設定など深く考えずに書いたのでふわっと読んでください。
原作開始より数年前の話のつもりです。
『幸運体質』というサイドエフェクトを持つ隊員がいる。
正確には別の名称がつけられているかもしれないが、隊員たちの共通する認識では『幸運体質』となっている。平たく言えば『運がいい。いいことが起こる』というもの。
自販機で飲み物を買えば当たりが出るし、棒アイスを食べれば当たり棒が出る。山勘が外れることはないし、ババ抜きでは負け知らず。
生きているだけで恵まれている。まさにチート。そんなサイドエフェクトを持っている女がいる。
───という噂話だけが、ボーダー内に広まっていた。
「お、ラッキーガールじゃん」
「諏訪さん。それ誰のことですか?」
「ほらアイツ」
この時間帯のラウンジは、ランク戦や訓練の合間に休憩をとる者や学校の課題を片付ける者たちで混雑している。諏訪と堤も例外ではなく、雑談中に噂の有名人を見かけたというわけだ。
諏訪が指差した方向を堤が見れば、確かに件の少女が歩いている。注目の的になっているのに気付いていないのかどうでもいいのか、我関せずといった顔だった。サイドエフェクト由来のあだ名である『ラッキーガール』という呼称から連想されるような、明るく溌剌とした印象は微塵もない。
堤は初めて見る彼女に少しばかり同情した。何をせずとも視線が集まるのは嫌だろう。
「あまり人のこと指差しちゃダメですよ。それに何です、ラッキーガールって」
「ワリーワリー。いやな、噂じゃ幸運体質っつーサイドエフェクト持ちなんだと。常時ラッキー状態」
「ああ、だからラッキーガール」
話していると、ガガガと椅子を引きずる音がした。諏訪と堤が音がした方へ顔を向けると、太刀川が二人のテーブルまで近くの椅子を持ってきている。お誕生日席の位置に置いて前後逆に跨り、背もたれを両腕で抱えるようにしてドカッと座った。
諏訪がテーブルに肩肘をついて太刀川に話しかける。
「オウ、太刀川。ランク戦は済んだのか?」
「いやー誰も相手してくれなくてさ。暇そうなヤツ探しに来た。どうよ諏訪さん」
「暴れすぎだ、今日はもう大人しくしてろ」
「えー」
「課題は進んでるの?」
「ははははは」
太刀川は戦いに没入するあまり案の定学業の方が疎かになっている。まったく、と同級生の立場で堤はしょうがないという顔をした。しかしすぐに太刀川の眼差しに気づいて神妙な表情になる。
太刀川がラッキーガールに熱心に目線を向け始めたのだ。この男も噂を知って彼女を次の対戦相手に、とでも考えているのだろうか。
個人ポイントトップの猛者に狙われるのは可哀想だなと思って、堤は窘めるように口を開く。
「彼女は訓練生だよ」
「迅と同じもん持ってるのにな」
「未来視と比較してやるなよ。いや幸運体質も大概だけど」
「運がいいって便利そうだよなー、テストとか四択外さないじゃん」
「太刀川は毎回鉛筆コロコロして外してるもんね」
「でも戦闘にどう活きるんだよ。歩いててバナナの皮にすっ転ばなくなるみてーなの?」
「まさかそんな」
「俺ら八百屋とかスーパーで戦う時あっかなぁ」
「まず敵対中に歩いてることを疑問に持てよ」
噂でしか知らないので、三人は好き勝手に推測を立てて話をした。
サイドエフェクトの発現者はボーダー内では貴重で、その筆頭は未来視という規格外の能力を有する迅だ。その迅とライバル関係にある太刀川が、同じサイドエフェクトを持つ彼女に興味を持たないはずがない。
しかも幸運体質という人生イージーモードのサイドエフェクト。実態をまるで知らないが、関心を持ってアレコレ盛り上がるには格好の話題である。
おおよそ噂が広まるのと同じやり方で三人が一通り雑談し、一段落して。
