笹森が諏訪隊に加入することが決まり、予想されていた通り諏訪隊の作戦室にフレッシュな空気が流れ始めた。
彼はどこまでも素直で優しい好青年であり、挨拶も爽やかで柔らかい。目が合うとにこっと笑い、訓練にも真面目に取り組む。その人当たりの良さとかわいい後輩感に、意外にも一番影響を受けたのは招木だった。
今の招木は那須という弟子ができたこともあって一番先輩意識が強くなっていた。隊でできた初めての後輩に、那須同様「何かをしてあげたい」気持ちになっていたのである。
しかし。
「笹森。貸してもらった分は全部読んだよ。とても面白かった」
「えっ早いですね。今週渡したばかりなのに」
逆に笹森にもらってばかりだった。ズッシリ重たい漫画にお礼のお菓子を加えて返すと、袋の中身を確認した彼は「お礼なんていいのに」と小さく笑う。
諏訪隊(招木以外)は本好きが揃っており小説が山ほど持ち込まれていることを知った笹森が、手持ちの漫画本を持ってくるようになったのだ。
三人に小説本を布教されたがてんで素質がなかった招木は、笹森が貸してくれる漫画は読みやすいものも多く、そのうち布教されるようになった。今度、漫画が原作のアニメ映画が公開されるらしいので一緒に観に行く約束もしている。
連携問題で彼に負担を強いている上に、漫画まで借りている。自分はもらってばかりで笹森に渡してやれるものがない。申し訳ない。
そのようなことを笹森に言うと。
『そんな! いつも招木さんには良くしてもらってます。オレがオススメした漫画すぐ読んでくれるし、感想も話せるし、訓練だって見てくれて。オレの方が感謝してます。ありがとうございます!』
と満面の笑みで返された。あまりに人間ができている。
まずい。このままでは笹森に一生追いつけない。笹森にもらったものばかりで溺れてしまう。
招木にできることといったら、防衛任務や裏方作業でわからないところを教えたり、訓練で笹森の指導をしたり、まだ新人寄りで気づけない部分や至らないところをサポートしたり、彼の元気がない日に好きなドリンクやアイスの当たりを渡して「私でよければ話を聞くよ」と伝えるくらいだ。
これでは全く釣り合いが取れない。先輩なのだからもっと頼り甲斐のある存在になりたいのに。
「そうか? 充分過ぎるほど招木はやってるよ」
招木から相談を受けた東が缶コーヒーを片手に言った。
今日は狙撃手の実験に付き合う日だった。幸運体質の招木を皆で狙撃して対処方法を考えたり技術を高めたりするやつである。
今はそれが一段落して、休憩時間になった瞬間に招木は東を捕まえた。
東は狙撃手界隈の始祖と呼ばれる男であり、今活躍する狙撃手のほとんどが彼に教えを受けているほどだった。
つまりものすごく教えることが上手で、たくさんの後輩に囲まれる存在だ。招木が今抱える問題をぶつけるに最適な相手なのだ。
「話を聞く限り、今のところ仕事もプライベートもいい距離感で接していると思う。むしろこれ以上過保護になって良くない方向に進むことを懸念する」
「過保護……構いすぎるということね。那須の時もそう言われたな」
「ああ。かわいい後輩に何でもしてあげたくなる気持ちはわからんでもないけどな。それは笹森のためにならない。適正な距離感と、待つことが大事だぞ」
アドバイスをしながら、東は時間が経つのが早いな〜と思った。
ついこの間まで諏訪や加古に招木の指導方法について相談を受けていたのに、今や招木が指導する側に回っている。東が初めて出会った時の、年不相応の未熟な少女は見違えるほど成長した。
結局麻雀のルールはよくわからないらしく弱いままだけど、東にとって招木は劇的なビフォーアフターを遂げた存在だった。
一通り東から指導方法や距離感について教わった招木がぺこりと頭を下げる。
「わかった。相談に乗ってくれてありがとう。私は急いでいたのかもしれない」
「定期的に実験に付き合ってもらってるからな。このくらい当然だ」
「東さん。ちょっといい?」
二人の話が落ち着いたところで絵馬が東に話しかけた。東にちらと視線を向けられ、どうぞと招木はジェスチャーをする。その去り際、絵馬は招木をわざとらしいほど見つめてから立ち去った。
