あっ幸運体質だ、ラッキー!   作:睡眠人間

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運試し

 最近のボーダー内、特に訓練生を中心に流行するものがあった。

 "運試し"である。

 

「お、招木は今日も個人戦に行くのか?」

 

 諏訪隊の作戦室にて、堤が部屋を出ようとする招木に声をかけた。彼女が振り返って頷く。

 

「うん。バイパーにだいぶ慣れてきたし、スコーピオンの扱いもわかってきた。他のトリガーも触って色々試してくる」

「味方を巻き込む事故も減ってきたしな。本当によくやってるよ」

「ありがとう。君たちの役に立てているなら嬉しい」

 

 さらっと恥ずかしげもなく言ってのける。それに思うところがある諏訪が、小説の文面から目を離さずに口を開いた。

 

「また訓練生の運試しに付き合う気か? 嫌なら断れよ。言いにくいなら俺から話をつけに行くし」

「嫌じゃないから断っていない」

「そうか」

 

 じゃあ、と招木が作戦室を出る。

 流行りの的になっている招木の負担を心配していたが、どうやら杞憂だったらしい。まあ本人が無理だと判断すれば諏訪に話さずとも自分で言うタイプだ。その辺のことはあまり不安に思っていない。

 初対面の時の彼女も似たようなことを言っていたし。

 しかし招木を取り巻く環境が今までと明らかに変化しているので、引き続き様子を見守ることにする。

 隊長として、兄貴分として、諏訪は招木のことが大切だから。

 

「すわさん、マネキのこと心配ならついていけば?」

「いかねーよ。はじめてのおつかいじゃねーんだぞ」

「そういう割には全然ページ進んでないじゃん」

 

 小佐野の指摘の通りである。招木が個人ランク戦のブースに向かう準備をしている間、諏訪は全く読書に集中できていなかった。

 見透かされていたのが情けなくて、諏訪はわざと大きな声で「トリック考えてたんだよ」と言い返した。小佐野がマイペースにまばたきをし、堤が微苦笑する。

 

「あいつの交友関係が広がるのはいいことだろ。ただまあ……たまにいらんこと言うから、それがちょっとな」

「心配なんじゃん」

「隊長ってのは気苦労が多いんだよ」

「お疲れ様です、諏訪さん」

 

 諏訪隊の作戦室は、平時と変わらずゆったりとした時間が流れていた。

 

 

 

─────────

 

 

 

 訓練生に流行っている運試しとは、招木との模擬戦のことを指している。

 幸運体質持ちのラッキーガールに攻撃を当てることができるか、それが彼らにとって一つの"できるヤツ"のラインになっていたのだ。

 サイドエフェクトというキャッチーな話題と頼まれたら滅多に断らない性格が相まって、「ラッキーガールに模擬戦を申し込んで一太刀浴びせられたら、その日はハッピー!」なんて占い要素を言い出す輩もいた。

 招木はそれらを指摘しなかった。

 自分の能力を明らかに過剰に捉えられ、何でもできると広まっているわけではないし、これくらい雑でゴシップ紛いにこき下ろされる程度でちょうどよかった。

 

『くっそー、次は絶対当ててやる。もう10本お願いします!』

 

 流行りの発端は米屋と招木の模擬戦である。そもそも訓練生が正隊員とやり合うのは珍しいのだが、ラッキーガールの噂を聞きつけた米屋が招木を誘い、彼女が承諾して実現したのが始まりだった。

 米屋は孤月を装備する攻撃手で、好戦的で相手に飢えていた。幸運体質なんて興味の塊に、階級やポイントの有無など些事だった。

 

『君、米屋といったかな。めげないね』

『陽介でいーですよ』

『じゃあ陽介。どうして私に模擬戦を申し込んだの? 幸運体質に興味があるようだけど、今回はラックは発動しなかった』

『今んとこ素で避けられてる感じかー。そうすよね。でも諦めないです』

 

 米屋が孤月を招木に向けて構え、ニヤリと笑う。

 

『だって相手が回避するのがラッキーならさ、そういう人に攻撃を当てたこっちだってラッキーじゃん?』

『!』

 

 その視点は考えたことがない。新たな視座を持つ男に少しばかり目を開き、やや間を空けて招木が断言した。

 

『いいや、その時は紛れもなく君の実力だよ。誇るといい』

『誇る、すか』

『ラッキーで避けられないくらい着実に追い詰めているということだからね。私の幸運は、私の反射神経で回避できない攻撃を無理やり躱すためにある。それだけの技術があれば正隊員でもかなりやっていけるよ』