「ま、C級でもいーや。俺ちょっくら声かけてくるわ」
太刀川が立ち上がり、ラッキーガールに向かっていった。
諏訪と堤は顔を見合わせてすぐ後を追う。野次馬根性と揶揄されても仕方がないくらい、二人も彼女に興味があった。
「どう? 模擬戦。訓練生と正隊員だからポイントは動かないけど」
「どうって?」
「戦ろうよって話。サイドエフェクト持ってんだろ? 俺はブレードだけ、オプションもなしだ」
「たりめーだアホ。C級相手に旋空使うヤツがあるか」
いきなり太刀川に勝負を持ちかけられ、サイドエフェクトのワードが出てきた時に彼女の眼差しが剣呑に光った。これが初会話なので人となりは知らないが、少なくとも人好きのする愛想はなさそうだ。
しかし存外にもコクリと頷く。あっさりと太刀川vsラッキーガールの模擬戦が成立したのである。
バトルジャンキーの太刀川が上機嫌に訓練室へ向かい、少女と諏訪、堤も追いかけつつコッソリ話をした。
「よかったのか? 承諾して」
「うん。勝負にならないと思うけど」
「いやぁ……きみはトリガー一個だけだし、シールドもないわけだし、いくら太刀川でも訓練生相手に本気は……、うん……」
「どっちでもいいよ。本気とかそういうの、関係ないから」
「関係ない?」
諏訪が深堀する前に彼女は歩調を早めて行ってしまう。
……関係ないとはどういうことだろう。サイドエフェクト絡みか? その口ぶりは確定事項を告げるかのような淡々さが滲んでいる。
迅の「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」に近い響きだ。サイドエフェクト持ちはどいつもこいつもそういう側面でもあるのだろうか。
そう考えて後頭部をガシガシ掻いて、諏訪は後ろをチラと見る。
訓練生や正隊員らがゾロゾロとついてきていた。おかげで通路は騒がしい。先頭を歩く太刀川やラッキーガールは無視しているが、ちょっとした騒ぎだ。
「え、太刀川さんと幸運体質持ちが模擬戦ってマジ?」
「まじまじ。見るっきゃないだろ。行こうぜ」
「……」
騒めきの合間に聞こえてくる声に、堤もどうするべきか悩むように唇を結んでいた。
当人たちがどうでもいいなら放っておいてもいいのか? これでは見せ物みたいだ。だが人払いをするとなれば、付き添い人でしかない自分たちも退散しなければならない。それはちょっと嫌だ。だって普通に気になるし。
などとモヤモヤしている間に、目的地に辿り着いた。訓練室である。ギャラリーがワイワイと観客席に散らばっていく。そうなると最早解散を指示する隙もなく、諏訪と堤もまた見やすい席へと着席した。
「MAPは? 戦闘訓練と同じにしてもいいし、市街地とかもアリだ。あ、でもまだ慣れてねーか」
「何でもいい」
「じゃあこのままで。五本勝負な」
戦闘体に換装した太刀川が確認をとり、ステージ変更はされないままの対決となる。初期設定のそこは建築物や障害物が何もないので、勝負が長引くことはないだろう。まあ実力にとんでもない開きがあるので、隠れる場所があろうとなかろうと関係ないが。
一定距離をとって両者が対峙する。少しずつギャラリー側の雑音が小さくなっていく。その合間で諏訪が堤に話しかけた。
「実際サイドエフェクトがどんなもんかは知らねーが、C級相手に太刀川が一本でもとられるわけねーよな」
「そうですね。でも……それをひっくり返すのが、ラックじゃないですか?」
ギャンブラー気質の堤の言葉に、諏訪が片眉を上げて視線を二人に戻した。
孤月を構える太刀川が低く呟く。
「はてさて……お手並み拝見」
『模擬戦開始』
「!」