絵馬は東に狙撃の相談がしたかったようで、少し離れた場所まで歩くと銃を両手に抱えてあれこれ話をし出した。そこには鳩原の姿もある。
招木は二宮から鳩原への接触禁止令が発令されているので、たとえ二宮の目がないところでも彼女に近づくことはしない。だから突っ立ったままぼんやり目線を送るだけだったが、当真が近づき紹介する。
「あいつ、弟子ができたんだよ。絵馬ユズルっつー将来有望な奴」
「鳩原に弟子が?」
「そう。俺もそいつの師匠だけど」
「じゃあ絵馬は鳩原と当真に教わっているんだ。それはすごいね」
技術力トップの鳩原と狙撃手1位の当真に指導を受けるだなんて、どれほど期待されているのだろうか。
実験では絵馬は招木の足だけを狙っていた。寸分違わず同じ位置に弾丸を撃ち込むことに専念していた。残念ながらグラスホッパーを装備した幸運体質持ちの招木により何度か外されてはいたが、それでもその正確さは体に刻み込まれている。
彼は今期に入隊した新人であり、なかなかの天才肌なのだと思わされる。
「でもユズルと招木さんって今日が初対面だよな。なんか因縁ふっかけられるようなことやったのか?」
「さっきの見てたんだ。絵馬には何もしていないよ。話したこともない」
「じゃあ招木さんが鳩原に何かやらかして距離置いてるのがバレたんだ」
「……!」
招木が目を少し見開いて当真を見やる。なぜ知っている? とデカデカと書いてあり、当真は「やっぱりな」と鼻を鳴らした。
当真は何も知らない。ただ彼は招木に煽られてこの人を撃ち抜くと決めているので、彼女が余計な一言を発するタイプの人間だと思っている。よって鳩原にもいらんちょっかいをかけて距離を置かれ、それが弟子に伝わったのではないかと考えていた。
ほとんど正解である。ある種招木の被害者であるが故に、似たような事例への嗅覚が優れていた。
「聞いたら教えてくれんの?」
「いいえ。話すことはできない」
「なんで。ケンカとかなら仲直りすればいいじゃん」
「ケンカじゃない。むしろ……」
難しい顔で招木は口を閉ざす。人を撃てない鳩原に拳銃を持たせて狙撃を強制し、二宮に見つかって激怒させたなどと言えるわけがなかった。
よって貝のように沈黙を選ぶ。
その様子に当真はこれ以上は無理だと判断した。であるならば、別のアプローチをするまでだ。
「つーかさ、最近弟子を持った者同士親睦深めようぜ。東さんに相談してたろ」
「話も聞いてたの。当真は抜け目ないな」
「うまい飯屋連れてくからさ。で、どう?」
「行く」
招木は美味しいご飯に釣られてすぐに頷いた。当真の掌の上である。
「帰るよ」
「待った待った待った」
その後、店に連れて行かれた招木は出入り口の前で踵を返した。それを当真が押し留めている。
さっきまでそれなりに機嫌が良かったのに、当真が「ここ」と店の暖簾を指差した瞬間に真顔になり体の向きを変えたのである。招木はどうしてもこの店が嫌らしかった。
「ここマジでうまいって。移転したけど味は保証するからさ。それとも来たことあった?」
「ないけど、来ないようにしている」
「なんで」
「それは……」
またもや招木が静かになるので、この人色んなところでやらかしてんなと当真が確信した。まあ今回は違うのかもしれない。相手が相手だから。
「らっしゃー……せー……」
ガララと引き戸を引くとガラの悪い挨拶が飛び込んできた。発言者は影浦である。従業員らしく頭巾と前掛けをした影浦は、招木の姿を見た瞬間に目つきをさらに鋭くした。
当真が選んだ店は『お好み焼き かげうら』だ。影浦家が経営する、地元民に愛される名店である。ここにはよく北添や穂刈や荒船と一緒に来ており、リーズナブルでとても美味しい。お好み焼きをつつきながら話をするのに最適だったから連れてきた。
案の定影浦とも何かあるらしいのを見抜いた当真は、微妙な反応の二人を置いて「二人で」と二本指を立てる。
「どーしたカゲ。二人なんだけど」
「チッ」
顔の前でピースをゆらゆらさせると、影浦は舌打ちをして席に案内した。
