メルトリリス(偽)、呪術の世界に降り立つ 作:ひのき
時間が経つのは早いもの。
呪霊と戦ったり、呪術を学んだり、津美紀ちゃんやパンダと遊んだりしているうちに小学生の期間はあっという間に終わり、中学生の期間も一気に過ぎ去り。
私は今日から高専に入学することになる。
体も成長し、すでに良く知るメルトリリスの姿と同じになっている。『あざとい脂肪を一切廃して極限の造形美を追求した身体』というやつだ。
時代に即した新しい言い方をするのならば薄くて細い体、いわゆる『うすほそ』である。
「制服も良い感じ」
高専内、与えられた寮の私室で姿見の前に立つ。
鏡に写っているのは私。
すっかり本来のメルトリリスと同じ姿へと成長した私だ。ただし当然だけど、あんな恥ずかしい痴女みたいな格好はしていない。
高専の制服だ。
改造や着崩しが許されてるので、それなりにこだわって発注させてもらった自信作。
白のブラウスに、足の動きを阻害しないホットパンツ。その上から、だぼっとしたポンチョ仕様の黒い制服を羽織ってる感じだ。
袖は長く広がっていて手が完全に隠れているけど、どうせ戦闘ではほぼ使わないということで隠してしまおうという意図があってこの形。
それに、メルトリリスだしね。
足は質感を調整して黒のニーハイブーツみたいに変化させて誤魔化してる。
そして頭にはちゃんと、大きな青いリボン。
うん。
すごくかわいい感じに仕上がった。
気合を入れて用意した改造制服が、メルトリリスの美少女ボディをよりかわいく彩ってくれている。
満足だ。
これだけで高専に入学する意味はあったね。
一応、私の戦闘スタイル的に通常の制服だと問題があるから、これはただの自己満足じゃない。
戦闘や利便性を考えると、自ずとこういう制服に改造するのがベストという結論になるわけだ。
「それにしても、ついに高専に入学かあ。正直、いまさら感あるからあんまり実感はないんだけど」
高専に入学するとは言っても、私にとって呪術高専なんてもはや勝手知ったるもの。
すでに五年ほど、ほぼ毎週の週末には高専に訪れて勉強したり鍛錬したり、呪霊祓除をしたりしていた。
だからそんなに感慨はない。
でもまあ、これからは私も正式に呪術師だ。今までみたいに、あくまで五条さんのお手伝いみたいな
今後は完全に一人で、私の仕事としてやっていく。
それは間違いなく、たしかな変化と言えた。
「後は同級生…………どんな人たちかな。仲良くなれるのかな?」
先日、五条さんが教えてくれたんだけど私の同級生は他に二人いるらしい。
つまり私を含めて三人だ。
とても少ないように感じるけど、呪術の才を持つ人は極めて限られる。そのため業界全体で慢性的な人手不足になっていて、一つの学年に生徒が三人というのは別に珍しいことでもないのだとか。
少し寂しいけど、仕方のないことだ。
五条さんによると、同じ学年に私とは違う方向性で将来有望なすごい才能の持ち主がいるらしい。
きっとびっくりするだろうって言われた。
ちなみにパンダはいない。
パンダはパンダだから、年齢とかあんまり関係ないけど来年の入学になる予定だって聞いてる。
せっかくなら一緒が良かったのに。
「楽しみでは、あるよね」
これからの高専生活。
呪術師になるわけだから、普通とは少し違うだろうけど青春というやつだ。
楽しみ。
うん。楽しみだ。
鏡に映る私の顔も自然と笑みの形になっていた。
「行こう!」
期待と高揚。
ワクワクとした気持ちを抱きながら、私は部屋を出たのだった。
「秤金次だ」
「星綺羅羅。よろしく」
「裏月桜です! よろしくお願いします!」
と、同級生と無難に初対面を済ませた。
初対面の印象としては星綺羅羅君……さん(?)とは普通に仲良くなれそう。
秤金次君はちょっとわからない。
老け顔で、強面で、見るからに不良ですって感じの人で、あまり関わってこなかったタイプ。
恵君も不良だけど優しい不良だし、見た目はまったく怖くないもんね。
まあ、秤君も悪い人って感じはしないかな。
感覚だけど。
う〜ん。
私のこの感覚、夏油さんを悪い人って見抜けなかったからあんまり当てにならないかもだけど。
でも、これから高専を卒業するまでの長い間同じ学年はこの三人なんだ。
時間はたくさんあるし、きっと仲良くなれるよね。
「ハイ! 今日は初日だから、お互いを知るためにもこれから交流会を開催しようと思います!」