アナウンスが流れると同時に、少女の手のひらにキューブが浮かび上がった。その大きさは中々のもので、サイドエフェクト持ちのトリオン量を見せつけられる。
飛び出していく弾は通常弾───アステロイドだ。直線上に太刀川が立っていた場所へ飛んでいく。銃を使わずにトリオンから弾を作り、打ち出す。彼女のポジションは射手か! と堤が反応した。
しかし彼女が攻撃開始するより早く、太刀川の行動は終了していた。開幕と同時に斬りかかったのだ。しかもまっすぐ標的に向かうのではなく、角度を変えた一歩を挟んでいる。素直に攻撃してくるアステロイドは当たらない。
諏訪は「容赦な」と口元をひくつかせた。もう太刀川の刃が少女の胸元に狙いを定めている。回避は間に合わない。呆気ない勝負。まあ実力差的にこんなものか……と思った瞬間。
「わっ」
「!?」
「はっ!?」
「コケた!」
無防備な声と共に少女が勢いよく転んだ。躓く箇所なんてどこにもないのに、いきなりすっ転んでぐるん! とド派手にコケたのだ。間一髪で致命傷を避けたのである。
予想外のことに太刀川を含む全員がギョッとした。
トリオン体で転ぶことなど、ありえない。運動能力が大幅に向上するので、生身の体が余程運動音痴でない限りまともに動く。というか運動音痴でも普通そんなことにはならない。それくらい彼女の転び方は現実離れしていて、底抜けに間抜けだった。
「ぷっ」
「なんだよ今の転び方」
「何にもねーところでコケたぞ」
あの太刀川と模擬戦をするサイドエフェクト持ちのラッキーガール。かの存在がアホ丸出しの無様な姿を見せたので、ギャラリーはバカにするように笑った。嫌な空気だ。
堤が居心地悪そうに身じろぎする。諏訪は腕を組んだ。対戦中の二人には聞こえないからこそ、外野の素のリアクションが出ている感じだった。
映像の中の太刀川は目の前で転んだまま起き上がらない少女を見下ろしている。隙だらけの内にトドメを刺すべきか考え、すぐに大きな笑い声を上げた。
「ぶわっはっは! なんだそりゃ。たしかにラッキーだな! 一瞬でケリつく勝負が長引いた。ランク戦ならこの数秒が勝敗を分けるかもな」
「アステロイド」
「だがダメだ」
彼女が発射するより先に至近距離からの一刀。トリオン供給機関が破壊され、プシュッ、とトリオンが大量に漏出する。五本勝負の一本目は太刀川が獲得した。
仮想戦闘モードが設定されているのでトリオン切れはない。少女の体の穴は防がれ、トリオン漏出が完全に止む。これですぐに二本目を開始できるというわけだ。
転がったままの彼女はむくりと起き上がり、構える。今度は最初からキューブを出していた。アナウンス次第でいつでも射出できる。目は死んでいない。まだやる気だ。
「この先の四本はMAPを変える。市街地だ」
離れた相手を攻撃できる射撃トリガーの強みを活かしてあげるべきだと思った。太刀川がそう告げると、まもなく何もないステージから市街地へと戦場が変更される。観客席からはよく見えないのでモニターで勝負を見守る形となった。
二人がランダムに配置される。慣れていないのか、少女はキョロキョロと周りを警戒した。
アナウンスが響いて模擬戦が続く。
「最初のはビックリしましたけど、こうなると難しいですね」
「技術も戦略もないから、ちょっとトリオン量が多いだけのただの訓練生止まりだな」
堤と諏訪が見る先、モニターでは四度目の敗北をする少女の姿が映っていた。
あれから順当に太刀川が相手を蹂躙する場面が続いている。少女が太刀川を見つけて攻撃し、彼は躱して葬る。その繰り返しだった。
だが中身はそれぞれ違う。彼女はヤケクソになって無茶苦茶したり、逆に無気力になったようにテキトーに撃ったりした。もちろんそれで太刀川が苦戦することはない。