注文をして、招木が焼き方がわからないというので当真が教えてやり、一緒に鉄板の上でお好み焼きを焼く。ひっくり返すのが下手くそで見た目は良くないが、焼き上がりを一口ハフハフ食べた招木は眉間にシワを寄せた。
「熱い?」
「……おいしい」
どうやらものすごく美味しかったらしい。ギュッと顔のパーツを中心に寄せる表情に、当真はカラッと笑い熱々な自分の分を食べていく。熱さにホフホフなりながら思わず感想が飛び出た。
「うまっ」
「とてもおいしいね。ここにはずっと来たかったんだ。連れてきてくれてありがとう、当真」
「別に来ようと思えばいつでも来られただろ。カゲと揉めたかなんかしない限り」
「……」
「おっビンゴ」
わかりやすく顔が歪む。扱いがだんだんわかってきた。
招木は触れて欲しくなさそうだが、当真の中に彼女への遠慮の気持ちは全くないので深淵にどんどん突き進んでいく。
「だからカゲの店に近寄らなかったって? 今日の訓練でも鳩原には近づかないくせに意味ありげな目を向けてさ。何やったらそうなんの」
「君はずっとそれを気にしているね。どうして? 私と彼らの関係は、君には関係ないと思うけど」
「二人とは友達なんだよ。だから知りたい」
当真はまっすぐな言葉を返す。影浦も鳩原も当真と同じ学校に通う級友で、友達だ。すると招木は思案するようにお好み焼きを咀嚼する。
「あとは俺のこと煽ったみたいに、二人に何言ったのか気になるから。要するに興味本位だ」
「台無しだね」
「素直とも言える」
「今日は親睦会だと聞いてきたけど。嘘だったの?」
「嘘じゃねえよ。だから仲直りしたらって提言してる」
「その仲直りが不可能な場合は?」
「無理する必要なし。周りに迷惑がかからなきゃ当人同士の問題だろ」
仲直りしろと言った口で当真は正反対の言葉を述べた。
鳩原はまだしも影浦と上手くやれる人間の方が少ない。彼にはSEがあり、時折隊員らとトラブルを起こしている。
北添なんかは影浦と8度にわたるタイマン勝負の末にお互いを認め合ったが、例外中の例外である。北添のタフさと戦闘力と争いを好まない性質でなければ、影浦と真正面からぶつかることはできない。
一方で招木はきっとそのつもりはない。当真を煽ったようにいらん発言をして影浦の怒りを買ったのでは、と彼は思っていた。
「たとえばカゲと犬飼がすっげぇ仲悪りぃの知ってる? まともに会話もできてねーの。犬飼はそれでも構わず声かけてっけどさ、招木さんはカゲの前で姿を見せないようにしてる。だろ?」
「そうだね。影浦はSEがあるから」
だが、当真の予想は外れている。
実際は招木と影浦は互いに同情している。心の底から互いを哀れんでいる。可哀想だし、辛そうだし、けれど寄り添うことはできなかった。当時の二人が出会った結果は離別だったのだ。
二人とも一生癒えることのない違う傷を抱えていて、それを見るのが辛いから、見ないようにしている。
「カゲを見たら怒らせる感情を抱くって? でもやってみねーとわかんねぇじゃん。もしかしたら普通に話せるようになるかもよ」
「君は私と影浦の間に何があったか知らないし、ここまでする義理はないよね。友達と言っていたけど、積極的に間を取り持つタイプだと思わなかった」
招木は影浦と仲が悪い理由を語ることはできない。だから肯定も否定もせずに別の質問をぶつけると、当真は熱気で踊る鰹節に視線を落とした。
「実験、面白いからさ。いつかカゲも巻き込んで二人でやってほしいんだよなー。どっちも狙撃に気づくから、絶対もっと楽しいことになるぜ」
「そう。最初からそう言ってくれた方が、よほど君らしいと思えたな」
「友達想いなのは信じてくれねーの?」
「それは最初から知ってる」
そこまで言われると、招木はなんだか影浦と仲直りしなければという気持ちになる。迅とも謝罪チキンレースをやっている女なので、一度そうだと思えば行動は早い。
今は裏に引っ込んでいる影浦のことを考えていると、お冷やを飲んだ当真が箸を片手に次の話に移行する。
「で、次は鳩原の話だけど」