教壇に立つ五条さん――私たち一年生の担任教師となった彼が、そんなことを言い出した。
「交流会だ?」
「何するの?」
五条さんの言葉に秤君と星さんが疑問を浮かべる。
そんな二人の横で私は、どうせまたしょうもないことでもしようとしてるんだろうなと警戒する。
交流会ね。
みんなで遊びに出かけるとか、ご飯を食べに行くとか、そういうのじゃないんだろうなって。
だってそんな普通のことを考えてるのなら、五条さんはこんなに面白がるようなニヤニヤ顔はしないでしょ。
そして、案の定。
五条さんはトンチキなことを言い出した。
「ここにいるのは三人の新米呪術師。仲間として、ライバルとして、これから先苦楽を共に、切磋琢磨していく君たちはまずはお互いを知る必要がある!」
「それで、具体的に何すんだよ?」
「君たちは呪術師だ。お互いを知るためにやることと言えば、そんなのは一つ! バトルオブ一年生! バトルオブデッドオアアライブ!!」
レッツゴー、と言わんばかりに五条さんは拳を高く掲げて言った。
「――模擬戦だー!」
「なんで初日から戦わされるんだろ」
「俺は悪くない方法だと思うぞ。殴り合いは互いを手っ取り早く知れる手段だ」
「河川敷で殴り合って仲良くなるみたいなやつね」
「蛮族の理論ですか?」
「桜ちゃんは少年マンガ読まないタイプ?」
教室から校庭に出る。
どうやら私たちは、初対面なのに本気で同級生同士の殴り合いをやらされるみたい。
五条さんは相変わらずだ。
相変わらず、頭がおかしいと思う。
だけど秤君はわりと乗り気で、星さんは困惑しつつも別に嫌がってはいないみたい。
まあ、私もやれと言われればやるけど。
でも、初対面だよ?
それとも呪術師的には、こういうのが普通だったりするのかな。
蛮族の社会ならこれが普通かもだけど。
もしかして、呪術師って結構蛮族寄りなのかな。
「この中で一番強いのは桜だから、桜はハンデとして術式なしね。普通にやったらつまんないでしょ?」
「…………へえ。コイツそんなに強いのか?」
「強いよ。新入生だけど、今までの実績から特例としてすでに一級術師に認められてるし。呪術界全体でも桜に勝てる人は片手の指もいないかな」
「面白え」
五条さんが挑発するようなことを言ったせいで、秤君がギラギラとした敵意をぶつけてくる。
秤君が私の前に立つ。
五条さんと星さんは、自然と離れるように下がった。
「最初は俺がやる。いいよな?」
「いいよー」
「じゃあ、初戦は桜と金次だね!」
私の意見は?
と、思ったけど別に良いか。どうせ戦うなら誰が相手でもどんな順番でも変わらない。
「ハンデがどうとか言ってたが、別に使っても良いぜ。その上で俺が勝つからな」
なんて、秤君が言う。
でも、五条さんに術式を使うなって言われたけど、そんなの元より使うわけがない。
手加減できないもん。
同級生をドロドロに溶かすわけにはいかない。『メルトウイルス』は殺して良い場合になら圧倒的だけど、そうじゃない場合ではやりすぎる。
式神の方も、『メルトウイルス』を行使せずに戦わせることはできるけど、一対一だったら最初から私自身が戦った方が強く戦える。
だから五条さんのハンデ発言は完全に余計なお世話だ。
秤君も怒っちゃうじゃん。
――と、思ったけどむしろ楽しそうに笑ってる。どうやら戦いを楽しめるタイプらしい。
じゃあ、乗ってあげよう。
「言われなくても最初から使う気はないですよ。初日から同級生を死なせるわけにはいきませんから」
「……良いねぇ、熱いじゃねえか。気に入った。ぶっ飛ばしてやるよ!」
私たちは相対し――
「――始め!」
五条さんの宣言。
即座に私は動いた。
さっさと倒してしまおうと、呪力を回し身体強化をしてから一瞬で秤君に肉薄。
殺さない程度の威力で加減しつつ蹴り飛ばした。
「っ゙、がァ……!?」
秤君は校庭の端まで吹き飛ぶ。
蹴った感触からして、なかなか良いダメージが入ったんじゃないかな。
でもまだ足りなさそう。
頑丈だね。
私は再び地面を蹴り、百メートル以上はあるであろう距離を一息に詰めて、転がったままの秤君の上に。
苦悶の表情を浮かべる彼へと、追撃のかかと落としを決めようと、して。
そこで秤君はおもむろに掌印を結んだ。
「――――領域展開!!」
「…………へ?」
瞬間、景色が一変する。
「『坐殺博徒』」
びっくりした。
領域展開って言われたのかと思った。