 

 そんな話が曲解して広まり、ラッキーガールの運試しが訓練生の間で流行ったのである。

 招木が模擬戦を断ればこんなことにはならなかっただろうが、彼女が模擬戦や個人戦を引き受ける率は非常に高く「頼めば絶対受けてくれる」なんて認識が訓練生の間でできていた。

 

「お待たせ、陽介。さあ戦ろうか」

「おう! よろしくお願いします!」

「よろしく」

 

 待ち合わせをしていた個人ランク戦ブースで合流し、数度目の招木と米屋の模擬戦が開始される。

 米屋は訓練生なのでトリガーは孤月のみだ。招木もそれに合わせてハウンドのみをセットしている。最近新たに使い始めた追尾弾だ。

 市街地マップに転送された二人が駆け出した。

 

「招木さんに攻撃当てるの鬼難易度なんだよなー。だからこそやり甲斐あるってもんよ」

 

 相手を視界で認識した米屋が一気に距離を詰める。しかしハウンドの弾幕が襲いかかり、地面を蹴って跳躍。射手相手にどこまで接近できるかもまた、彼の実力を測る要素の一つだ。

 

「ほっ!」

 

 掛け声と共に招木の懐に潜り込む。ここだ、と狙い澄ました一撃は軽々と避けられた。

 サイドエフェクトに体を操られている時の招木は、読めない動きをしていて滑らかだ。オートモードで回避しているあの感じは、どこか機械的でもあった。

 

「今のはラッキーすか」

「そうだね。このまま至近距離で攻め立てられ続けたら、ラックが尽きて攻撃を食らう」

「条件シビアだな〜。あのままやってたらこっちがハウンドで撃ち抜かれてる。今の俺じゃ幸運崩せるほど手数多くないし、仕切り直しかぁ」

 

 米屋が引く体勢に入る。招木がすかさずキューブを出した。

 

「……と思うじゃん?」

 

 が、彼の動きはフェイクだった。ハウンドを射出するのを上回る速度で孤月を振りかぶる。

 

「!」

「よっしゃ! 当たり!」

 

 振り抜いた孤月が招木の足に浅い切れ込みを入れた。すぐに塞がれるほど小さな傷だ。しかし米屋の攻撃が招木に当たったのは間違いない。

 初めて彼女に傷をつけることができて、米屋が無邪気に声を上げた。招木もキューブを霧散させる。

 

「今のはよかった」

「誇ってもいいヤツ?」

「うん。最近申し込まれる訓練生相手じゃ一番乗り」

「やったー!」

 

 喜ぶ米屋を横目に、招木はふむと考え込む。

 幸運体質は即緊急脱出レベルの攻撃への反応速度に優れているだけで、体の末端や当てられても軽度のそれへの反応は遅い。それらは素で回避するしかないのだが、今のは完全に油断だった。

 そもそも中距離の射手が近接戦闘のスペシャリストに攻め込まれている時点で負けている。

 ハウンドを使い始めたばかりとはいえ、射手としての腕前まで初心者同然に戻されてはたまったものではない。気を引き締めなければ。

 

「あっ弾バカ! オレ招木さんに一撃食らわせたー」

「誰が弾バカだ。見てたわ。今日のウキウキハッピー野郎じゃん」

「イエーイ」

 

 散々やった模擬戦を切り上げれば、ロビーのソファに出水が座っていた。

 米屋が報告をして頬を掻く。

 

「いやー、やっとだわ。正直こんなに時間かかると思ってなかった」

「それはどうして?」

「だって招木さんの記録見たけど、意味わからん時にコケるシーンとか結構あったじゃないですか。オレとやる時はそんなこと一度もないし、強そうな感じあんましないっつーか」

 

 舐めているわけじゃないが「トリオン体でコケる=あり得ない」レベルなので、招木が強いのか弱いのかわからなくなることがあった。

 B級部隊に所属しており主力の一員であることは疑いようもない。しかし模擬戦での招木は記録で確認するより大人しく、ここまで手こずる相手だとは思えなかった。

 まああくまで招木が強くなるのは一瞬だけなので、彼の予測も的外れではない。

 

「そりゃそうだろ。招木さんが転ぶくらい追い詰められんの、おれとか太刀川さんとかだぞ」

「えっ」

 

 驚く米屋に出水が淡々と説明する。

 

