あっ幸運体質だ、ラッキー!   作:睡眠人間

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加古さんには一回くらい遊び過ぎて壊しちゃう(未遂)こととかあって欲しいな〜という二次創作です





到達

 結局模擬戦は二宮の殺戮ショーで幕を下ろした。

 しかし最後の方では招木の動きが明らかに変わった。汗を流し大の字で地面に転がる招木を、二宮は冷徹に見下ろしている。

 もう狙われないということは、模擬戦は終了したということだろうか。

 時間の感覚がないのは意識する余裕がなかったからだ。とにかく夢中で戦闘に没入していた。ずっと嵐の中に生身で放り出されたような感じだった。

 疲労感にズシッと重たい体に鞭を打って、招木はノロノロ立ち上がり、二宮にぺこりと頭を下げる。

 

「模擬戦に付き合ってくれてありがとう。君は二宮だよね。私は招木」

「知っている。幸運体質のサイドエフェクトを持っているな」

「そうだよ」

「どういう能力だ」

「私にとっての幸運な結果を体に強制する能力」

 

 風間との対話で出した最終結論を口にする。二宮の眉間のシワがグッと深まった。

 

「だからあの無鉄砲な特攻をしたのか。戦術もまるでない……」

「二宮くんと同じね。火力にぶいぶい言わせるか、幸運で力押しするかの違いだわ」

「しかも招木にずっとアステロイドぶつけただけだからな。戦術の話できる立場にないぞー」

 

 観客席で加古と太刀川がヒソヒソ言い合っているが、二人の耳に届くことはない。

 

「当たらないと思い込んでアステロイドの弾幕に飛び込んだ。嵐の中にいるみたいだったから、自分の力で避けたのかサイドエフェクトで避けたのか、考える暇もなかったよ」

『一回そういうの全部わかんなくなるくらい、めちゃくちゃになってみれば? すっきりするでしょ』

 

 出水のアドバイス通りにめちゃくちゃになった結果、招木は振り切った。

 どんな攻撃も自分は躱せる、という大前提のもと砲弾の嵐に飛び込んだのである。まさかそんなことをしてくるとは予測しておらず、その時二宮はわずかに動揺した。

 普通そうだ。攻撃とは回避するものであって、立ち向かうものではない。立ち向かったところで被弾するからだ。それを人は蛮勇と呼ぶ。

 しかし招木の幸運体質が結果を捻じ曲げる。

 

「二宮まで辿り着くことはできなかったけど、ある程度の距離は詰められた。私が単独で動くことを考慮するなら、攻撃手も検討しようかな。ああでも、連携には向いていないんだっけ」

 

 招木は脅威の回避率で二宮に接近した。トリオン量でゴリ押しする怪物に、あと一歩のところまで踏み込んだのである。

 あり得ない。本来の実力差では実現できない戦果だ。

 しかしそれを彼女は現実にした。『攻撃を完璧に躱す』ことが招木にとっての幸運であり、そのため肉体は操られる。

 自力とサイドエフェクトの境目がなくなった分『絶対に避ける』という認識になった招木の動きに迷いが消え、元のパフォーマンスも向上した。

 拒否感がなくなり、イメージに体がピッタリ合うようになったのだ。

 

「幸運なんて不確定要素を作戦に入れるのか」

「再現性がないのは自覚しているよ。初めて見た攻撃も何度も食らった攻撃も、等しく均す。そういうものだとわかった」

「……」

「今はそれを確認できたらいい」

 

 二宮が最初に決めていた五本勝負を過ぎても攻撃し続けた理由。それは幸運体質がどこまで招木を救うのか興味があったからだ。

 言葉では説明ができないような、彼女のスペックを超える奇跡の数々を、力で押し潰したくなった。出水と同じ心境になったのだ。

 そうしたら向こうから突撃してきた。サイドエフェクトに救われるどころか試しに来たのである。

 この胆力。ただでは転ばない精神。それらは師匠の加古を彷彿とさせる。

 

「どう、二宮くん。驚いたかしら。驚いたらギャフンと言いなさいギャフンと」

「驚いていない」

「つっても五本で切り上げていいところを延長させたのはおまえだろ?」

 

 観客席から降りてきた加古と太刀川に二宮が絡まれている。「なんか思うところがあったんだろ」と太刀川に言われて、淡々と答えた。

 

「模擬戦を続行したのはサイドエフェクトを確認するためだ。それに」

 

 二宮の鋭い視線が招木を射抜く。

 

「途中で何に気づいたか知らんが、こいつは自殺志願者に成り下がった。自分の能力を過信する無能にかける言葉はない」

 