「あーあー振り回しやがって」
だが一本目に派手に転んだ時と同じで、ラッキーガールの身に何かが起こる度に不思議な間が生まれていた。
太刀川はセオリーから大きく外れた行動を起こす少女との戦いを楽しんでいる節があったのだ。
「次でラストか」
現時点での結果は4-0。太刀川の勝利。残り一本だが、間違いなく彼が獲るだろう。終わってしまうのが少し惜しいなと太刀川は思う。もう五本、いや十本追加したい。
頭の中で思い描くのは、ラッキーガールの間抜けな一挙手一投足だった。戦力的には雑魚も雑魚、だがつまらなくはない。
いきなり転んだり壁に激突したり、瓦礫がオデコに当たってしゃがむことで彼女は一度ずつ太刀川の攻撃を躱している。
躱すというにはあまりにお粗末な動作だが、格上の一手を相殺していると考えれば、破格の結果だった。まあその後一瞬でやられてしまっているので、時間稼ぎにもなりやしないが。
ただ次はどんなラックが少女を救うかな、と想像してしまう。
「……」
その一方で、少女は負けるたびに口元を歪ませていた。それ以上感情を露わにすることはなかったが、きっと悔しいのだろうと堤は思う。
そして諏訪はいつしか顎を指で撫でつつ先の言葉を考えていた。
彼女は勝負の前に『本気かどうかは関係ない』と言っていた。諏訪は試合を見守る内にその意味がわかったような気がしていた。
四本連続で少女は太刀川にやられているが、その間必ず"仕留めきれない一手"が存在する。あの太刀川の攻撃が空振り、あるいは致命傷に至らないように振り回されているのだ。
他の訓練生じゃまずできない芸当だし、どれだけ強い隊員でもそんな真似ができるかどうか。
しかも驚くべきポイントは、"毎回"そうなるということ。
「これをアイツのサイドエフェクトが引っ張ってきてんのか。ハッ、たしかに関係ねーわ」
幸運体質。運をもたらす能力。本気とか実力とかとは別の次元にあるものを引き込む力。
それが彼女のサイドエフェクトだと諏訪は解釈した。強いなとさえ思った。
まだC級だが、これから特訓して技術を高めひたむきに実力を伸ばしていけば、面白い駒になる。
現時点で太刀川の1ターンを浪費させているのだ。使い方次第では、強い駒を足止めする弱い駒として運用できるかもしれない。
『模擬戦終了』
勝負は終わった。5-0で太刀川の圧勝だ。市街地だった景色が立ち消え、もとのシンプルなデザインへと描写が変わる。
ふ、と少女が息を吐く。グッと強く握り拳を作っていたが、バンと背中を叩かれて驚いて振り返った。太刀川が手をひらひらさせて笑っている。
「おー、お疲れ。もう五本しようぜ」
「ポイントは動かないのに?」
「しょーがねぇだろ。さっさとB級まで上がってこい。今ポイントどうなんだ」
「ええと、1876」
「? 桁合ってるかそれ?」
「うん」
「昇格条件は4000ポイント。まだまだ時間かかるな。とにかくランク戦やれ」
模擬戦終了後、太刀川が早速新しいオモチャに夢中になっている。もともと今日は相手が見つからなくてラウンジに来たぐらいだったから、誘えば了承しそうで面白いサイドエフェクト持ちの彼女と戦いたがるのは当然のように思えた。
諏訪と堤が二人の元まで降りていく。その間にギャラリーの話し声が耳に届いた。
「うわ惨敗じゃん。対戦中変なことばっかしてたし。何だったのあれ、気でも引きたいの」
「サイドエフェクトって言っても大したことないな。意味わかんないところでコケてさ、どこが幸運なんだよ」
無様でトンチキな行動と手も足も出ないやられっぷりが印象に強く残り、彼らはネタを共有するみたいに言い合っていた。学校で誰かの噂を広げる時のような好奇心と少しの残虐さを含んだ声色である。