「この人がコケてんのは、まともな回避手段に移れないくらい追い込まれたからだ。無理やり幸運で避けようとしても限度があるからな。そういうときに出てくんのが、転倒」

「うーん、少し違うかな。転ぶのは新しいトリガーを使いたての時だし、慣れたら不具合は起こらなくなる」

「でも今でもたまーにどうにもできない時にコケるでしょあんた。おれよく招木さんの後頭部見てますし」

「それはそうだね」

「ほほう。なら次は転ばすのがラッキー、あ、いや一定の実力のラインか?」

「そうしたら私を転ばそうとする訓練生が出てきちゃうよ」

「やろうとしても相当なやり手じゃないと無理っすよ。わかってますよね」

 

 出水の声色はどこか刺々しい。この男がそういう態度なのは珍しいから際立って聞こえてくる。

 米屋が疑問に思っていると「この後空いてるならおれとも戦ろーぜ」と出水が招木を誘っていた。

 

「合成弾の的になってください」

 

 そのセリフに招木が鋭く目を細める。二人の間に流れる空気が冷えてきた。

 出水がなんとなく思いつきでやったらできた、射手の新しい武器が合成弾だ。二種類の球を組み合わせて複数の効果を持たせた特殊な弾。

 非常に強力な武器ではあるが、大量のトリオンを消費する上に合成には時間がかかり、コントロールも難しい。扱うには極めて高い資質が必要とされる。

 合成弾の話を聞いて招木も試したことがあるが、到底実戦では使えるレベルになかった。この分野では幸運は役立たずだったのだ。

 

「私がどれだけ幸運に恵まれていようと、弾を合わせる発想はできなかっただろうね。やはり出水は天才だよ」

「いやいや。招木さんこそバイパーの弾全部いじって出力してんのヤバイですし」

 

 出水がすぐさま言い返す。

 射手の特長に弾丸の性能を細かくいじれる点がある。威力・射程・弾速を毎回の攻撃で自由に調節できるのだ。

 バイパーではその三つに加えて、新たに増える設定項目が弾道だった。

 そして通常は何個かの塊ごとに四つの設定をする。一つ一つ全てをバラバラに振り分けるのは頭がパンクするほど難しいのである。考えることがシンプルにものすごく増えるからだ。

 しかし招木はその思考を幸運で丸ごとカットできるので、使い慣れてきたバイパーの弾が破茶滅茶になっていた。四つの項目全てをバラバラにした上で、個別に設定している。

 それでもどれかは確実に相手に当たる。運がいいから。

 無茶苦茶である。

 

「君だってそれができる。私だけの持ち味のように言うのはズルい」

「ありゃ。機嫌損ねちまった」

 

 しかし出水も能力的に同じことができる。そこまで凝らずとも敵を排除できる技術とセンスがあるからやらないだけで、やろうと思えばいつでもできた。

 それも勘で成し遂げてしまう。どっちもどっちである。

 ちなみに諏訪は招木のそれを「クソゲーバイパー」と内心呼んでいた。味方だから口にしないだけで彼女が敵に回ったら絶対言っている。

 

「で、どうすか。個人戦やりません?」

「やるよ。合成弾には興味がある。新しい武器を覚えたてじゃ使いたくて仕方がないでしょ。その油断を打ち崩してみたい」

「新しいトリガーを慣らしたいのはそっちも同じですよね。運でもひっくり返せない実力差で蹴散らしてやりますよ」

 

 バチバチとした火花が散るみたいだった。

 米屋は「いってらー」と二人をお見送りする。面白そうだから観戦もするつもりだ。感覚派射手に分類される両者の戦いは見ていて学ぶことが多い。正隊員ってやっぱすげーなと思わされる。

 そして同時に「前から思ってたけど、出水も招木さんもカラッとしてるのに二人だけになると変な空気になるの、何なんだろう」と思った。

 普通のライバルと言い切るには、双方から向けられる感情に嫉妬が見える。

 どっちも比較できない才能なのに。ないものねだりみたいな感じだろうか。

 

「休憩中か?」

「荒船さん。今から出水と招木さんが個人ランク戦やりますよ」

「おっ、なら俺も観戦するか」

「あと今日オレ招木さんに攻撃当てました」

「何!? 先越されたな。すげーじゃねえか」

「運試し、一抜けです」

 

 ピースを向ける米屋に、荒船が「鬱陶しい」と笑って返す。

 その後二人が観戦していると、ハウンドに最近触れたばかりの招木は出水の合成弾に見事に翻弄され、派手にすっころんでいた。

 屈辱を胸に刻み、招木は加古にさらに厳しい指導をしてもらうことを決めた。

 