 手痛い指摘を繰り出す。その言葉に招木の表情は変わらなかったが、加古が少しばかり顔つきを厳しくした。

 太刀川はのらりくらりとした曖昧な笑顔で人差し指を立てる。

 

「そーカリカリしなさんな。まだやる気なら個人ランク戦やろーぜ」

「いいだろう」

 

 二人は訓練室を出て行った。

 残された加古は招木の背中を撫でてから、席に座らせる。女性らしい丸みのある頬をぺちんと優しく両手で包み込んで目を合わせた。

 

「招木ちゃん。どうして二宮くんの攻撃に真正面から突っ込んだの?」

 

 二宮が無鉄砲な特攻、自殺志願者、能力を過信する無能と発言した原因である。

 招木の突撃は褒められる作戦では毛頭なかった。確実にダウンするとわかった上での捨て身攻撃は、危険過ぎるし成功する確率はかなり低い。事実、招木は二宮を一度たりとも追い詰めることができなかった。

 招木にとって二宮は格上だからだ。しかしそれを中途半端にひっくり返すのが彼女の幸運であり、悲劇とも言える。

 もしそんな力がなければ、招木は無謀なことをしなくて済んだのに。

 

「私のサイドエフェクト、幸運体質は私の一部なんだと思った。だったら委ねてしまおうって」

 

 だけど招木は考え方を変えた。

 周りが望むように幸運体質を受け入れた。

 最初は諏訪が誇ればいいと言った。

 太刀川が面白がり、風間は仮説を立て、そうやって色んな人に肯定されたものを、ようやく本心から自分のものだと認識できた。

 

「結果が動かせないのなら、それを前提にしてしまえばいいと思った」

「前提に?」

「どうせ攻撃を回避するんだから、最短距離で詰めた方がいい」

 

 つまり、通常なら「被弾しないように動く」ところを「どう動いてもラッキーで避けられるんだから、回避の動きを放棄する」ようになったのだ。

 攻撃を食らう可能性そのものが発生しない前提で突っ込む。だから二宮の弾幕の雨に突撃した。

 サイドエフェクトへの拒絶感がなくなった結果、転ぶ回数も格段に減った。まともに体が動くので回避率も上がる。そうやって正面から堂々と襲いかかった。

 

「それは、あまりに危険だわ。すべてを捌けるほどあなたは強くない。さっきだって攻撃に転じる隙がなかったじゃない」

 

 加古が真面目な口調で窘める。

 それでは本来躱すべきものさえ、幸運に委ねて必要以上に受けに行ってしまう。

 自分から傷つきに行くのと同じだ。師匠として仲間として、到底許容できるものではない。

 それは招木もわかっていたようで、すんなり頷く。

 

「そうだね。私はそこまで強くない。あくまで幸運のおかげで生かされていることを自覚しないと」

「……、」

「ボーダーは戦争に勝つための組織で、私たちは兵士。兵士の仕事は人を助けること。こういう戦い方はよくないね」

 

 生き残ることを能力に任せた瞬間、戦うことを放棄してしまった。そう続けられて、思ったより彼女は自身を冷静に分析できていると感じる。

 自分からやめにする判断は正しい。それなのにやけに胸がざわつく。

 

「……ええ、そうね。二度としちゃだめよ」

「うん」

 

 基本的に招木は物分かりがよくて素直だ。今回も今までと同じように注意したことを了承している。

 しかし内容があまりに不安要素が多いために「本当にわかったの?」と深追いしたくなって、ぐっと押された。

 彼女の言う「委ねる」は思考放棄と同じではないだろうか。

 いや、招木は自分で考えるように意識している。特攻も自分なりに考えて試した結果だった。それをだめと言われたから、また違うことを考え始めるはず。

 

「早く止めればよかったわ。あんなの、私がボコボコにしちゃうんだから」

「加古が? すごく見たいな。二宮の攻撃は容赦なくて怖かった」

「絶対私怨入ってたわよ。私のかわいい弟子だからって。ああいうヤツはモテないわよね」

「二宮はモテない? わかった」

 

 二人きりになってから指摘しようと思ってたのに、太刀川もいる場で先に二宮に言われてしまった。

 私怨ありまくりである。あの男はまだ人を育てる器じゃないわね、と加古は当てつけに思ってひっそりと息を吐いた。

 招木をぎゅっと抱き寄せる。彼女は大人しく加古の胸に抱かれた。髪に唇が触れる。

 

「好奇心は猫をも殺す」

「何それ」

「自戒の言葉」

 