流石に本人に聞かせる気はないようで小声だ。下で話をする二人は気づいていない。
だが、これは自分が招いた結果だ、と諏訪は歯噛みする。自分の好奇心を優先したせいで彼女に大勢の前で恥をかかせてしまった。
何故ここに来るまでに人払いをしなかった。ちゃんと言っておけよ。そんな後悔が胸に残る。
だからこそ今取り返さなければ。そう思って諏訪が息を吸うと同時に。
「ねえ」
「! おう」
少女に話しかけられた。行き場をなくした義憤が萎み、罪悪感が募る。彼女は太刀川から諏訪らへと顔を向けて静かに続けた。
「この人が私にポイントを稼がせようとアレコレ言ってくるんだ。どうにかしてくれる」
「無理強いは良くないよ」
「いーだろ別に。どうせやることになるんだから」
「本人の意志が大事だろ」
「戦いたくねーのか?」
堤と諏訪の言葉に、太刀川が少女に改めて問う。すると首を振った。
「ううん。そういうわけじゃない。ただ今日は目的を達成できたから、それでいいの」
「目的?」
「私のサイドエフェクトを周りに見せること」
「!」
「変に期待されて困ってたから、ちょうどよかった。私はツイてる」
噂になっていたのは当人も知っていたらしい。
幸運体質・人生イージーモードと称されるサイドエフェクトは、羨望の的になるほど優秀ではないとのこと。
それなのに期待と羨望混じりにヒソヒソされるのが嫌だったから、今回の太刀川の誘いに乗った。目論見通り大した能力ではないと期待値を下げることに成功したから、彼女は満足なようだった。
今も舐められて周囲から嫌な眼差しを向けられているのに。それでいいと少女はあっけらかんとしている。
「じゃあ今度ラウンジ集合な」
唐突に太刀川が軽い口調で言った。
「俺の課題の四択解いてもらうから」
「なぜ?」
「俺が助かる」
「私に得がない」
「おまえの目的に俺を付き合わせたんなら、きっちりお返ししてもらわないとな」
そう言われたら弱いのか、彼女が微妙に頷いたように見えた。
そうして太刀川は次の五本勝負の約束を取り付けてみせた。最初は太刀川が頼んで彼女が引き受けた、そういう構図だったのに、少女の言葉に乗っかり自分の要求を通してみせた。鮮やかな手口である。
「ついてこい」
「え?」
やがて解散し、諏訪は背中に突き刺さる訓練生たちの視線を無視してラッキーガールを休憩スペースへと連れていく。
人気のない通路をさらに進んだそこには誰もいなくて、自販機と椅子だけが忘れ去られたように置かれている。立ち話をしたり少し休憩したりするのにちょうどいい場所だった。
ようやく鬱陶しい注目が失せた、と首の骨を鳴らす。財布を片手に自販機前に立った。
「ん」
「?」
「どれ」
「何が?」
「どれがいい、奢る」
「どうして?」
「どうしてったって……見せ物みてーにしちまったから。すまんかった」
「ああ……」
そこまで聞いてからようやく得心がいったように、少女が自販機にうろうろと視線を合わせた。しかしすぐに諏訪へと向けられる。
「いい。君が責任を感じる必要はないよ。さっきも言ったように、自分の実力を見せびらかすことが目的だったから」
「それとこれとは別の問題だ。おまえが狙っていたのと、俺らが招いた結果は違う。さっさと選べ」
「うーん、君が選んで」
「はあ?」
「君の好きなものが知りたいから」
なんだそりゃ。結局諏訪は炭酸とお茶を選んで、購入したものを二本見せる。彼女は少しだけ首を傾げていた。
「謝罪の時は二本必要なの?」
「好きなもん選べ」
「ああ……そういうこと。じゃあお茶をもらおうかな」
ようやく一番の目的を果たせた。彼女が受け取ったペットボトルの中身を体内に流し込む様子に、諏訪は少しのもどかしさを感じながら炭酸で飲み込んだ。