 

 

─────────

 

 

 

 運試しは狙撃手界隈でも広がっていた。

 シールドを装備した招木がMAPを自由に動き回り、複数の狙撃手が取り囲んで狙撃。彼女にダメージを負わせられるか、という試みである。

 狙撃に成功した者はめちゃくちゃ運が良いと話題になったが、招木が「実力だよ」と言い、東が「それが事実なら今頃俺は億万長者になっている」と流した。

 よって狙撃手たちの認識では、実力試しに近いものとなっている。

 

「グラスホッパーは試さなくていいのか? 攻撃用のトリガーをセットしない分、機動力を高める構成に変更できるが」

「前に試したらあっちこっち展開して無限にぴょんぴょんさせられた。使い物になるまで練習の時間が欲しいかな」

「うわ酔いそうだなそれ……」

 

 東の提案に招木が答えると、冬島が何故か青い顔になっていた。

 今回はワープ開発者である冬島とも連携する予定だ。ワープでどこに出現するかわからない回避の鬼を狙撃する訓練である。

 加古の弟子らしく実験的な内容だ。新人訓練のマンネリ化を防ぐために東が取り入れた遊びでもある。

 

「今日の訓練相手は的ではなく招木だ。皆が知っている通り、幸運体質というサイドエフェクトを持っている。致命傷を回避する力だ。彼女自身が察知できない狙撃もシールドで防いでくるぞ」

「それって無敵ってことですか?」

 

 訓練内容を伝えた時、佐鳥が手を挙げて質問した。東が首を振る。

 

「いや、無敵ではない。回避したりシールドを張ったりするが、全ての狙撃を無効にすることはできない。そうだな?」

「うん。東に緊急脱出させられたことがあるし」

「そんな方法があるんです?」

「それを考えるのが今日の訓練だ。今までみたいに普通に撃つんじゃ通用しないからな」

 

 東は狙撃手たちに新たな壁を与えた。

 彼らがどう乗り越えるか見ものである。

 

「運がいいから当たらない? そんなサイドエフェクトに俺が負けるかよ」

 

 立体マップに転送され、狙撃ポイントで待機する当真が余裕の面持ちで呟く。

 東から事前に知らされた招木の能力は、天才的な狙撃スキルを持つ当真からしたら失笑ものだった。

 彼は外れる弾を撃たないポリシーがあるし、相手が誰だろうが確実にヒットできる自信があった。

 建物で射線を切りつつ移動する招木の後頭部に狙いを定める。

 ドパ、と当真より先に誰かが撃った。

 

「へえ!」

 

 その結果に当真が楽しそうな声を上げる。

 招木のシールドが的確にヘッドショットを阻んだのだ。その後の彼女のリアクションからして、狙って頭を守ったのではなく、無意識のうちに致命傷を回避したのだとわかる。これがサイドエフェクトか。

 

「アカン、ホンマに当たらんわ」

 

 隠岐が狙撃地点を移動しながら言った。死角だと思ったのに、否、死角でありながら招木に直撃しなかった。あり得ない。狙撃手殺しやん、と心の中で言う。

 イコさんの話と全然違う!

 

「だめだ、シールドが硬い。防がれる」

「動きを制限するつもりで包囲攻撃するしかないんじゃないか?」

「たった一人を取り囲んでおいて?」

「1対1じゃあの人を撃破できない。数で勝つんだ」

 

 各々のタイミングで狙撃してもまるで効果がないことから、やがて狙撃手たちは内部通話で連携をとり始めた。

 招木の動きを制限するよう、対処能力を攻撃の密度で上回る作戦である。

 すると今度はワープであっちこっち移動して狙撃手たちの処理能力に負担をかけてきた。

 目まぐるしく変わる戦況を離れて見守る東が、隣に立つ鳩原に話を振った。

 

「狙撃手は基本一人で待機して淡々と仕事をこなすことが多いから、ああやって連携するのは珍しいだろうな。いい変化だ」

「東さんは、狙撃手の連携力を高めるために今回の訓練を提案したんですか?」

「それもあるが、他にも目的はある。何だと思う?」

「ええと……」

 

 人を撃つことができない鳩原は最初からこの訓練に参加していない。実体験に落とし込むことが難しいから、彼女自身で答えに辿り着いてほしかった。

 それが自力で難しいなら、いくらでも支えてやりたいと東は思っている。

 