「オチが見えてる。仲直りしなよと言うんでしょ」
「ユズルが警戒してんだよ。俺の弟子の心労を軽くしてやりてーの」
話の内容が弟子を持つ者同士の親睦会に、当初の目的に戻ってきた。影浦の話はついでなのかもしれない。本題は絵馬であり、そのきっかけである鳩原をどうにかさせたかったのかも。
そのようなことを思う。
「鳩原がさー、なーんか最近暗いんだよな」
ニュートラルな顔のまま当真が言った。
「それがユズルにも伝わってる感じ? 本人は隠してるんだろうけど、まあ、色々焦ってるんだろうなって。だから抱える問題は少しでも減らしてやりたい」
「焦るって、A級ランク戦のこと? 鳩原は遠征希望だし、上位になりたいのはわかるけど」
それを当真が言うのか、という気分だった。当真は冬島隊に所属しており二宮隊よりランクは上だ。遠征の経験もある。
一方で鳩原はあれからも人を撃つことができないでいる。それはA級では周知の事実となっており、二宮隊の致命的な弱点でさえあった。人数の有利はあれど、人が撃てない狙撃手を含めたままA級で勝ち上がるのはとても難しい。
とはいえそれを了承して部隊に入れ、A級1位を掲げているのが二宮だ。それなら鳩原が焦る必要はないと思うが、それで割り切れるような性格ではないことは招木もわかっている。
「そこまで知ってんだな」
「本人から話は聞いている。私はB級だし、トップ層の戦いにはついていけないけど。人を撃てないのなら仕方がない。それでも自分は有能だと示さなければ」
「無理なんだよ。もし今のまま遠征選抜試験を受けたところで、何の意味もない」
「随分はっきり言うね」
何かあるの? と聞けば、当真の声のトーンが下がった。
「遠征メンバーの選出条件は、黒トリガーに対抗できると判断された部隊だけ。自分の身は自分で守れるようにならなきゃならねー。つまり、鳩原の性分丸ごと変わらなきゃ無理だ」
そしてその性分が変わることはないだろうと、当真も招木も知っている。
招木は過去に鳩原に拳銃を持たせて自分を撃たせようとしたが、あくまで鳩原にとって招木は「弾が当たらない人間」だ。他の人間を撃とうとするのとは根本が違う。
「……君はその話をして、私に鳩原の問題を解決させようとしているの?」
「そう聞こえたか?」
「どうやら当真は私に競争心を燃やしているみたいだから、鳩原にも同じようなことを目論んでいるのかな。仮に似たようなことを言ったとして、彼女の狙撃意識に変化が出るとでも? ずっと前のランク戦で鳩原が私を誤射したことがあったよね。あの後も変わらないのだから、答えはもう出ている」
どう足掻いても鳩原が人を撃つことはできない。
それが二人の結論だった。
特に招木は、接触禁止令が出されたあの日、人を撃つためならばいくらでも特訓に付き合うと伝えた。しかしそれ以降、鳩原からの接触はない。
鳩原も二宮から「招木に近づくな」とでも言われたのだろうか。どちらにせよ、彼女の性格が変わらなければ彼女の目標は永遠に果たされないままだ。
可哀想だがそれが現実だった。
「あー……なんか今、俺がなんで招木さんに刺激されんのか、わかった気がする」
低い声を出してから、当真の視線が招木を射抜く。続く声や表情には招木を詰る要素はまるでなく、淡々と事実を述べるだけだった。
「招木さんて、狙撃手のこと薄ら舐めてんだろ」
「……ええと、そんなつもりはないんだけど」
「いや、いい。多分そうだろうと思ったから。囮なんだから釣るのが仕事だよな。けどよ、あんたランク戦で狙撃手の射線無視して突っ込んだりするじゃん。撃てるものなら撃ってみろって」
今はランク戦の時期であり、諏訪隊が参戦するランク戦を当真も観戦している。そして狙撃手の狙撃に対してあまりに無防備な招木の戦い方も、印象に残っていた。
「挑発ですらない、なんつーの、眼中にない感じ? それがムカつくんだわ」
「……」
当真にそう言われると、ふと招木は心当たりを思い出した。
マスタークラスにどうしてもなりたかったあの頃は、どうして狙撃手と個人ランク戦ができないかと思ったものだ。言い換えれば、相手が狙撃手なら点が簡単に獲れるのにという侮りでもある。