 サイドエフェクトを受け入れた瞬間、招木が真っ先に考え実行したのは「自殺行為」だ。どれだけ躱す自信があっても普通なら選択しない特攻を選んだ。

 そうすると知っていたら絶対に中断したのに。彼女に捨て身特攻なんて真似をさせなかったのに。

 殻を破った招木が見たいと思ったから、加古は招木がどれだけ追い詰められようと模擬戦を続行させた。

 

「私は何があってもあなたの師匠よ」

 

 招木の思考回路は危うい。いつか大事な判断を間違えて、いや彼女の性質で言うなら「幸運のために」誤った選択をしてしまいそうだった。

 私がいる限りそうはさせないわ。

 決意を改め、時間の許す限り加古は招木を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、勝った」

「勝ったな」

「え何点? 何点獲得した?」

「3992点からの加点だから、余裕で4000超えるだろう」

「じゃ正隊員昇格?」

「そうだな」

「ッしゃ!!!」

「うるさい」

 

 諏訪が大きくガッツポーズし、風間が耳を塞ぐポーズをとった。

 たった今招木は訓練生を卒業し、堂々と正隊員の仲間入りを果たしたのである。

 個人ランク戦を勝利してブースから出てきた招木は、二人の元まで駆け寄った。

 

「諏訪。私、」

「招木ー! よくやったなー!!」

「わっ」

 

 招木が近づくなり諏訪は彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。力任せにやっているので招木の頭がぐでんぐでん動いている。大型犬を撫でるみたいな感じだ。

 

「実力も申し分なし! 心配してた自主性や情報共有もクリアだ。これなら防衛任務も部隊に所属すんのも大丈夫だろ」

「ありがとう」

「それで……その、どうなんだ。どの部隊に所属するつもりなんだ」

「父親面か。騒ぐのはいいが、先に報告すべき相手がいるだろう」

 

 冷静に風間が指摘すると、招木は一瞬「……?」とわからない顔をして、しかしすぐに思い至ってトリガーオフすると携帯を取り出した。

 

「ええと、加古にメッセージを」

「電話でいいだろ」

「東隊は今防衛任務中だし」

「なら仕方ないか。写真でも送ってやれ」

「写真」

 

 招木は自撮りをしようとしたがヘタクソなのでダメだった。しかし諏訪も風間も上手いわけではなかったので、結局風間がツーショットを撮る形で解決する。

 慣れないピースをして真顔の招木と、彼女の首に腕を回して距離が近い諏訪。お姉さまの飼い犬に首輪をつけるヤンキーみたいな感じである。NTR返しだった。

 その光景に少しだけ笑うと、風間は撮影ボタンを押す。昇格したという報告と共に送信すればすぐに電話がかかってきた。

 

『招木ちゃん、おめでとう! とっても嬉しいわ。ケーキ買ってあげる。あとでお祝いしましょ』

「うん」

『ところでどうして諏訪さんがいるのかしら? 私が一番目じゃないの? すごく不満よ。とっても』

「ごめんね」

『招木ちゃんに怒っているわけじゃないわ。諏訪さんに言ってるのよ。聞こえているでしょう?』

「おーおー、任務中に電話たァ随分余裕だな。東隊は」

 

 スピーカーにして諏訪が言い返した。

 正隊員入り報告第一号、そしてその瞬間を見届けたので諏訪は余裕の面持ちである。

 

『確認はとってるわよ』

「任務に集中しろ。あとで存分に祝ってやれ。それまでは俺の時間だ」

『ちょっと』

 

 さくっと会話を切り上げる。加古はまだ何か言いたげだったが、その後携帯が鳴ることはない。

 なお電話の向こう、東隊の方では加古が不満げに唇をむっとさせてから「東さん、聞いて! 招木ちゃんが昇格したわ!」と満面の笑みで報告に行くのだった。

 自分は師匠だが諏訪は兄貴分。どちらが上かなんてつまらないことを言うつもりはない。

 帰ってからは自分の時間だ。それまでの短い時間、せいぜい満喫すればいい。

 その後の加古は随分張り切った様子で防衛任務に取り組むのだった。

 

「おし。今日この後空いてるだろ、行くぞ」

「どこへ?」

「昇格した時にウメーもん奢ってやるっつったろ。何食いたい?」

「お肉」

「即答かよ」

「俺も頼む」

「風間は帰れ」

 

 焼肉を奢ってもらってウキウキの招木は、お世話になった人に正隊員入りを報告して回った。

 友人の嵐山や柿崎は祝福し、お菓子をプレゼントした。出水はドリンクを奢り個人ランク戦の約束を取り付けた。

 太刀川は早速ランク戦を申し込んで招木も引き受けたが、受け続けると降格する可能性が見えたのでやめにした。

 三輪は通路ですれ違った時に「正隊員になったんだな」とだけ言った。オペレーターの月見と綾辻はこれからよろしくねと微笑みを向ける。

 そして。

 