「んで、なんで周りにサイドエフェクトを見せたかった」
「ハードルを下げるため。何でもできると思い込まれても困るよ」
「それはあんなことを言われるより大事なことだったのか?」
どんなサイドエフェクトを持っていようが、どれだけ実力が低かろうが、当たり前のようにバカにされてネタとして消費されていいわけがない。
それを導いた自身への憤りを完全にはコントロールできなくて、諏訪は当てつけのように言った。言ってから後悔したが、挽回するより先に彼女の方が言葉を紡ぐ。
「うん。勝手に理想を抱かれるのも、都合のいいものとして捌け口にされるのも、二度とごめんだからこれでいい。私は期待されずバカにされた方がいい」
そこには今日一番の感情が乗っていた。切迫していて、迫力があって、迂闊に肯定も否定もできないような重みがある。思わず諏訪は手に力を込めた。パキリ、とペットボトルが軋む音がする。
しんとした冷たい空気が流れ出した。その発生源は隣に立つ少女だ。どうやら地雷を踏み抜いたらしい。とことん裏目に出る、と舌打ちしたくなる。
だがそれもすぐに落ち着いて、元の平坦な声色に戻っていく。気遣いを突っぱねて不意にしたことへの恥を隠すためのものだったが、諏訪は自らが発したのは気遣いではなく挑発だったと認識している。だから彼女は無理やり怒りを押し込めたのだと感じ取った。
「それに弱いのは事実だよ。観客席にいたほとんどの隊員たちに私は勝てない。敵わないんだ。どれだけ記録を見て勉強しても体がその通りには動かない。ランク戦をしようにも噂が先行してまともに受けてもらえない。だから先に噂を別のもので塗り替える必要があった」
「……」
「今日はそれができたから、明日からはランク戦だ。昇格したいのは本音だからね。といっても、無様に敗北した私に付き合ってくれる物好きがいるかはわからないけど」
再びお茶で唇を濡らすと、用件は済んだとばかりに彼女は歩き出し、
「おい」
諏訪はその背中に声をかけずにはいられなかった。
胸中に渦巻くのは、少女の柔らかい部分に不躾な思い込みを押し付けたことへの自責の念だった。
「なら俺がその物好きになってやる。幸運体質だかラッキーガールだか知らねーけど、おまえはただ持ってるもん誇りゃいーんだよ」
「……」
「まだちゃんと自己紹介してなかったな。俺は諏訪。戦っていたのが太刀川で、隣にいたやつは堤。で、おまえは?」
「諏訪、太刀川、堤」
彼女は振り返って、床に視線を落として名前を復唱する。そしてうんざりするほどのろまな仕草で諏訪の目をまっすぐに見つめた。
「私はかみ、……
主人公の名前は縁起物である招き猫からとりました。
思ったより諏訪さんが導き手として活躍したし何かフラグ立った。閉鎖環境試験編でどんどん好きになったので仕方ないですね。絶対初対面で他人にこんなに踏み込まないんですけど止まれませんでした。まあ原作開始時より数年前だから少しだけ幼かったということで許してください。
単行本とBBF一通りガッと読んで今じっくり二周目中です。キャラが多すぎて呼称やタメ口・敬語の使い分けが本当にわからない。助けてください。
ワールドトリガー面白すぎ。戦闘とかトリガーとか全然わからないのに手を出してしまった。助けてください。
あと時系列全然わかってないです。助けてください。
メモ帳にあるのは
・二宮に弟子入りしてボコボコにやられる招木
・招木の歪みを矯正してオートハッピーマシーンにしたい迅(既に接触済み)
・招木は城戸派と勘違いし勝手に信頼して勝手に裏切られる三輪
・どうやっても性質や家族に対する感情で招木と擦り合わない嵐山
などです。いつか書きたい