それらを感じ取った当真が招木に対し遠慮がないのも、当然な気がした。むしろ他の狙撃手たちにも同じようなことを思われていないかが気になった。
例えば東。世話になっている相手だから、もし嫌な気持ちにさせていたら申し訳ない。
「まーこれは俺が招木さんに対抗心があるから余計そう感じてるだけなのかもな。狙撃手のプライドをコケにされてるって」
「そう。それは、ごめんね」
「その分結果でやり返してるからいーの」
今日の実験では、当真がぶっちぎりNo.1の成績を叩き出して終了した。何度当真に頭と心臓を射抜かれたか、招木が数えられないくらいだった。
奈良坂から当真は普段の訓練を遊びで終わらせることが多いと教わった。当真が招木に対抗心を燃やすのも、コケにされた屈辱を果たしているのも、揺るぎない事実だ。
そしてここで指摘されなければ招木は気づかなかった。それも当真からしたら鼻につくのだろう。
「いいや。私は気づかない内にずっと当真を不快にさせていた。ごめん。これからは気をつけるよ」
箸を置いて招木は正面に座る当真に向かって頭を下げる。
当真も同じ動作を返した。
「こちらこそ、ヤなこと言って悪かった。ごめんなさい」
「うん」
「これで仲直りな」
「あ。そういうこと。影浦と鳩原にも同じことをしろって?」
「カゲは正直難しいだろうけど、悪いヤツじゃねーし。鳩原の負担が減ればユズルもちったぁ安心すんだろ」
「負担ね。それはどうかな」
「何が?」
「彼らにとって私は悪いヤツだから」
「それをやめろって話だろ」
「事情がある。多分変わらないよ。ただまあ、話は頭に留めておく」
「えっ、あっ、ごちっす!」
話は終わりだと招木は当真の分も含めた伝票をレジに持っていく。影浦が仏頂面で伝票を受け取り、レジに通す。提示された金額を財布から取り出しながら、招木が言った。
「ご馳走様。とても美味しかった」
「……」
「また来てもいいかな」
「来んな」
即答である。この様子ではしばらく謝罪できそうにないなと思った。
「わかった」と招木も短く返したが、お釣りがなかなか返ってこない。不思議に思ったまま受け取る手を空中で手持ち無沙汰にすると、やがてぶっきらぼうな口調と共に小銭が手のひらに置かれた。
「俺が店にいる時は、来んな」
……これは進展したのだろうか。わからない。多分していない。だけど影浦がいない時は来ていいらしいので、通おうと思う。
そのようなことをつらつらと考えながら招木は本部へと帰る。
当真に言われたから仲直りがしたいわけではない。きっと向き合うことで傷つくこともある。影浦と今更話をしたところで、また嫌な気持ちになるだけで終わる可能性もある。
鳩原はどうだろう。あれから状況は変わらない。当真が最近暗いと言っていたが、今日の様子を思い返しても招木にはよくわからなかった。相変わらず弱々しい笑みを浮かべており、人を撃てないことを悩んでいる。
だが招木にはそれを解決する方法は思いつかない。特訓に付き合うつもりだったが、本人にその気がないのなら招木の手助けは不要なのだろう。
というか接触禁止だし、それを破るわけにもいかない。
などと考えていたが。
「あんたが招木さん? ちょっとついてきて欲しいんだけど」
当真と鳩原の弟子である絵馬が、次の日招木にそう言った。
招木被害者の会↓
諏訪(組みたくないって言われた)
迅(未来の奴隷だねって言われた)
小南、木崎(トリオン兵に憧れてると察した)
嵐山(家族や特別への向き合い方がずっと交わらない)
柿崎(昔のインタビューを狼狽えていると言われた)
加古(目の前で自殺志願者紛いのことをされた)
二宮(鳩原に手を出された)
三輪(仲間認定してたら違った)
三輪隊(センシティブな過去を聞かされた)
出水(幸運体質潰したい)
影浦(別の地獄にいると認識)
菊地原(SEへの考え方が致命的に合わない)
鳩原(トラウマに首を突っ込まれた)
当真(プライドを傷つける煽りをされた)
こうしてみると多い……多くない……??
トラブルメーカーで草