「今のところ招木は一撃も食らっていない。あれだけ囲まれているのにな」

「すごいですね」

「じゃあどうやって倒す?」

「今みんながやってるみたいに数で圧倒します。あとは……何でしょう。武器を持っていれば先にそっちから破壊するとか」

「招木は射手だからな。両手を失っても食らいつくぞ」

「あ。そうですね。なら……急所への反応が飛び抜けているから、逆に警戒心の薄そうな場所から狙うというのはどうでしょう。トリオン切れに作戦を変えるんです」

「うんうん」

「今パッと思いつくのはそれくらいです」

「いいな。しっかり考えられてる」

「ありがとうございます」

「俺の目的はそれだよ」

 

 鳩原が「あ」と小さく声を漏らした。「最初に言っていましたね」と少し恥ずかしそうだ。

 

「実戦ではどんな能力を持った敵が来るかわからない。一撃で敵を屠るのが狙撃手の理想だが、そうならない場合もある。その時に思考を止めず、現状を打破するために動く訓練がしたかったんだよ」

「……はい」

「どんな時も考え続ける。未知の相手、倒せそうにない相手をどうやって崩すか、試行錯誤して結果を出す。みんなちゃんとやってるな」

 

 東の視線に釣られて鳩原も目を向けた。

 正確な狙撃に狙われ続けた招木がいよいよ追い詰められている。手足からトリオン漏れが確認できた。致命傷を避ける代わりにジワジワと削られているのだ。

 すごいな、と鳩原は思う。

 

「!?」

 

 突然招木の体勢が崩れた。同時に二発の弾を受け、片方は心臓を狙われたことによるシールド展開で阻止。そしてもう片方が太ももを弾き飛ばした。

 狙撃が全く同時だったから、招木の幸運体質では防げなかったのだ。

 驚く二人がそれを成し遂げた人物を確認すると、狙撃銃を二丁構えたまま同じように驚いた顔をする佐鳥がいた。

 つまりツイン狙撃で的確にダメージを与えたのである。信じられない技術だった。

 

「あれは結果ですか……?」

「普通に撃つんじゃ通用しないからって、二丁で撃つ発想をするなんてな……おっ」

「最後に当てたのは当真くんですね」

 

 佐鳥が崩した後に猛攻撃を仕掛ける中、最後の最後に華麗なヘッドショットを決めたのは当真だった。

 

「見ました? 見ました? オレのツイン狙撃!」

「見たよ。びっくりした。すごいね佐鳥。あんなの初めてだった」

「ふふん。オレの必殺技ができましたね。貴重な初命中を食らったこと、後世に残る自慢になりますよ!」

「嵐山にでも自慢しちゃおうかな」

 

 訓練を終えて和気藹々と話す佐鳥と招木。そこに近づく当真に気づき、招木が言った。

 

「当真は最後を持っていくのが上手だね」

「えっ」

「ウワ〜」

 

 煽りである。本人にその気があるのかないのかはたから判別できないが、とんでもない煽り台詞を当真に向かって吐いた。

 佐鳥が口をぱかりと開いて、隠岐がひっそりと額を押さえる。

 確かに当真がフィニッシュを決める場面は多かった。招木の体を撃ち抜く弾しか撃たなかったが、見方によっては周りが必死に追い詰めた末のおいしいところだけを掻っ攫ったようにも見える。

 

「……、」

 

 当真がムスッと渋い顔をする。

 外れる弾は撃たない。それが自身に課したプライドだ。その軸は何があっても変えるつもりはない。

 ……ないけれど、招木の後頭部をスコープに入れたまま引き金を引く選択はできなかった。

 幸運体質は当たるはずの弾を避け続ける異常な能力だ。その強さを訓練で散々と見せつけられて、興味が湧いた。

 同時に狙撃を回避される可能性がずっと頭に過った。そのせいで結果を後回しにさせられた。

 この俺が撃てるかどうかで悩まされている。

 撃つのが狙撃手の仕事なのに、彼女を目に映すと惑わされる。

 

「招木さん」

「何?」

 

 ハラハラとした気持ちで見守る周囲をたっぷりと焦らしてから、彼は指鉄砲を作って招木の首元ど真ん中を狙った。指先がトンと皮膚に触れる。

 静かに視線を合わせる招木を、力強い眼差しで見据えた。

 

「絶対俺が撃ち抜いてやるからな」

 

 当真の宣戦布告だった。







中学生のマキリサにフラフラしていた当真が勧誘される→その後冬島がトラッパーとして加入の流れなので、この時点ではまだ冬島さんはエンジニアです。
勝手にワープ開発者になってもらいました。
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