「B級昇格おめでとー!! やっとこの日が来たわね!」

「おめでとう。俺も鼻が高い」

「ありがとう」

 

 今日は玉狛支部にて小南と木崎に祝ってもらっていた。木崎は招木の体力向上トレーニングの教官であり、小南は玉狛支部にて晩御飯をごちそうになった時に知り合った仲だ。

 年齢的には小南が年下だが、甘やかされ気質の招木を小南は妹のように可愛がっている。

 

「たしか今のボーダーが設立されて最初に入隊したのよね。一緒に任務に当たれる日が楽しみだわ」

「そうだな。部隊には所属するのか?」

「ううん。まだだよ。まずは防衛任務をやってからにするって言った」

 

 木崎の質問に答えて招木は甘ったるいクリームを堪能する。濃厚な甘味を噛み締めるように目を閉じた。

 

「明日が初出勤か。近界民が現れるかはわからないが、周りの指示に従えば大丈夫だ。まずは無事に行って戻ってくること。いいな?」

「うん」

 

 招木の顔に緊張や不安は見えないが、初めてのことは誰にとってもプレッシャーとなる。和らげてあげたくて木崎がそう言えば、小南に「いや重たいでしょ。こういう時はもっと明るい話題でほぐしてあげるのよ」とダメ出しされた。

 

「トリオン兵を討伐すればお給料がもらえるわ。初給料が出たら何に使うつもり?」

「うーん。わからない。お金が欲しくて昇格目指していたわけじゃないし」

「そうなの?」

 

 ボーダーに所属する隊員の目的はそれぞれだが、金目的のメンバーも少なからずいる。給料欲しさにシフトを増やす隊員たちの混成部隊もあるくらいだ。

 まあ招木がお金にがめつい印象はなかったので、意外でも何でもないが。

 

「諏訪だろう」

 

 木崎が先に言った。ある程度の事情を知っていたので、招木は諏訪に認められたくて頑張ったのだと思っていた。

 そういうつもりで日々のトレーニングの面倒を見ていたし。

 先日諏訪が招木の昇格を大喜びしていたの見てるし。

 

「諏訪が特に可愛がっていたからな。それに報いたいと思うのは当然だ」

「それもある」

「も、なのね」

「一番の理由は別かな」

 

 木崎の頭の中にあった大はしゃぎの諏訪像が崩れ去った。いや多分二番目の理由くらいにはいるだろうからいいんだけど。

 じゃあ一番目の理由は何だろう。かなり気になったが、招木はその話には移らず別の話題を口にした。

 

「二人は防衛任務に慣れているよね」

「ああ」

「前から聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「近界民ってどんな感じ?」

 

 近界民。防衛任務で遭遇するのはトリオン兵だから、招木はそのことについて質問している。

 現場で戦うまで生の近界民を知らない隊員も存在する。だから実際どういう敵か不安になる隊員もいるので、招木もそうなのかなと思った二人は安心させるように答えた。

 

「どうって……仮想戦闘モードで戦ったことあるでしょ? あのイメージで大丈夫よ」

「心配ならうちでやっていくか? 本部のあれは、ウチの訓練室がベースになっているからな」

 

 初めての防衛任務が控えているから、それまでに緊張をほぐしたいとかかも。

 そう予想したが招木は首を振る。

 

「防衛任務で近界民を討伐するのは街を守るためだよね。じゃあどうして玉狛支部は近界民と仲良くしたいの? 敵じゃないの?」

「……、」

 

 その質問に、どうしよう、と小南はまず思った。

 まず近界民の認識が玉狛支部の二人と招木では全然違う。

 ついこの間まで訓練生だった招木は、近界民に人型がいることを知らない。向こうの世界にも無数の人がいて、まだ見ぬ技術と文明があることも。

 玉狛支部にも人型近界民はいるし。というか旧ボーダーは近界にある同盟国とこちらの世界を繋げる組織だし。ウチはその思想を受け継いでいるし。

 仲良くしたいのはそういうことであって、人に危害を加えるトリオン兵と友情を結びたいわけじゃない。

 でもそういうことを言うわけにもいかず、小南が露骨に顔を強張らせた。

 しかしさして間を空けずに木崎が淡々と答える。

 

