切れた術式が戻ればその時点で私の勝ち。

 

 今、戻った。

 

「どうやら、ここまでのようね」

 

 私の戦闘スタイルは脚技だけで構成されている。

 

 それは両手の触覚が機能していないからであり、両手は基本的に戦闘の補助をする簡単な動きにしか使わないし、使うことができないためだ。

 脚を自在に振るうために、体を支える目的で地面に手をついてみるとか。

 腕を振ったり伸ばしたりでバランスを取ったりとか。

 

 それは逆に言えば、音速を超えるような高速戦闘の最中でも両手が空いているということでもある。

 

 式神と殴り合い、蹴り合い、斬り合いを続けながら私は悠々と掌印を結んだ。

 

「領域展開」

 

 どこまでも青い領域が広がっていく。

 

 満たされる(みつ)

 目の前の式神にとっての初見、あらゆるすべてを問答無用に、跡形もなく、瞬時に溶かし尽くす一撃必殺。

 

「これは効くでしょう? ——『弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)』!!」

 

 式神が、どろりと溶けて私の中に混じる。

 

 戦闘終了。

 領域を解除する。

 

 荒れ果て崩れた山。

 戦場となった場所に戻ってきた私の前に、しかしあれだけ猛威をふるった強敵はすでにいない。

 

 激戦の後、一転して静寂。

 

「今までで一番、楽しかったわ。ごちそうさま」

 

 私は満腹とも満足とも言えるかつてないほどの充足感の中で、わずかな寂寥とともに息を吐いたのだった。

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