「トリガーは近界文明を解析して得た技術だ。あちら側に対抗するために俺たちは近界民技術を集める必要がある。仲良くするというのは、そういう意味だ」

「技術を利用するためってこと?」

「ああ。もちろん、トリオン兵が人や街を襲うことを許容しているわけじゃない」

「……そう」

 

 露骨に招木の声のトーンが一段下がる。

 小南が手元のケーキを小さくフォークでカットして、躊躇うように聞いた。

 

「なんでそんなこと聞くのよ」

 

 正隊員になりたかったのはお金が欲しかったからではない。さっき「やっと防衛任務に出られる」と言っていた。つまり任務が目的だったのか。

 街を守るため? 人の命を守るため? そういう感じでもない。

 招木が一番関心を向けているのは。

 

「……近界民、ううん。トリオン兵に興味があるの?」

 

 第一次近界民侵攻で未曾有の大災害を引き起こした侵略者。

 意思疎通ができる人型でもなく、人を襲い攫う怪物に、招木は関心を寄せている。

 否定してほしい、と直感的に思う小南を裏切るように、彼女は素直に頷いた。

 

「うん。玉狛支部は近界民と仲良くしよう派閥だと聞いているから同じ気持ちかと思ったけど、違うみたい」

「どういう方面なんだ? 興味があるというのは……エンジニアのように技術に関心があるのか。それとも、」

 

 木崎が急ぐように言葉を重ねた時だった。

 玄関の扉が開く音が大きくして、三人の目線がそちらに向く。

 

「あれっ、お客さん? ケーキがたくさん……めでたいことでもあったの」

 

 迅だった。玉狛支部に所属するS級隊員である。

 居心地の悪い空間を断ち切るように無遠慮にテーブルに寄ると、招木の姿を見てにっこり笑った。

 

「そっか、正隊員に昇格したんだっけ。おめでとう」

「わざとらしい。迅、ここで会うのは初めてだね」

「おれのこと避けるからでしょ。教室で会えるからって」

「学校でも会いたいわけじゃない。クラスメイトだから仕方がないだけ」

 

 随分温度差のある会話劇だった。迅の声色は軽薄だし、招木は冷たい表情と相まって目の前の男を随分嫌っているみたいだった。

 招木がここまで誰かに敵意を向けるのを見るのは初めてで、小南がおっかなびっくり尋ねる。

 

「え、何なに。クラスメイトなの二人って」

「仲は悪いみたいだな」

「嫌い。お尻触ってきたから」

「おまえ本当に良くないぞ」

「迅あんたサイテーよ」

「その節は大変申し訳ありませんでした」

 

 迅が100%悪いだけだった。そりゃ嫌われるわ、と小南も木崎も苦言を呈する。迅もピシリと頭を下げて謝罪した。招木はふいと顔を背けている。

 

「明日、招木は初めての防衛任務だろ? おれもシフト入ってるんだ。よろしく」

 

 差し出された手を、しかし招木は握らない。完全無視だった。

 

「あんたは一人1部隊扱いなんだから、招木ちゃんと一緒に巡回するわけじゃないでしょ?」

「コイツは混成部隊に入る。巡回ルートも別だろうしな」

「普通ならな。まあ、明日になればわかるさ」

 

 その口ぶりは確実に何かありますと言っているのに等しいが、小南は迅を怪しむ目で見るだけで、それ以上深追いする気はない。

 また何か暗躍する気ね、と思うだけだ。迅なら大丈夫という信頼がある。

 恐らく明日近界民は出現する。迅がいるからまずい事態にはならないだろうが、さっきの問答がどう影響するのか、そればかりが気になった。

 

「……招木。俺が身体を鍛える理由、前に話したよな」

「最後に生きて帰るため」

「そうだ。おまえを鍛える理由も同じ。諏訪に頼まれて始まったことだが、俺個人としても、おまえには生き残る力を十分つけさせたと思っている」

 

 50mもまともに走れない身体から、食事や休息、運動のアドバイスをし健康的な肉体に成長させた木崎。

 その目的と重要性を招木に伝えたつもりだったがまだ足りないかもしれないと思い、ゆっくりと言い聞かせるような調子で語る。

 

「だから、明日は気をつけろよ」

「わかった」

「大丈夫だよ、レイジさん。そういうことにはならないから」

 

 未来視のサイドエフェクトを持つ男が静かに言った。







迅が女の子のお尻を触る描写が原作にはありますが、シンプルになんであるのかわからない…軽薄な印象をつけるため? 連載当時のご時世的にそういうのOKな雰囲気だったから?
何にせよ今の時代だと消えそうな描写ですよね…。
迅はかなり好きなキャラなので頑張って動かしていきたいです。
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